『赤ずきん』:2011、アメリカ&カナダ

暗い森の外れにあるダガーホーン村は、忌まわしき歴史で知られていた。そんな村に住むヴァレリーは幼い頃から、母に「知らない人と話すな」「水を汲んだら真っ直ぐ家に帰れ」と言い聞かされていた。彼女は言いつけを守る良い子でありたいと思いながらも、実際は幼馴染のピーターに誘われてウサギ狩りに行ったり、一人で森に入ったりするような女の子だった。年頃の少女に成長しもヴァレリーは相変わらずで、木こりとして働くピーターを昼休みに誘い出したりした。
母親のスゼットはヘンリーという裕福な青年とヴァレリーの婚約を勝手に決めるが、それは財産目当てだった。ピーターに「俺と逃げよう。家族も何もかも捨てられる?」と持ち掛けられた彼女は、「貴方といられるなら」と微笑を浮かべて答えた。すぐにも馬で逃げ出そうとする2人だが、狼の出現を知らせる鐘が鳴り響いた。生贄を捧げたにも関わらず殺されたのは、ヴァレリーの姉であるルーシーだった。ヘンリーが弔問に訪れると、ヴァレリーはスゼットから彼と話すよう要求される。ヴァレリーが嫌がっているのを見て取ったヘンリーは、彼女の父であるセザールに「一緒に酒場へ行きませんか。女は女同士の方が」と気を遣った。
ヘンリーたちが出掛けた後、スゼットとヴァレリーに「私も最初はお父さんを愛していなかった。他に好きな人がいた。でも、だんだんお父さんを好きになっていった」と述べた。ダガーホーン村の人々は、満月の日になると狼に生贄を捧げて来た。この20年間、狼は人を襲わなかった。その約束が破られたことで、男たちは「狼を殺そう」と意気上がる。オーガスト神父が「ソロモン神父を呼びました。多くの魔女や狼を退治している人です」と言うと、セザールは「駄目だ、復讐させてくれ」と告げた。
ヴァレリーが「ルーシーは何をしてたのかしら?男の子に会いに?」と疑問を口にすると、スゼットは「あの子は男の子に興味なんて無かった」と否定する。しかしヘンリーの祖母であるマザム・ラザーは、「ウチの孫には興味があったみたいよ。良く遊びに来ていた。あの夜、ヘンリーと自分の妹の婚約を知ったのよ」と明かす。ショックを受けるヴァレリーに、マダムは「貴方は悪くない。ヘンリーは貴方が好きだった」と言う。ピーターが弔問に訪れると、スゼットは「あの子を愛しているなら諦めて」と追い払った。
酒場に集まった男たちが狼退治に燃える中、ヘンリーは「オーガスト神父の言う通り、一日だけ待ちませんか」と提案する。しかし店に入って来たヘンリーを目にした後、父のエイドリアンから「それでも俺の子か。勇気を出せ」と告げられたヘンリーは、「狼なんて怖くない。捕まえに行こう」と口にした。ヴァレリーは森の入り口にある祖母の家を訪れ、涙を浮かべる。祖母は彼女に、結婚祝いに作ったという赤い頭巾を贈った。
翌朝、酒場を訪れたヴァレリーは、森から戻った男たちが切断した狼の首を掲げて喜びに包まれている様子を目にした。その時、酒場の外を荷車が通り掛かるが、そこにはエイドリアンの遺体が乗せられていた。彼は狼に襲われて命を落としていたのだ。ヴァレリーは母の好きだった相手がエイドリアンだと気付き、「だったら、なぜお姉ちゃんとヘンリーを結婚させてあげなかったの」と問い詰めた。するとスゼットは、ルーシーがエイドリアンの娘であることを告白した。そのことをセザールは知らないという。
ソロモンが村にやって来ると、村長は「狼は我々だけで退治した」と得意げに言い、村人たちは拍手する。するとソロモンは「それは違う。魔物じゃない。アンタたちは何も分かっちゃいない」と言い、体験談を語る。かつて彼は親友を殺した狼を退治し、前足を切断して家に持ち帰った。すると妻が血染めの布で手首を包んでいた。土産の包みを開けると、狼の前足は人間の手首になっていた。親友を襲ったのはソロモンの妻であり、彼女は狼人間だったのだ。
ソロモンは村人たちに、「狼人間は死ぬと人間に戻る。それはただの灰色狼だ」と告げた。さらに彼は、13年に1度の「血の色の月」の1週間に新たな狼人間が誕生すること、噛まれると伝染することを説明する。そしてソロモンは、「狼人間は、この村にいる。君たちの中に」と指摘した。ソロモンは連れて来た討伐隊員に村の閉鎖を命じるが、村長と仲間たちは彼の言葉を受け入れず、祝いの宴を開くことにした。ソロモンは「好きにしろ。いずれ分かることだ」と冷たく告げた。
その夜、村人たちは宴で盛り上がる。ヴァレリーは親友のプルーデンスから、仲間のローズがピーターと踊っているのを知らされる。ヴァレリーは嫉妬心を抱き、プルーデンスを連れてピーターの近くで踊った。ヘンリーが現れてピーターに掴み掛かり、「お前のせいだ。離れるなと言ったのに勝手なことをするから、父さんが殺された」と責めた。ヴァレリーが仲裁に入ると、ピーターは彼女を振り払い、ナイフでヘンリーを脅して「彼女に手を出したら殺すぞ」と言い放った。
ヴァレリーは立ち去るピーターを追い掛け。「愛してる。私と同じ気持ちでしょ?燃えてるくせに」と挑発するように言う。2人が納屋で抱き合う様子を、ヘンリーは密かに覗き見ていた。村に大きな狼が出現し、人々は逃げ惑う。ソロモンは戦うが、狼に逃げられてしまう。親友のロクサーヌと一緒にいたヴァレリーは狼に追い詰められ、「逃げられると思うなよ」という言葉を聞いて驚いた。しかしロクサーヌは、狼と会話を交わすヴァレリーを見て困惑する。オオカミの言葉が理解できるのは、ヴァレリーだけなのだ。
狼はヴァレリーに、「お前のことは何でも分かる。お前の夢は村を出て行くことだ。私と一緒に行こう。似た者同士だ」と持ち掛ける。ヴァレリーが拒否すると、狼は「お前が断れば血が流れる。まずはこいつからだ」とロクサーヌを殺そうとする。しかしソロモンが討伐隊を率いてやって来ると、オオカミはヴァレリーに「あいつは他の奴らと同じように、くたばる。血の色の月が欠ける前に、迎えに来る」と告げて村から逃亡した。
翌朝になってソロモンが村を見回ると、大勢の犠牲者が倒れていた。彼は村人たちに、「全員の家を調べて、狼人間を暴き出す」と宣言した。討伐隊長の弟は深手を負って生き残っていたが、ソロモンは冷徹に殺害して「噛まれた者は狼人間だ」と告げた。ヴァレリーはピーターから「ここは危険だ。すぐに村を出よう」と誘われるが、「私は行けない」と断った。ヴァレリーが井戸の傍らに佇んでいるとヘンリーが現れ、「僕を好きじゃないのは分かってる。無理に結婚しなくていい。婚約は解消しよう」と優しく告げた。
知恵遅れのクロードが納屋で喚いていると、ソロモンは魔法使いと決め付けて捕まえる。ソロモンは「狼人間の名前を言え」と脅すが、言葉を知らないクロードは弁明さえできない。するとソロモンは、彼を火あぶりの拷問に掛けた。クロードの姉であるロクサーヌは金を渡し、自らの体も委ねるので弟を解放してほしいとソロモンに懇願する。ソロモンに追い払われそうになった彼女は、慌てて「弟を解放してくれたら魔女の名前を教える」と告げた。
ソロモンはヴァレリーを拘束し、村人たちを集めて裁判を開く。ロクサーヌが涙を浮かべながら「彼女は狼と話せる」と証言し、ソロモンが「今のは本当か」と尋ねると、ヴァレリーは「否定はしない」と述べた。ソロモンから「お前を求める村の者が犯人だ。狼人間は誰だ」と訊かれたヴァレリーは、何も答えなかった。ソロモンは「狙いは彼女だ。彼女を差し出せば村は救われる」と村人たちに告げた。約束を果たすよう訴えたロクサーヌは、息絶えた弟の姿を見せられた。
牢に入れられたヴァレリーにパンと毛布を届けた祖母は、「狼を突き止めるわ」と告げて早まった行動を取らないよう諭す。「狼はお前を求めながら、どうしてルーシーを襲ったと思う?」と問い掛ける祖母に、ヴァレリーは「あれはそういうことじゃないの。お姉ちゃんはヘンリーが好きで、でも私が婚約しちゃったから、自分から狼に襲わせたの」と言う。すると祖母は、「ルーシーはそんな子じゃない。でもヘンリーに呼び出されたとしたら?」と口にした。祖母はヘンリーを疑い、ヘンリーは祖母に疑いの目を向けた…。

監督はキャサリン・ハードウィック、脚本はデヴィッド・レスリー・ジョンソン、製作はジェニファー・デイヴィソン・キローラン&レオナルド・ディカプリオ&ジュリー・ヨーン、製作総指揮はジム・ロウ&マイケル・アイルランド&キャサリン・ハードウィック、共同製作はアレックス・メイス、撮影はマンディー・ウォーカー、編集はナンシー・リチャードソン&ジュリア・ウォン、美術はトム・サンダース、衣装はシンディー・エヴァンス、視覚効果監修はジェフリー・A・オクン、音楽はブライアン・レイツェル&アレックス・ヘッフェス、音楽監修はブライアン・レイツェル。
出演はアマンダ・サイフリッド、ゲイリー・オールドマン、ビリー・バーク、ジュリー・クリスティー、シャイロー・フェルナンデス、マックス・アイアンズ、ヴァージニア・マドセン、ルーカス・ハース、ショーナ・ケイン、マイケル・ホーガン、エイドリアン・ホームズ、コール・ヘッペル、クリスティーン・ウィリス、マイケル・シャンクス、ケイシー・ロール、カーメン・ラヴィーン、ドン・トンプソン、マット・ウォード、メーガン・シャルパンティエ、D・J・グリーンバーグ他。


『エスター』のデヴィッド・レスリー・ジョンソンが脚本を執筆し、『ロード・オブ・ドッグタウン』『トワイライト〜初恋〜』のキャサリン・ハードウィックが監督を務めた作品。
ヴァレリーをアマンダ・サイフリッド、ソロモンをゲイリー・オールドマン、セザールをビリー・バーク、ヴァレリーの祖母をジュリー・クリスティー、ピーターをシャイロー・フェルナンデス、ヘンリーをマックス・アイアンズ、スゼットをヴァージニア・マドセン、オーガストをルーカス・ハースが演じている。

タイトルが示している通り、有名な童話の『赤ずきん』をモチーフとした作品である。しかし、ホントに「着想のきっかけ」という程度でしかなく、童話の要素は申し訳程度にしか残っていない。
むしろ、「このままだと『赤ずきん』と全く関係の無い話になっちゃわねえか」ということで、無理に『赤ずきん』の要素を盛り込んでいるんじゃないかとさえ思ってしまう。
それぐらい『赤ずきん』の要素は少ないし、また必要性も感じない。赤頭巾が無くても、祖母が狼に襲われなくても、この話は成立する。
むしろ『赤ずきん』よりも、それをベースにした映画『狼の血族』を連想したわ。

映画が始まって8分ほどでルーシーが死体となり、ヴァレリーは悲しみに暮れる。
ただ、見ている側からすると、死体となって倒れているシーンで、ルーシーと初対面なんだよね。それまではヴァレリーに姉がいることさえ分からなかったし、両親も登場していなかった。
また、住人たちが生贄を捧げることで狼の襲撃を回避していることも、村の若い女たちの会話で初めて分かる。
それは説明不足でしょ。
まずは主人公の周囲のキャラクター紹介や状況設定を一通り済ませて、それからルーシーの死に移るべきだわ。
そこに限らず、本作品は何かに付けて説明不足、描写不足が気になる。物語をサクサクと進めることに気を取られ、そっちが疎かになっているんじゃないか。

序盤で思ったのが、「ヴァレリーという女に、ヒロインとしての魅力を全く感じないなあ」ってことだ。
アマンダ・サイフリッドの容姿が果たして「村一番の美女」にふさわしいのかどうかってのは、好みの問題もあるから、ひとまず置いておくとしよう。
そもそも、ヒロインが抱えている問題は見た目ではなく中身の方だ。
この女、テメエのナレーションで「言いつけを守る良い子でありたいと思っていた」と口にしておきながら、まるで言いつけを守らないし、そのことに罪悪感も抱いていない。悪びれることは一切なく、成長してからも言いつけを守らない生活を送っている。

たぶん製作サイドとしては、ヴァレリーを「いかにも童話のヒロイン的な、古風で男に守ってもらう受け身の女性」ではなくて、「積極的に行動し、自らの主張をハッキリと表に出す現代的な女性」として描こうという意識があったんじゃないだろうかと推測する。
で、別に積極的だとか、変化を求めるとか、そういうのは構わないと思うのよ。
ただ、ヴァレリーに関しては、何となく「アバズレ感」が漂って来るんだよね。
惚れる男は一人なんだけど、そういう雰囲気がかなり強く漂って来るんだよなあ。

で、そんなヴァレリーが拒絶する婚約者のヘンリーってのは、もちろん嫌な野郎というキャラ設定なんだろうと思っていたら、こいつが良く出来た若者なんだよな。
むしろ、ピーターよりも好感の持てる奴と言ってもいいぐらいだ。
ってことは、「ヴァレリーとピーターが両想いの恋人同士、そこに邪魔者のヘンリーが割り込んで妨害する」という構図での恋愛劇は成立しなくなる。
そして最終的にヴァレリーとピーターが結ばれても、「ちょっとヘンリーが可哀想」という感情が残る可能性がある。

諸々のことを考えると、ヘンリーを好青年にしておくことには、メリットよりもデメリットの方が大きそうな気もしてしまう。
それでも彼を好青年にしている理由は簡単で、この映画は『トワイライト』シリーズと同じことをやりたいのだ。
ようするに、「主人公のアバズレ女が2人の素敵な男たちから思いを寄せられ、両天秤に掛けながら悲劇のヒロインを演じて悦に入る」というのを描きたいってことだ。

アバズレ女が2人の男たちか思いを寄せられるだけでなく、その性格設定も『トワイライト』シリーズのベラ・スワンに似ている。人狼が登場するってのも『トワイライト』シリーズと同じ。
監督がキャサリン・ハードウィックで、おまけに主人公の父親役も『トワイライト』シリーズと同じビリー・バークと来たもんだ。
そこまで露骨に真似をして、露骨に二匹目のドジョウを狙うとは、かなり大胆な戦略だ。まあ大胆っていうか、愚かしいっていうか。
製作総指揮にキャサリン・ハードウィックが入っているので、ひょっとすると彼女の希望じゃないかと思ったりもするが。

で、まあ「そもそもポンコツだった映画の二番煎じをやってどうすんのか」とは思うけど、バカバカしさに満ちた「モテ女の浮かれポンチな恋愛物語」をやりたいのであれば、存分にやればいい。
ところが、この映画、その「ヒロインが男2人に惚れられてご満悦」という構図は、メインの位置に配置されていないのだ。極端なことを言っちゃうと、そんな三角関係が無かったとしても、本筋の部分は成立するのだ。
だって本筋は、「誰が狼人間で、その目的は何なのか」というミステリーなんだから。
そして、その本筋と、前述したスイーツな恋愛劇は、これっぽっちも上手く絡み合っていないのだ。

さらに問題なのは、本筋であるミステリーの方も、これまた面白くないし薄っぺらいってことだ。
ソロモンが「犯人は狼人間で、村の中にいる」と指摘した時点で、少なくとも観客サイドには「誰なのか」というミステリーが発生する。ところが、そこから脚本が複数の容疑者を提示するとか、ミスリードを図るとか、そういった意識が希薄。
ヴァレリーは祖母、ヘンリー、ピーターをそれぞれ疑うのだが、いずれもミスリードのためのネタが貧弱。例えば祖母を疑わせるためのネタは、「目が同じ焦げ茶色」という以外に全く用意されていない。
ああ、書き忘れていたけど、もちろん祖母が犯人じゃないのはバレバレだ。その祖母がヘンリーを疑う筋もあることはあるんだが、こちらも疑いを向けさせるためのネタがほとんど無い。

犯人探し以外にも、「村人たちが疑心暗鬼になって云々」という話の進め方をすることも出来るのだが、そっちに舵を切ることも無い。
互いに疑心暗鬼になる前に、ヴァレリーがロクサーヌのタレ込みで魔女と断定され、そこで止まってしまう。
彼女が魔女と断定されても、まだ狼人間は他にいる。
だが、「それは誰なのか」ということで、村人たちが周囲の者を疑うようなことは全く見られないのだ。

完全ネタバレだが、犯人、つまり狼人間の正体はセザールである。
じゃあ犯行目的は何なのかというと、「村での冴えない暮らしは俺に合わない。だから大きな街へ出ようと決めたが、娘が可愛いので一緒に連れて行こうと考えた。まずは長女に力を授けようと考えて、ヘンリーを騙った手紙で呼び出した。しかし狼の言葉が通じなかったので実子ではないと気付き、カッとなって始末した。妻を引っ掻いて復讐し、愛人であるエイドリアンも殺した」というのが真相だ。
その真相が明かされた時の正直な感想は、「アホかいな」というものだった。

都会に娘を連れて行きたいのなら、まずは自分の素性を丁寧に説明して正体を明かし、一緒に行こうと誘うべきじゃないのか。いきなり目の前に狼人間が現れ、父親だと明かさないまま一緒に来いと持ち掛けたら、誰だって怖がるだろうに。
それは「娘が可愛いから一緒に連れて行きたい」と考える親の行動じゃねえだろ。
ヴァレリーに話し掛ける時も、まずは村人たちを襲ってから彼女に接触しているんだけど、明らかに無駄な行動が多いだろ。
あと、セザールは狼人間だから臭いには敏感なはずなのに、ルーシーが自分の娘ではないことに全く気付いていなかったのね。
「人間の姿をしている時は狼人間としての能力が発揮されない」ってことなのかもしれないけど、ちょっと腑に落ちないモノはあるぞ。

(観賞日:2014年5月4日)

 

*ポンコツ映画愛護協会