『X-ミッション』:2015、アメリカ&中国&ドイツ

エクストリーム・スポーツの世界で活躍しているジョニー・ユタは、相棒のジェフと共にモトクロスで危険な崖を攻めた。猛スピードでバイクを走らせたユタは、崖からジャンプして離れた足場に着地した。後に続いたジェフも着地するが、崖下へ滑り落ちそうになる。ユタは慌てて引き上げようとバイクを掴むが、ジェフは奈落の底へと墜落した。7年後、FBI捜査官を目指すユタは、特別訓練に参加していた。指導教官のホールはユタの資質に疑いを抱き、幾つかの質問を浴びせた。
ホールは訓練生たちに対し、インドで発生した宝石強盗の捜査について説明する。覆面で顔を隠した強盗団は、アメリカ資本の大企業を狙った。一味はビルの百階からバイクで飛び出してパラシュートを開き、盗んだダイヤを空からムンバイのスラム街に撒く。犯人グループはメキシコ上空で現金輸送機をハイジャックし、現金を空から撒いた。ユタは1ヶ月前にアフリカで大手の伐採所が焼き払われた事件を知り、関連性があると気付いた。
犯人はグループはアフリカで、世界で最も危険な急流を使って逃走していた。ムンバイの事件の3日前にはエベレスト山頂からダイブした3人がいたが、それが同一人物だとユタはホールに話す。彼は犯人グループの目的について、“オザキ8”の達成だろうと告げる。オノ・オザキという男は環境保護の活動家であり、エクストリーム・アスリートの魁でもある。彼は大自然の力に敬意を表すため、8つの修練を考え付き、それに挑戦していた。しかし1つでも達成できれば良い難所ばかりで、8つの制覇は不可能とされていた。
オザキ自身も3つ目に挑戦して命を落としていたが、犯人グループは既に3つをクリアしていた。ユタはフランス西部の沖で10年に1度の巨大な波が発生することを突き止め、4つ目の修練“荒れ狂う水”として犯人グループが向かうことを確信した。上層部はユタの仮説を全く信じなかったが、ホールは独断で捜査官のIDを渡した。彼はユタに、フランスへ飛んで英国支局のパパス捜査官と会うよう指示した。フランスに到着したユタはパパスと合流し、モーターボートで海へ出た。
ユタは大波に挑むが失敗し、ボーディーという男に救助された。ユタが意識を取り戻すと、ボーディーは仲間のローチ&グロメットと一緒にいた。彼らはスポンサーであるアル・ファイクの豪華クルーザーに乗っており、船上ではパーティーが開かれていた。ボーディーには他にも、サムサラとチャウダーという仲間がいた。サムサラと出会ったユタは、すぐに好意を抱いた。パリで“オザキ8”の達成を目指す面々の集会があると知ったユタは、パパスに現地まで送ってもらった。許可を貰ったユタが奥へ進むと、ボーディーは仲間たちに「俺が誘った」と告げた。ユタはボーディーと殴り合い、第5の修練“風の躍動”に参加するよう持ち掛けられた。
次の日、ユタはボーディーたち3人と共に山頂へ行き、ウィングスーツでダイブする修練を説明される。ボーディーはユタに「成功したら悟りに達するのか」と問われると、「オザキはバランスを取った。悟りも含め、個人的な理由で命を懸けたりしない。自分より大きな存在と一体になることに価値がある。8つの修練は、自然を敬う行為だ。オザキは修練を達成して、環境保護を訴えようとした。地球は死に掛けてる。我々は奪った資源を元に戻すべきだ。自然と一体になって地球を救うのが真の目的だ」と語った。
夜明けを待ってボーディーたちと共にダイブしたユタは、6秒という制限時間内で風に乗った。第5の修練を成功させた彼は、ボーディー以外の面々からもチームの仲間として認められた。チームは第6の修練“氷の生命”として、イタリアの雪山からスノーボードで滑降する。行き止まりに突き当たったため、ボーディーたちは断念しようとする。しかしユタが先へ進んだため、ボーディーたちも後に続いた。チャウダーが失敗して命を落とすと、ユタは「俺のせいだ。あれは俺のラインだ」と感情的になる。するとボーディーは、「思い上がるな。奴が決めた時から、奴のラインだ。お前は関係ない」と告げた。
下山したボーディーたちは、チャウダーを弔う。ファイクが主催するパーティーに参加したユタは、ボーディーに「修練をネタに、みんな荒稼ぎしてる。目的はどうなる?」と問い掛ける。ボーディーは静かに、「俺を信じろ」と告げた。サムサラはユタと2人きりになり、オザキが里親だったことを明かす。彼女はオザキが実は3つ目を達成していたこと、本来なら8つとも達成できたことを話した。しかしオザキはザトウクジラを救うために小型船で北を目指し、捕鯨船と群れの間に割って入ったことで命を落としたのだった。
小型船に乗っていた唯一の生存者がボーディーだった。ボーディーはオザキの「思想で世の中を変えられる」という思想には弱点があると感じ、彼とは違うやり方で理念を達成しようと考えていた。パパスに呼び出されて「FBIの金を使って遊んでる」と批判されたユタは、「あと一息なんだ、時間をくれ」と訴えた。ボーディーはユタが戻ると、「実行に移す時が来た」と言う。彼は鉱山が見える場所へユタを連れて行き、「あそこから20年以上も金塊を盗んでる会社がある。金塊を自然に帰してやる」と告げる。
用意した爆弾を見せられたユタは、「自然を救いたいなら他の方法で警鐘を鳴らせばいい。死傷者が出たら取り返しが付かないんだぞ」と説得する。しかしボーディーは「生半可な方法では手遅れになる」と告げ、鉱山へ向かう企業の車列を攻撃する。ボーディーが車列を停止させると、爆弾をセットしたローチとグロメットが合流する。ローチとグロメットがパラシュートで崖から降下し、ボーディーは起爆装置を取り出す。ユタは車列の人々を救助して早く逃げるよう指示し、拳銃をボーディーに向けて「FBIだ。起爆装置を捨てろ」と告げる。しかしボーディーは無視して鉱山を爆破し、バイクで逃走した。ユタは後を追うが、ボーディーを撃てずに逃げられてしまう…。

監督はエリクソン・コア、オリジナル版原案はリック・キング&W・ピーター・イリフ、オリジナル版脚本はW・ピーター・イリフ、原案はリック・キング&W・ピーター・イリフ &カート・ウィマー、脚本はカート・ウィマー、製作はアンドリュー・A・コソーヴ&ブロデリック・ジョンソン&ジョン・バルデッチ&デヴィッド・ヴァルデス&クリストファー・テイラー&カート・ウィマー、共同製作はヨランダ・T・コクラン&ダナ・ベルカストロ&ヘニング・モルフェンター&チャーリー・ウォーケン&クリストフ・フィッサー、製作総指揮はロバート・L・レヴィー&ピーター・エイブラムス&ダン・ミンツ&ウー・ビン&ジョン・マクマリック、撮影はエリクソン・コア、美術はウド・クラマー、編集はトム・ノーブル&ジェリー・グリーンバーグ&ジョン・ダフィー、衣装はリジー・クリストル、視覚効果監修はジョン・ネルソン、音楽はジャンキーXL、音楽監修はデヴァ・アンダーソン。
出演はエドガー・ラミレス、ルーク・ブレイシー、テリーサ・パーマー、レイ・ウィンストン、デルロイ・リンドー、クレーメンス・シック、マティアス・ヴァレラ、トビアス・ザンテルマン、マックス・シエリオット、ニコライ・キンスキー、グリニス・バーバー、スティーヴ・トゥーサン、ジェームズ・レグロス、ボジェシー・クリストファー、ロナック・パターニ、エディー・サンティアゴ・ジョーダン、パトリック・ドウェイン、セウマス・サージェント、ニューマン・エイカー、ジュリアン・ルイス・ランバート、レアード・ハミルトン他。


1991年の映画『ハートブルー』のリメイク。
監督は『インヴィンシブル 栄光へのタッチダウン』のエリクソン・コア。
脚本は『ソルト』『トータル・リコール』のカート・ウィマー。
ボーディーをエドガー・ラミレス、ユタをルーク・ブレイシー、サムサラをテリーサ・パーマー、パパスをレイ・ウィンストン、ホールをデルロイ・リンドー、ローチをクレーメンス・シック、グロメットをマティアス・ヴァレラ、チャウダーをトビアス・ザンテルマン、ジェフをマックス・シエリオットが演じている。
ファイクが主催するパーティーのシーンでは、スティーヴ・アオキがDJとして出演している。

冒頭、ユタはジェフを誘い、危険なスタントに挑む。「バシっと決めてスポンサーの期待に応えようぜ。趣味と実益を兼ねる」とユタは余裕で言うが、ジェフは「お前みたいに無茶していたら、流動食になるのがオチだ」と告げる。
ユタは「絶対に出来る。俺に付いて来い」と自信満々に言うが、ジェフは失敗して命を落とす。
もちろんジェフも渋々ながら応じたわけではなく、自らの意思でチャレンジしているが、でも「ユタのせいで死んだ」と捉えるべきシーンだろう。
そして普通に考えれば、「そのことでユタが責任や罪悪感を抱く」という展開になっていくはずだ。

ところが本作品は、そんなベタな展開を真っ向から否定する。
7年後のシーンに飛ぶと、ユタはFBI捜査官を志願して訓練を受けている。
一応、Xスポーツから足を洗ったことについては「ジェフの死が原因」ってことになっているし、それが心の傷になっている様子をユタは見せている。
ただし、それと「FBI捜査官に、俺はなる」という熱い決意が、まるで繋がらない。どういう理屈でユタがFBI捜査官を目指したのか、サッパリ分からないのである。
後から「実はこういう理由で」と明かされることも無い。

一方、そんなユタを捜査官として採用するホールの考えも良く分からない。彼はユタの資質に疑問を抱いていたはずなのに、なぜ捜査に参加させるのか。
これが「資質に疑問はあるけど、Xスポーツの経験が役に立つだろう」と思って参加させたのなら、分からんでもない。しかしホールがユタを参加させた時点では、そんなことは全く考えちゃいないわけで。
っていうか、まだ訓練を受けている段階なのに、かなりデカいヤマに参加させるのも引っ掛かるし。
もっと引っ掛かるのは、インドやで起きた事件なのにFBIが捜査しているってことだ。
ホールは「アメリカ資本の企業だからFBIが捜査する」と言っているが、納得できる説明じゃないぞ。しかも、その後にはメキシコやアフリカの事件まで示されるが、ますます「FBIの仕事じゃねえだろ」という状態になっているぞ。

ホールはユタの資質に疑問を抱いていたはずなのに、事件の関連性や犯人グループの目的について説明されると、全てを受け入れている。
それどころか、上層部が否定的な見解を示す中、独断でユタを派遣する。
だけど、「犯人グループの目的は自己啓発であり、“オザキ8”の達成だ」という主張は、「バカバカしい」と一蹴する方が普通の感覚じゃないだろうか。
そこに何の疑問を抱かず、ユタの仮説を全面的に信じる根拠が全く分からんぞ。

ユタはホールから「3人の身許を突き止めて、強盗と修練達成の関係性を調べろ」と指示され、フランスへ向かう。
ところが、そこでユタが取る行動は、「サーフィンで大波に挑戦する」というモノ。
いやいや、なんでだよ。どういう理屈か全く分からんぞ。
3人の身許を突き止めるのが目的なら、そこにいる観客たちに聞き込みをするとか、3人が挑戦のために来たら接触を試みるとか、そういう行動を取ればいい。
自ら大波に挑戦する必要性など、これっぽっちもありゃしないのだ。

ユタはボーディーに救助され、彼のチームと一緒に行動するようになる。
だけど、それは結果的に潜入できただけであって、「サーフィンで大波に挑戦し、ボーディーに救助されて仲間になる」という計画だったわけではない。ユタが大波に挑んだのは、単に「自分がデカい波を制覇したかっただけ」にしか思えない。
そして、そうなると「ジェフの死でXスポーツから足を洗った」という設定が死ぬ。
何も罪の意識を感じていないように思えるからだ。
実際、それ以降もユタは危険なスタントに挑み続けるが、そこには「ジェフの死で足を洗ったはずの世界なのに」という苦悩や葛藤など全く無いのである。

ボーディーに救われたユタは、サムサラと会ってすぐに欲情する。「お前は捜査官なんだぞ」と自分に言い聞かせるが、すぐに「今だけ」と言い訳し、彼女と一緒に泳ぎ始める。
ものすごく軽薄な男なのである。途中からシリアスなモードに入っているけど、軽薄という印象を払拭することは出来ていない。
一方、ボーディーたちもユタに負けないぐらい軽薄な連中である。
彼らは「環境保護のため」ってことで行動しているらしいが、サーフィンで大波に乗ったりウィングスーツで飛んだりすることが環境保護に繋がる理屈が全く理解できない。ただ単に、「危険なことに挑むのを楽しんでいる奴ら」にしか見えない。
環境保護を訴えておきながら鉱山の爆破で自然を破壊しているし、「邪魔な人間は犠牲になってもOK」って考えだから凶悪な環境テロリストでしかないし。

ユタがパリの集会に参加すると、男たちが殴り合いをしている。ユタもボーディーと殴り合うが、それが何のための行動なのか意味不明だ。
ひょっとしたら、“オザキ8”を目指す面々にとって儀式のようなモノなのかもしれない。
だけど何の説明も無く唐突に殴り合いの様子が描かれるので、『ファイト・クラブ』を表面だけなぞった不細工な模倣にしか見えない。
少なくとも、そのシーンが何の効果も生んでおらず、無意味なノイズになっていることは確かだ。

ボーディーはユタに、第5の修練への参加を持ち掛ける。だが、なぜ彼がユタを認めて仲間に引き入れようとするのか、その根拠は全く分からない。
たぶん「会話や殴り合いでユタに感じるモノがあった」という設定なんだろうとは思うが、こっちに感じさせてくれるモノが乏しい。
なので、ボーディーがボンクラな奴にしか見えない。
それ以外の部分でも、ボーディーが意味ありげなことを静かに話しても全くピンと来ないし、カリスマ性やオーラを感じない。

前半の段階で、「ユタもボーディーのチームもFBIも、出て来る奴らは揃いも揃ってボンクラばかり」という印象を受ける。っていうか、それは「印象が云々」ってことじゃなくて、実際にボンクラばかりなのだ。
そうことになってしまった原因はハッキリしていて、それは「映画が掲げている目的と、話の内容が合致していない」ってことだ。
この映画が見せたいのは「Xスポーツの映像」であり、それ以外は極端に言えば「どうでもいいこと」に過ぎない。
それなのに、「強盗事件の潜入捜査」という要素で中途半端にストーリー性やドラマ性を持たせようとしたせいで、不自然さと強引さのオンパレード状態になってしまったのだ。

もちろん本家である『ハートブルー』だって、「潜入捜査」と「サーフィン」という要素を組み合わせていた。
ぶっちゃけ、そこに無理があったんじゃないかと問われたら、無理はあったよ。個人的な感想としては、そんなに良く出来た映画だとは思っちゃいないしね。
ただ、この映画ほどドイヒーな状態ではなかったぞ。
ここまでユタやボーディーの行動がデタラメになっているのは、改変した部分がことごとく「改悪」になっているってことだよ。

(観賞日:2017年6月3日)


2016年度 HIHOはくさいアワード:第10位

 

*ポンコツ映画愛護協会