『エスター ファースト・キル』:2022、アメリカ

2007年、エストニア。欠員募集で雇われた芸術療法士のアナがサールン療養所を訪れると、医師のノヴォトニーが出迎えた。彼はアナに警備マニュアルを渡し、療養所を案内する。そこへ職員から「リーナが病室にいません」という連絡が届くと、ノヴォトニーは施設の閉鎖を命じて警報を鳴らさせた。彼はアナに、「リーナは最も危険な患者だ。君の前任者は彼女を甘く見て、悪い結果になった」と説明した。ノヴォトニーはアナを近くの部屋に避難させ、そこから出ないよう指示してリーナの捜索に向かった。
アナは部屋にいる少女に気付き、職員の娘だと思って話し掛けた。しかし彼女はリーナで、握っている鉛筆でアナを殺そうと目論んでいた。そこへノヴォトニーと職員が駆け付け、リーナを連行した。ノヴォトニーはアナに、「彼女は子供じゃない。成長ホルモンの分泌不全で低身長症を患っている。10歳辺りで成長が止まっているが、実際は31歳だ」と教えた。アナが同情心を示すと、彼は「油断するな。2年前に家出少女を装って一件の家庭に侵入した。いつもは金目の物を取って逃げるが、その時は」と皆殺しにした事件を教えた。
リーナは看守のディミトリを誘惑し、病室に招き入れて殺害した。病室を抜け出したリーナは別の看守に見つかるが、手懐けていた患者のイティーに襲撃させた。アナは療養所を出て行くリーナと遭遇し、「私には向いてない」とノヴォトニーに告げて勤務を断った。彼女が帰宅すると、リーナが待ち受けていたて襲い掛かった。彼女はパソコンで行方不明者の情報を検索し、エスター・オルブライトという少女に成り済ますことを決めた。家を出ようとしたリーナは、まだアナが生きていたので止めを刺した。彼女は公園でブランコに座り、警官が声を掛けると「両親はアメリカにいる」と嘘をついて保護された。
アメリカのコネティカット州ダリエンに、エスターの父のアレン、母のトリシア、兄のガナーが暮らしていた。ドナン刑事からエスターが見つかったという知らせを受け、トリシアがモスクワのアメリカ大使館へ赴いた。大使館の職員は、「エスターは誘拐され、ロシアで娘にされていたが逃げ出したらしい」とトリシアに説明した。帰りの飛行機で、トリシアはリーナに家族の写真を見せた。祖母の写真を見たリーナが「早く会いたいな」と口にすると、トリシアは「もう亡くなったでしょ」と告げた。
リーナとトリシアが空港に着くと、アレンとガナーが出迎えに来ていた。アレンはリーナを強く抱き締め、皆で自宅へ戻った。トリシアはリーナに、「明日はシーガー先生の病院に行く。シドニーという名前のオウムがいたでしょ」と告げた。翌日、シーガーと会ったリーナは、「何があったかは、まだ話したくない」と述べた。シーガーが「今、話したいことは?」と質問すると、リーナは駕籠の鳥に向かって「遊ぶ、シドニー?貴方を覚えてるわ」と話し掛けて誤魔化した。
シーガーはリーナをロビーで待たせて、トリシアを診察室へ招き入れた。リーナは隣の部屋にいる助手に話し掛け、アクシデントを装ってジュースをこぼした。助手が部屋を出ると、リーナは診察室の会話を盗み聞いた。シーガーはトリシアに、「リーナはコンゴウインコをシドニーと間違えた。4倍も大きな鳥なのに。私には演技をしているように思える」と語った。リーナは自分の服を破り、悲鳴を上げた。トリシアが駆け付けると、彼女はロビーにいる少年を指差して「あの子に殴られて服を破られた。もう帰りたい」と訴えた。リーナは病院を去る時、自分の動画を撮影しているドナンに気付いた。
リーナが帰宅すると、ガナーの友人であるマイクたちがいて嘲笑した。アレンは自分のアトリエにリーナを連れて行き、新しい絵を一緒に描こうと誘う。リーナが「パパの絵を描く」と言うと、彼は喜んだ。リーナのスケッチを見たアレンは、その出来栄えに感心した。夕食の時、ドナンが来てアレンに「医師はエスターに安全な場所で話をさせるべきだと。刑事は同席しません。どうやって消えたか分からない間は危険が残ってる」と語った。
リーナは正体が露呈することを危惧し、金品を盗んで去ろうと考える。しかしアトリエで絵を描くアレンの姿を目にした彼女は、もう少し留まることにした。トリシアは慈善パーティーに行く直前、アレンに「シーガー先生はエスターが嘘をついていると言うの」と告げた。アレンは「その先生こそセラピーが必要だな」と言い、トリシアとセックスを始めようとする。しかしリーナが覗いているのに気付き、2人は慌てて離れた。トリシアが「ドアを閉めて」と言うと、リーナは吊ってあったパーティードレスを破いて立ち去った。
トリシアとアレンはガナーに妹の世話を頼み、パーティーに出掛けた。しかしガナーはリーナを無視し、友人たちを呼んで庭でマリファナを吸った。マイクが「お前の妹は東欧で性奴隷だったんだろ」と口にしてもガナーは怒らず、「ロシア語訛りの英語になってるし、リジー・ボーデンみたいな格好だ」と述べた。ドナンが訪ねて来ると、ガナーは両親が外出中だと伝えた。ドナンはトイレを借りたいと言い、密かに家を調べる。彼はリーナが使っている部屋に忍び込み、レコードを盗んで立ち去った。
部屋に戻ったリーナは、レコードが無くなっていることに気付いた。トリシアがパーティーを終えて帰宅すると、リーナの姿が無かった。部屋に入った彼女は本や写真を見つけ、リーナがサールン療養所にいたことを知った。帰宅したドナンはリーナの指紋を照合し、エスターと一致しないことを突き止めた。そこへリーナが現れ、背後から何度もナイフで突き刺した。彼女が「なぜ別人だと分かった?母親にもバレてない」と言うと、ドナンは「バレてるさ」と告げた。
そこにトリシアが現れ、ドナンを射殺した。彼女はリーナに拳銃を突き付け、真実を聞き出した。「姿を消すから見逃してよ」とリーナが話すと、トリシアは「二度も失踪させられない」と口にする。彼女はガナーが喧嘩でエスターを撲殺したこと、家庭を守るために隠蔽したことを明かし、「アレンは何も知らない。貴方が真相を隠し通して」と要求した。トリシアはリーナに手伝わせて古井戸にドナンの遺体を隠し、メイス巡査部長に休暇を要請する偽装メールを送信した。
家に戻ったトリシアは、ガナーに事情を説明した。「じゃあ彼女も事故に見せ掛けて殺す?」とガナーが尋ねると、トリシアは「まだ早い。良く考えないと。時機を見て終わらせる」と述べた。リーナはトリシアから教わったオルブライト家の情報をシーガーに話し、「家族の一員に復帰して精神的にも安定している」と信じ込ませた。トリシアはエスターを知る友人たちが遊びに来る日、リーナに衣装を着せて「仲の良い母子」として振舞った。
ガナーはリーナと2人になり、「この家にいたければ、一つだけわきまえろ。お前は俺の持ち物だ」と睨み付けた。トリシアは食事に薬を混ぜてリーナに与え、熟睡させようと目論んだ。しかしリーナはトリシアの行動を怪しみ、料理に手を付けずに自分の部屋へ戻った。彼女は家にいるネズミに、料理を与えた。リーナはアランに誘われ、アトリエで一緒に絵を描いた。その様子を目にしたトリシアは、アランが去ってからアトリエに赴いた。彼女はリーナに「彼が貴方を女として見ると思う?娘じゃなくて詐欺師だと知ったら、どんな男も拒絶して終わるわ。それじゃあ寝室で私の夫とセックスしてくる」と言い放ち、勝ち誇った態度で立ち去った…。

監督はウィリアム・ブレント・ベル、キャラクター創作はアレックス・メイス、原案はデヴィッド・レスリー・ジョンソン=マクゴールドリック&アレックス・メイス、脚本はデヴィッド・コッゲシャル、製作はアレックス・メイス&ハル・サドフ&イーサン・アーウィン&ジェームズ・トムリンソン、製作総指揮はジェン・ゴートン&ジョージー・リアン&ヴィクター・モイヤーズ&カイル・アーヴィング&デヴィッド・レスリー・ジョンソン=マクゴールドリック&ダリル・カッツ&クロエ・カッツ&ポール・マルカッチョ、共同製作はケリー・ギャラガー&ロバート・ベル&デヴィッド・コッゲシャル、撮影はカリム・ハッセン、美術はマシュー・デイヴィース、編集はジョシュ・イーシアー、衣装はキム・N・ヌゴ、音楽はブレット・デター。
出演はイザベル・ファーマン、ジュリア・スタイルズ、ロッシフ・サザーランド、ヒロ・カナガワ、マシュー・フィンラン、サマンサ・ウォークス、デイヴ・ブラウン、ローレン・コクラン、グウェンドリン・コリンズ、クリステン・サワツキー、ジェフ・ストローム、アンドレア・デル・カンポ、アレック・カルロス、アリシア・ジョンストン、リアム・スチュワート=カニガン、ジェイド・マイケル、サラ・ルビー、マックスウェル・ネルソン、ブラッドリー・サワツキー、ステファニー・サイ、マリーナ・スティーヴンソン・カー、シャロン・バジャー他。


2009年の映画『エスター』の続編。
監督は『ザ・ボーイ 〜残虐人形遊戯〜』『邪悪は宿る』のウィリアム・ブレント・ベル。
脚本は『パラサイト 禁断の島』のデヴィッド・コッゲシャル。
出演者はエスター役のイザベル・ファーマンだけが続投している。
トリシアをジュリア・スタイルズ、アレンをロッシフ・サザーランド、ドナンをヒロ・カナガワ、ガナーをマシュー・フィンラン、シーガーをサマンサ・ウォークス、ノヴォトニーをデイヴ・ブラウンが演じている。

この映画を見る人は基本的に『エスター』を観賞済みだと思うのでネタバレも何も無いとは思うが、ともかく前作は「殺人鬼のエスターは子供に見えるが、発育不全の病気で実際は33歳」という衝撃で勝負しているような作品だった。
そして、そんな設定を成立させているのは、イザベル・ファーマンの存在が大きかった。
だから続編を作るとなれば、前作から13年も経過しているのでイザベル・ファーマンも年を取っているが、「それでも彼女の続投が必須」ってのは理解できなくもない。
しかし根本的な問題として、「果たして続編を作るべき映画なのか」という疑問がある。

それと、『エスター』には「その後の物語は作れない」という問題もあるんだよね。
なぜなら、前作でエスターは完全に死んでいるからだ。
そりゃあ、「死んだと思われていたが実は生きていた」とか、「死んだけど何かの衝撃で蘇った」みたいな形で続編を作るホラー映画もある。
だけど、さすがにエスターは、そこまでの強引さが許されるようなホラー・モンスターじゃないからね。

そこで続編は前日譚の内容にしてあるんだけど、これも苦しい道としか思えない。
何しろ、前作よりもイザベル・ファーマンは年を取っているわけで。
それなのに、前作より若い頃を演じなきゃダメなのだ。
その無理を綺麗に通すことは出来ておらず、のっけから「10歳で成長が止まっているはずだけど、どう見ても大人」という状態になっている。

続編ではあるが、時系列としては「前作の続き」ではなく前日譚である。
前日譚だと、「現在の状態になる以前の物語」とか「誕生編」になるケースも多い。しかし本作品の場合、もう物語が始まった時点で「殺人鬼エスター」は完全に出来上がっている。
既に「可哀想な子供を装って家庭に入り込み、金品を盗んで家族を皆殺しにする」という行動を取った上で、リーナはサールン療養所に収容されている。
入り込んだ家庭の父親に惚れるってのも、たぶん毎度のことなんだろう。

なので、そのままだと「ほぼ前作の焼き直し」になってしまう。
そこで今回は、リーナが入り込む家庭の側に大きな秘密を用意し、そこを使って物語を転がしていく方法を採用している。
金品を盗んで皆殺しにする「加害者」側だったはずのリーナが、脅しを受けて従わざるを得なくなるのだ。
リーナは冒頭から危険な異常者であることを充分にアピールしているが、彼女に負けず劣らずの異常者がオルブライト家には2人もいるわけだ。

ただ、それで焼き直しへの道は回避できているものの、「リーナが弱みを握られてトリシアやガナーに服従する」という話が面白いのかと問われたら、それはまた別なんだよね。
っていうか、まあ面白くはないよね。ホラー・モンスターだったはずのリーナが、下僕のような存在になっちゃうわけだから。そこから恐怖を感じ取ることは難しい。
これがパロディーやコメディーならともかく、真正面から観客を怖がらせようとしているホラー映画だからね。
「トリシアやガナーを恐怖の対象として見てね」ってことなのかもしれないけど、そこまで強い力は感じない。ここでは「どうせリーナに始末されるのが分かっている」ってのが大きなネックになっている。

もはや前作で「実は」という種明かしは終わっているので、今さら「実は子供に見えるけど大人」という設定で観客に衝撃を与えることは出来ない。
そうなると、もうエスターに残されているのは「家族を騙して入り込む危険な殺人鬼」というシンプルな武器しか無い。
言わずもがなだろうけど、それだけで突撃しても勝ち目は薄いだろう。っていうか明らかに負け戦だ。
そこで前述のように「リーナが脅されて服従する」という軸で勝負しようと目論んだのかもしれないけど、そっち方面の振り切り方も半端だし。

話の中身を見ても、色々と無理が多い。
まず『エスター』に繋げなきゃいけないからリーナは「エスター」と名乗っているんだけど、ここからして引っ掛かる。
リーナの行動原則からすると、オルブライト一家を始末したら、次は別の行方不明少女に成り済ました方がいいんじゃないかと。
もちろん本人は「家族を火事で亡くした孤児」を装っているんだけど、調査が入ったら真実がバレる恐れもある。
その詐称にこだわるよりも、他の人間に化けた方が色々と都合がいいんじゃないかと。

もう2007年であれば、リーナが保護された時点で本物のエスターかどうかの検査が入るはずだと思うんだよね。
トリシアが娘だと認めただけで「本物のエスター」と断定されるのは、さすがに無理があるんじゃないかと。
あと、エスターが「誘拐されて娘にされていたが逃げ出した」と説明しているのだから、それを裏付けるための捜査も入るはずでしょ。でも、そんな様子は全く無いし。
アメリカ側での捜査は行われているけど、リーナがオルブライト家に引き渡される前の段階での調査は甘すぎるんじゃないかと。

ドナンが警察署ではなく自宅で指紋を照合するのは、かなり不可解な行動だ。
そもそもドナンが常に単独行動を取っている時点で不自然さはあるが、その程度なら余裕で許容範囲だ。
しかし、さすがに自宅での指紋照合は「警察署でやれよ。何か同僚にバレちゃマズい理由でもあるのか」と言いたくなる。そんなモノは何も無いわけで。
実際のところ、それは「エスターが何度もドナンを突き刺し、トリシアが射殺する」という行為を、誰も見られない場所で実行させるための不細工すぎる作劇だ。

リーナはトリシアから「私の夫とセックスしてくるわ」と煽られた翌日から服従を放棄し、反撃を開始する。その段階で、もう本編の残り時間は20分ぐらいになっている。
とは言え、早い段階からリーナを行動させられない事情がある。何しろ、リーナが殺せる相手は3人だけだからだ。
彼女は凶悪な殺人鬼だが、「家庭に入り込み、金品を盗んで家族を皆殺しにする」というキャラなので、1つの話で殺せる相手には限度がある。
しかも殺す対象が家族なので、1人を殺したら立て続けに他の面々も殺さないと、すぐにバレてしまうのだ。

そういった諸々の問題を考えると、やはり続編ってのは無理があったんじゃないかと言わざるを得ない。
せめてリーナが逆襲モードに突入したら、「トリシアやガナーを圧倒して恐怖させる惨殺ショー」でも披露してくれれば、わずかな時間ではあるが大いに盛り上がったかもしれない。
だけど、かなり苦労しているし、反撃も受けるんだよね。最終的に生き残れたのも、アランが助けてくれたおかげだし。
そんなにキレキレの知恵者でもなく、脇の甘さもあるってのは、前作との統一感を考えても間違っているとは言えないだろう。
ただ、どうせ生き残ることは分かっているので、ピンチを描かれてもハラハラドキドキなんて無いからねえ。

(観賞日:2024年11月2日)

 

*ポンコツ映画愛護協会