『オールド』:2021、アメリカ

保健数理士のガイ・キャパと妻で博物館の学芸員のプリスカ、娘で11歳のマドックス、息子で6歳のトレントは、3日間の予定でアナミカ・リゾートにやって来た。アナミカ・リゾートはウォーレン製薬の系列で、支配人が一家を出迎えた。担当従業員のマドリッドは、夫婦に歓迎のカクテルを差し出した。ドリンクバーに案内されたマドックスとトレントは、支配人の甥であるイドリブと知り合った。イドリブはトレントと同年代で、すぐに2人は仲良くなった。トレントとイドリブはビーチで過ごす宿泊客に挨拶し、片っ端から名前と職業を尋ねた。ソフィアはシェフ、グレッグは警官、マリンはダンサーだった。
ガイとプリスカは離婚を決めており、最後の旅行としてアナミカ・リゾートを訪れていた。プリスカは原因不明の病気を患っていたが、離婚を考え直すよう求めるガイに「関係ない。病気が無くても別れてた」と苛立ちを示した。早朝、ミッドサイズ・セダンと金髪女性が、ビーチで遊んだ。ホテルのレストランでは、外科医のチャールズと妻のクリスタル、幼い娘のカーラ、チャールズの母のアグネスが朝食を取っていた。キャパ一家の面々も、同じレストランで食事を取った。支配人は一家に歩み寄り、「島の自然保護区にプライベート・ビーチがある。特殊な鉱物を含む峡谷で隔離されている」と説明され、特別に車を手配して内緒で招待すると告げられた。
看護師で夫のジャリン・カーマイケルと食事を取っていた妻で分析医のパトリシアは、てんかんの発作で倒れ込んだ。チャールズは彼女の様子を見て、少し寝かせれば大丈夫だと告げた。ホテルが用意した車にはキャパ一家だけでなく、チャールズの一家も招かれていた。車はフェンスに囲まれ立ち入り禁止になっている自然保護区に入り、運転手は空き地で停めた。車には大量の食料が積んであり、運転手は5時になったら迎えに来ると告げた。荷物を運ぶ手伝いを求められた彼は、「もう去らないと」と断った。
ガイたちは峡谷を抜けてビーチに行き、マドックスは有名ラッバーのセダンを見つけて興奮した。マドックスが声を掛けに行こうとすると、ガイは「迷惑になる」と止めた。子供たちは楽しく遊び、ホテルの備品である錆びたナイフを見つけた。金髪女性の全裸遺体が流れ着き、ガイたちは動揺した。セダンは鼻血を出し、チャールズの尋問を受けて「彼女は独りで泳ぎに行った。何も分からないし、何も話す気は無い」と述べた。ガイから殺人を疑われた彼は、「俺は殺してない」と否定した。ガイは「すぐに解決する。警察を待とう」と言うが、ビーチは電波が届かずスマホは使えなかった。
ジャリンとパトリシアが後から来るが、もう運転手は去った後だとガイたちに告げた。チャールズはクリスタルから、アグネスの様子が変だと知らされた。ジャリンは電話を掛けるため、車を降りた空き地まで戻ろうとする。しかし峡谷を抜けようとした彼は意識が遠のき、気が付くとビーチに倒れていた。彼はガイたちから、ここへ戻って来て気絶したのだと説明された。アグネスは具合が悪くなり、チャールズが蘇生を試みるが呼吸が停止して死亡した。
トレントとマドックスは肉体が成長し、4歳か5歳ほど年を取ったような見た目に変貌した。セダンが逃亡を図ったので、チャールズが後を追った。しかし峡谷に入った2人は意識を失い、気付くとビーチに戻っていた。大人たちは2人1組でビーチからの脱出を図るが、全員が意識を失ってビーチに戻った。トレントとマドックスだけでなくカーラも肉体が成長し、その変化は持続していた。チャールズはセダンの頬にナイフで切り付け、「襲われると思った」と適当な言い訳を口にした。セダンは怒るが、あっという間に傷は消えた。
セダンはガイたちに、逃げたのは怖かったからだと弁明した。彼は病気を抱えていること、多発性硬化症で苦しむ金髪女性と知り合ったことを話し、「手は出してない」と主張した。プリスカは腫瘍が見つかったことを告白した直後、具合が悪くなって倒れた。チャールズはガイの許諾を得て腫瘍を摘出しようとするが、ナイフで腹部を切ると瞬時に閉じてしまった。彼はガイとジャリンに切開部を広げてもらい、腫瘍を摘出した。目を覚ましたプリスカは、すっかり元気になっていた。
セダンは金髪女性の遺体が白骨化しているのに気付き、ガイたちに知らせた。発見してから3時間しか経っておらず、プリスカは「地上にある死体は7年前後で白骨化し、分解するのに30年ほど掛かる」と解説した。ジャリンは「時間に異常がある」と言い、プリスカは「30分が通常生活の1年に相当する」と述べた。異常の原因は周囲の岩で、峡谷を抜けようとすると体が再順応できないので気絶するのだと一行は推測した。10時間ほど使えば峡谷を抜けられるが、20年の寿命が消えることになる。
大人たちが話している間に、成長したトレントとカーラはテントでセックスした。2人がテントから戻って来た時、カーラは妊娠5ヶ月になっていた。チャールズやジャリンたちが出産を手伝うが、乳児は変化の速さに付いて行けず死亡した。チャールズはクリスタルから「私たちを守るんでしょ。連れ出してよ」と責めるように言われ、「決断を下すから時間をくれ」と返した。彼は狂ったようにセダンをナイフで何度も切り付け、殺害した。チャールズが静かになったので、ガイはナイフを取り上げた。
ジャリンは「別の浜を探す。僕は元水泳部だ」と言い、海に入った。ガイは皆に、「チャールズは精神疾患だ。全ての家族に病人がいる。症状を知ってて選ばれたんだ」と語った。ジャリンは遺体となって浜に戻り、海からの脱出も無理だとガイたちは確信した。カーラは岩場を登って脱出を図るが、途中で気絶して転落死した。パトリシアは発作を起こし、口から泡を吹いて死んだ。トレントとマドックスは以前の被害者が残したノートを発見し、異変の原因を考察した文章に気付いた。それを読んだトレントは、「体が入る金属の管を作れば、作用を止められるかもしれない」と口にした。彼は山の向こうに目をやり、何者かがカメラで記録していることに気付いた…。

脚本&監督はM・ナイト・シャマラン、原作はピエール・オスカル・レヴィー&フレデリック・ペータース、製作はM・ナイト・シャマラン&マーク・ビエンストック&アシュウィン・ラジャン、製作総指揮はスティーヴン・シュナイダー、共同製作はジェフ・ロビンソン&キャサリン・ウルフ・マクグラス、撮影はマイク・ジオラキス、美術はナーマン・マーシャル、編集はブレット・M・リード、衣装はキャロライン・ダンカン、音楽はトレヴァー・ガレキス、音楽監修はスーザン・ジェイコブス。
出演はガエル・ガルシア・ベルナル、ヴィッキー・クリープス、ルーファス・シーウェル、アレックス・ウルフ、トーマシン・マッケンジー、アビー・リー、ニキ・アムカ=バード、ケン・レオン、エリザ・スカンレン、アーロン・ピエール、エンベス・デイヴィッツ、イーモン・エリオット、グスタフ・ハマーステン、アレクサ・スウィントン、キャスリーン・チャルファント、フランチェスカ・イーストウッド、ノーラン・リヴァー、ルカ・ファウスティーノ・ロドリゲス、カイリー・ベグリー、ミカヤ・フィッシャー、カイレン・ジュード、M・ナイト・シャマラン他。


ピエール・オスカル・レヴィーとフレデリック・ペータースのグラフィックノベル『Sandcastle』を基にした作品。
脚本&監督は『スプリット』『ミスター・ガラス』のM・ナイト・シャマラン。
ガイをガエル・ガルシア・ベルナル、プリスカをヴィッキー・クリープス、チャールズをルーファス・シーウェル、15歳のトレントをアレックス・ウルフ、16歳のマドックスをトーマシン・マッケンジー、クリスタルをアビー・リー、パトリシアをニキ・アムカ=バード、ジャリンをケン・レオン、15歳のカーラをエリザ・スカンレン、セダンをアーロン・ピエールが演じている。

ガイやプリスカたちがプライベート・ビーチに着いてから、粗筋で書いたような様々なことが起きている。本来なら「怖い」という感情が喚起されなきゃいけないんだろうけど、実際には恐怖より困惑が圧倒的に勝っている。
ザックリ言うと、映画開始から50分ぐらい経過するまでは、ほぼキャラクター紹介と状況の説明に費やされていると言ってもいい。
「何が原因で、どういう異変が起きているか」ってのをガイたちが把握するのが、開始から50分辺り。
その辺りに入って、ようやく話に入り込めるような形になっている。

早朝からビーチにいるのならセダンは異変に気付いていてもおかしくないのに、ガイたちに何も話さず、尋問を受けるまでは関わろうともしない。峡谷を抜けようとした面々は、そこで倒れるのではなく、必ずビーチまで戻ってから意識を失う。
その目的を考えても、ビーチは厳重に管理されていなきゃダメなはずだ。にも関わらず、部外者であるはずのセダンと金髪女性は簡単に侵入できている。
何かトラブルが生じた時、関係者が簡単にビーチへ行って対処することは出来ない。ビーチに入ったら自分たちも年を取ってしまうし、戻って来ることも不可能だろうしね。
しかし、だからと言って不測の事態への備えが「遠くから監視するだけ」ってのは、あまりにも不充分だ。

肉体が急速に成長するのに髪や爪が伸びないのは「死んだ細胞だから反応しない」ってことらしいが、なかなか都合の良すぎる設定だ。
中身は肉体の成長に追い付いていないはずなのに、トレントとカーラはセックスへの欲求が高まり、セックスのやり方も知っている。
これも都合の良すぎる設定だ。
また、そんなカーラがハラボテ状態でガイたちの元に戻って来るのは、もはや趣味の悪いコメディーにしか見えない。

何度も同じ出来事が起きているんだから、それに伴って多くの失踪者が出ているわけで。だったら警察が動き出すんじゃないのか。
しかも、宿泊客が次々に失踪するんだから、ホテルが捜査対象になるはずだし。
ガイは自分たちが偶然でリゾートに来たわけじゃなくて選ばれたことを確信した時、「パスポートを預けた。空港までは専用車、飛行機もだ。旅に出ていないように工作できる」と語る。
だけど、その程度で旅に出ていないように偽装するのは無理だろ。

旅に出る家族が、誰も周囲に情報を話していないとでも思っているのか。豪華リゾートに数日の予定で旅行に行くんだから、むしろ自慢したがって色々と吹聴する奴も出て来るだろ。
そして当然のことながら、その場所や日程を喋る奴もいるだろ。
あと、ガイたちをビーチに行かせた連中は、部屋の痕跡や自宅パソコンの履歴を削除している。
それで「旅行に来てホテルに宿泊した」という情報を隠蔽しているつもりなんだけど、それだけじゃ全く充分とは言えないでしょ。

物語が続く中、プリスカがマドックスの質問を受けて浮気を告白したり、それでマドックスがショックを受けたりす様子が描かれる。その後には、ガイがプリスカに「浮気に気付いていた」と明かした上で、夫婦関係の修復を求める展開がある。
そうやって家族愛を描こうとしているのかもしれないが、まるで意味は無い。
それが物語に影響を及ぼすことは無いし、ドラマを厚くする効果も無い。ガイとプリスカが子供たちを助けるために身を犠牲にするとか、夫婦のどちらかが相手を救うために命を投げ出すとか、そういう形で使われることも無い。
何をどう頑張ったところで、どうせガイとプリスカは時間が経てば年を取って死ぬんだし。

「時間の進行が異常に速い」というネタだけではスリラーとして弱いと思ったのか、もしくは話として単調になるとでも思ったのか、終盤に入ると別の場所から恐怖のネタを引っ張って来る。
ネタバレを書くが、それはチャールズが発狂して襲って来たり、容姿が崩れて発狂したクリスタルが攻撃して来たりという展開だ。
だけど、この映画にホラー・モンスターなんか邪魔なだけでしょ。
そんなことをしたら、用意したギミックの意味を薄めるだけでしょ。

アメリカ映画は恐怖の正体を「得体の知れない非合理な存在」のままにすることを嫌い、ちゃんと理屈や根拠を用意したがる傾向にある。
清水崇監督がハリウッドで『THE JUON/呪怨』を撮った時、「さっきまで遠くにいた伽椰子が、カットが切り替わると近くに瞬間移動している」という演出に「それは科学的に有り得ないから変更してくれ」と要求されたらしい。
謎の怪奇現象が起きても謎のままにせず、必ず「悪魔の仕業」とか「悪霊の仕業」といった形で明確な「犯人」を用意するのがハリウッドの鉄則だけど、それどころじゃないぐらい変なトコでこだわりがあるのね。
清水監督は自分のやり方を通したらしいけど、アホな要求だよなあ。

この映画の場合、「時間の進行が異常に速い」という恐怖の正体は周囲の岩だと前半で明らかになっている。
ただ、「ビーチにガイたちを追いやった犯人がいて、明確な目的がある」という部分で、理屈を欲しがるアメリカ映画らしさが出ていると言ってもいいだろう。
完全ネタバレだが、ウォーレン製薬が新薬の開発のために、ホテルの宿泊客を使ってビーチで実験を繰り返していたのだ。
まあ前半で「宿泊客が何かしらの目的でビーチに行かされた」ってことはハッキリと描かれているので、その答えを用意するのは当然っちゃあ当然なのよ。だけど、そもそも「新薬の実験で云々」という設定からして、どうなのかと。

(観賞日:2024年12月8日)

 

*ポンコツ映画愛護協会