『オキュラス/怨霊鏡』:2013、アメリカ

精神科医であるショーン・グラハム医師のカウンセリングを受けていたティム・ラッセルは、「妄想を克服して自分の責任を受け入れた」と判断される。ショーンは正常に戻ったティムが他人に危害を加える恐れは無いと断定し、州の要求に従って21歳の誕生日に退院することを許可した。ティムの姉であるケイリーは、競売会社で働いていた。彼女がオークション会場へ赴くと、英国の城に飾られていたラッサーの鏡が出品された。
ティムから「姉が迎えに来て、仕事も探してくれる」と聞いたショーンは、「君は支援されていたが、彼女は1人で生きて来た。再会は喜ぶべきだが、君の回復を最優先したまえ」と助言した。鏡の落札を確認したケイリーは、同僚で恋人のマイケルに「じゃあ、今夜」と告げて立ち去った。退院したティムは、車で迎えに来たケイリーと再会した。ケイリーは遺産の半分の小切手を渡し、「アパートが決まるまでは私たちと一緒に住んで」と告げた。
ケイリーは面会を禁じられたと思っていたが、ティムは「禁じられたわけじゃなく、考えたいことがあったんだ」と明かした。ケイリーはティムに、「見つけたの。競売で売られた先を追跡して、ようやく突き止めた。ブレーメンに保管されていて、1年半掛けて会社の倉庫に移したの。落札者に渡すまでに数日ある。約束通り、葬るのよ」と語る。11年前。ケイリーとティムは父のアラン、母のマリーと共に新居へ引っ越した。アランの仕事部屋には、ラッサーの鏡が運び込まれた。
現在。ティムはケリーのアパートには行かず、「自分のスペースが欲しい」とモーテルで宿泊することにした。「何が起きたか忘れない。約束したわね」とケイリーが言うと、ティムは「まだ10歳だった」と口にする。ケイリーが「明日の夜に始める。貴方の助力が必要なの」と話すと、ティムは黙り込んだ。11年前。夜中にキッチンへ行ってジュースを飲んだアランは、誤ってシャツにこぼしてしまった。彼は仕事部屋へ行き、ラッサーの鏡でシャツを確認して寝室へ戻った。
現在、アパートで寝ていたケイリーは、ラッサーの鏡を見ていたらアランに首を絞められる悪夢に絶叫した。隣で寝ていたマイケルが必死で呼び掛け、彼女を落ち着かせた。翌朝、マイケルは会社で死体の写真を見つけ、ケイリーに説明を求めた。ケイリーは「両親について暗い過去がある。数日だけ辛抱して。そうすれば元に戻るから」と言い、マイケルに受け入れてもらう。彼女は倉庫でラッサーの鏡を確認し、そこに写る彫像が動くのを目にした。しかし背後にある彫像を確認すると、特に異変は無かった。
ケイリーは携帯電話を購入したティムからの連絡を受け、「どこかで話したい」と言われる。すると彼女は、「あの家に来て」と指示した。11年前。窓際に飾った観葉植物が全て枯れてしまうので、マリーは困惑した。庭でティムと遊んでいたケイリーは、仕事部屋の父が女性と一緒にいる様子を目撃した。夕食の時、彼女が女性について訊くと、アランは「誰のことだい?私は知らない」と答えた。現在。ティムが実家で待っていると、ケイリーが愛犬を連れてやって来た。
ケイリーは弟に、「施設を出た18歳の時、売れずに残っていた家を引き取った」と話した。彼女は全て終わったら売りに出すと告げ、布に包んだ鏡を運び込む。ケイリーは複数のビデオカメラとパソコンを用意し、記録用に語り掛ける。彼女は鏡に魔力があることを証明するため、準備を整えていた。ケイリーは調査を進め、過去4世紀で少なくとも45人が鏡のせいで死んでいることを突き止めていた。彼女はマイケルに頼んで1時間ごとに電話を掛けてもらい、応答が無ければ警察に通報してもらうことを決めていた。
ケイリーの調査では、鏡の出自は不明だが、最初に所有者としての記録があるのはラッサー伯爵だ。彼は死んだ後も鏡に姿が写ったため、教会は調査を命じられた。その後、鏡は競売に掛けられるが、歴代の所有者は次々に死亡していた。ティムが「僕らは子供だった。事実を認めず、作り話に逃げたんだ。父さんは病んでた。拷問して殺した」と言うと、ケイリーは平手打ちを浴びせて「私は異常と呼ばれてもいい。でも父さんは違うわ」と告げた。
ケイリーは所有者についての説明を続け、父に到達した。彼女が「アラン・ラッセルの職業はソフトウェア開発。妻はマリー。2週間後、マリーは精神を病み、自宅で拷問されて殺された」と語ると、ティムは「彼女は夫に殺された。そして夫は息子に射殺された。娘の目の前で」と言う。ケイリーは無視し、カメラに向かって「誰にも責任が無いことを証明したいの。父は殺人犯じゃない。鏡に潜んでる魔力の犠牲者よ」と語り掛けた。ティムが「じゃあ鏡を壊そう」と提案すると、彼女は「壊せるものなら壊してみて」と促した。
ティムが壊すことを躊躇すると、ケイリーはカメラに向かって鏡を壊そうとした男の末路を語った。その男が死んだことを話した彼女は、ティムに「鏡の自衛能力が貴方を止めたのよ」と述べた。ケイリーは錨にバーベルを取り付けて、30分ごとにストッパーが外れる仕掛けを用意していた。彼女はティムに、「私たちを生かしておかないと鏡は割れる。だから抵抗できない」と言う。11年前、アランは子供たちが部屋を夜中に荒らしたと確信し、呼び寄せて注意する。ケイリーとティムは「部屋には入ってない」と否定するが、アランは植木の一件も2人の仕業だと決め付けた。
現在。ティムが「家の植物は枯れてない」と言うと、ケイリーは「今に分かるわ。他にも目印はある」と犬を呼んだ。11年前。アランは安全のために拳銃を購入し、マリーは誰かが自分を罵る声を耳にした。夜中に犬が吠えていたので、マリーは仕事部屋の前へ行く。すると仕事部屋のドアが閉められており、犬はマリーに噛み付いた。マリーがノックしてアランを呼ぶと、彼はドアを開けた。「誰と話を?」とマリーが言うと、アランは激しく苛立った。アランが外出した日、マリーは吠え続ける犬を仕事部屋に閉じ込める。しかし帰宅したアランが部屋に入ると、犬は姿を消していた。
現在。ティムはケイリーの記憶を全面的に否定し、病気の犬を父が獣医に診せたが連れて帰れなくなったのだと主張する。11年前。アランとマリーの激しい口論する様子を、子供たちは目撃した。現在。ティムは「父さんが不倫していて、母さんは精神を病んだ」と主張するが、ケイリーは不倫を真っ向から否定した。ティムは「何も起きてない」と声を荒らげ、犬を外へ出した。ティムが「どこかへ行こう」と実験を中止するよう説得すると、ケイリーは受け入れようとする。しかし以前の仕事部屋に戻った彼女は、「やっぱり。見て」とティムを呼ぶ。ティムが部屋に行くと、置いてあった植木が全て枯れていた。
ケイリーが映像を確認すると、自分たちが取っていない行動が記録されていた。怖くなったティムは家の外へ出て施設に電話を掛けるが、使われていない番号です」と言われる。彼は気が付くと家の中にいて、ケイリーから「外には出ていない」と告げられる。11年前。精神を疲弊させたマリーは、アランの留守中に仕事部屋へ入った。アランが「マリソル」という名を紙に何度も書いているのを発見したマリーは、カッとなってペン立てを鏡に投げ付けた。すると鏡の中のマリーは不気味に笑い、腹部の傷を見せ付けた。
悲鳴を聞き付けた子供たちが慌て仕事部屋に駆け付けると、マリーはティムの首を絞めた。ケイリーがティムを連れて逃亡すると、マリーが追い掛けて来た。子供たちが寝室に逃げ込むと、アランが帰宅した。アランは暴れるマリーを押さえ付けて気絶させ、子供たちに部屋から出ないよう指示した。彼は医者に電話を掛けようとするが、表情を一変させて妻の体を寝室まで引きずった。現在。ケイリーはティムに呼び掛け、仕事部屋に戻って映像を確認した。
11年前。アランは子供たちに「ママは重い病気だ。しばらくベッドで休ませねばならん。私たちは邪魔を望まない」と言い、2階の寝室に近付かないよう指示した。現在。ケイリーはリンゴを食べようとするが、いつの間にか電球と入れ替わっていた。口の中を血だらけにした彼女は、ティムに「離れちゃダメよ」と忠告した。11年前。冷蔵庫には食料が無くなり、ケイリーはアランに「買い物に行って。ママには医者を」と訴える。しかしアランは気の無い返事をするだけで、ずっと鏡を見つめていた。ケイリーは「ママに話すわ」とティムに言い、2階の寝室へ行く。するとマリーは首輪を装着され、鎖で壁に繋がれていた…。

監督はマイク・フラナガン、脚本はマイク・フラナガン&ジェフ・ハワード、製作はトレヴァー・メイシー&マーク・D・エヴァンズ、製作総指揮はデイル・ジョンソン&アニル・クリアン&D・スコット・ランプキン、製作総指揮はジュリー・メイ&グレン・マーレイ&マイク・イリッチJr.、製作協力はジェイソン・ポー&ジョー・ウィッカー&モーガン・ピーター・ブラウン&ジャスティン・ゴードン、撮影はマイケル・フィモナリ、美術はラッセル・バーンズ、編集はマイク・フラナガン、衣装はリン・ファルコナー、音楽はザ・ニュートン・ブラザーズ、音楽監修はアンディー・ロス。
出演はカレン・ギラン、ブレントン・スウェイツ、ケイティー・サッコフ、ロリー・コクレイン、ミゲル・サンドヴァル、アナリース・バッソ、ギャレット・ライアン、ジェームズ・ラファティー、ケイト・シーゲル、スコット・グレアム、マイケル・J・フォーティック、ジャスティン・ゴードン、ケイティー・パーカー、ボブ・ゲバート、ブレット・ルシアナ・マーレイ、コートニー・ベル、ザック・ジェフリーズ、エリサ・ヴィクトリア、デイヴ・レヴィン、ステファニー・ミンター、アリソン・ボイド、レサ・ジョンソン、アレクサンドラ・ビール、ジェームズ・フラナガン他。


ホラー映画専門誌『ファンゴリア』が主催するチェーンソー・アワードで、ワイド・リリース作品賞と助演女優賞を受賞した作品。
監督は『人喰いトンネル MANEATER-TUNNEL』のマイク・フラナガン。
脚本はマイク・フラナガン監督と、これが映画デビューとなるジェフ・ハワードによる共同。
ケイリーをカレン・ギラン、ティムをブレントン・スウェイツ、マリーをケイティー・サッコフ、アランをロリー・コクレイン、グラハムをミゲル・サンドヴァル、12歳のケイリーをアナリース・バッソ、10歳のティムをギャレット・ライアン、マイケルをジェームズ・ラファティーが演じている。

冒頭、「ティムの回想」という形で、11年前の出来事の断片が描かれる。ケイリーとティムが家の中で銃を持った男から身を隠し、女の姿を目撃する。直後、銃を持った男が現れたので、ケイリーはティムを庇って前に立つ。男がケイリーの眉間に銃を突き付けると、それが今のティムの姿に変貌する。そして、現在のシーンに移行するってのが導入部の流れだ。
でも、それって変な描写なのよね。
だって、ティムが撃ち殺したのは父親なわけで。
「現実じゃなくてティムの妄想」として捉えても、「ケイリーに発砲した犯人が自分だった」という内容になっているのは筋が通らない。

っていうか、もっと根本的な問題として、「そんな妄想シーンから入る意味が無い」ってことだ。
最初に回想シーンを配置して、11年前の事件を観客に教えてくれるのなら、時系列のシャッフルも納得できる。
だけど、この映画が用意している短い断片では、何があったのかは全く分からない。
掴みとしての力も全く無いので、そんなシーンは無くてもいい。「精神病院に入っていたティムに退院の許可が出た」という情報だけ提示すれば、それで事足りる。

映画が始まってから6分ほど経過すると、「11年前」とテロップが出る。なので、そこで事件の詳細が描かれるのかと思いきや、引っ越しシーンだけで終わってしまう。短い回想シーンを何度も挿入して、情報を小出しにしていく構成にしてあるわけだ。
やりたいことは良く分かるが、それが成功しているのか、手法として正解だったのかと考えた時、肯定的な意見は微塵も浮かばない。
冒頭か、そうでなくても序盤の内に、一気に過去の出来事を描いておいた方がスッキリと話が整理されたんじゃないかと。
どうせ現在のシーンによって、早い段階で「両親は死んで姉弟だけは生き延びた」ってのは分かってしまうわけだし。

それに、11年前のシーンで「不気味な雰囲気」「不安な空気」ってのが少し生じても、現在に切り替えて何度もブチブチと細かく分断することで、あっさりと打ち消さられるのよね。
例えば、アランが夜中に鏡を見て「何か奇妙に感じた」ってことを表現しても、そこから現在に切り替えてしまうと、また最初からやり直しになってしまう。
「女性を見た」と娘に言われたアランが何か妙な感じを見せても、そこから現在に戻ると、せっかく漂い始めた「何かが起きている予感」が完全に消えてしまう。

アランはシャツにこぼしたジュースを確認する直前、仕事部屋に視線を向けて少し戸惑ったような様子を見せる。どうやら「何か違和感を覚えた」ってことを観客に示そうとしているらしい。
しかし、どこに違和感を覚えたのか、何に対して「変だな」と感じたのか、それは全く分からない。
ドアが開いているのに気付いて「閉めたはずなのに」と感じたのかとも思ったが、部屋を出る時もドアは開けたままにしているので、どうやら違うようだ。
なので、何を感じて動きを止めたのかはサッパリ分からない。

悪霊や殺人鬼が姿を見せて次々に人を殺す話なら、恐怖の対象は分かりやすい。殺人シーンが無かったとしても、悪霊や怪物が登場して登場人物を怖がらせれば、観客としては怖がるポイントが分かりやすい。
しかし本作品は、そういう分かりやすさを持ち込んでいない。
「異変が忍び寄っている」「何かが起きようとしている」という雰囲気で、ジワジワと不安を煽ろうとしているのだろう。
しかし、それが成功しているかというと、答えはノーだ。
残念ながら、「単純に怖さが足りない」という結果になっている。

そうなってしまった原因は明白で、雰囲気作りの作業に失敗しているからだ。いや失敗しているというか、そもそも本気で「直接的な描写ではなく、心理的に怖がらせようとする」という意識を持っていたのかどうかさえ疑問に感じるほどだ。
例えば、ケイリーがテイムを実家に呼んで、実験を開始すると宣言するシーンがある。「鏡の魔力を証明する」という目的を説明し、そのための準備についても説明する。
そこまで済んだら、さっさと実験に入ればいい。
ところが、なぜか彼女はカメラに向かい、これまでの所有者と彼らに起きた出来事を詳細に語り出すのだ。
そんな手順、まるで要らないわ。今さらゴタクを並べても、何の意味もありゃしないでしょ。

しかも所有者の説明がアランに辿り着き、ようやく説明が終わったかと思ったら、まだ続くんだぜ。
そこのダラダラ感は、尺を埋めるために無理に引き伸ばしているのかと疑いたくなるほどだ。
そんな説明を続けるのなら、せめて補足映像を入れて、観客を怖がらせる努力をしなきゃダメでしょ。ただケイリーがグダグダと喋り続けるだけでは、当然のことながら何の恐怖も無いわけで。
まさかとは思うが、それだけで恐怖を喚起できていると思ったんじゃあるまいな。

ケイリーが詳細に説明した後、アランとマリーが様々な怪奇現象に見舞われる様子を描く。
でも、こっちは「マリーが精神を病んでアランに殺された」ってのを知っているわけで。
後から「こんな経緯がありまして」と具体的な出来事を描く構成にしてあるのだが、そこで充分な恐怖をアピールできているのかというと、まるで足りない。
しかも、それと並行して描かれる現在のシーンに至っては、恐怖の種さえ見つからないような状態なのだ。

アランとマリーの仲が悪くなっていく様子を描く途中でケイリーとティムが見解の相違について討論する手順を挟んでおり、「まだ話し足りないのかよ」と呆れてしまう。
こっちが見たいのは、ホラー映画なのよ。不毛で無意味な会話劇なんかでは、絶対に無いのよ。
愛犬の一件については2人の記憶が大きく異なっているけど、そこに『羅生門』的な面白さがあるわけでもないしね。
鏡に魔力があることは確定事項と言っていいんだから、つまりティムの記憶が間違いってのも分かり切っているわけで。

映画開始から50分ほど経過して、ようやく現在のシーンでも異変が生じる。
しかし、そこから怪奇現象が連続し、現在のケイリーとティムが恐怖に見舞われるような展開に突入するわけではない。相変わらず何度も回想シーンが挿入され、その中で「マリーが鏡のせいで精神を病んでしまい、鏡に魅入られたアランが拷問して殺す」ってのを描くことで、観客を怖がらせようとする。
でも、「回想シーンでしか恐怖を表現できないのなら、そこを現在のシーンにしろよ。そして、そこだけで全体を構成しろよ」と言いたくなる。
現在のシーンって、半分以上は何の怖さも無くて、ただ邪魔でしかないのよ。
しかも、現在のシーンの恐怖描写がメインに移行しても、「回想シーンだけで構成した方が良かったよなあ」という感想は何ら変わらないし。

(観賞日:2020年2月10日)

 

*ポンコツ映画愛護協会