『オーシャンズ12』:2004、アメリカ&オーストラリア

3年半前、ローマ。ラスティー・ライアンはユーロポール捜査官イザベル・ラヒーリと交際していた。イザベルはブルガリ事件の捜査を 担当しており、踵の磨り減った靴跡が発見されたこと、毛髪が見つかってDNA鑑定の結果を待っていることをラスティーに話した。実は 、その事件の犯人はラスティーだった。ラスティーは、イザベルの前から姿を消した。
現在、アメリカ。ダニー・オーシャンは仲間と共にラスヴェガスのカジノから1億6000万ドルを盗んで以来、悠々自適の生活を送っている。 だが、銀行や店に入ると盗みの計画を考える癖が抜けず、ヨリを戻した妻テスから注意される。そんな2人の前に、カジノのオーナー、 テリー・ベネディクトが現われる。彼は、盗んだ金に利子を付けて2週間以内に返すよう要求してきた。
ベネディクトが突き止めたのは、ダニーの居場所だけではなかった。強奪事件に関わったオーシャンズ11名全員の居場所を、彼は知って いた。ホテルのオーナーに転進したラスティーは、宿泊客の俳優トファー・グレイスが起こしたトラブルに対処していた。そこへ ベネディクトから電話が掛かり、ホテルの外に出ると、停めてあった愛車が爆発した。
ダニー、ラスティー、スリ専門の窃盗ライナス、兵器・爆発物の専門家バシャー、イカサマ・ディーラーのフランク、老齢の詐欺師ソール 、資産家ルーベン、ヴァージルとタークのモロイ兄弟、通信・メカニックの専門家リヴィングストン、軽業師イェンというオーシャンズの 面々は集合し、対応を検討する。それぞれが泥棒稼業から足を洗って転進していたが、株式投資で成功したルーベンを除く面々は、新しい 仕事が上手く行かずに盗んだ金を減らしていた。
彼らはベネディクトに金を返すことにしたが、今の持ち合わせではベネディクトの要求額には9700万ドルほど足りない。そこで再び大きな 仕事をして金を調達しようと考えるが、もうアメリカでは手配されているため難しい。そのため、オーシャンズはヨーロッパへ行くことに した。しかしソールは老齢を理由に、オーシャンズから抜けると告げる。
ソールが抜けたオーシャンズの面々は、ラスティーの提案でアムステルダムへ向かう。ラスティーは、密かにイザベルの様子を覗き見る。 オーシャンズは仕事の仲介者マツイから、ファン・デル・バウデという資産家の豪邸を狙う仕事を受けた。標的は、東インド会社が発行 した古い株券だ。世界に1枚しかなく、250万ユーロの価値がある。それでは9700万ドルに全く足りないが、今はその仕事しか無いのだと いう。ダニーは防犯システムの暗号を入手したが、バウデが全く外出しないのがネックだった。
オーシャンズは矢を放ってセンサーを止めようと考えるが、角度が無く無理だった。そこでラスティーは、ジャッキを使って家を持ち 上げるという計画を立て、実行に移す。一方、イザベルは警察関係者の前で演説を行っていた。かつてルマークという大泥棒がいたが、 彼が消えた後、匹敵する存在が現われた。それがナイト・フォックスと名乗る大泥棒だ。イザベルは、ユーロポールの最優先課題が ナイト・フォックスの逮捕だと演説した。
イザベルはバウデの事件を知らされ、現場へ赴いた。すぐに彼女は、犯人がジャッキを使ったと察知した。そして、ラスティーが関与した ことも確信した。ジャッキを使う手口は、かつてイザベルがラスティーに話したものだったのだ。さらに現場を調べたイザベルは、 ラスティーたちの前にナイト・フォックスが株券を盗み出したことも見抜いた。
オーシャンズが豪邸に潜入した時、金庫に目当ての株券は無く、ナイト・フォックスの音声テープが残されていた。ナイト・フォックスは、 彼が今回の盗みの依頼者だということを語った。さらにテープには、1ヶ月前にベネディクトにオーシャンズの居場所を教えたこと、 そして手を出さずに2週間以内に金を返却するよう迫れと要求したことが吹き込まれていた。
イザベルはフランクを捕まえ、ラスティーたちの居場所を突き止めた。ラスティーは他の面々を隠れさせ、1人でイザベルと会った。2人は 探り合うような会話を交わした。イザベルが去った後、ラスティーは仲間たちに、初めて彼女との過去を明かす。そしてラスティーは、彼女 の父親が泥棒だったことも語った。イザベルが9歳になる前に、父親は捕まって刑務所で死んだのだという。ラスティーは、携帯電話が 無いことに気付いた。イザベルが部屋を去る時、密かに持ち出していたのだ。
ダニーたちは、ナイト・フォックスの正体がフランソワ・トゥルアーという貴族であり、ルマークの教え子だと知った。ダニーは仲間と共に トゥルアーの所有する絵を盗み出し、彼に会いに行く。ルマークは、ポルトガルでルマークと会ったこと、同席したアメリカのビジネス マンが「世界最高の泥棒はダニー・オーシャンだ」と言った時にルマークが反論しなかったことを語る。
トゥルアーはルマークの反応に納得できず、ダニーたちと自分のどちらが上か、同じ仕事で競い合うことにしたのだと話す。そして彼は、 挑戦に応じてダニーたちが勝てば、ベネディクトへの金は肩代わりすると告げた。トゥルアーが標的に選んだのは、パリからローマに移送 されるファベルジュエッグだ。複数のレプリカが用意されているエッグは、月曜日から美術館に展示されるという。
発明家ネイゲルは、ラスティーの携帯電話に連絡を入れた。イザベルはラスティーの秘書に成り済まし、ネイゲルから情報を得る。彼女は 捜査許可証へのサインを上司に求めるが、却下される。ダニーたちはネイゲルと会い、彼がイザベルに電話を掛けたことを知った。イザベル は訪問したラスティーを追い返した後、捜査許可証のサインを偽造した。
トゥルアーはアンドレ・シモンという人物に成り済まし、絵が盗まれたと称してイザベルに連絡を取る。彼はイザベルに、オーシャンズが 映っている防犯ビデオのテープを渡した。ダニーたちはホログラムを使ってエッグを摩り替えようとするが、イザベルがビデオの映像で顔を 割り出していた。手配書が回っていたため、上手く逃げ出したライナス、バシャー、ターク以外の面々は捕まってしまう。
ライナス、バシャー、タークは自分たちだけでエッグを盗み出そうとするが、どの作戦を取るにしても人数が足りない。そこで彼らは、テス がジュリア・ロバーツに瓜二つだということを利用することにした。何も知らされずローマへ呼び出されたテスは、ダニーが逮捕された ことを知る。彼女はライナスたちから「ジュリア・ロバーツに成り済ましてくれ」と言われ、驚いた。
ライナスたちはテスをジュリア・ロバーツに仕立て上げ、ホテルへ赴く。偶然にも、そのホテルにはブルース・ウィリスがいた。挨拶に来た ブルースは、テスやマネージャーと称するライナスたちの振る舞いに不信感を抱く。そこへソールが主治医として現われ、何とか誤魔化した。 テスたちは美術館へ向かうが、ブルースも付いて来てしまう。
ライナスたちは、ジュリア・ロバーツという有名人の来訪で隙が生じるのを利用し、エッグを盗み出そうと企てる。だが、その作戦は イザベルに気付かれていた。イザベル美術館を出ようとしたテスたちの前に現れ、全員を逮捕した。しかしイザベルは、FBIのセクション ・チーフであるモリー・スターからサインの偽造を指摘され、捜査から外される。
モリーはライナスから尋問を始め、オーシャンズの犯行を証言するよう要求する。取り調べの結果、オーシャンズは釈放される。実は、 モリーはライナスの母親だった。フランクも、弁護士として現われたブルーザーによって釈放された。ダニーとテスは、トゥルアーの元へ 行く。トゥルアーは、既にエッグを盗み出していた。しかしダニーは、金を支払うよう要求する…。

監督はスティーヴン・ソダーバーグ、キャラクター創作はジョージ・クレイトン・ジョンソン&ジャック・ゴールデン・ラッセル、脚本は ジョージ・ノルフィー、製作はジェリー・ワイントローブ、共同製作はフレデリック・W・ブロスト&グレゴリー・ジェイコブズ、 製作総指揮はブルース・バーマン&スーザン・イーキンス&ジョン・ハーディー、撮影はピーター・アンドリュース 、編集はスティーヴン・ミリオン、美術はフィリップ・メッシーナ、衣装はミレーナ・カノネロ、音楽はデヴィッド・ホームズ。
出演はジョージ・クルーニー、ブラッド・ピット、マット・デイモン、ジュリア・ロバーツ、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ、アンディー ・ガルシア、ドン・チードル、バーニー・マック、カール・ライナー、エリオット・グールド、ケイシー・アフレック、スコット・カーン 、ヴァンサン・カッセル、エディー・ジェイミソン、シャオボー・クィン、ロビー・コルトレーン、ジェローン・クラッベ、エディー・ イザード、シェリー・ジョーンズ、ジェリー・ワイントローブ、アドリアーノ・ジャンニーニ他。


シナトラ一家の映画『オーシャンと十一人の仲間』をリメイクした2001年の『オーシャンズ11』の続編。
オリジナル版には続編が無いわけだから、今回は完全オリジナル脚本となる。
そもそもはジョン・ウー監督作品のために執筆された脚本があり、この続編が決まった時に、それをオーシャンズ用に改変するよう ワーナーブラザーズがジョージ・ノルフィーに依頼したらしい。

ダニー役のジョージ・クルーニー、ラスティー役のブラッド・ピット、ライナス役のマット・デイモン、バシャー役のドン・チードル、 フランク役のバーニー・マック、ソール役のカール・ライナー、ルーベン役のエリオット・グールド、ヴァージル役のケイシー・ アフレック、ターク役のスコット・カーン、リヴィングストン役のエディー・ジェイミソン、イェン役のシャオボー・クィンという オーシャンズの面々、テス役のジュリア・ロバーツとベネディクト役のアンディー・ガルシアは、前作からの続投。他に、弁護士として 登場するブルーザー役のスコット・L・シュウォーツも、前作からの続投だ。
イザベルをキャサリン・ゼタ=ジョーンズ、トゥルアーをヴァンサン・カッセル、マツイをロビー・コルトレーン、バウデをジェローン・ クラッベ、ネイゲルをエディー・イザード、モリーをシェリー・ジョーンズ、アメリカのビジネスマンを製作者ジェリー・ワイントローブ 、美術館艦長をアドリアーノ・ジャンニーニが演じている。
また、アンクレジットだが、トファー・グレイスとブルース・ウィリスが本人役で、アルバート・フィニーがルマーク役で出演している。

まず、前作の敵であるベネディクトを再び登場させた時点で失敗だろう。
善玉サイドの11名&テスという大所帯が続投している、つまり変わり映えがしないわけだから、悪役は変えないとダメでしょ。後から トゥルアーという別の敵も登場するけれど、最初に1作目と同じ敵が「敵」として登場し、前作の続きを始める段階で、「変わり映えが しない」という印象を受けてしまうのよ。
それと、前作でベネディクトに痛烈な一撃を見舞ったオーシャンズが、今回は彼に脅されて素直に従うというのは、どうしたことなのか。
前作のオーシャンズからすると、脅されても逆襲したり、金を返すと見せ掛けて新たに金を盗み出すぐらいのことはやりそうな気がするぞ。
他の脚本をオーシャンズ用に変更したから、その辺りに無理が生じているのかね。

オーシャンズは前作の計画に関して「それぞれが得意分野を担当したから成功した」と言っているが、映画を見た人なら、それが嘘だと 分かるだろう。それぞれが得意分野以外の仕事も担当していたし、そもそも専門分野が被っていた。11人も必要は無かったのだ。
その問題を抱えたままで続編を作っているわけだから、今回はどうなるのかなんて、言わずもがなである。というか、もう開き直ったのか 、今回は各人が得意分野を生かして泥棒を実行する手口を見せようという気が、そもそも薄い。
イェンは身体的特徴の分だけ得をしている感があるが、他はスターでなかったら誰が誰でもいいと思えるぐらい一粒一粒が立っていない。最も スターから程遠いシャオボー・クィンが、キャラとしては個性を発揮しているというのも皮肉なものだ。
というか、彼以外は有名人だから、キャラの描き分けをしなくても役者頼みにしておけば大丈夫だろうってことなのか。

前作であれだけデカい山を実行したオーシャンズが、なぜ今回は「返却額に全く足りない程度の仕事しか無い」ということになっている のか、それが良く分からない。銀行でも狙えば、何とかなりそうな気もするんだが。
というか、そもそも依頼主から仕事を受ける必要は無いはずなのだ。自分たちがベネディクトに金を返すための仕事なんだから、自分たちで標的を探せばいい。
儲けからすると、大掛かりな装置を使ってバウデの家を持ち上げ、矢を打ち込んで株券を盗み出すというのは、経費が掛かりすぎだろう。
ただでさえベネディクトの要求額に足りていないのに、ますます稼ぎが減るじゃないか。そんな割の悪い仕事、なぜ受けるのかと。それを 諦めて、何か他の仕事を探した方が稼げる金は大きいと思うぞ。

トゥルアーは屋敷に現われたダニーに挑戦を申し入れるのだが、それが当初からの目的なのであれば、わざわざ依頼者としてバウデ邸の 仕事を持ち込む意味は無いだろうに。最初からマツイを通じてファベルジュエッグを盗むよう指示し、その一方で挑戦状を叩き付ければ いいだけのことだ。
あと、「同じ仕事で競い合おう」と言っておきながら、イザベルに録画テープを渡して逮捕させたらダメじゃん。それは「同じリングで 戦おう」と言っておきながら、毒入りジュースを飲ませてリングに上がれなくするようなモンだぞ。
それでエッグを手に入れても、トゥルアーが世界最高という評価にはならんぞ。
ただの不戦勝だから。

厳密に言うとオールスター映画ではないが(エディー・ジェイミソンやシャオボー・クィンをスターとは呼べないだろう)、豪華スターの 競演を最大の(というか唯一の)売りにしていることは間違いない。
その一方で、ソダーバーグは監督低予算インディーズ映画のようにザラついた粗い映像や手持ちカメラの映像を使っている。
そこはゴージャスに行かなきゃダメでしょ。

ソダーバーグ監督も出演者も、肩の力を抜いて遊び感覚たっぷりで本作品を楽しんでいるのだろうと思う。
だから、遊び心が随所に見られるのは、一向に構わない。
ダニーが50歳に見えるかどうか聞き回るとか、ラスティーがタトゥーを消そうと思ったら反対されたとか、そういうのは構わない。トゥルアーが 防犯レーザーシステムを『エントラップメント』のパロディーとして踊りながら回避するのも、やや悪ノリしすぎという感も無くはないが 、しかしOKだろう。
そう言えば、ブルーザーが弁護士として来るのは、もしかするとブルーザーという悪徳弁護士が登場したマット・デイモン主演映画 『レインメイカー』のパロディーなのかな(考えすぎかな)。
あと、有名俳優のカメオ出演も遊びの1つだが、せっかくライナスの父親役でピーター・フォンダが出演したんだから、カットせずに無理矢理にでも使おうぜ、そこは。

で、そういう遊びは大いに結構だが、「テスがジュリア・ロバーツに似ている」というネタを、メインの物語を動かすための重要なキーと して使うのは御法度だろう。
彼女だけが突出してスターというキャスティングならともかく、そうじゃないんだよ。
それをやったら、「ダニーはジョージ・クルーニーに似ているし、ラスティーはブラッド・ピットに似ているし」ということになってしまう。
軽く遊びとして触れる程度ならいい。しかしアクセントじゃなくて、エッグを盗む計画として思い切り使ってしまうのだ。
それは、もはや遊びの域を超えている。
質の悪いエクスプロイテーション映画じゃあるまいし。

恐ろしいことに、オーシャンズは最後まで、「綿密に計画を立て、役割を分担し、大掛かりな泥棒をやらかす」ということは無い。
本物のエッグがバックパックで運ばれる情報をルマークのコネで得ており、それを簡単に摩り替えただけだ。
そして、事前に摩り替えていたということは、警察に逮捕される必要も、テスを巻き込む必要も全く無かったということになるぞ。
楽しく遊ぶのは大いに結構だが、話として「怪盗ぶりの描写なんてどうでもいい」という状態になったらイカンぜよ。

 

*ポンコツ映画愛護協会