『オーシャンズ11』:2001、アメリカ

ノース・ジャージー州刑務所に収容されていた詐欺師ダニー・オーシャンは、仮出所が認められた。彼はラスベガスにある、ベネディクト所有の3つのカジノの売上金が集まる金庫を狙う計画を立てていた。ダニーは計画実行のため、仲間を集め始める。
まずダニーはアトランティック・シティーへ行き、元強盗のカード・ディーラー、フランクに会った。それからハリウッドへ飛び、いかさまトランプ師のラスティと再会した。そして、ベネディクトを恨む実業家ルーベンから計画に出資する約束を取り付けた。
ダニーとラスティは、車の運転が得意な双子のヴァージルとタークを仲間にした。さらに電子機器に詳しいリヴィングストン、爆薬の専門家バシャー、サーカスの曲芸師イエン、元詐欺師ソール、スリのライナスと、2人は全ての仲間を集め終えた。ダニーとラスティは全てのメンバーをルーベンの邸宅に集め、計画について語り始めた。
金庫室は地下60メートルにあり、カジノのケージを突破して、12時間ごとに暗証番号が変わる3つのドアを抜けねばならない。エレベーターは指紋の照合と音声確認が必要で、自動制御システムも付いている。地下には武装した警備員がおり、監視カメラが設置されている。センサーで監視されているため、地下に穴を掘ることは出来ない。
計画の準備を進める内、ラスティはダニーの元から逃げた妻テスがベネディクトの恋人になっていることを知る。ダニーの目的は、彼女を取り戻すことにあったのだ。ついに計画の実行日が訪れ、ボクシングの試合が行われる中でダニー達は行動を開始する…。

監督はスティーヴン・ソダーバーグ、1960年版原案はジョージ・クレイトン・ジョンソン&ジャック・ゴールデン・ラッセル、1960年版脚本はチャールズ・レデラー&ハリー・ブラウン、脚本はテッド・グリフィン、製作はジェリー・ワイントローブ、共同製作はR・J・ルイス、製作総指揮はスーザン・イーキンス&ジョン・ハーディー&ブルース・バーマン、撮影はピーター・アンドリュース、編集はスティーヴン・ミリオン、美術はフィリップ・メッシーナ、衣装はジェフリー・カーランド、音楽はデヴィッド・ホームズ。
出演はジョージ・クルーニー、ブラッド・ピット、ジュリア・ロバーツ、マット・デイモン、アンディ・ガルシア、バーニー・マック、エリオット・グールド、カール・ライナー、ケイシー・アフレック、スコット・カーン、エディ・ジェイミソン、シャオボー・クィン、マイケル・デラーノ、スコット・L・シュワルツ、ロビン・サックス、レノックス・ルイス、ウラジミール・クリチコ他。


フランク・シナトラとラット・パック(ディーン・マーティンやサミー・デイヴィスJr.などシナトラ一家のこと)が総出演した1960年の映画『オーシャンと十一人の仲間』のリメイク版。撮影のピーター・アンドリュースは、スティーヴン・ソダーバーグ監督の別名義。
ダニーをジョージ・クルーニー、ラスティをブラッド・ピット、テスをジュリア・ロバーツ、ライナスをマット・デイモン、ベネディクトをアンディ・ガルシア、フランクをバーニー・マック、ルーベンをエリオット・グールド、ソールをカール・ライナーが演じている。

さらにバシャーをドン・チードル(アンクレジット)、ヴァージルをケイシー・アフレック、タークをスコット・カーン(スティーヴ・カーンの息子)、リヴィングストンをエディ・ジェイミソン、イエンをシャオボー・クィン(北京雑技団の一員で、これが映画初出演)が演じている。
この映画、他にも色々なシーンで有名人が顔を見せている。ボクシングの試合では、本物のヘビー級ボクサーであるレノックス・ルイスとウラジミール・クリチコ、名トレーナーのエマニュエル・スチュワード、名レフェリーのリチャード・スティールが登場する。HBOのスポーツ・コメンテーター、ジム・ランプリーとラリー・マーチャントも顔を見せる。

カジノの客で映画プロデューサーのジェリー・ワイントローブ、泥棒役でスティーヴン・ソダーバーグ監督、歌手のエディ・ゴーメやスティーヴ・ローレンス、ウェイン・ニュートン、マジシャンのジークフリード&ロイは本人役で登場。前作に出演していたヘンリー・シルヴァとアンジー・ディッキンソンは、本人役で登場する。
ラスティがカードを教えている面々は、全て人気TVドラマに出演していた俳優。ホリー・マリー・コームズ、トファー・グレイス、ジョシュア・ジャクソン、バリー・ワトソン、シェーン・ウェストというメンバーだ。TVドラマ『ER』から映画界に転向したジョージ・クルーニーが、トファー・グレイスに「TVから映画に移るのは大変か」と尋ねる遊びもある。

リメイクとは言っても、内容は大幅に変更されている。もちろん、出演者がディーン・マーティンやサミー・デイヴィスJr.のように歌うことも無い。それぞれが得意のパフォーマンスを見せるとか、自身のイメージを使った見せ場を作ることも無い。まあ、そもそも「歌が得意」とか「ダンスが得意」などの持ち芸がある俳優は出演していないわけだが。
オリジナル版の『オーシャンと十一人の仲間』には、「ラット・パックが結集」というファミリー映画としての意味付けがあった。それに対してリメイク版では、“ファミリー”としての色合いは全く無い。クルーニー・ファミリーなんてのは存在しないし、例えばソダーバーグ映画の常連が集まっているとか、そういうわけでもない。

ついでに言うと、「オールスター映画」としての意味合いも充分とは言い難い。確かに、ジョージ・クルーニーやブラッド・ピット、マット・デイモンやジュリア・ロバーツという顔触れは「オールスター・キャスト」にふさわしい。だが、例えばスコット・カーンやエディ・ジェイミソンは、スター俳優と言えるだろうか。シャオボー・クィンに至っては、完全に新人だ。
確かに大物俳優が顔を揃えたとは言えるが、しかしオールスター・キャストと呼ぶには不充分だろう。条件を満たしていないのだから、「細かいことを気にせず、オールスター・キャストを楽しむべき」というオールスター映画専用の言い訳は通用しない。

妻とヨリを戻すという裏の目的があるダニーはともかく、他のメンバーには大金を必要とするような理由は無い。ベネディクトに個人的な恨みを持つのもルーベンだけだ。ということは、大金を盗む計画は、おのずとゲーム感覚で行われることになる。
計画の準備が進められていく過程では、サクサクと調子良く進むことが重視される。綿密な準備が1つずつ積み上げられいくゲーム感覚の面白さや、失敗するかもしれないというスリルなどは、なるべく排除しようとしている。あまりにサクサクと進むからといって何気無く見ていると、何が行われていたのか覚えていないということになりかねない。

ベネディクトはクールなキレ者ではあるが、それほど非情さや残忍さをアピールしているわけではない。憎まれ役としての悪辣っぷりが不充分なために、彼から大金を盗んでも、「憎々しげな悪党をギャフンと言わせた」という爽快感は薄い。

一応は11人に特技が用意されているが、その11人が必要不可欠かというと、そうではない。例えばダニーとソールは、詐欺師という設定が重なっている。おまけにダニーには、ライナスから気付かれずに財布を奪うスリの才能まで持っている。
運転担当は1人でも充分だろうし、そもそも劇中では運転テクニックを見せ付けるようなシーンは無い。ハイテク担当と爆発物担当は、役割的に少し被っている。ラスティは参謀役だが、いなくても全く困らない。出資役は、計画が始まると何もすることは無い。

結局、計画の準備が始まると、それぞれが最初に与えられた特技とは全く関係の無い部分での仕事を余儀無くされている。尾行や調査を行うライナスや、ソールの付き添いから荷物運びまで担当するヴァージル&タークは、ほとんど便利屋と化している。
俳優としては基本的に「出番が多ければ多いほど外れクジ」という状態に陥っているが、最悪の外れクジを引いたのはジュリア・ロバーツだろう。激しく憎んでいたダニーと簡単にヨリを戻すという、頭の悪すぎる女を演じさせられるハメになっている。

タイトルは『オーシャンズ11』だが、常にダニー・オーシャンを軸にして仲間達が動いている、という意識は感じない。それぞれが(この場合、それぞれの登場人物ではなく役者が)、その場その場で自分の役割をこなしました、というだけになっている。
常にジョージ・クルーニーを盛り立てようということにならず、例えばシーンによってはブラッド・ピットが軸になったりしてしまう。ブラッド・ピットやジュリア・ロバーツが役者として強すぎたため、「ジョージ・クルーニーと仲間達」という色合いで全体を染め抜くことが出来なかった、というのは最大の計算違いだったかもしれない。

 

*ポンコツ映画愛護協会