『あるスキャンダルの覚え書き』:2006年、イギリス

熟練教師のバーバラ・コヴェットは、労働者階級の子供たちが通うロンドン郊外の中学校で歴史を教えている。最近ではナイフや麻薬を 隠し持つようになった子供たちに、彼女は侮蔑の感情を抱いている。彼女は生徒に対し、厳格な態度で臨んでいる。新学期が始まり、校長 のサンディーは会議のために教師を集めて報告書の提出を求めた。その場でサンディーは、新しく赴任した美術教師シーバ・ハートを皆に 紹介した。彼は「芸術を通しての情操教育で、荒れた子供たちの心を正したい」と語った。
バーバラの報告書が1枚だけだったので、サンディーは困惑する。バーバラは冷徹な態度で「読んでもらえれば分かります」と告げる。 そこには、カリキュラムを変える必要は無いという旨のレポートが短く綴られていた。バーバラはシーバがどのような人物なのか観察し、 現実離れしたところのある女性だと分析する。同僚のブライアンやスーが彼女に近付くのを見て、バーバラは不快感を抱いた。
ある日、図書室の前を通り掛かったバーバラは、シーバの姿を目にした。彼女は喧嘩を始めた生徒のスティーヴン・コナリーとデイヴィス を制止しようとしていたが、まるで対処できていなかった。バーバラは図書室に入り、スティーヴンとデイヴィスを一喝して喧嘩を止める 。喧嘩の原因をバーバラが尋ねると、スティーヴンはデイヴィスがシーバのことで卑猥な発言をしたことだと説明した。この出来事を きっかけにして、バーバラはシーバと親しくなった。
バーバラはシーバから、「日曜にウチでランチでもいかが?」と誘われた。バーバラは喜び、身なりを整えて訪問する。彼女は、シーバが 若い弁護士の夫と良く躾けられた子供たちに囲まれて暮らしている様子を想像した。しかし実際には、バーバラと同年代の夫リチャード、 ぶっきらぼうな娘ポリー、肥満体で世話の焼ける息子ベンの4人暮らしだった。ランチの後、シーバ、リチャード、ベンの3人は音楽に 合わせて踊り、ポリーは煙草をくゆらせた。
バーバラはシーバに案内され、彼女がアトリエとして使う予定だったという離れの部屋に入った。シーバが「やっぱり教師には向いて いないのかも」と自信の無さを吐露するので、バーバラは「子供たちに不安を悟られてはダメ」とアドバイスする。シーバはバーバラに心 を許し、最低だった母のこと、父を亡くした悲しみ、リチャードとは不倫関係だったこと、彼が自分との情事に溺れて家庭を捨てたこと などを無防備に喋った。バーバラは、シーバとは長く付き合える人生の友人になれると確信した。
学芸会の開催日、バーバラは会場でシーバを待つが、一向に現れない。捜しに行ったバーバラは、シーバが美術教室でコナリーと情事に ふける様子を目撃した。バーバラは気付かれないように立ち去り、後でシーバに電話を掛けて呼び出した。バーバラに問い詰められた シーバは、コナリーから求められて跳ね付けられなくなったこと、彼のアプローチが嬉しかったことを告白する。バーバラが喧嘩を制止 した日には、既にシーバとコナリーの関係は始まっていた。
怒りに流されてシーバを糾弾しようとしていたバーバラだが、話している途中で「これは彼女ともっと親しくなるチャンスだ」と気付いた 。「秘密を守ることでシーバを手に入れられるかもしれない。何もしないことで永遠に借りを作らせよう」と、バーバラは考えた。シーバ が「校長への報告義務があるのは知ってるわ。でも新年まで待って。クリスマスは家族と過ごしたいの」と懇願してきたので、バーバラは 「報告なんてしないわ。貴方の力になりたいの」と優しく告げた。
シーバが「学校を辞めた方がいいかしら」と尋ねるので、バーバラは「辞めたら余計に怪しまれる。続けなさい。ただし、あの子とは 別れなさい」と告げる。しかしバーバラはコナリーから求められ、その後もバーバラに内緒で関係を続けた。そんなことを全く知らない バーバラは、シーバからクリスマスプレゼントを貰って喜んだ。可愛がっていた飼い猫が病気になり、もう助からないと獣医に言われた時 には、シーバの家へ行って悲しみを吐露した。
バーバラはシーバの家を去る時、「学生の頃、誰かが落ち込んでいると、みんなで手をさすったの。とても気持ちが良くて、お互いに 癒やされるのよ」と告げる。バーバラはシーバに目を閉じるよう促し、彼女の腕をさする。だが、あまりにも長く続けたので、シーバは 「もう充分よ」と言って終わらせた。庭に少年の姿を発見したバーバラは、シーバに「警察を呼んで」と告げる。しかしシーバは少年が コナリーだと分かっており、「きっと近所の子がボールでも取りに来たのよ」と取り繕った。
シーバの携帯が鳴った時、バーバラは何かを察知した。彼女がシーバより先に携帯を取ると、やはり掛けて来たのはコナリーだった。まだ シーバが彼と続いていると知り、バーバラは激しく非難した。必死に言い訳するシーバに、彼女は「すぐに別れなさい。それとも私から リチャードに言いましょうか」と告げる。バーバラはコナリーと話をするため、彼の家へ赴く。バーバラはコナリーから、不幸な家庭環境 にあることを聞かされていた。しかし行ってみると、それは真っ赤な嘘だった。さらにシーバは、コナリーから「先生のことは好きだけど 、所詮は遊びだよ」と冷たく突き放されてしまう。
バーバラはショックを受けて街角に佇んでいるシーバを発見し、優しく抱き締めた。バーバラは、シーバを癒やせるのは自分だけだと確信 した。彼女はシーバとの絆がさらに強まったと確信する。シーバから今夏は別荘で一緒に過ごそうと誘われ、バーバラは喜んだ。そんな中 、飼い猫の安楽死が決まった。獣医から「20分後、立ち合いに来てください」と言われた彼女は、シーバの家へ向かった。
バーバラがシーバの家に到着すると、彼女は家族で出掛けるところだった。バーバラは泣きながらシーバに事情を語り、「一緒に来て くれる?一人じゃ無理なの」と頼む。シーバは困った表情を浮かべ、「行ってあげたいけど、これから学校でベンの劇があるのよ」と 告げる。バーバラは彼女に掴み掛かり、「私に借りがあるはずでしょ。私を裏切るの」と怒鳴る。シーバは申し訳なさそうにしながらも、 家族と一緒に車で去った。
その夜、バーバラの家にブライアンがやって来た。彼はシーバに好意を持っていることを明かし、「見込みがありそうか、君からシーバに 尋ねてくれないか」と頼んで来た。バーバラは「私の見る限り、貴方に見込みは無いわ。シーバが好きなのは、もっと年下の男よ。噂が あるの。スティーヴン・コナリーと付き合っているらしいって」と語った。話す相手は一人で良かった。すぐに噂は広まり、コナリーの 両親の耳にも入った。コナリーの母親はシーバの家に乗り込み、彼女に掴み掛かって激しく罵倒した…。

監督はリチャード・エアー、原作はゾーイ・ヘラー、脚本はパトリック・マーバー、製作はスコット・ルーディン&ロバート・フォックス 、製作総指揮はレドモンド・モリス、撮影はクリス・メンゲス、編集はジョン・ブルーム&アントニア・ヴァン・ドリムレン、美術&衣装 はティム・ハットリー、音楽はフィリップ・グラス。
出演はジュディー・デンチ、ケイト・ブランシェット、ビル・ナイ、アンドリュー・シンプソン、フィル・デイヴィス、マイケル・ マロニー、ジュノー・テンプル、マックス・ルイス、ジョアンナ・スキャンラン、ジュリア・マッケンジー、ショーン・パークス、 エマ・ケネディー、シリータ・クマール、ウェンディー・ノッティンガム、トム・ジョージソン、テムカ・エンプソン、アンヌ=マリー・ ダフ、スティーヴン・ケネディー、ダーブル・クロッティー、ジル・ベイカー、ジョナサン・スピア、デブラ・ジレット、バリー・ マッカーシー、エイドリアン・スカーボロー他。


アメリカで起きたメアリー・ケイ・ルトーノーの事件をモデルにしたゾーイ・ヘラーの小説『あるスキャンダルについての覚え書き』を基 にした作品。
脚本は『クローサー』のパトリック・マーバー、監督は『アイリス』のリチャード・エアー。
バーバラをジュディー・デンチ、シーバをケイト・ブランシェット、リチャードをビル・ナイ、スティーヴンをアンドリュー・シンプソン、ブライアンをフィル・ デイヴィス、サンディーをマイケル・マロニー、ポリーをジュノー・テンプル、ベンをマックス・ルイスが演じている。

ナレーションによってバーバラの感情や考えを全て説明しているのは、上手いやり方とは思えない。そうすることによって、バーバラが 「分かりやすい女」になってしまう。
でも、もっと奥底の見えない女、得体の知れない女にしておいた方がいいと思うのよね。
どうしてもナレーションを入れたいのなら、俯瞰で見ている第三者に担当させて、バーバラの感情や考えは説明しない方がいいと思うなあ。
分かりやすくしたことが、マイナスに作用しているように感じるんだよね。ナレーションのせいで、バーバラが周囲を見下していること なんかも最初から分かっちゃうんだけど、少しずつ彼女の本性が見えて来るような形にした方がいいんじゃないかなあと。
あと、例えばシーバからランチに誘われた時もナレーションで「嬉しい。私の空白だらけのカレンダーに予定が入った」と言っちゃうけど 、そこはクールに気取ってOKする態度だけを描いてナレーションは入れず、でも美容室に行ったり服を買ったりする姿を見せることで、 「実は喜んでいた」ということを感じさせた方がいいんじゃないかと。

バーバラは校長に対して頑固な態度を取るなど、序盤から既に「何かトラブルを引き起こす可能性のある人」という雰囲気がプンプンと 漂っている。
だけど、それよりも「どこにでもいるような普通の女性が、どんどん行動がヤバくなっていく」というところで怖さを醸し 出した方がいいんじゃないかと思っちゃうんだよね。
これだと、ごく普通の「サイコさんの犯罪」になっているのね。
まあサイコさんだとダメってわけじゃないけど、「普通の女性がヤバくなっていく」とした方が、深みは出たかなと。

シーバからすると、バーバラは最初の内、「親切で面倒見の良い年上の理解者」に見えている。
で、それを途中までは、観客にも共有させて方がいいと思う。
この映画だと、観客は最初から、バーバラがシーバを観察し、「永遠のパートナーになれる」と考えて接している ことが分かっている。
レズビアンとしての好意も含めて、ちょっと異常な感情を抱いて接しており、親身になって彼女のことを考えている のではなく、自分本位であることが分かっているのよね。

バーバラがシーバにコナリーとの関係を追及した時、ナレーションで「もっと親しくなるチャンスだ。秘密を守ることでシーバを手に 入れられるかもしれない」などと語るけど、そんなに全てをあけすけにしちゃってもいいのかと。
なんかね、勿体無いなあと思ってしまう
。バーバラの心情や考えを、その場で全て明らかにすることで、話が浅くなっている印象を受ける。
それと、レズビアン要素を入れたのも失敗じゃないか。それだと、バーバラが「高みから見ている」という感じじゃなくなってしまうし。
バーバラがレズとしてシーバに惚れているという設定にしたことで、表現が変かもしれないけど、「凡庸なサイコさん」に なっちゃってるんだよね。

あと、確かにバーバラはサイコなオバサンだけど、シーバには全く同情心が沸かないんだよね。
だって、彼女の行動がバカにしか見えないからね。
15歳の生徒に誘惑されて関係を持つのは、抵抗疲労が働いたってことなのかもしれんが、どう言い訳しても単なるバカにしか しか見えない。
別れるよう言われた後もズルズルと関係を続けているけど、もちろんバカの上塗り。
彼女がおバカすぎて、コナリーから冷たくされるシーンまでは、むしろイラっとしてしまうぐらいだ。
映画としては、それでホントにいいのか。

シーバが愚かしい女なので、バーバラがコナリーとの噂をブライアンに話しても、コナリーの母が殴り込むのをバーバラが冷静に見て いても、それを「怖いなあ」とは全く思えないんだよね。
それよりも、シーバに対する「自業自得でしょ」という突き放すような気持ちが沸いてしまう。
まあ、だからこそ「バーバラがシーバを陥れ、次の標的に狙いを定める」という終わり方でも、まるで不快感を抱かずに 済むんだけどね。
でも、それってサイコ・サスペンスとしてはダメなんじゃないのかと。

バーバラの家で同居を始めたシーバが、ゴミ箱に捨ててあった日記のページを読み、部屋を調べて引き出しに入っていた日記を発見し、 バーバラの本性に気付くという展開が終盤に待ち受けている。
その辺りは、御都合主義がマズい形で出ちゃってるなあ。
そこまで慎重に計画を進めて来たバーバラが、日記の破り捨てたページを無防備にゴミ箱へ放置しているとか、シーバが簡単に発見できる ような場所に日記を入れているとか、急に甘すぎることをやらかしているんだよな。
そういう甘さは、やはり物語を進めるための御都合主義としか受け取れないよ。

(観賞日:2012年6月18日)


第29回スティンカーズ最悪映画賞(2006年)

ノミネート:【最悪のヘアスタイル】部門[ジュディー・デンチ]

 

*ポンコツ映画愛護協会