『エルム街の悪夢5/ザ・ドリームチャイルド』:1989、アメリカ

アリスがダンとのセックスを終えてシャワーを浴びに行くと、シャワー室が水で満たされて溺れそうになる。脱出したアリスは修道女の姿になり、アマンダ・クルーガーという名札を付けていた。彼女は精神病院にいて、大勢の患者たちに襲われたところで夢から醒めた。高校の卒業式に出席した彼女は、親友のイヴォンヌやグレタ、マークたちと会話を交わした。彼女は恋人のダンから飛行機のチケットを渡され、「パリで夏休みを楽しめる」と告げられた。
アリスが怖い夢を見たことを話すと、ダンは「奴の夢?」と尋ねる。アリスが「違うけど、コントロールできなかった。あれ以来、初めてのことよ」と言うと、彼は「夢で奴を起こしさえしなければ大丈夫だよ」と告げた。酒を断とうとしている父のデニスが来たのでアリスは喜び、一緒に写真を撮った。公園に立ち寄ったアリスは、フレディーの数え歌を合唱する子供たちを目撃した。足を進めた彼女は修道女のアマンダに気付き、後を追った。
アリスが精神病院に入ると、アマンダは怪物を出産した。怪物は教会に移動し、フレディーに変身した。彼は「男の子だ。鍵を見つけた」と言い、アリスの腹部を触った。そこへアマンダが現れて「呼び戻された私が、お前を殺す」と言うと、フレディーは「殺せるものなら、殺してみろ」と告げて姿を消した。アマンダはアリスに「私を解放して。塔の中よ」と述べ、その場を去った。アリスが教会の扉を開けて外へ出ると、そこはアルバイトしているダイナーだった。
アリスはプールで仲間と楽しんでいたダンに電話を掛け、フレディーが現れたことを話す。ダンは車でダイナーへ向かうが、フレディーに悪夢を見せられる。彼は猛スピードで車を走らせ、トラックに激突して死んだ。現場に駆け付けたアリスは、ダンがフレディーの声で「子供を作ろう」と言うのを聞いて気絶した。イヴォンヌが働く病院で意識を取り戻したアリスは、妊娠していることを聞かされた。その夜、彼女の病室にジェイコブと名乗る男児が現れ、「友達が死んだんでしょ。お見舞いに来た」と告げて立ち去った。
翌朝、退院したアリスはイヴォンヌにジェイコブのことを尋ねるが、そんな患者はいないし小児病棟も存在しないと告げられる。アリスはイヴォンヌ、グレタ、マークの3人に、フレディーやアマンダのことを話す。しかし3人は全く信じようとせず、アリスが「私の夢ならコントロールできた。事情が変わったから心配なのよ」と話しても軽く考えた。その夜、グレタは母が開いた会食に嫌々ながら出席する。彼女はフレディーに襲われ、大勢の列席者がいる前で死亡した。
アリスはマークの元へ行き、詳しい話をしようとする。しかしマークが自分の描いた劇画に吸い込まれたため、アリスは後を追う。空き家に足を踏み入れた彼女は、穴に落ちそうになっているマークを助けた。アリスは一緒に逃げようとするが、マークは血を見て卒倒する。マークの姿が消えてジェイコブが出現し、アリスに語り掛ける。ジェイコブが自分の息子だと悟ったアリスは、「友達が呼んでる」と2階へ向かう彼を追った。するとジェイコブは姿を消し、部屋ではマークが倒れていた。
アリスはマークを起こし、「私の子供が危ない」と言う。マークは「イヴォンヌの病院で調べてもらえ」と促し、自分はフレディーを調査すると告げた。アリスは病院へ行き、イヴォンヌの協力でムーア医師に診断を頼んだ。超音波検査を受けた彼女は、フレディーがダンとグレタの魂を胎児に食べさせたこと、胎児を狙っていることを悟った。フレディーに関する資料を集めたマークに、アリスは「フレディーは胎児の夢を利用してる」と言う。マークは「中絶すれば全て解決する」と告げるが、アリスは「嫌よ。せっかく出来たんだから」と拒否し、別の方法を考える…。

監督はスティーヴン・ホプキンス、原案はジョン・スキップ&クレイグ・スペクター&レスリー・ボーエム、脚本はレスリー・ボーエム、製作はロバート・シェイ&ルパート・ハーヴェイ、製作総指揮はサラ・ライシャー&ジョン・タートル、撮影はピーター・レヴィー、美術はC・J・ストローン、編集はチャック・ワイス&ブレント・ショーンフェルド、衣装はサラ・マーコウィッツ、視覚効果監修はアラン・マンロー、音楽はジェイ・ファーガソン。
主演はロバート・イングランド、共演はリサ・ウィルコックス、ケリー・ジョー・ミンター、ダニー・ハッセル、エリカ・アンダーソン、ニック・メレ、ジョー・シーリー、ヴァロリー・アームストロング、バー・デベニング、クラレンス・フェルダー、ウィットビー・ハートフォード、パット・スタージェス、ベアトリス・ペップル、スティーヴン・グライヴス、ウォーリー・ジョージ、マット・ボーレンギ、ベス・デパティー、ドン・マクスウェル、ウィル・イーガン他。


シリーズ第5作。
監督は『デンジャラス・ゲーム』のスティーヴン・ホプキンス、脚本は『デビルジャンク』のレスリー・ボーエム。
フレディー役のロバート・イングランドは、全作通してのレギュラー。アリス役のリサ・ウィルコックス、ダン役のダニー・ハッセル、デニス役のニック・メレは、前作に続いての出演。
他に、イヴォンヌをケリー・ジョー・ミンター、グレタをエリカ・アンダーソン、マークをジョー・シーリー、ダンの母をヴァロリー・アームストロング、ダンの父をバー・デベニング、グレイをクラレンス・フェルダーが演じている。

冒頭シーンがアリスの夢であることは、シリーズを見ている人にすれば「御馴染みの始まり方」ってことになるだろう。
シリーズを初めて見る人であろうと、それが夢であること、アリスが死なないことは、すぐに分かるだろう。
ぶっちゃけ、コケ脅しとしての力さえ弱い。
それに、フレディーは登場しない、その気配も無い夢だからね。
精神病患者としてロバート・イングランドは登場するけど、フレディーの演者ってことを知らない人もいるだろうし、そもそもフレディーと同一人物として登場しているわけではないし。

アリスは夢から醒めるが、ベッドでロバート・イングランド扮する精神病患者に襲われる。抵抗して突き飛ばしたところでカットが切り替わり、ロバート・イングランドの姿は消えている。
ただし、そこは「夢から醒めたと思ったら夢の途中で、患者を突き飛ばしたら今度こそ夢から醒めた」という描写が無い。
だから、患者に襲われるシーンは、「現実の世界に出現した」という見え方になっている。
以前から現実と夢の境界線をボンヤリさせることが好きなシリーズだったけど、今回はオープニングで早速なのね。

前作から1年後の物語だが、アリスはイヴォンヌ、グレタ、マークという親友を作っている。
第4作では影も形も無かった連中なのに、いつの間にか親友になったのね。
そりゃあ前作の主要人物は大半が死んでいるので新キャラを登場させるのは当然だけど、細かいツッコミを入れたくなるポイントではある。
まあ、どうせ基本的には「フレディーに殺されるための要員」ってことが分かっているので、どうでもいいっちゃあ、どうでもいいんだけどね。

このシリーズは作品ごとに監督が交代しているのだが、どうやら「観客を怖がらせることよりも、悪夢の視覚効果に力を入れる」というコンセプトだけは一貫しているようだ。
観客を心理的に追い詰めていくような手順はスッ飛ばしており、少しずつ不安を高めていく作業は用意されていない。ショッカー演出の意識も低い。
一応はホラー映画のジャンルに入る作品だけど、怖さは薄い。悪夢のシーンは、あまりにも不条理が強すぎる。
不安や恐怖を煽るレベルを遥かに逸脱する不条理によって、この映画は成り立っている。

前作に引き続いて、今回もフレディーの復活方法はデタラメだ。もはや何でも有りの世界なので、そこは受け入れるしかない。
そんなフレディーの復活を見たアリスが教会を開けるとダイナーに到着するのだが、「そこまで歩いて来る間、ずっと夢を見ていた」ってことになる。
でも実際のところ、それは不可解極まりない。
どういうことなのか説明が付かないように思うが、それも今に始まったことではない。作品の肝となるはずの「フレディーは夢の中に登場する」というルールなんて、2作目の時点で既に破られている。
3作目で2作目は「無かったこと」にして路線を戻そうとしたが、4作目では再びルールを破っているのだ。

どうやら今回のフレディーは、「現実の世界に出現し、標的を悪夢に引き込む」という力も会得しているようだ。アリスがフレディー復活の悪夢を見るシーンは、そうとでも解釈しないと筋が通らない。
ダンが車を運転している最中に悪夢の世界へ引き込まれるシーンも、同じことが言える。運転している最中にダンが眠り込んで夢を見るなんてことは、考えにくいからだ。
標的が眠らなくてもフレディーが出現できるので、「登場人物が眠りを我慢する」という作業は消えた。
もはや防御手段は無いってことだ。

前作のアリスは兄貴譲りのマーシャルアーツでフレディーと戦っていたが、今回は同じ行動を取らない。自分の夢ではないので、戦闘能力を発揮することも出来ないってことなのか。
だけど終盤、彼女は夢の中でフレディーに立ち向かっているので、まるで自由に操ることが出来ないわけではなさそうなんだよな。
あと、前作で彼女は鏡を見せてフレディーを退治していたが、その方法を試すことも無い。
こちらに関しては「自分の夢じゃなくてコントロールできないから」ってことじゃなくて、完全に忘れているようだ。

前作ではアリスがドリームマスターとしての力を発揮していたが、そのままだと今回もフレディーとの戦いが同じパターンになる。
そこで今回は「フレディーが胎児の夢を利用する」という設定を持ち込み、アリスの能力を封じている。
ただ、そのせいで、前作ではダンの顔を見つめるだけでも恥ずかしそうだったアリスが、避妊せずにセックスしてガキを孕む女に変貌しちゃってるのね。
それ以外の諸々も含めて、なんか前作と別人みたいになってる印象を受けるなあ。

グレタがフレディーに悪夢を見せられるのも、最初は「現実の世界でフレディーが力を使い、悪夢に引き込んだ」ってことなのかと思った。しかしアリスの説明を聞く限り、どうやらグレタは会食中に眠って夢を見たようだ。
でも、あの状況で会食の途中に眠り込むってのは、かなり無理があるぞ。
アリスが話をするために来訪したのに、マークがベッドで眠り込んで悪夢に入り込むってのも無理がある。
そもそも、その2人のケースで「眠って夢を見たからフレディーら襲われた」というルールをキッチリと守ったところで、アリスのケースで堂々とルール違反をやらかしているんだから、今さら遅いわ。

マークが劇画の世界に入り込んだのを、アリスは見ている。アリスは寝ていないのに、それを見ることが出来るってのは変な話だ。
ここについては、「眠っている胎児が夢を見て、その中にマークを引き込んで、それを母親であるアリスが共有しているので、彼女は起きているにも関わらず悪夢を見る」という設定のようだ。
腑に落ちる説明とは言い難いけど、ちゃんと噛み砕いて理解しようと思っても無駄だ。
この映画に、納得できる理屈なんて用意されていない。

グレタやマークは眠ったからフレディーの悪夢を見せられるわけだが、「だったらアリスの胎児を利用する必要は無い」ってことになるはずだ。
そもそもフレディーは自分を殺した連中の子供に復讐するのが目的だったわけだが、「クリスティン(2作目と3作目のヒロインで、自分の夢に他人を引き込む力を持っている)の能力を引き継いだアリスと、彼女の息子であるジェイコブの夢にしかフレディーは登場することが出来ず、だから胎児の力を利用するという設定だったりするのかね。
何とか解釈を導き出そうとしたら、そういう答えを思い付いた。
それが正解だとは言えないし、映画を見ている限りは単にデタラメだとしか思えないけどね。

ちなみに今回の映画でフレディーを退治する方法は、「イヴォンヌが閉鎖された精神病院の塔へ行ってアマンダの骸骨を発見し、それによって解放されたアマンダの魂が夢の中に出現し、フレディーを胎児に戻して連れ去る」というものだ。
ただ、3作目でアマンダは普通に徘徊していたので、今回の「塔に閉じ込められている」ってのは辻褄が合わない。
でも、このシリーズに辻褄とか整合性なんてモノを期待するのが間違いってことだろう。

(観賞日:2016年1月18日)


第10回ゴールデン・ラズベリー賞(1989年)

受賞:最低オリジナル歌曲賞「Bring Your Daughter To The Slaughter」

 

*ポンコツ映画愛護協会