『エルム街の悪夢4/ザ・ドリームマスター最後の反撃』:1988、アメリカ

クリスティン・パーカーは古い家屋の前で、地面に家を描く幼女を目撃した。「ここの子?」とクリスティンが訊くと、幼女は「ここは空き家よ」と答えた。「フレディーは?」というクリスティンの問い掛けに、幼女は「いないわ」と言う。しかし彼女が描いた絵では、家の中にフレディーがいた。突如として景色は夜になり、豪雨が降り出した。クリスティンが開いた扉から空き家に入ると、子供たちがフレディー・クルーガーの数え歌を合唱していた。
クリスティンは窓から吹き込んだ突風に飛ばされ、気が付くと地下のボイラー室にいた。フレディーの気配を感じた彼女は、ジョーイとキンケイドの名を呼んだ。ジョーイとキンケイドは、クリスティンの夢に引き込まれた。クリスティンが「フレディーの声が聞こえたの」と説明すると、彼らは「フレディーは死んだ。もと戻らない」と告げた。パイプの中からキンケイドの飼い犬のジェイソンが飛び出し、クリスティンの右腕に噛み付いた。そこでクリスティンは夢から醒め、ジョーイとキンゲイドも目覚めた。クリスティンの右腕には噛み傷が残っており、ジェイソンは口の周囲に血が付着していた。
クリスティンは親友のアリス、その兄で恋人のリックと3人で、高校へ赴いた。アリスはリックの親友であるダンに好意を寄せており、彼の姿に気付くと釘付けになった。クリスティンとアリスの友人であるデビーは、優等生のシーラに勉強を教えてもらおうとする。ジョーイとキンケイドに会ったクリスティンは、「彼は戻って来るわ」と口にする。ジョーイたちは信じず、「君は他人を夢に巻き込む超能力がある。迷惑だから、正常に戻ってくれ。死んだ奴を呼び起こさないでくれ」と告げた。
その夜、キンケイドは夢の中で廃車置き場に出現する。ジェイソンが小便をすると、炎が地面を走った。地割れが起きてフレディーの骸骨が出現し、それが合体して肉体が再生した。フレディーはキンケイドを始末した後、ジョーイも殺害した。次の日、登校したクリスティンはアリスに、「夢って嫌ね」と漏らす。アリスは「楽しい夢に変えればいいのよ。死んだママから教わった。ドリーム・マスター。夢を制御するの」と話した。
ジョーイとキンケイドが学校に来ていないことを知ったクリスティンは、フレディーに殺されたのだと確信した。放課後にダイナーで働いていたアリスは、ダンが来たので照れた。そこへリックがクリスティンを連れて現れ、ジョーイたちが殺されたことをアリスに話した。彼はリックにも事情を話し、4人で空き家へ赴いた。クリスティンは次に自分が狙われることを確信し、戦うしかないと考える。リックはダンにフレディーのことを説明するが、クリスティンが夢で襲われることは信じていなかった。
クリスティンの母親であるエレインは、娘が精神的に疲れているだけだと決め付けた。エレインはクリスティンを騙し、睡眠薬を飲ませる。それに気付いたクリスティンは、「ママたちの殺した男が祟ってるのよ。復讐だと分からないの?これが命取りよ」と喚いた。彼女は自分の部屋に戻って電話を掛けようとするが、眠りに落ちてしまう。ボイラー室でフレディーから「友達を呼んで助けてもらえ」と要求された彼女は拒絶するが、追い詰められてアリスの名前を口にした。
クリスティンがアリスを夢の中に引き込むと、フレディーは彼女の腹を突き刺した。フレディーはアリスも狙うが、クリスティンが何とか阻止した。目を覚ましたアリスはクリスティンの危機を察知し、リックと共に彼女の家へ向かう。しかし部屋に飛び込むと、クリスティンは既に死んでいた。クリスティンの葬儀を終えた後、アリスは彼女が乗り移ったような感覚に見舞われた。喫煙者ではない彼女は、まるでクリスティンのように煙草をくわえる自分に当惑した。
テストの最中、シーラはフレディーに襲われた。アリスはフレディーの出現を知るが何も出来ず、シーラは命を落とした。アリスはリックたちに「私が彼女を夢に呼び込んだ」と言い、責任感を抱いた。トイレの個室に入ったリックは見えない敵に襲われ、やはり命を落とした。アリスはダンとデビーに、「1人で戦うしかない」と言う。デビーから魔除けのお守りを渡された彼女は、「これだわ。物質より心よ」と呟いた。その夜、デビーはフレディーの犠牲となった。ダンとアリスはトラックでデビーの家に向かう途中、フレディーの罠に落ちた。アリスは目の前に現れたフレディーを始末しようとするが、事故を起こしてダンが重体となった…。

監督はレニー・ハーリン、脚本はブライアン・ヘルゲランド&スコット・ピアース、製作はロバート・シェイ&レイチェル・タラレイ、製作総指揮はセーラ・リッシャー&スティーヴン・ダイナー、製作協力はカレン・コッチ、撮影はスティーヴン・ファイアーバーグ、美術はミック・ストローン&C・J・ストローン、編集はマイケル・N・クニュー&チャック・ワイス、衣装はオードリー・バンズマー、特殊メイクアップはケヴィン・イェーガー、音楽はクレイグ・セイファン。
主演はロバート・イングランド、共演はリサ・ウィルコックス、チューズデイ・ナイト、ダニー・ハッセル、アンドラス・ジョーンズ、ロドニー・イーストマン、ケン・サゴーズ、ブルック・ゼイス、トイ・ニューカーク、ニコラス・メレ、ブルック・バンディー、ジョセリン・マスチェ、ジョーイ・マギドウ、リネア・クイグリー、ジョン・ベックマン、リチャード・ギャリソン、ジェフ・レヴィン、キーシャ・ブラッケル、デュアン・デイヴィス、ワンダ・バーシー、ジョアンナ・リパリ、ジョディー・モンタナ他。


シリーズ第3作。
シリーズ最高のヒット作となり、1980年代のスラッシャー映画で最高の興行収入も記録した。
監督は『レッド・プリズン』『プリズン』のレニー・ハーリン。脚本は、これがデビューとなるブライアン・ヘルゲランドと、この映画以外で名前を見ないスコット・ピアースなる人物の共同。
実はスコット・ピアースってのは、『エンドア/魔空の妖精』や『ザ・フライ2/二世誕生』を手掛けたケン&ジム・ウィート兄弟の変名。他の作品では本名で共同作業をしているが、この作品だけ変名を使っている。
なお、メイクアップ効果には、スティーヴ・ジョンソンやスクリーミング・マッド・ジョージが携わっている。

フレディー役のロバート・イングランドが、シリーズで初めてビリング・トップとなった。
イングランドの他、ジョーイ役のロドニー・イーストマン、キンケイド役のケン・サゴーズ、エレイン役のブルック・バンディー、幼女役のクリステン・クレイトンが、前作からの続投。
クリスティンは前作にも登場していたが、演者がパトリシア・アークエットからチューズデイ・ナイトに交代している。
他に、アリスをリサ・ウィルコックス、リックをアンドラスをダニー・ハッセル、リックをアンドラス・ジョーンズ、デビーをブルック・ゼイス、シーラをトイ・ニューカーク、アリスとニックの父デニスをニコラス・メレが演じている。

この映画、公開予定日が発表された段階で、まだ脚本は1行も完成しておらず、監督も決まっていなかった。
初脚本『ホラー・スコープ』を書き上げたばかりのブライアン・ヘルゲランドは、その映画の監督であるロバート・イングランドの推薦で本作品に起用された。
「7日以内にシナリオを完成させる」という無茶苦茶な条件付きだったが、ヘルゲランドは締め切りを守り、その後にレニー・ハーリンが監督として契約を結んだ。
原案としてヘルゲランドと共にクレジットされているウィリアム・コツウィンクルは、『E.T.』や『スーパーマン III/電子の要塞』のノベライズを手掛けた作家である。

オープニングのシーンがクリスティンの見ている夢ってのは、たぶん大半の人が簡単に分かることだろう。
そんなことは製作サイドだって百も承知で、それでもOKってことで作っていると思う。
ただし、「その夢では死者が出ない」ってことまで簡単に予想が付くのは上手くない。
フレディーは夢の中で人を殺すからこそ、夢であっても「誰か死ぬんじゃないか」という恐怖を煽るはずで。「その夢では誰も死なないだろう」ってのが透けて見えると、それは単なる夢オチでしかないわけで。

冒頭でクリスティンが登場して夢を見るのだから、今回も彼女がヒロインなんだと思うのは普通の感覚だろう。
しかしアリスが登場すると、ダンを見つめる彼女をアップで捉える。その後も、帰宅したアリスがアル中のデニスに苛立ち、怒りをぶつける妄想を膨らませるシーンが描かれたりする。
そんな風に、アリスのパートが序盤から多くなっている。
途中でクリスティンが死んでアリスが彼女のポジションを引き継ぐので、それに向けての作業であることは理解できる。しかし、それを考慮しても、構成が上手くない。

アリスが今回のヒロインなのであれば、先に登場させて「今回は彼女がヒロイン」ってことを分からせてから、友人としてクリスティンを出した方が良かったんじゃないか。
あと、さっさとクリスティンを死なせて退場させちゃった方がいいし。
クリスティンが死ぬまでは、彼女とアリスの両方をヒロインのように見せようとして、散らばっている印象を受ける。
必ずしも映画の主役が1人じゃなきゃダメってわけではないが、この映画では中心が定まらずにフラフラしている。

序盤の登校シーンでは、クリスティンがリックたちと話したり、アリスがダンを見つめたり、デビがシーラを呼び止めたりした後、デビーがゴキブリを見つけて踏み潰す描写がある。
ここはデビーとシーラだけのシーンなので、前述した「アリスのアップ」に加えて、さらにクリスティンへのピントがボヤけているという印象を受ける。その行動がクリスティンに不安を与えるとか、そういうわけでもないし。
っていうか、デビーがゴキブリを踏み潰して、だから何なのかと。コケ脅しにもなっちゃいないぞ。
後でデビーは「ゴキブリに変身し、ゴキブリホイホイで死ぬ」という殺され方をするけど、そこへの伏線のつもりなら、まるで無意味だぞ。ゴキブリを潰す手順が無くても、何の支障も無い。
どっちにしろ、ゴキブリホイホイで殺されるのがバカバカしいってのは一緒だし。

前作でフレディーが一応は死んでいるので、どうやって復活させるのかと思っていたら、「犬の小便で地割れが起きて肉体が再生する」という方法を取った。
どう考えても、マジな感覚ではないよな。少なくとも観客を怖がらせようという意識は無いよな。
ただ、それはいいとして、その現象が起きるのってキンケイドが見る夢の中なのよ。つまり、フレディーがコントロールして見せているってことになるわけで。
フレディーが操る夢の中で本人が復活するってことになると、何でも有りでしょ。それが可能なら、フレディーは不死身ってことになる。
まあ実際に不死身ではあるんだけど、『13日の金曜日』のジェイソンと同様、ホントに何でも有りになっちゃったのね。

前作までのフレディーは、「自分を殺した連中の子供を殺す」ってことが目的だった。つまりフレディーってのは、復讐の鬼だったのだ。
ところが今回、キンケイドとジョーイに加えてクリスティンを殺すと、その目的は達成されてしまう。
どうするのかと思ったら、なぜかフレディーはクリスティンにアリスを呼ばせる。そして、そこからはアリスと仲間たちを標的にするのだ。
そこに復讐という目的は無いわけだから、すっかり無差別殺人鬼になってしまう。
こんなトコまで、『13日の金曜日』のジェイソンを真似するのね。

フレディーがアリスと仲間たちを狙った理由については、何も説明されない。
アリスが「クリスティンはフレディーを殺した人たちの最後の生き残りだった。新たな獲物として、フレディーは私を彼女の夢に誘い込んだんだわ」と言っているけど、何の説明にもなっていない。
そもそもフレディーは自分を殺した人たちの子供だけを標的にしているので、まだ「自分を殺した人たち」はエレインを含めて大勢が生き残っている。
なのに、そっちはスルーして無関係の標的を狙うんだから、デタラメだよなあ。

登場人物がフレディーに見せられる夢のシーンは、前作に引き続いて、「明るく楽しい悪夢アトラクション」になっている。
ぶっちゃけ、その悪夢で恐怖を感じることが出来るのは、よっぽどホラー映画を見慣れていない人だけだろう。
監督はチャック・ラッセルからレニー・ハーリンに交代しているけど、少なくとも悪夢に関する表現方法の方向性は、あまり変化が無いようだ。
そこは本人の資質だけじゃなくて、製作サイドの意向が強く出ているのかもしれないけどね。

ただし、「それってホントに夢なのか」と引っ掛かる箇所が幾つかある。
例えばベッドの上でジョーイが襲われるシーンでは、「彼が夢を見ている」ということを示す描写が無い。だから、現実の世界にフレディーが出現したように見える。
また、テストのシーンでアリスは寝ていないはずなのに、なぜ彼女までシーラの悪夢を見ている形になるのか理解できない。
たぶん、その辺りにキッチリとした理屈は用意していないと思う。
「ちっちゃいことは気にするな。ワカチコワカチコ」ってことなんだろう。

ジョーイのケースでは、ベッドの上でテレビを見ていたところを襲われるので、「いつの間にか眠っていた」という可能性も考えられる。
シーラが殺されるケースでも、「ひょっとするとアリスも転寝してしまったのかも」と解釈できないことはない。
ただしデビーのケースでは、ウェイト・リフティングのトレーニング中に襲われている。その最中に眠り込むってのは有り得ない。
つまり、そこは明らかに、彼女が見ている夢の中にフレディーが現れたわけではなく、現実の世界に出現したと考えざるを得ないのだ。

フレディーってのは「夢の中に登場する殺人鬼」という設定だ。そのルールを、この映画は平気で破っているということになる。
実のところ、このルールは既にシリーズ第2作『エルム街の悪夢2/フレディの復讐』でも破られていたので、今回が初めてというわけではない。
ただし、ウェス・クレイヴンが復帰した第3作『エルム街の悪夢3/惨劇の館』で、「前作は無かったこと」にして軌道修正したはずなのだ。
それなのに、また平気でルールを破っているんだから、何ともはやである。

リックは壁に「忍者」と書かれたポスターを貼って、旭日旗っぽい模様の入った鉢巻を頭に巻いて、カラテの練習をして、ヌンチャクを振り回している。「間違った日本」にカブれているってことだ。
そんな彼は見えないフレディーと戦う時もカラテを使うが、もちろん全く歯が立たずに殺される。
で、そんなリックが死んだ後、アリスはヌンチャクを巧みに振り回して「私に何か起きてる」と感じる。
それはクリスティンだけでなくリックの魂も憑依したってことを示すための描写かもしれないが、あまり効果的とは言えない。

終盤にはアリスが鉢巻をバンデージ代わりにして戦いに挑む展開があるが、まあマヌケだわな。
で、彼女は宙返りも入れつつキレのあるマーシャルアーツでフレディーと戦うのだが(もちろんスタント・ダブルね)、倒すことが出来ない。それでフレディーが退治されるのは冴えないけど、そもそもマーシャルアーツで戦っている時点で滑稽さがある。
そんで最後はアリスが子供たちの歌の歌詞に従って鏡を向けると、犠牲者の魂が暴れ出してフレディーの腹を突き破り、バラバラにする。
そこに来て急に「鏡が弱点」って、なんじゃらホイだわ。
まあ、それでフレディーが完全に退治されたわけじゃなくて、また復活するんだけどね。

(観賞日:2016年1月14日)


第9回ゴールデン・ラズベリー賞(1988年)

ノミネート:最低オリジナル歌曲賞「Therapist」

 

*ポンコツ映画愛護協会