『ウェス・クレイヴンズ ザ・リッパー』:2010、アメリカ

マサチューセッツ州の田舎町リヴァートンでは、リヴァートン・リッパーと呼ばれる連続殺人鬼が人々を震えさせていた。その正体は、多重人格者のアベルだった。普段の彼は温厚な男で、妊娠している妻のサラと平穏に暮らしていた。だが、凶暴な人格の1つが連続殺人を行っていたのだ。アベルは別人格が殺人鬼だと知り、主治医のブレイクに相談しようと考える。するとリッパーは「話したら妻のサラと娘のレアを殺す」と脅した。
ブレイクから電話が掛かって来たので、アベルは事情を説明した。ブレイクは彼に、サラを姉であるメイの家へ避難させるよう指示した。アベルはブレイクに「妻には病気のことを話す」と約束していたが、まだ打ち明けていなかった。サラを起こそうとしたアベルは、既に死んでいることに気付いて悲鳴を上げた。プレイクが警官たちを連れて駆け付けると、アベルはレアを殺そうとしていた。飛び込んだ警官のパターソンが発砲し、アベルは倒れた。
リッパーの人格は、「次は皆殺しだ」と口にした。アベルは隙を見て拳銃を奪い、ブレイクとパターソンを撃った。パターソンは防弾チョッキのおかげで命拾いし、同僚のジャンヌを撃とうとしたアベルに銃弾を浴びせた。病院では7人も早産が重なり、夜勤看護師のメイが困惑していた。救急車からの連絡で「リッパーを搬送する。名前はアベル・ブレンコフだ」と聞かされ、メイは驚いた。アベルはナイフでシャンヌの首を切り、救急車から逃走して姿を消した。
16年後。「リッパー・デイ」と呼ばれる日のパーティーが開かれた。それは16年前の同日に7人の子供「リヴァ―トン・セヴン」が誕生した日であり、リッパーが死亡したとされる日でもある。森で開かれたパーティーを仕切るのは、リヴァ―トン・セヴンのブランドンだ。偉そうな態度を取る彼の他に、バグ、それにアレックス、ジェローム、ペネロペ、ブリタニー、ジェイがリヴァ―トン・セヴンのメンバーである。その7人だけでなく、野次馬的な感覚で集まった若者たちも森に来ている。
リヴァートンでは、リッパーの7つの人格が彼らであり、今もリッパーの魂が生きていて復讐したがっているという言い伝えがある。そしてリッパー・デイだけは復讐が許され、リッパーの魂が川から上がって来ると言われている。そのために毎年、リヴァ―トン・セヴンの誰かがリッパーを川へ追い返す儀式を行って来た。既に他の6人は経験し、今回はバグの順番だった。「リッパーを殺さないと皆殺しにされる」というブランドンの言葉に、バグは怯えた。
リッパー人形が森の中から現れるが、バグは怖くて全く動けなかった。そこへパトカーが来て「夜間の外出は禁止だ」と呼び掛けたので、若者たちは散り散りに逃亡した。バグは親友であるアレックス、ジェローム、ジェイと一緒に逃げた。ジェロームとジェイが「リッパーは姿を変えて生きているかも」と冗談めかして言うと、バグは本気で怯えた。リヴァートンでは16年前の救急車が慰霊碑として事件発生時のまま残されており、それが観光スポットとして使われていた。
翌朝、アレックスは継父のクイントに腹を殴られ、学校へ向かう。ブリタニーは仲間のファングやシャンデル、マリアと共に、バグとアレックスを標的にした作戦について話す。ブリタニーの指示を受けたブランドンが動き、登校したバグとアレックスを殴る。アレックスの挑発的な言葉に激怒したブランドンの前に、信心深いペネロペが現れる。彼女に「大罪を犯したわね。プラット校長の娘のメラニーを妊娠させた。まだ15歳よ」と言われ、ブランドンは動揺した。ペネロペはバグに恋していたが、バグはブリタニーが好きだった。
アレックスはバグに、「ブランドンは操り人形で、本当のボスはファングだ。彼女を倒すために、女子トイレに盗聴器として携帯電話を仕掛けろ」と告げる。ジェロームの協力で、バグは携帯を仕掛けた。ブリタニーが自分に好意を持っていないこと、ファングが自分を「あいつはイカれてる」と扱き下ろしていることを知り、バグはショックを受けた。携帯の回収に赴いた彼は、ブリタニーが忘れていったバッグを発見した。そこへブリタニーが戻り、バグは見つかってしまった。
川でジェイの死体が発見され、刑事になったパターソンや検死官に転職したジャンヌたちが現場に来た。ジェイは昨晩、リッパー人形の衣装を着た何者かに殺害されていた。ジャンヌは現場の状況から事故死の可能性が濃厚だと考えていたが、パターソンは儀式を中断させたことが関係しているのではないかと考える。バグはアレックスに、ジェイがトイレの鏡に写ったことを話す。バグが「あれは川だった。何か言いたげだった」と口にすると、アレックスは「悪夢のことは考えるな。逆らっても無駄なんだから」と告げた。
バグはブランドンに殴られそうになるが、そこへジェロームが来て「ファングに言うぞ。勝手なことをしたら制裁されるぞ」と脅した。ブランドンは不敵に笑い、「まあいい、お前のことはリッパーに任せるさ」と告げて、その場を去った。ペネロペは誰もいないプールででメラニーと会い、彼女のために祈る。ボイラー室の物音が気になり、ペネロペは中に入る。人の気配を感じた彼女がプールに戻ると、メラニーは姿を消していた。そこへリッパー人形の衣装を着た何者かが現れ、ペネロペを殺害した。
バグは母であるメイと共に、プラット校長に呼び出された。バグは何かに憑依されたように、女性の声色で「娘さんが妊娠している」とプラットに告げた。我に返った彼に、プラットは帰宅するよう促した。赴任して半年になるプラットは、バグの医療記録が無いことについてメイに疑問をぶつけた。メイは「彼は健康です。入院歴もありません」と言うが、プラットは信用せず、「彼は私が赴任してから2度も異常な行動を取っている。それに偏頭痛や閉所恐怖症もある」と述べた。プラットはバグの精神異常を疑っており、「明日、検査のためにボストンの施設へ送ります」と通達した。
フリタニーはブランドンから「誕生日の慰めが欲しい」と頼まれ、冷たく拒絶する。しかし、「ファングに言うぞ」と脅され、「1分後に森へ来て」と告げる。そのまま逃げ出そうとしたブリタニーだが、気付いたブランドが追って来た。ブリタニーはペネロペの死体を見つけ、ブランドンの仕業だと思い込んで警察に連絡した。パトカーが来たので、ブランドンは逃げ出した。電話が掛かって来たのでブリタニーだと思ったブランドンだが、男の声が聞こえて来た。そこへリッパー人形の衣装を着た何者かが現れ、彼を殺害した。ブリタニーの元にも犯人が現れ、彼女を殺害した。
バグが帰宅すると、メイは誕生日のケーキを用意して待っていた。セーターの汚れに気付いたメイが「転んだの?」と訊くので、バグは「コンドルの人形を壊されたから、埋めたんだ」と答えた。バグが「レアは僕が心の病気で、人を殺したと言ってる。本当なの?」と質問すると、メイは顔を強張らせて「彼女は嘘を言ってるのよ」と述べた。レアに「どうして僕を嫌うの?」と尋ねたバグは、「私の人生を狂わせたからよ」と殴られた。
「どうして?」というバグの問い掛けに、レアは苛立った様子で「アンタが産まれた時から私は苦しんで来た。アンタは奇跡の子、私は惨事を思い出させる子。アンタの無垢さにはウンザリよ」と喚いた。さらに彼女は、「アンタの父親は誰だと思う?なぜ家に父親の写真が一枚も無いと思う?アベル・ブレンコフは誰?アンタ、鏡を見なさい」と告げた。バグは自分の父親がリッパーだと悟った。レアはジェイやペネロペたちが殺されたことを知り、メイに「リッパーが生きてるのよ。次は私たちを殺す気よ」と言う…。

脚本&監督はウェス・クレイヴン、製作はウェス・クレイヴン&イヤ・ラブンカ&アンソニー・カタガス、製作協力はカーリー・フェインゴールド、製作総指揮はアンドリュー・ローナ&ライアン・カヴァナー&タッカー・トゥーリー、撮影はペトラ・コーナー、編集はピーター・マクナルティー、美術はアダム・ストックハウゼン、衣装はカート・アンド・バート、音楽はマルコ・ベルトラミ、音楽監修はエド・ジェラード。
出演はマックス・シエリオット、ジョン・マガロ、デンゼル・ウィッテカー、ジーナ・グレイ、ニック・ラシャウェイ、ポーリーナ・オルシンスキー、ジェレミー・チュウ、エミリー・ミード、ラウル・エスパーザ、ジェシカ・ヘクト、フランク・グリロ、ダナイ・グリラ、ハリス・ユーリン、シャリーカ・エップス、デニス・ボウトシカリス、フェリックス・ソリス、エレナ・ハースト、トレヴァー・セント・ジョン、シャノン・ウォルシュ、アレクサンドラ・ウィルソン、エリック・ザッカーマン、アルベルト・ヴァスケス、ルー・サムラル他。


『スクリーム3』『ウェス・クレイヴン’s カースド』のウェス・クレイヴンが監督と脚本を務めた作品。
彼が監督と脚本を兼ねるのは、1994年の『エルム街の悪夢/ザ・リアルナイトメア』以来となる6年ぶり。
バグをマックス・シエリオット、アレックスをジョン・マガロ、ジェロームをデンゼル・ウィッテカー、ペネロペをジーナ・グレイ、ブランドンをニック・ラシャウェイ、ブリタニーをポーリーナ・オルシンスキー、ジェイをジェレミー・チュウ、ファングをエミリー・ミード、アベルをラウル・エスパーザ、メイをジェシカ・ヘクト、パターソンをフランク・グリロが演じている。

話が無駄に分かりにくい。
儀式の夜、パトカーが来て逃げ出した後、バグとジェイの間で「明日の準備は?例の鳥だよ」「コンドルだよ。靴下人形を作った」「退屈だ、もっと驚かせろよ」という会話が交わされるが、何のことだか分からない。
アレックスは「クイントに見つかったらヤバいから帰ろう」と言うが、クイントが誰のことか分からない。
帰宅したバグは、カリフォルニア・コンドルに関して博士が解説するラジオ番組を聴き、コンドルの人形を作る。だが、何のために作っているのかは分からない。

翌朝のシーンで、クイントがアレックスの継父であることは分かる。
だが、1つ謎が解決したかと思ったら、ブランドンとブリタニーが電話で「バグは3、アレックスは8よ」「ファングの制裁でも高レベルだ」という会話があり、新たな謎が生じる。3とか8とか、何のことかサッパリ分からない。
翌朝、学校のシーンが描かれて、ファングという女ボスの指示によってブランドンがバグとアレックスを殴る行為が「3」と「8」だということは分かる。
だが、そこを暗号にして分かりにくくしている意味は全く分からない。

また、なぜファングが2人に「制裁」を加えるのかも分からない。
たぶん、単純に「いじめっ子と、いじめられっ子」という関係性ってことなんだろうけど、そういう相関関係にしている意味は全く無い。
ファングはブリタニーに「封筒の糊を剥がせる?」と尋ねてバグ宛ての手紙を見せており、その後のバグとペネロペの会話から推測すると、どうやらがバグの家の郵便受けに投函したのを盗んだようだ。
しかし、そんなことをする意味も全く無い。

生物の授業のシーンが描かれると、バグの作ったコンドル人形が研究発表で使われるので、そのために作っていたことは分かる。
ただし、「アレックスが中に入る巨大な人形を作り、ブランドンにゲロを浴びせて驚かせる」という行動を取らせた意味は全く無い。
とにかく、その辺りで描かれるリヴァートン・セヴンの行動が本筋に全く絡まないのである。
「バグとブランドンはがブリタニーが好きで、ペネロペはバグが好きで、ファングの一味はバグとアレックスを苛めていて」という相関関係も、本筋には全く影響を及ぼさない。

辛気臭い学園ドラマと、「リッパーの復活に怯える若者たちが謎の殺人鬼に襲われる」というホラーとしての本筋は、まるで相乗効果を生まないまま、平行線で進行していく。
っていうか、もはや本筋が何だったのか分からなくなってしまうぐらい、学園ドラマの方が重視されている。
映画開始から18分ほどでジェイが殺されるが、次の犠牲者が出るまでに30分ほど掛かっている。
そこまでは、「殺人鬼が近くにいて狙っている」という予兆さえ無い。

若者たちの相関関係は、例えば「AがBを憎んでいるから怪しい」とか、そういうことで犯人としてミスリードするために使われることも無い。誰かが誰かを愛していても、誰かが誰かを憎んでいても、そんなことは全く無関係で、リッパーもどきによる殺人が遂行される。
例えばペネロペが殺される時に、バグへの恋愛感情が何かストーリー展開に影響を及ぼしているのかというと、答えはノーだ。
そもそも「リッパーは生きているんじゃないか」「リッパーの魂が復活したのではないか」というところでのミスリードが最初に強くアピールされており、だから「リヴァートン・セブンの誰が犯人なのか」という方向へ神経が行かない。
っていうか、「リッパーの魂が復活し、誰かに憑依して殺人を繰り返しているのでは」というオカルト的な線と、「リッパーの伝説を利用した誰かが殺人を繰り返しているのでは」というサスペンス的な線の両方を用意して、そこでもミスリードを狙っているのかもしれんが、そこも効果的に作用しているとは言えず、「ゴチャゴチャしている」という印象に繋がっている。

バグに「幻覚が見える」「他人が憑依したように喋る」といった設定を用意し、「リッパーの精神異常を受け継いでいるのではないか」と思わせて、彼が犯人だというミスリードに繋げようとしているが、そこも上手く行っていない。
「バグがヤバい奴に見える」というところだけに集中していれば、成功したかもしれない。
だが、余計なことに目を向けすぎて話がゴチャゴチャしてしまい、そこのミスリードがボンヤリしてしまう。
しかも、バグが幻覚を見たり他人が憑依して喋ったりという出来事に関して腑に落ちるような答えは用意されず、「原因の良く分からない怪奇現象」として放置されてしまう。

ジェイは序盤で殺されているのに、そのことをリヴァートン・セブンの他のメンバーが知らないまま、どんどん話が先へ進んでしまう。
だから、「仲間の死を知って怯える」ということが無い。
ブランドンとブリタニーはペネロペの死を知って怯えるけど、直後に殺されるし。
犠牲者が出る前からリヴァートン・セブンの面々は「リッパーの呪い」に対する不安を抱えているけど、「実際にリッパーが現れて殺人を行う」というところでの恐怖を感じないまま物語を進めてしまうと、犠牲者の死が有効活用されていないと感じるのだ。

映画開始から1時間ほど経過してから、成長したレアが初登場して物語に関与してくる。一方で、前半は「学園の女ボス」として扱いの大きかったファングは、後半になると完全に物語から消えている。
そのように、キャラクターの出し入れも上手くない。
っていうか、ファングなんて全く必要性の無いキャラなんだよな。こいつが女ボスして学園を支配している設定なんて、本筋には全く関係ないんだし。
せめて犠牲者になるのならともかく、そうじゃないんだし。
何のために出て来たんだ、このキャラって。

終盤に入り、バグは唐突に頭が冴える奴になり、ほとんどヒントが無い状態で、犯人の正体や行動をズバズバと言い当てる。
で、その犯人が連続殺人を行う動機は全く見当たらないし、その言動から推測するに、どうやら「憑依されていた」ということのようだ。
しかも、リッパーの魂が憑依していたのではなく、「悪魔が憑依した(リッパーにも悪魔が憑依していた)」という設定っぽいんだよなあ。
そうとしか思えない言動なんだけど、だとしたら伏線も何も無いし、ひでえオチだぜ。

(観賞日:2014年1月8日)

 

*ポンコツ映画愛護協会