『男と女の大人可愛い恋愛法則』:2006、アメリカ

タレントエージェント会社を経営するジャック・ジャモロは、プリムキン博士の自己啓発セミナーを受講した。プリムキンは受講生であるジャックやライターバービたちに、自分が誰なのかを知るために日記を書くよう指示した。ジャックは指示に従い、日記を書き始めた。彼は結婚して4年になる妻のニーナと、マリブで暮らしている。かつて低予算映画のプロデューサーだった父のベンは半年ほど前、脳卒中で倒れた。そのため、現在はジャックが引き取り、面倒を見ている。
ジャックはニーナの浮気を確信しているが、相手は分からない。出社したジャックは、幹部のアーリーンや部下のモーティー、アランたちと打ち合わせを行う。ジャックの会社では現在、売れっ子タレントのデヴィッド・リリーとの契約を狙っていた。秘書のラッキーが軽率に喋ったため、アーリーンたちはジャックがセミナーに通い始めたことを知っていた。冷やかしを受けたジャックは、ラッキーに「私生活のことは他人に喋るな」と注意する。しかしラッキーは、デヴィッドの秘書にもセミナーのことを喋っていた。デヴィッドと会食を取ったジャックは、彼にもセミナーのことを茶化された。
プリムキンは2週目の講義で、「1週目の日記は空っぽだから、読む必要も無い。誰でも知っているようなことしか書かれていない」と言う。そして彼は、2週目の日記には秘密を書くよう指示した。ジャックは日記に、「結婚が遅かった。20代ですべきだった。ニーナも会社も顧客も、全てを戦利品のように扱った」と綴る。ジャックはデヴィッドと契約交渉を行うが、「今回は見送るよ」と断られてしまう。しかしジャックは諦めず、「それなら友人として付き合って下さい」とレイカーズの試合観戦に誘う。妻のブリンから「契約が目当てなのよ」と諭されたデヴィッドは、彼女の指示通りに「子供の面倒を見ないといけないから」と断った。
ジャックはモーティーとラッキーから、契約している番組プロデューサーのフィル・バロウが引っ越した3週間前から連絡して来ないことを知らされた。ジャックはスタジオへ行き、フィルに声を掛けた。フィルは動揺するが、「何も問題は無いよ」と告げた。その夜、ニーナを乗せて車を運転していたジャックが留守電を確認すると、フィルから「2人で話したいことがある。明朝に話そう」というメッセージが入っていた。ジャックはエージェントを変えるつもりだと感じ、溜め息をついた。
ジャックとニーナが帰宅すると、ベンが水槽の前で全裸になって踊っていた。2人に気付いてもベンは全く動揺せず、楽しそうな様子を示した。ジャックは穏やかに話し掛け、父をベッドに導いた。ニーナはシャワーを浴びながら、涙を流した。彼女はジャックに、フィルと寝たことを告白した。「もう終わったの。ごめんなさい」とニーナは謝罪し、「大きな過ちを犯したわ。でも貴方を愛してる」と言う。しかしジャックはショックが大きすぎて、彼女を受け入れることが出来なかった。
翌日、出社したジャックは「この5年間、心から笑ったことが無い」と綴った。彼はモデルをしていたニーナと出会った時のことや、交際してからのことを回想した。ラッキーがニーナから電話が入っていることを知らせに来ると、ジャックは「いないと言え」と指示した。会議に出席したジャックはフィルとニーナの関係を明かし、彼と契約を打ち切ることを告げた。しかしアーリーンやモーティーたちは、「もうすぐショーも始まる。大切なクライアントだ」と反対した。「私情を挟むな」と言われたジャックは、激しい怒りを示して会議室を出て行った。
ジッャクはラッキーに、知り合いに引っ越し業者がいないかどうか尋ねる。ラッキーは「いません」と答えるが、話を聞いていた部下のドゥーリーが「失業中の叔父がトラックを持ってます」と言う。そこでジャックは、彼に引っ越しを手伝ってもらうことにした。その叔父とは、ジャックの高校時代の同級生であるジミーだった。しかしジャックはジミーと仲が良かったわけでは無く、まるで覚えていなかった。ジミーは恋人のことで、ジャックを憎んでいた。だが、それについてもジャックは全く知らなかった。
ジャックはジミーと彼の仲間たちに、荷物を運び出すよう頼んだ。ニーナが「こんなことしないで。私と戦って」と訴えると、ジャックは「言うことは何も無い。荷物は君の実家へ送る」と告げた。ニーナを追い出した後、ジャックは恋愛が苦手だった過去を回想する。初恋は14歳の時で、相手はクラスメイトのリアだった。しかしリアが好きなのは、ジャックの兄であるアンソニーだった。リアとアンソニーの楽しげな様子を、ジャックは見せ付けられた。
翌朝、ジャックはラッキーから、自分が妻を追い出したという新聞記事を見せられた。ジャックはラッキーに、ゴシップ記事を書いた記者についての調査を命じた。セミナー4週目、プリムキンは受講生たちに、「今後はセミナー終了まで君たちの日記を読ませてもらう」と言う。ジャックが「プライバシーを暴かれるのは困ります」と告げると、プリムキンは「では辞めなさい。受講しても意味が無い」と述べた。彼の説法を受けたジャックは、セミナーを辞めないことにした。
フィルから「話したい」と電話を受けたジャックは、「仕事がある」とすぐに切った。ジャックは母のことを思い出した。アンソニーがジャックからリアを奪った時、母のバーバラは「弟のガールフレンドを取るなんて」と叱り付けた。ベンが苛立ちを示すと、バーバラは「アンソニーは間違ってる」と反発した。バーバラはベンが仕事に失敗したことを許さなかった。彼女はアンソニーを車に乗せてリアの家へ向かうが、交通事故に遭った。アンソニーが命を落とし、ベンは死ぬまでバーバラを許さなかった。
ジッャクはラッキーから、中傷記事を書いたライターがバービ・リンであること、コメディーのシナリオライターであることを聞かされる。彼女の応募した10本のシナリオを、全てジャックは没にしていた。ジャックは恨みが原因だと察するが、彼女の恋人がジミーであることまでは知らなかった。ジャックはモーティーからフィルと会うよう求められるが、即座に拒絶した。ジャックはバービに電話を掛け、情報の提供を持ち掛けた。電話を切った後、ジャックはタレントエージェント会社で下働きをしていた頃を回想する。経験を重ねた彼は、同僚のモーティーやアーリーンたちと共に独立した。その際、彼らは会社の顧客ファイルを密かにコピーして盗み出した。
帰宅したジャックは、覆面の暴漢に襲われた。ジャックは相手がジミーだと知るが、暴行を受けて気を失った。大怪我を負って病院に運ばれたジャックは幻覚を見て錯乱し、付き添っていたニーナを口汚く罵った。退院したジャックはバットを握り、ジミーの家へ向かう。しかし中の様子を覗き込んだだけで、何も出来ずに立ち去った。帰宅したジャックは、日記帳を盗まれたことに気付いた。
3週間ぶりにセミナーを受講した彼は、入院していたので日記は書いていないこと、日記帳を盗まれたことをプリムキンに話した。するとプリムキンは、まるでジャックが嘘をついているかのように扱った。ジャックが真実だと主張すると、プリムキンは彼を挑発するような態度で、体験した出来事を書くよう要求した。家に戻ったジャックは、前の会社から訴訟を起こされ、裁判所で激昂して拘留された時のことを回想した。陪審員が味方に付いて勝訴し、ジャックはニーナと結婚した。
ジャックはバービからの電話で、「貴方が会社を創設した頃の情報が欲しい。前の会社から盗んだファイルのこととか」と告げられる。ジャックはバービが日記帳を読んだと確信するが、「何のことか分からないわ」と言われる。バービはジャックに、明日の夜6時に中華街の店で会う約束を持ち掛けた。ジャックはジミーの家に乗り込み、彼をバットで殴打する。それから拳銃を突き付け、日記帳を渡すよう要求した。ジミーが「無理だ、アンタは大物すぎた。日記は戻らない」と言うと、ジャックはバットで照明器具を破壊した。
次の日、ジャックはバービと会うため、彼女の家族が経営している料理店へ行く。フィルと会うのだと思っていたモーティーたちは、密かにジャックを張り込んでいた。ジャックは日記帳を返すよう要求するが、バービは拒否した。ジャックはバッグに入っていた日記帳を奪い取り、店から逃げ出す。しかし日記帳を落としてしまい、それは再びバービの手元に戻った。モーティーたちは会社を守るため、バービに契約を持ち掛けた。しかしジャックは仲間たちの説得に応じず、バービを罵倒した…。

脚本&監督はマイク・バインダー、製作はマイケル・ロテンバーグ&サミー・リー&ジャック・バインダー、製作協力はレイチェル・ジマーマン、製作総指揮はスチュワート・ホール&デレク・エリオット&フレデリック・C・エリオット、撮影はラス・オルソーブルック、編集はロジャー・ナイガード、美術はピッポ・ウィンター、衣装はトリッシュ・キーティング、音楽はラリー・グループ、音楽監修はデイヴ・ジョーダン&ジョジョ・ヴィリャヌエヴァ。
出演はベン・アフレック、レベッカ・ローミン、ジョン・クリーズ、サミュエル・ボール、マイク・バインダー、ジーナ・ガーション、アダム・ゴールドバーグ、ハワード・ヘッセマン、バイ・リン、ジェリー・オコンネル、カル・ペン、アンバー・ヴァレッタ、ダミアン・ダンテ・ウェイアンズ、エリカ・セラ、ローラ・ソルティス、スペンサー・フォーブス、アニーシャ・バーソット、ルイス・ブローチ、スコット・ロンドン、ダスティン・ミリガン、ケリー・ホートン、ニコラス・ハックルマン、ベンジャミン・ラトナー、アンジェラ・ムーア、ブレンダ・ジェームズ他。


『ブランクマン・フォーエヴァー』『ママが泣いた日』のマイク・バインダーが脚本&監督を務めた作品。バインダーはモーティー役で出演もしている。
ジャックをベン・アフレック、ニーナをレベッカ・ローミン、プリムキンをジョン・クリーズ、ジミーをサミュエル・ボール、アーリーンをジーナ・ガーション、フィルをアダム・ゴールドバーグ、ベンをハワード・ヘッセマン、バービをバイ・リン、デヴィッドをジェリー・オコンネル、アランをカル・ペン、ブリンをアンバー・ヴァレッタ、ラッキーをダミアン・ダンテ・ウェイアンズが演じている。

全体的にボンヤリしていて薄味で、何をどう見たらいいのか良く分からない映画だった。
まず、導入部の段階で、引き付ける力の弱さを感じる。
ジャックが自己啓発セミナーを受講している様子から始まるのだが、そういうシーンを最初に持って来るのなら、てっきり「彼がセミナーを受講しようとした理由やきっかけ」について後から説明してくれるのか、回想でも入れるのかと思ったのだが、フォローは何も用意されていない。だから、まず「なぜ彼は自己啓発セミナーに頼ったのか」というところで引っ掛かりを覚えたまま物語を見ることになってしまう。
これは映画に入り込む上で、大きなハンデとなる。

その後の展開を見ていても、なぜジャックが自己啓発セミナーを受けようと思ったのか、その理由がサッパリ見えて来ない。
それが見えて来ないってことは、ジャックに共感したり、感情移入したりすることが難しいってことでもある。
彼は何に悩んでいるのか、どういう問題を解決したいと思っているのか、それが良く分からない。
ハッキリした具体的な悩みじゃなくても構わないのだが、それならそれで「人生に対して漠然とした不安を抱えている」ってことをドラマの中で表現しておくべきだ。

それと、そもそもプリムキンの自己啓発セミナーに対して、まるで好意的な印象を抱くことが出来ない。
自己啓発セミナーというモノに対して私は否定的な意見を持っているのだが(あんなモンはカルト教団と大差が無いってのが私の持論)、「みんなの前で日記を読まれる」といった、いかにも自己啓発セミナー的な展開が出て来る中で、「それで受講生の考えや生き方が変わるとしても、それは決して良い方向への変化じゃねえだろ」と思ってしまう。
もっと問題なのは、「そのセミナーが結局のところ、何の意味も無い」ってことだろう。
セミナーなんか無くても、「主人公が日記を書く」という筋書きは成立させられる。あえて言うなら「バービがジャックに目を付け、彼の日記を盗む」のはセミナーの会場だが、それはセミナーを使わなくても成立させることが出来るだろう。

ジャックは「妻は浮気している」と確信しているが、そう感じる根拠はサッパリ分からない。実際に正解だったわけだが、それをニーナが告白するシーンの見せ方も違和感を覚える。
帰りの車内でフィルのメッセージをジャックが聞き、「代理人を変えるつもりだ」と彼が口にした後、帰宅するとベンが全裸で踊っている。それを見たニーナがシャワーを浴びながら泣くので、ベンの全裸踊りが原因のように思える。
「なんでベンの全裸踊りで泣くんだろう」と思っていたら、出て来たニーナがジャックに浮気を告白する。
それって、流れとして変だ。ベンの全裸踊りを挟む意味が全く分からない。

プリムキンを演じるジョン・クリーズの飄々とした立ち振る舞いからは、この映画がコメディーであるかのように感じられた。
しかし、それ以降の展開を見ていると、コメディーとしての匂いは薄い。弾けるようなパワーは無いし、「穏やかな中で笑いを生み出していく」という意識も乏しい。
だからと言って、人生の意味についてシリアスに描き出そうというわけでもない。「中途半端にコメディー寄り」という感じで、どういうジャンルに属するのかがハッキリしない。
そりゃあ、なんでもかんでもジャンルにハメ込めばいいってものではないけど、これは何かしらのジャンル映画、っていうかハッキリとしたコメディー映画として作るべき素材だったんじゃないかなあ。

ニーナから浮気を告白された翌日のシーンで、ジャックは「この5年間、心から笑ったことが無い」と日記に綴る。
主人公が5年間も心から笑ったことが無いという設定なんだから、そりゃあコメディーとしては難しくなるわなあ。
とは言え、「そういう主人公の周囲で笑いを作って行く」という作り方は出来るわけで。
ようするにマイク・バインダーには本作品を「たっぷりと笑いが詰まったコメディー」として仕上げようという意識が無かったわけだが、たぶん彼が狙ったのであろう方向性には、面白味が感じられないんだよね。

ニーナがフィルとの浮気をジャックに告白した時点で、「どうやってもスッキリした着地は無さそうだぞ」という予感がしてしまう。
そう思った根拠は、不貞の関係が既に終わっており、ニーナが強い罪悪感を抱いて謝罪していることだ。
そこが無ければ、「妻に浮気されたジャックが他の女性と出会い、新たな恋が発展して」という方向へ進むことが出来る。
しかし、この映画でそれをやってしまうと、心から反省し、関係の修復を望むニーナが「不憫な存在」として残されてしまう。

「ニーナが不貞を詫びてジャックへの愛を訴える」という風に描写した以上は、もはや「夫婦が一度は不和になるが関係を修復する」という着地しか残されていないのである。
まあ厳密に言うと「やはり関係は修復できず、離婚することになった」という選択肢もあるにはあるが、そこを進んで綺麗に着地させるのは至難の業だろう。
ただし、じゃあ「夫婦の関係を修復する」という、ほぼ一択の道を選んだらスッキリと片付くのかというと、そうでもない。
結局、どう頑張っても「ニーナが浮気した」という部分は絶対に消せないわけで、そこの傷がある以上、「爽やかで軽妙な人間ドラマ」としては終われないのである。

ジャックがフィルとニーナの浮気を明かし、彼との契約を打ち切ると言った時、仲間たちは「私情を挟むべきではない。ビジネスを優先すべきだ。大切なクライアントを手放すなんて有り得ない」という風に、強い口調で反対する。それどころか、アーリーンが「今度からフィルは私が担当する。貴方は口を挟まないで」とまで言い出す。
ずっと一緒に頑張って来た仲間に対して、あまりにも冷たい対応だ。
しかもアーリーンは、その後で「奥さんを愛してるんでしょ」と言い、フィルが「フィルと浮気してたんだぞ。終わったからキスしろとでも言うのか」と苛立ちを示すと「うがいでもさせれば元通りよ」と、デリカシー皆無なことを言う。
腹を立てるフィルに「人間らしい部分を見せて」と告げるけど、そのまんまアンタに返すよ。

まず、ジャックは他の女と現在進行形で浮気しているわけではないし、過去に浮気していたことへの言及も無い。
だから「アンタも浮気したんだから、奥さんのことをとやかく言えないでしょ」という主張は成立しない。
次に、「ジャックがワーカホリックで家庭を犠牲にしていた」という描写も見当たらない。
本人が日記で「ニーナを戦利品扱いしていた」と書くシーンはあるが、実際の夫婦関係の中で、「ジャックがニーナに愛情を注いでいなかった」という描写は全く無いのだ。
だから、ニーナが「寂しかったのよ」と吐露しても、まるで伝わって来ない。

「何かを得るためには戦うべきなのに、戦うことを避けて来た。ニーナのことでも戦えなかった」とジャックは自己分析しているのだが、何をどうすれば「ニーナのことで戦った」という風になるんだろうか。浮気されて、それを許すことが「戦う」ことになるんだろうか。
いや、言いたいことは何となく分からんでもないのよ。
ようするに、「すぐにニーナを追い出してしまうんじゃなくて、彼女と話し合って、お互いに言いたいことを言い合うべきだ」って感じのことを訴えたいんだろう。
だけど、妻が自分の契約タレントと浮気していたことを聞かされて、そこで「ちゃんと話し合ってヨリを戻せ」ってのは、そりゃ難しい注文だわ。話し合ったところで、「妻に裏切られた」という気持ちが解消されるわけじゃないんだし。

ジャックが荷物を全て運び出してニーナを追い出すのは、さすがに手口が荒々しくて、浮気されたことへの同情心があっても、そこは賛同しかねる。
ただし、だからと言って「ニーナを許して、やり直すべきだ」という気持ちが湧くわけでもない。仮にジャックがニーナを追い出さずに夫婦関係を続けても、心の中にわだかまりは残ったままだし、「表面的に夫婦を装っているだけ」になることは確信できるのだ。
だから少なくとも、その段階ではジャックが家を出て行くか、ニーナを出て行かせるか、その二択しか無い。
そう考えると、やり方に少々の問題はあるが、ニーナを追い出すってのは仕方が無いんじゃないかと。

たぶん映画を見ている大半の人が、そこからの展開として「ニーナを許せなかったジャックが、日記を書き続ける中で自分や人生について見つめ直し、考えが変化し、夫婦関係を修復する」という内容を予想するのではないだろうか。
そして本作品は、その予想通りに進んでいく。
そこは予想を裏切って良い結果が得られるとも思えないし、ベタ中のベタな展開にするのは間違った判断ではない。
ただし、それに納得するためには、「そもそもプロットの時点でどうなのか」という問題をひとまず置いておくことを要求される。

回想シーンで、「母は仕事に失敗した父を許さなかった。母は弟から女を奪った兄を許さなかった。父は兄を死なせた母を許さなかった」というジャックの説明が入り、「だけど許すことが大切なのだ」という答えに導こうとしているのは分かる。
だけど、どうしても異論を唱えたくなるのは、まるで「許さないジャックが一方的に悪い」みたいな描かれ方になっていることだ。
そもそも浮気したニーナに非があるはずなのに、そこは完全スルーなんだよね。
「もう関係を終わらせて謝罪したから、それでチャラ」みたいな扱いなのだ。

映画の終盤になって、ようやく「ジャックが仕事のことでイライラして、ニーナは寂しそうにしている」という描写がチラッとだけ入る。
しかし、その程度で「僕に彼女を責める権利があるのか」というジャックの日記の文面に繋げられても、まるで伝わらないよ。
セミナーを受講した理由についても、もう映画も終わり近くになってから「自分を見失って、結婚生活もどうしていいか分からなかったから」と説明するけど、そんな言葉だけではピンと来ないよ。

最終的にジャックは「人間は不完全だから」という風に受け入れ、ニーナを許す。
ただし、その前にニーナは「バービを騙して日記帳を奪い取る」という行動でジャックの役に立っており、「それで浮気のことはチャラでしょ」という免罪符にしている印象が強い。
それは、ちょっと逃げてないか。
ニーナがジャックに「ちゃんと戦って」と要求するシーンがあるけど、「日記を取り返してジャックの問題を解決したニーナが泣きながら家に帰りたいと漏らす」という描写によって同情心を誘い、ジャックが彼女を許して関係を修復する着地に納得させようとするのは、提示したテーマと真っ向から戦わず、逃げちゃってる印象を受けるんだよなあ。

しかし、それよりも問題なのは、ニーナとヨリを戻した後のエピローグ的な部分の描写だ。
なんとジャックは、アーリーンに社長の座を譲って会社を辞めてしまうのだ。
いやいや、なんでだよ。
そこに来て「仕事より家族を取る」という答えに辿り着くのは、そこまでの筋道からすると、どう考えたって変だぞ。「妻との関係を修復するには社長を辞めなきゃいけない」ってなると、支払う犠牲がデカすぎるだろ。なんでジャックが、そこまでの代償を余儀なくされるのかと。
そもそも夫婦関係が不和になったのは、会社が原因とも思えないし。

(観賞日:2014年12月17日)

 

*ポンコツ映画愛護協会