『あと1センチの恋』:2014、イギリス&ドイツ

イギリスの田舎町に済むロージーは、幼馴染のアレックスにずっと恋心を抱いていた。あるパーティーに出席した彼女は、「今日は私の人生で、最高に幸せな日です」と挨拶した。その12年前、18歳の誕生日を迎えたロージーは、アレックスと2人でクラブへ繰り出した。酒を飲んで踊った彼女は、アレックスとキスを交わす。その直後、ロージーは意識を失って倒れてしまった。
翌朝、二日酔いで目を覚ましたロージーの部屋を、アレックスが訪ねて来た。ロージーは彼とキスしたことを、全く覚えていなかった。アレックスはロージーに、彼女が酔い潰れたことで母から叱責されたことを話す。「罰として今日から毎日、図書館で勉強だ」と言う彼に、ロージーは「地獄ね」と告げる。しかしアレックスが「そうでもない。ベサニーが働いてるんだ」と話すので、「だったら天国ね」と口にする。アレックスは嬉しそうに、「実は最近、彼女と良く目が合うんだ」と語った。
アレックスとロージーは、他の仲間たちと浜辺へ遊びに出掛ける。アレックスはロージーがグレッグと仲良くする様子を目撃し、「あいつは女にだらしないな」と言う。ロージーは「でもイケてる。ダンスに誘われた」と話すが、「もちろん断ったわ」と付け加えた。そこへベサニーが現れ、「図書館で待ってたのに。また来てよ」とアレックスに告げて去った。喜んだアレックスから「脈アリだ。どうすれば落とせるかな?」と問われたロージーは、彼にアドバイスを送った。
アレックスが「彼女はダンスに誘ってほしいみたいだ」と言うので、ロージーは「じやあ誘えば?私もグレッグに誘われたし」と述べた。彼女は今すぐ誘うよう促し、アレックスはベサニーに声を掛けた。後日、ロージーはアレックスから童貞を卒業したと知らされ、ショックを受けた。プロムに出掛けたロージーは、アレックスとベサニーがイチャイチャする様子を目にする。ロージーはグレッグとセックスするが、コンドームが抜けなくなってしまう。彼女はアレックスに電話を掛けて助けを求め、車で病院まで送ってもらった。
アレックスはロージーに「奨学金を取ってハーバードへ行こうと思う。君はボストン大学に行けば、夢であるホテル経営が学べる」と語り、一緒に町を出ようと持ち掛けた。ロージーも乗り気になるが、母のアリスに反対される。しかし父のデニスが応援してくれたので、彼女はボストン大学を受験した。合格したロージーだが、吐き気が止まらず薬局へ行く。店員のルビーはロージーの生理が止まっていると知り、妊娠検査薬を渡す。店のトイレで薬を使ったロージーは、妊娠を知って動揺した。
ロージーはアレックスに連絡を取り、会って相談しようと考える。しかしベサニーの両親と会っているアレックスから浮かれたメールが届いたので、彼女は怒りを抑えて「楽しんで」と送った。ロージーはアレックスに真実を明かさず、後からボストンへ行くと嘘をついた。彼女はボストンへ向かうアレックスを空港で見送り、町に留まった。ロージーはルビーに、「両親がカトリックだから堕ろせない」と話す。ルビーの助言を受けたロージーは、子供を養子に出して進学しようと考える。しかし女児を出産したロージーは手放す気持ちになれず、ケイティーと名付けて育てることにした。
妊娠を知ったグレッグが逃げ出してしまったため、ロージーはシングルマザーとしてケイティーの世話をする。その様子をベサニーに目撃されたロージーはベビーシッターをしているのだと誤魔化すが、すぐに嘘はバレた。週末にボストンへ帰郷したアレックスはベサニーから話を聞き、ロージーの家を訪れた。ロージーは彼に、「黙っていたのは、夢を壊したくないからよ」と告げた。アレックスは「父親代わりをさせてほしい」と言い、町にいる間はケイティーの世話を手伝った。
ボストンへ戻ったアレックスは、フィルという男から「僕は恋のキューピッドだ。妹が君と飲みたがっている」と声を掛けられる。フィルの妹であるサリーは、アレックスのクラスメイトだった。サリーはアレックスに、「沈んだ顔をしてるから、心配して他の」と告げた。アレックスはサリーと付き合い始め、ケイティーの誕生日になるとビデオレターを送った。ロージーも手紙や写真を送り、そんな交流が続く中で5年が経過した。ロージーはホテルの清掃係として働き、警官のアダムを家に連れ込んでセックスした。
アレックスはサリーとの同棲生活を続けていたが、些細なことから言い争いになった。彼はロージーに、「会いたいな。遊びに来いよ」とメールを送る。特別な期待感を抱いたロージーはケイティーをルビーに預け、ボストンへ赴いた。アレックスはロージーを連れてプール・パーティーへ出掛けたり、一緒に公園を散歩したりして時間を過ごした。ロージーは「ケイティーを産んだことは後悔していない。彼女を見ていると貴方を思い出す。あの子を愛しているからだと思う」と言い、キスしようとする。しかしアレックスは唇を重ねようとせず、「もう行こう」と告げた。
アレックスがロージーを自宅へ連れて行くと、サリーが待っていた。フィルも呼んで夕食が始まる中、サリーはアレックスに「あのことをロージーに話して」と促す。しかしアレックスが話そうとしないので、サリーは妊娠していることを発表した。激しく動揺するロージーに、アレックスは「話さなかったっけ?」と誤魔化した。サリーが急にヒステリックな様子で喚き散らしたので、ロージーとアレックスは戸惑った。サリーは感情を抑え、「ハーブが個展を開いているから、みんなで行きましょう」と告げた。
ロージーやアレックスたちは、ハーブというアーティストの個展会場へ赴いた。サリーはジョーンズ医師を見つけ、アレックスに挨拶するよう促して腕を引っ張った。ロージーが会場を出て行ったので、アレックスは慌てて後を追った。ロージーはサリーの妊娠を黙っていたことに憤慨し、「私を呼んで現実逃避してるのよ」と言う。アレックスが「君は挫折してるから、僕の成功を見たら辛いだろうと思って」と釈明すると、ロージーは「哀れに思うわ、クソたいな人生にしがみ付いて」と告げる。アレックスの「クソッて何だよ。美人の彼女と大勢の友人に囲まれ、産まれてくる子供に寂しい思いはさせない」という言葉を受け、ロージーは「もういいわ。泣き付いて来ないで」と言い残して故郷へ戻った…。

監督はクリスティアン・ディッター、原作はセシリア・アハーン、脚本はジュリエット・トウィディー、製作はロバート・クルツァー&サイモン・ブルックス、製作総指揮はマルティン・モスコヴィッツ、共同製作総指揮はジェームズ・フリン&ローナン・フリン&モーガン・オサリヴァン&セシリア・アハーン、撮影はクリスティアン・ライン、美術はマシュー・デイヴィス、編集はトニー・クランストゥーン、衣装はレオニー・プレンダガスト、音楽はラルフ・ヴェンゲンマイアー。
出演はリリー・コリンズ、サム・クラフリン、クリスチャン・クック、ジェイミー・ウィンストン、タムシン・エガートン、スーキー・ウォーターハウス、ジェイミー・ビーミッシュ、ローカン・クラニッチ、ガー・ライアン、リリー・ライト、マシュー・ディロン、ローザ・モロイ、サヴァ・マリン、ニック・リー、ダミアン・デヴァニー、キーラン・マクグリン、ジュシン・ホームズ、アート・パーキンソン、マックス・クリアリー、アーロン・キンセラ、ララ・マクドネル他。


デビュー作『P.S.アイラヴユー』が世界的ベストセラーとなったセシリア・アハーンの小説『愛は虹の向こうに』を基にした作品。監督は『ビッケと神々の秘宝』のクリスティアン・ディッター。
脚本は『カレンダー・ガールズ』のジュリエット・トウィディー。
ロージーをリリー・コリンズ、アレックスをサム・クラフリン、グレッグをクリスチャン・クック、ルビーをジェイミー・ウィンストン、サリーをタムシン・エガートン、ベサニーをスーキー・ウォーターハウス、フィルをジェイミー・ビーミッシュが演じている。

携帯電話が普及した現在では、もはや昔の映画であったような「すれ違いのドラマ」を作るのは難しい。
「だから」ってことでもないんだろうけど、本作品は実際に男女が会えないという意味での「すれ違い」ではなく、「心のすれ違い」を使ったドラマを作ろうとしている。互いに惹かれ合っているのに、心がすれ違うことで、なかなか恋愛が成就しないまま月日が経過してしまうという内容だ。
プロットとしては、そんなに悪くないと思う。
ただし、肉付けの部分で失敗しているので、シオシオのパーな仕上がりになっている。

ひょっとすると『恋人たちの予感』みたいな話を狙ったのかなあと、ちょっと思ったりもした。
しかし『恋人たちの予感』の場合、主役の男女は「出会った当時は恋心なんて全く無い。それどころか、女は男を嫌な奴だと思っていた」というトコから始まっている。
そして月日が流れる中で女の気持ちが少しずつ変化し、友達として交流するようになり、でも恋心が高まって行くという展開になっていた。
だから、この作品とはスタートの段階で全く違うのである。

この映画の場合、ロージーは最初からアレックスに恋心を抱いている。それなのに、アレックスの前では嘘をつき、意地を張ってしまう。
アレックスがベサニーに夢中なので、そこで恋心を隠すってのは「いじらしさ」として共感できる。しかし、アレックスがベサニーとラブラブな様子を見た後、グレッグとセックスしちゃう行動に至ると、一気に共感は消える。
単にグレッグと付き合うとか、ラブラブな様子をアレックスに見せ付けるとか、そういうことなら分かるのよ。だけどセックスしちゃったら、ただのビッチじゃねえか。
そんなのは自分から言わなきゃアレックスには知られない行動だし、「なぜセックス?」と言いたくなる。
「アレックスが童貞を卒業したから、自分も処女を捨てよう」ってことなのか。どうであれ、ただの阿呆でしかないよ。

一方のアレックスも、まるで共感を誘わないキャラクターになっている。
彼はロージーが18歳の誕生日を迎えた時、クラブでキスをしている。ロージーが強引にキスしたわけじゃないし、酔っ払った弾みでもない。
そしてロージーはキスを覚えていないが、アレックスは泥酔していなかったのでハッキリと覚えている。
ってことは、ロージーに恋心があるんじゃないかと思ったのだ。
ところが翌日になると、彼女の前でヘラヘラと「ベサニーと良く目が合う」とか話しているので、「どういうつもりなのか」と言いたくなる。

ベサニーのことを平気で話すぐらいだから、アレックスはロージーのことなんて何とも思っちゃいないのかと思ったら、グレッグと親密にしている様子を見ると、露骨に嫉妬しているような態度を示す。
だけどベサニーから誘われるとニヤニヤしちゃうし、彼女で童貞を卒業したことまでロージーに浮かれポンチで報告している。
デリカシーの無い奴にしか思えないぞ。
アレックスに全く魅力が感じられないので、ロージーが彼のどこに惚れたのかサッパリ分からんよ。

アレックスはロージーの出産を知った時、「父親代わりをさせてほしい」と告げる。だけど、週末を一緒に過ごしているだけで、さっさとボストンへ戻っちゃうのよね。
そりゃあ学業があるから当然ではあるんだけど、ケイティーの誕生日にビデオレターを送るだけで「父親代わり」とか言われてもね。
そんな思わせぶりなことを口にしたら、ロージーが本当の父親代わりとして結婚相手を見つける意識を削ぐことにもなりかねないでしょ。
それは中途半端な優しさだし、っていうか偽物の優しさだよ。ただの不誠実な男でしかない。

そんでアレックスはケリーと喧嘩になると、ロージーに「会いたいな。遊びに来いよ」とメールを送る。
ただの身勝手な男じゃねえか。ロージーを都合のいい女として扱っているだけじゃねえか。
それでもロージーはアレックスに誘われて喜んでいるけど、その直前にアダムを連れ込んでセックスしていたよね。アダムのことは、どうでもいいのか。単に性欲を満たすためだけの相手ってことなのか。
「ベッドで手錠プレイを楽しんでいた」という無意味な1シーンのためだけに登場させるなら、アダムって邪魔なだけでしょ。
こいつを登場させることで、「ロージーのアレックスに対する一途な思い」という要素もブレちゃうし。

アレックスは「会いたいな」とメールを送っているが、そんなことを惚れた男から言われたら、ロージーが期待するのも無理はないだろう。
なのにアレックスはサリーを妊娠させ、それを内緒にしている。
後からサリーが妊娠したのは浮気相手の子だと分かるけど、その段階だとアレックスは自分の子だと思っているわけで。
それを隠したままデートしているんだから、そりゃあロージーが激怒するのも当然だ。アレックスに弁明の余地は無い。

ところが、そんなことがあった後でも、まだロージーはアレックスを思っているのだ。「バッカじゃなかろか」と言いたくなる。
でも一緒になることは無理なので、ヨリを戻そうと誘って来たグレッグと結婚している。
アレックスとのカップリングを諦めて、他の男を選ぶってだけなら分かるのよ。だけどグレッグは無いわ。
「ケイティーの父親だから」ってのは、何の言い訳にもならない。
妊娠したと知って逃亡している時点で、こいつがクズなのは分かり切っているので、結婚が破綻しても全く同情できない。ただの自業自得だ。

デニスが旅先で急死するという違和感しか無い展開が訪れ、アレックスは葬儀のために帰郷する。そこで泥酔したグレッグの様子を見た彼は、ロージーに「君はもっと愛されるべきだ。今なら君を幸せにできる。電話して」と手紙を送る。
それはグレッグが隠してロージーに見せないのだが、その後もアレックスは「彼と一緒にいて幸せ?」という手紙を送る。
ところが、そんな手紙を送りながらも、アレックスはベサニーと付き合っているのだ。
いやいや、話が違うじゃねえか。
だったら、ただの思わせぶりな言葉でしかないだろ。

そんでグレッグと別れたロージーから連絡を来ると、アレックスはベサニーと結婚することを能天気に話し、付き添い役を頼む。
ロージーが最初の手紙を読まず、グレッグとの結婚生活を続けていたという事情はある。とは言え、その行動は酷いわ。
ロージーとアレックスって、本来の使い方とはズレるけど、ある意味ではバカップルにしか見えんのよ。
2人のすれ違いって、ロージーの愚かな選択と、アレックスの不誠実な行動によって起きているんだよね。
だから、全てテメエらの責任じゃねえかと言いたくなる。

(観賞日:2016年11月17日)

 

*ポンコツ映画愛護協会