『エクスタシー』:2005、イギリス&アメリカ

酒とコカインをやったシドが転寝していると、電話が鳴り響いた。彼はレベッカの家でパーティーが催されること、ロンドンが引っ越したことを知って驚いた。シドはロンドンに電話を掛けるが番号は使われておらず、激しく荒れた。マロリーはコカインをやってからバーの仕事に入り、カウンターで煙草を吸いながら本を読み始めた。そこへシドが来てロンドンについて尋ねると、マロリーは「ボーイフレンドが出来て一緒に住むと言ってた」と教えた。
シドは「ヤクがある。パーティーであげる。ロンドンには内緒だ」とマロリーに言った後、バーに来ていたベイトマンに声を掛けた。彼は自分の車にベイトマンを連れて行き、コカインを受け取った。ベイトマンはシドに、「本業は銀行の為替トレーダーだ。密売人じゃなくて、いつもは買うだけだ」と語った。「一緒にパーティーに行かないか?前に付き合ってた女の送別会なんだ」と誘われたベイトマンは断るが、シドが執拗に食い下がるので仕方なく「一杯だけ」と承知した。
シドはアパートの1階で知人のマヤと遭遇し、一緒にレベッカの部屋へ向かう。かつてシドはロンドンと一緒にレベッカの部屋を訪れた時、プレゼントを渡した。ロンドンは礼を言って「愛してる」と口にするが、シドは愛撫しながらキスを繰り返すだけだった。ロンドンが腹を立てて「愛してる」と言うよう求めると、シドは「言葉にこだわるのは間違ってる」と告げる。しかしロンドンは「言葉は重要よ」と述べ、シドを拒絶した。
シドとベイトマンは、マヤと一緒にレベッカの部屋を訪れた。レベッカはシドを招待しておらず、彼が来たことに困惑した。彼女は慌ててロンドンに電話を掛けるが、不在だったのでメッセージを残した。シドとベイトマンは2階へ移動し、コカインを吸って酒を飲んだ。シドが「神を信じてるのか?」と訊くと、ベイトマンは「宇宙の壮大さと美を目の当たりにした時、全てを理解する」と語る。彼は「私の場合は時の流れを理解した」などと説明するが、シドには全く理解できなかった。
シドはコカインを落としてしまい、部屋に来たマヤと一緒に拾う。ベイトマンは財布からコカインの袋を取り出し、「まだある」と2人に告げた。彼は部屋に飾ってある絵画について、「ゴッホの最後の作品だ」と述べた。マヤはシドから「君は神を信じるか?」と質問され、「一言じゃ言えないわ」と答えた。彼女は妊娠したウサギに脳波測定装置を取り付け、出産直後に子供を切り離して1匹ずつ射殺する実験について詳しく語った。シドは「ロンドンと同じ話だ」と苛立ち、マヤの話を途中で終わらせた。彼が「ロンドンの恋人はハンサムか?」と訊くと、マヤは「そう思うわ」と答えた。
かつてシドは、ロンドンが男とランチに出掛けたと知って「俺より魅力的か?」と質問したことがあった。「どっちのタイプが好きだ?」と彼が尋ねると、ロンドンは「どっちがいいとは言えない」と答えた。彼女が「ただの友達。ランチしただけよ。なぜ怒るの?」と言うと、シドは「俺は色々な女と食事しない」と告げる。ロンドンは「貴方に女友達がいないのは私のせいじゃないわ。作ればいいのよ」と軽く語るが、シドは納得できずに口論となった。
マヤは苛立っているシドに、「今夜は彼女の送別会よ。静かにお別れを言って」と説いた。彼女が1階に戻ると、大勢の招待客が来ていた。レベッカから「クスリをやってないでしょうね?」と問われたマヤは、「やってない」と嘘をついた。シドはベイトマンにロンドンとの関係を問われ、2年半の交際で6ヶ月と数日前に別れたことを話す。ベイトマンはマヤに欲情したことを明かし、17歳だとシドに聞いても「やりたい」と考えを変えなかった。
ベイトマンはSM趣味で放尿プレイで興奮したことを語り、シドは詳しいことを知りたがる。ベイトマンは「自分で店に行ってみればいい。トライベッカだ」と言い、入る時の手続きやプレイ内容を説明した。マロリーが来たのを知ったシドは、ベイトマンに「マロリーを紹介する」と持ち掛けた。「酒を飲み過ぎた。女の相手は無理だ」とベイトマンは帰ろうとするが、シドが引き留めた。彼はマロリーを呼び、ベイトマンに紹介した。ベイトマンは飲み物を取って来ると言い、1階へ向かった。
マロリーはシドに質問されてロンドンが来ていることを教え、コカインを吸った。「話しに行けば?」と彼女が言うと、シドは「無理だ。2ヶ月も連絡が無いし、今夜も呼ばれていない」と口にした。自殺未遂の噂について確認された彼は、「ロンドンしか知らないし、事実じゃない」と否定した。シドが「君は何を聞いた?」と尋ねると、マロリーは「喧嘩の後でロンドンが部屋に戻ったら、貴方が床の上で睡眠薬を持って倒れていて、胃を洗浄したって」と語った。シドはマロリーに、「病気の犬がいて、鎮静剤を使ってた。あの日は、会って2年目だった」と述べた。
その日、シドはロンドンに服と子犬をプレゼントした。ロンドンは電話を受け、「今は忙しいの」と早々に切った。シドが相手を訊くと、彼女は「マロリーよ」と答えた。しかしシドは「男の声がしたぞ」と疑いを抱き、電話を掛けてロンドンの嘘を暴いた。ロンドンが「ヘマをしたの。友達とレベッカの彼氏の部屋へ行って、酔い潰れて起きたら隣に男が寝てた」と説明すると、シドは「何があったか正直に言え。何も無かったなんて信じないぞ」と言う。ロンドンが「キスされそうになって拒んだだけよ。嘘はついてない」と告げると、彼は「電話のことで嘘をついたじゃないか」と声を荒らげた。
シドはマロリーに、興奮を鎮めるために鎮静剤を飲んだが酒のせいで昏睡状態に陥ったと説明した。マロリーは彼に、そのことは送別会で話さないよう忠告した。かつてシドはセラピストの診察を受けており、「アンタは何もしてくれない」と荒れて「君は大丈夫だ」と穏やかに言われたことがあった。シドはマロリーに、「クスリで意識が朦朧とした時、頭に死が浮かぶ。宗教やその概念についても考える。神も天国も来世も、恐怖を隠すなんだ。何の意味も無い」と語る。マロリーは「違うわ。神は間違いなく存在する」と反論し、「死んだら何が起きる?」と訊かれて「死ぬだけよ。意味なんか無いわ。でも魂は生き続ける」と述べた。
かつてシドは、ロンドンと神について口論したことがあった。ロンドンが「私たちが生きてる間に、神や創造主の存在を知る技術が出来るかもしれない。少なくとも信じるべきよ」と語ると、シドは「信仰が君の全てだろ。聖書を書いたのは今よりずっと遅れた時代の人間だ。この宗教を支持する証拠が無い」と反論した。ロンドンは「証拠はあるわ」と言い、日本の物理学者が行った実験について語る。それは1ヶ月に渡って米を褒めると食べられたが、罵倒を続けると腐ったという実験だった。
「米の話だろ。神や宗教とは関係ない」とシドは呆れ、「親や教師も君と同じで洗脳されてたんだ」と話す。ロンドンが「貴方はいつも自分が正しくないと気が済まない。私が騙されてるなら、貴方は病気よ。心の治療が必要だわ」と憤慨すると、シドも声を荒らげた。2人は口論になるが、ベッドに倒れ込むと抱き合って熱烈なキスを交わした。シドはマロリーの前で泣き出し、「彼女は戻らない」と漏らす。マロリーが「彼女と話してみたら?」と促して去った。シドは鏡を見つめ、「今夜しか無い」と自分に言い聞かせた。
かつてシドはロンドンとセックスした後、「愛してる」の言葉が無いことで怒りを買ったことがあった。ロンドンに「愛してるなら言ってほしい。どうして言ってくれないの?」と責められたシドは、彼女の肩に「アイ・ラブ・ユー」と書くだけで済ませた。ベイトマンは酒を持ってシドの元へ戻り、マロリーからロンドンを紹介された」と告げる。彼が「すぐ会いに行け」と言うと、シドは「クスリのせいで冷静になれない。顔を出したら惨めだ」と消極的な態度を示した。
ベイトマンは3年前に妻のヘレンと離婚したことを明かし、「別れを切り出された時、何も感じなかった。巨大な虚しさが残った」と話す。シドが離婚の原因を訊くと、彼は「これ以上は言いたくない」と渋った。シドは「アンタに俺の苦しみは分からない」と激しく苛立ち、「ロサンゼルスにいるロンドンの新しい恋人は、アレがデカいんだ。俺はサイズを知りたくて、しつこく訊いたら喧嘩になった。俺は子犬みたいに彼女を追い掛けるだけ。自分が情けなくなった」と漏らした。「どうするんだ?」とベイトマンが問い掛けると、シドは「何も出来ない」と口にした…。

脚本&監督はハンター・リチャーズ、製作はアッシュ・シャー&ポール・デイヴィス=ミラー&ボニー・ティマーマン、製作総指揮はベネディクト・カーヴァー&デヴィッド・ヒラリー&ティモシー・ピーターネル、共同製作はスコット・ランプキン、製作協力はロス・ワインバーグ、撮影はジョー・ウィレムズ、美術はエリン・K・スミス、編集はトレイシー・ワドモア=スミス、衣装はローナ・メイヤーズ、音楽はザ・クリスタル・メソッド、音楽監修はグレッグ・ダニーリーシャイン&ジェリー・クエラー。
出演はクリス・エヴァンス、ジェイソン・ステイサム、ジェシカ・ビール、ジョイ・ブライアント、ケリー・ガーナー、アイラ・フィッシャー、ルイス・C・K、ジェフ・ウルフ、デイン・クック、リナ・エスコ、ポーラ・パットン、カット・デニングス、ジュリエット・マーキス、ソフィー・モンク他。


『セルラー』に出演していたクリス・エヴァンス、ジェイソン・ステイサム、ジェシカ・ビールが再び共演した作品。
脚本&監督を務めたハンター・リチャーズはパラマウントでスクリプト・ドクターとして働いていた人物らしく、これがデビュー作。
シドをクリス・エヴァンス、ベイトマンをジェイソン・ステイサム、ロンドンをジェシカ・ビール、マロリーをジョイ・ブライアント、マヤをケリー・ガーナー、レベッカをアイラ・フィッシャーが演じている。

どうやらベイトマンは麻薬の密売人ではなく、普段は買う専門らしい。
そんな奴が今回に限って、シドにコカインを売った理由は何なのか。
そもそもシドは、どうやって売人でもないベイトマンの存在を知ったのか。
どうやら彼はコカイン常習者のようだから、普段は売人から買っているんじゃないのか。それなのに、今回に限ってベイトマンと連絡を取り、コカインを買う理由は何なのか。
シドとベイトマンを結び付ける経緯が謎すぎて、初っ端から引っ掛かる部分がデカすぎるわ。

マヤがレベッカの家を訪れて玄関のドアをノックし、カットが切り替わると屋内の様子になる。しかし、玄関から入って来るのはマヤではなく、シドとロンドンだ。
つまり、ここで過去のシーンに切り替わっているわけだ。
スタイリッシュに演出しているつもりかもしれないが、ちっとも上手くない。普通に「シドが過去を回想する」という形で挿入した方がいいよ。
しかも、過去のシーンが終わると、「マヤがドアをノックする」という手順が再び描かれるので、なんか不細工になってるし。

ベイトマンは時の流れを理解する話をして、マヤは母ウサギが子供を殺されると感じ取る実験について話す。
でも、「だから何なのか」と言いたくなる。それが本筋に上手く絡んでいるとは、到底思えない。
ベイトマンがSM趣味について話す時には、わざわざ回想シーンで店の様子まで描くが、これも何の意味があるのかサッパリだ。
クエンティン・タランティーノ作品のように無駄話を何度も挟んで雰囲気を出そうとして、完全に上滑りしているだけにしか思えない。

やたらと登場人物が神の存在について語りたがるので、そこを重視しようという狙いはあるんだろう。
ただ、それとシドとロンドンの関係を描く部分の繋がりは、まるで見えて来ない。
「神を信じるか否か」「神についてどう思うか」ってのは、2人の恋愛劇を描く上で、どのような意味を持っているのか。
別に2人は、信心深さを巡って不和になったわけでもないでしょ。そして、シドが神を信じるようになって、関係が修復されるわけでもないし。

根本的な問題として、メインとなるストーリーが浅薄なんだよね。
ザックリ言うと、「ロンドンと喧嘩別れしたシドは未練があってヨリを戻したいけど、ウジウジしながら酒を飲んだりコカインを吸ったりしながら周囲の人間とダラダラ喋っている」ってのを描く内容だ。
回想シーンでシドとロンドンが交際していた頃の様子を何度も挿入しているが、それでドラマが厚くなることなんて全く無い。
ただでさえ退屈な中身を、さらに助長しているだけだ。何のための回想なのかさえ、ボンヤリしている。

回想シーンでは、シドとロンドンの関係が悪化する経緯や理由を描き出そうとしているんだろう。
しかし、観客を引き込む力は全く無い。
あと、シドにしろロンドンにしろ、ちっとも魅力的じゃないんだよね。
器が小さくて猜疑心が強く、そのくせ自分は愛の言葉を口にしないシドもシドだが、ロンドンも大概な女だ。そこまで執着するほどの女性には思えない。
なので、2人がヨリを戻そうとする話を描かれても、ちっとも応援する気が湧かない。

回想シーンの中で、ロンドンは神や宗教についてシドに語る。シドが否定的な見解を述べると彼女は腹を立て、「貴方は自分が正しくないと気が済まない。自分のエゴをコントロールできない」と批判する。
でも、ロンドンだって自分の神に関する考えをシドに押し付け、それを否定されると簡単に腹を立てているわけで。
それは「自分が正しくないと気が済まない。自分のエゴをコントロールできない」という、本人の言葉が、そのまま当てはまる反応じゃないのか。
しかも、そうやって激しい口論をしておいて、直後にベッドで抱き合って熱烈なキスを交わすので、何もかもがバカバカしく感じるわ。

その後もシドたちが低レベルな会話を延々と続けるだけなので、退屈が増していくばかりだ。
「新しい恋人のチンコがデカいのでサイズを執拗に尋ねて喧嘩になった」とかさ、「なんだ、そりゃ」と言いたくなるわ。
これがコメディーだったら、笑える会話になっていた可能性もあるだろう。でも、ずっとシリアス一辺倒で描いているので、せいぜい呆れることぐらいしか出来ないよ。
くだらない愚痴や全く興味をそそらない回想劇ばかりで構成されても、「どうすりゃいいんだよ」と言いたくなるぞ。

終盤に入るとベイトマンがシドに「勃起不全が原因で妻と別れた」と打ち明け、「私は完全に負けた。今も負け続けている」と語るが、だから何なのかと。
彼は「EDじゃないんだからロンドンとヨリを戻せる」とシドを励ますが、そこで「EDだと夫婦や恋人の関係は成立しないしない」と全否定しちゃうのも何だかなあと思うし。
あと、そういう助言を受けてもシドは全く変わらず、ロンドンやレベッカを侮辱したり、喚いて喧嘩を始めたりと、相変わらずのクズ野郎なのよね。
なので、最終的には「ヨリは戻らないが愛を確かめ合って仲直りする」という結末になっているんだけど、ちっともハッピーエンドとして気持ち良くなれないのよ。

(観賞日:2021年10月17日)

 

*ポンコツ映画愛護協会