『噂のギャンブラー』:2012、アメリカ&イギリス
ベスは個人客専門のストリッパーとして、連絡を受けた男性の家を訪れては仕事をする日々を過ごしていた。中には拳銃を持ち出すような男もいて、ベスは怯えながら立ち去った。彼女は父親のジェリーと会い、「もう今の仕事は嫌」と愚痴をこぼす。しかしペットの世話で稼いでいると聞かされているジェリーは、「意外と稼げるのに勿体無い」と言う。ベスは「仕事だけじゃない。何か変化が欲しい。刺激が必要なのよ」と退屈な日々に辟易していることを話す。
ベスが「ラスベガスに行ってウェイトレスをやるわ」と言うと、ジェリーは「最高のアイデアだ」と大賛成した。ラスベガスに到着した彼女はモーテルにチェックインし、カジノへ繰り出した。メダルゲームに興奮した彼女が機械を揺らすと、歩み寄った男性が「そんなことはやめなさい。こんなのはバカのやるゲームだよ」と穏やかに告げた。ベスが「こういう店のウェイトレスになるには、どうすればいいか知ってる?」と尋ねると、彼は「ベテランが辞めるのを待つしかないけど、まず無理だね」と告げた。
ストリッパーのホリー&ダーシーと知り合ったベスは、ディンクという男を紹介してもらう。ディンクはスポーツの勝敗を予想して複数のブックメーカーに投資し、稼ぎを得るスポーツブック専門のギャンブラーだった。彼はネットを使わず、人を雇ってカジノへ金を賭けに行かせていた。ディンクの専門分野は競馬だが、他にホッケーや野球などにも賭ける。ベスはディンクから、部下であるフランキーとスコットを紹介された。
翌日、ベスはディンクに指示されたホテルのエントランスへ赴いた。するとディンクは、カジノでベスに話し掛けた男と一緒だった。男はマジックという名前で、ディンクの友人だった。マジックはベスに金を渡し、競馬の賭け馬を指定した。ディンクはベスに、「あらゆるスポーツにカジノがオッズを付け、掲示板に表示する。何に賭けてもいい。誰かが大金を賭ければ、カジノはオッズを変更する。カジノの間違いを狙って設けるんだ」と述べた。
ベスはディンクから、アシスタントとして採用することを告げられた。まだ何の知識もないベスに、ディンクは基本的な作業から丁寧に教え込んだ。ベスはホリーに、充実感を味わっていることを楽しそうに語る。ベスがディンクと2人でマジックの家へ行く予定を知ったホリーは、そこに恋愛感情があるのではないかと疑う。ホリーは「私ならやめとくね。チューリップを見たら、誰でもそう思う」と忠告した。チューリップは、バハマ旅行に行っているディンクの妻だ。だが、ベスはディンクへの恋愛感情を否定した。
ベスはディンクに連れられ、マジックの家を訪れた。屋敷には大勢のギャンブル仲間が集まっていた。ニューヨークのブックメーカーであるロージーも来ていたが、ディンクは疎ましそうな表情を浮かべた。「去年あれだけ負けたのに、よく顔を出せたもんだ。7万ドルも貸してる」と彼はベスに語った。ロージーはディンクに借りていた金を返し、ベスに「ディンクは俺のヒーローなんだ」と告げた。
後日、ベスがオフィスに1人でいると、チューリップが現れた。ベスが緊張しながら応対すると、チューリップは嫌味っぽい態度を取った。ディンクたちがオフィスで賭けをしていると、チューリップがやって来た。賭けに負けたディンクは、「疫病神め」とチューリップを罵った。腹を立てたチューリップは、すぐにオフィスを出て行った。「俺はスランプだ」と落ち込むディンクを、ベスは元気付けた。
ベスはディンクに恋心を抱き、それとなくアピールして彼の手を握る。彼女はディンクへの恋愛感情をホリーに明かし、「告白しようかな。そしたら奥さんを捨てて私と駆け落ちしてくれると思う?」と言う。ホリーは呆れるが、ベスは全く気にしなかった。彼はディンクと夜遅くまでオフィスでボクシングを観戦し、さらに積極的にアプローチする。チューリップからディンクに「そんな夜遅くまで何してるの」と怒りの電話が掛かると、わざと彼女に聞こえるようにベスは言葉を発した。
チューリップから涙目で「私を守ると言ったから結婚したのよ。忘れたの?」と責められたディンクは、ベスに「仕事を辞めてくれ」と告げて金を渡す。ベスは泣き出すが、ディンクは困った表情で「俺には妻がいるんだ」と述べた。失恋のショックを断ち切るため、ベスはホリーと共にカジノへ繰り出した。メダルゲームをやっているジェレミーと出会ったベスは、すぐに肉体関係を持った。一方、ディンクはスランプに陥り、5日間で17万ドル以上も失ってしまった。
ディンクは大学バスケのプレーオフで挽回しようと目論んだ、フランキーが不在なので受け渡し役がいなかった。そこでディンクはホリーを使うが、彼女は勝手に指定とは違うチームに賭けて負けてしまった。ディンクは苛立ち、フランキーとスコットに「お前らはクビだ、消えろ」と言い放ってオフィスから追い出した。ベスはジェレミーと一緒にニューヨークへ行こうと決め、荷物を取りにモーテルへ戻る。するとディンクが待っており、「戻ってくれ」と頼む。「チューリップの許可は取った。君が必要だ」と言われたベスは、ジェレミーに別れを告げてディンクの元へ戻ることにした。
ディンクはフランキーとスコットもクビにしておらず、ベスも含めた4人のチームが復活した。しかしディンクは相変わらず不調が続き、ベスに「ツキも呼び戻せないのか。そのために復帰させたのに」と苛立ちをぶつける。オフィスを追い出されたベスは驚くが、フランキーとスコットは「いつものことだ。2時間もすれば治まる」と慣れた様子だった。「貴方がそんな風だと、ここには居られない」とベスに言われたディンクは、「勝手な奴だ」と口にする。「どうすればいいのよ」とベスが腹を立てると、ディンクはクビを通告した。
ベスはジェレミーと連絡を取ってニューヨークへ行き、彼のアパートで同棲を始めた。素人のバスケットボールチームに参加したベスは、ギャンブルが好きなデイヴ・グリーンバーグという男と知り合った。彼女はロージーの元へ行き、自分を雇ってほしいと持ち掛けた。採用されたベスは、「知り合いにギャンブル好きがいるけどブックがいなくて困ってる。仲間も含めて貴方に紹介するわ」と告げた。するとロージーは、「君が担当すればいい。儲けの25パーセントを渡そう」と述べた。
ロージーはディンクとは桁違いの賭け金を使い、ベスに契約金として6千ドルを渡した。ベスはディンクに電話を掛け、ロージーのことを興奮した様子で語る。「ニューヨークではギャンブルが違法だ。ブックメーカーは重罪だぞ」と言われると、ベスは「転職を見つけたのに、貴方がラスベガスから追い出すからでしょ」とディンクを非難した。ロージーはベスに、「賭けが合法なキュラソー島に移るライセンスを取得した。資本家も捕まえた」と話す。ベスはキュラソー島へ行くことを決め、ジェレミーに受け渡し役を頼んだ。
好調を取り戻したディンクは、チューリップの前で「ロージーの元にいるベスが心配だ」と漏らす。「貴方はベスがいなくなってから復活したのよ」とチューリップが告げると、ディンクは「彼女に借りがある。全てを台無しにした」と語る。彼はベスの留守電にメッセージを入れ、「何かあれば電話してくれ」と吹き込んだ。キュラソー島に移ったベスはロージーのオフィス「ASAP」で働き始めるが、スタッフはろくでもない連中ばかりだった。ロージーも全く注意せず、仕事をサボって遊び呆けていた。そんな中、ベスはデイヴからの電話で、保護観察官にアドレス帳の中身を全て知られたと聞かされる。ロージーは当てにならず、困ったベスはディンクに助けを求める…。監督はスティーヴン・フリアーズ、原作はベス・レイマー、脚本はD・V・デヴィンセンティス、製作はアンソニー・ブレグマン&ランドール・エメット&ジョージ・ファーラ&D・V・デヴィンセンティス&ポール・トライビッツ、製作総指揮はアグネス・メントレ&ヴィンセント・マラヴァル&ジェームズ・W・スコッチドポール&リチャード・ジャクソン&カーティス・ジャクソン&ブラント・アンダーソン&ブランドン・グライムス&アンソニー・ガダス&マイケル・コルソ&ピーター・ハンプデン&ジェームズ・ギブ、製作協力はアレックス・G・スコット、撮影はマイケル・マクドノー、編集はミック・オーズリー、美術はダン・デイヴィス、衣装はクリストファー・ピーターソン、音楽はジェームズ・シーモア・ブレット、音楽監修はカレン・エリオット。
出演はブルース・ウィリス、レベッカ・ホール、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ、ジョシュア・ジャクソン、ローラ・プリポン、フランク・グリロ、ウェイン・ペレ、ジョン・キャロル・リンチ、コービン・バーンセン、ウェンデル・ピアース、ヴィンス・ヴォーン、リオ・ハックフォード、ジョー・ニューマン、ジョン・ムーレイン、リッチー・モンゴメリー、レネ・J・F・ピアザ、ヒューゴ・アームストロング、ジョエル・マーレイ、アンドレア・フランクル、ヨランダ・ウィンゼイ他。
ベス・レイマーの自伝『レイ・ザ・フェイバリット』を基にした作品。
ディンクをブルース・ウィリス、ベスをレベッカ・ホール、監督のスティーヴン・フリアーズと脚本のD・V・デヴィンセンティスは、『ハイ・フィデリティ』のコンビ。
チューリップをキャサリン・ゼタ=ジョーンズ、ジェレミーをジョシュア・ジャクソン、ホリーをローラ・プリポン、フランキーをフランク・グリロ、スコットをウェイン・ペレ、デイヴをジョン・キャロル・リンチ、ロージーをヴィンス・ヴォーンが演じている。冒頭、ストリッパーをやっていたベスが危ない目に遭い、「今の仕事は嫌だ」と言い出す。
ただし、「危険な仕事だから嫌だ」ということなのかと思ったら、そうではなく「刺激が欲しい。退屈な毎日はウンザリ」と考えていることを直後に語る。
で、彼女はラスベガスへ行くことを決めるのだが、そういう理由で主人公が刺激的な変化を求め、新しい世界へ足を踏み入れた場合、「そこで痛い目に遭い、かつて退屈だと思っていた生活の素晴らしさに気付いて元の場所に戻る」という流れにするのがセオリーだ。
なぜなら、主人公の「今の生活はウンザリで、刺激が欲しい」という考えは、ものすごく安易で軽薄だからだ。安易に刺激を欲しがる考えを、「素晴らしい考え」として称賛したり、応援したりするってのは、なかなか厳しいモノがある。
だから映画では、それを否定し、主人公を痛い目に遭わせて「人生はそんなに甘いものじゃない」と思い知らせる展開にするのが王道の展開なのだ。
ただし本作品の場合、ヒロインが「個人客専門のストリッパーで危険な目に遭っている」というところから入っている。
なので、「刺激を求めて飛び込んだ場所で痛い目に遭い、かつての場所の素晴らしさに気付いて戻って行く」という展開には出来ない。そこで考え付くのは、「刺激を求めて飛び込んだ場所では、厳しい現実に打ちのめされたり痛い目に遭ったりするけど、自分の進みたい道、新しい道を発見する」という展開だ。
そうすれば、安易で軽薄な行動を否定した上で、主人公に共感させたり、応援する気持ちを喚起したりすることが可能になる。
しかし本作品は、「安易に刺激を求めて飛び込んだ場所で、何の苦労もしない内にヒロインが自分の居場所を見つける」という話なのである。安易にラスベガスへ行ったベスは、まだ何の苦労もしない内にディンクと知り合い、彼のアシスタントとして働き始める。
故郷を出発する時は「カジノのウェイトレスになる」と語っていたはずのベスだが、そこに「自分の夢とは異なる仕事だから最初は乗り気じゃないけど、次第にハマるようになって」という展開は無い。
なぜなら、そもそもベスは真剣に「カジノのウェイトレスになりたい」と思っていたわけではなく、刺激的な生活が味わえるのであれば、仕事は何だって良かったからである。「ポーカーやブラックジャックは戦略もオッズも無関係だ。あれはギャンブルじゃない」とディンクは否定しているのだから、「しかしスポーツブックは戦略やオッズが重要なギャンブルだ」という論法を成立させる必要がある。
そのためには、劇中で「いかに細かいデータを集めてオッズを予想し、緻密な戦略を立ててスポーツブックに勝利するか」ということを描写すべきだ。
ところが実際には、勝つための戦略や理論はほとんど語られない。それ以前の問題として、「ベスやディンクたちが何をやっているのか分かりにくい」ということがある。
例えば、アシスタントに採用された直後のベスがディンクの指示通りに賭けて、その結果としてオッズが変化するというシーンがある。モニターを見ていたディンクが「俺たちの金がオッズを変えたんだ。初めての賭けだ」と言い、ベスが興奮しているが、画面は小さく写るだけで、そこに何が表示されているのか、何がどう変わったのか、具体的なことはサッパリ分からない。
ディンクたちの行為が何を意味するのか、それによって彼らは何を得たのか、どのように状況が変化したのか、そういうことがボンヤリとしか伝わって来ない。だからベスが「次々に変わる数字を自分の思い通りに操るなんて凄い。初めて自分の脳味噌を使ってる感じがする」と充実感を口にしても、まるでピンと来ないのだ。
ベスを理解させ、共感させるためには、細かい数字や具体的な馬の名前などを提示し、もっと丁寧に説明するべきだ。そもそも、「ベスが初めてスポーツブックを体験し、その楽しさに魅了される」という部分の描写からしてユルい。
ディンクのオフィスを訪れたシーンでは、ディンクが賭けた馬が勝つ様子がテレビに写し出されるけど、ベスは全く関与していない。
なのに「信じられない」と興奮しているけど、何がどうなって興奮できるのか良く分からない。
まだ「スポーツブックとは何ぞや」ってことさえ充分に理解できていない状態なのに。ホリーはベスがマジックの家へディンクと2人で行くと知り、恋愛感情を疑うのだが、そのタイミングが早すぎると感じる。
ただし、ベスは恋愛感情を否定するが、落ち込むディンクを励ます時には両脚を彼にベッタリと密着させており、明らかに好意を抱いている。しかし、どこでディンクに男性として惚れたのか、それがサッパリ分からないのだ。
「スポーツブックに興奮し、その魅力にハマる」という部分の描写だけでなく、「ディンクに惚れる」という部分の描写も全く足りていない。
足りていないっていうか、まるで見当たらない。ベスはディンクへの恋愛感情をホリーに打ち明け、「告白しようかな。そしたら奥さんを捨てて私と駆け落ちしてくれると思う?」と呑気に話すが、なんと愚かしいことか。
ホリーは呆れているけど、まだディンクが明らかにベスの気持ちを受け入れたわけでもない段階で、そんな楽観的すぎる考えを良く抱けるもんだよ。
それはポジティブというのじゃなくて、ただのアホだよ。その後でディンクに別れを宣告されて泣き出しても、これっぽっちも同情しないわ。
しかもベスは失恋直後にカジノで他の男と出会い、すぐに好意を抱いて肉体関係を迫っているんだから、ただのアバズレじゃねえか。そのくせ、ディンクに頼まれると簡単にアシスタントとして復帰し、「会いたかった」と嬉しそうに言う。しかしディンクから再びクビを通告されるとジェレミーと連絡を取り、彼と付き合い始める。
ただの尻軽ビッチじゃねえか。そんな女のどこに魅力を感じろというのか。トップ・ビリングはブルース・ウィリスなので、「ベスじゃなくてディンクを主人公として捉えたらどうだろう」と考えてみたが、それは本作品を救う手立てに繋がらない。
何しろ、ディンクという男に何の魅力も感じられないのだ。
そして「ベスに惹かれるが、チューリップに責められたので別れを告げる」という恋愛劇の部分に関しても、ディンクに感情移入できる部分、同情したくなる部分は皆無だ。ベスがいかにギャンブラーとして優秀なのかも、まるで表現できていない。
序盤で「数字や文字に強い」ということに少し触れているけど、それがスポーツブックの中で活用されている気配が見られない。
ベスを切った後のディンクが負け続け、「彼女に君は数字に強いし、電話で相手から話を聞き出すのも上手い」などと言っているけど、「ベスの能力がディンクの勝利に結び付いていた」という風には全く感じられない。
それは、ベスがギャンブル能力の高さを発揮している描写が無いからだ。そもそもディンクだって、ベスの能力を高く買っていたわけじゃない。単に「ツキがある」と感じて復帰を要請しただけだ。
つまり前半のベスは、ギャンブラーとしての才能を微塵も発揮していない。ギャンブルの醍醐味や面白さも描写していない。ディンクは絶不調に陥るが、そこからギャンブルの恐ろしさが伝わってくるわけでもない。
何を描きたいのか、どこにピントを当てているのか、良く分からない。
全てがボンヤリとしたまま、何もかもが薄っぺらいまま、特に盛り上がりも無いまま、時間だけがダラダラと過ぎて行く。ディンクはベスに頼んでオフィスに呼び戻すが、すぐに再び辞めさせる。
物語として、「ディンクがベスに頼んで呼び戻す」という手順を入れた意味が、サッパリ分からない。だったら、1つ目か2つ目の解雇通告を削ればいいだろ。
解雇の理由は違うけど、同じ手順を2つも盛り込む必要性が全く見えない。ただの無駄な時間稼ぎにしか思えない。
後半も相変わらず何を描きたいのかボンヤリしているのだが、ディンクがチューリップの前でベスへの愛を吐露する辺りからすると、どうも全体を通して恋愛劇をメインに据えたいのかなあという気がする。
ただし、その恋愛劇は薄っぺらい上にフラフラしまくっているし、ちっとも面白味や魅力が無い。最終的にベスはジェレミーとカップルになり、最後に「2人は結婚した」と表記されるが、どうでもいいわ。終盤に入り、ベスは窮地に追い込まれるが、それは自分の居場所を見つけた上で招いたことだから、前述した「刺激を求めて安易に新しい世界へ足を踏み入れ、そこで痛い目に遭って」というパターンには該当しない。
実際、それがきっかけでギャンブルの世界から足を洗うわけじゃないし。
それより何より、そこでベスが窮地に陥っても、「自業自得でしょ」と全く同情できないってのが痛すぎる。
そこでベスに同情し、脱出のために奮闘する姿を応援できなかったら、どうしようもないでしょ。(観賞日:2014年10月20日)