『イルマーレ』:2006、アメリカ

研修を終えた医師のケイト・フォースターは、湖岸にあるガラス張りの一軒家「レイクハウス」からシカゴ市内へ引っ越すことになった。 彼女は飼い犬のジャックを連れて、レイクハウスを後にした。一方、建築家のアレックス・ワイラーは、そのレイクハウスへ引っ越して きた。ケイトはシカゴ病院に赴任し、先輩医師のアンナから仕事の説明を受けた。アレックスは建売住宅を建設中の現場へ行き、指示を 出す。事務員のモナがやって来て、「あんなガラス張りの家、どうして買ったの?」と問い掛けた。
レイクハウスに戻ったアレックスは、郵便受けに入っている手紙を見つけた。それはケイトが次の住人宛てに残した手紙だ。そこには 「配達ミスがあったら新しい住所に転送してください。入口にある犬の足跡は、最初からあった物です。屋根裏部屋の荷物も同様です」と 記してあった。しかしアレックスが調べてみると、入口に犬の足跡など無かったし、屋根裏部屋の荷物も無かった。アレックスが入口に ペンキを塗り直していると、野良犬が家に向かって走って行き、その足跡が付いてしまった。
ケイトはデイリープラザへ出掛け、母と会った。母のバッグにはドストエフスキーの『罪と罰』が入っていた。死んだ父が好きだった本で 、母は「これがあれば、まだ一緒にいる気がするの」と語った。前の通りで男性がバスにひかれる事故が起きたため、ケイトは慌てて 駆け付けた。アレックスは現場監督のマルハーンに、基礎工事を始めるよう指示した。予定よりも建設作業は遅れていた。
ケイトはデイリープラザの男性を救うことが出来ず、落ち込んでいた。アンナは彼女に、「休みの日、病院から離れて落ち着ける場所へ 行くといいわ」とアドバイスした。ケイトがレイクハウスへ行くと、誰もいなかった。郵便受けを見ると、そこにはアレックスの手紙が 入っていた。彼は「行き違いがあったようですね。僕が来る前、ここには誰も住んでいなかったはず」と書いていた。ケイトは「私は 間違いなくレイクハウスに住んでいました。それと、今は2006年です」と記した手紙を郵便受けに入れ、その場を去った。手紙を呼んだ アレックスは首をかしげた。彼が暮らしているのは2004年だったからだ。
アレックスの弟ヘンリーは、大物建築家である父サイモンの事務所で働いていた。サイモンから嫌味っぽい態度を取られたヘンリーは 「あんなのが父親なんて」と吐き捨てながらビルを出た。そこへアレックスが現れ、ヘンリーに声を掛けた。4年ぶりの再会だ。サイモン が出て来たので、アレックスは話し掛けようとする。しかしサイモンは、軽く手を挙げただけで立ち去った。ヘンリーはアレックスに、 「気にすることなんて無いよ」と告げた。
アレックスはケイトに手紙を届けようとするが、書かれていた住所へ行くと、そこはアパート建設予定地だった。完成は1年半後の予定と なっている。アレックスが手紙で「今は2004年」と言い張るので、ケイトは少し腹を立てた。そこで彼女は2004年4月3日に撮影した写真 を手紙に同封し、「雪が降る」と記した手紙を郵便受けに投函した。それを読んだアレックスは「バカバカしい」と思うが、実際に雪が 降り積もったので驚いた。
アレックスが短い手紙を投函すると、すぐに郵便受けのレバーが動いた。アレックスが中を見ると、ケイトからの返信が入っていた。 ケイトが手紙を入れて立ち去ろうとすると、すぐにレバーが動いた。郵便受けの中を見ると、アレックスからの返信が入っていた。2人は 2004年と2006年という別の時代に生きていながら、郵便受けを通じて手紙をやり取りしていたのだ。アレックスとケイトは奇妙に思いつつ 、互いに自己紹介した。その結果、2人が同じ犬を飼っていることも分かった。
アレックスはケイトに、「一緒に出掛けよう。土曜に街を案内する」と持ち掛けた。彼は幾つかの丸を付けた地図を郵便受けに入れた。 ケイトは地図を見ながら、建物巡りをした。最後にやって来た壁には、「ケイト、僕は一緒にいるよ」という落書きがあった。アレックス はサイモンに呼ばれ、彼の家を訪れた。サイモンは回想録の執筆中だった。「今まで、どこで何をしていたんだ」と訊かれたアレックスは 、「貴方を許そうとしたが、ダメだった」と答えた。
ケイトはアレックスへの手紙に、「仕事が忙しくて疲れてる。レイクハウスへ行って、あの木々に会いたい」と記した。アレックスは湖畔 の木をアパート予定地の前に運び、そこに植え替えた。するとケイトが住んでいるアパートの前に、大きな木が出現した。アレックスは ケイトに、「いつか必ず会えるよ。方法を見つける」という手紙を書いた。アレックスはヘンリーをレイクハウスに招いた。そこは、まだ サイモンが有名になる以前に設計した家だった。
ケイトはアレックスに、「2年前の今日、リバーサイドからマディソン行きの列車に乗る際、駅に忘れ物をしたの。もし見つけたら、 郵便受けに入れてくれないかしら」と頼んでみた。アレックスが駅へ行くと、ケイトが恋人のモーガンとキスをしていた。だが、まだ アレックスは、それが文通相手だとは知らない。ケイトが列車に乗り込んだ後、アレックスはベンチに残されたジェーン・オースティンの 『説得』を見つけた。アレックスはケイトが文通相手だと気付くが、既に列車は走り出していた。
アレックスはケイトに、「未来で時間を決めて会おう」と提案した。ケイトは軽い気持ちで、「2006年の7月10日、午後9時5分に電話を 頂戴」と持ち掛けた。すると、ケイトの部屋に電話が掛かって来た。驚いたケイトだが、掛けて来た相手はモーガンだった。シカゴへ出て 来たので、会いたいという。既に別れていたケイトだが、彼の元へ行く。モーガンは、いつも先走る悪い癖があった。
アレックスで担当している建売住宅の一軒が完成したが、まだスケジュールより遅れていた。彼はモナからデートに誘われるが、ジャック が逃げ出したので慌てて追い掛ける。するとジャックは、家に入ろうとしているモーガンの元に辿り着いた。アレックスが挨拶すると、 モーガンは「僕の恋人のケイトが、湖畔に家を買いたがっている。紹介してくれないか」と告げた。モナがアレックスに追い付いた後、 モーガンは2人に「今夜、ケイトの誕生日パーティーがある。良かったら来てくれないか」と誘いを掛けた。
その夜、アレックスはモナを伴い、パーティーにやって来た。ケイトはモーガンからアレックスを紹介されるが、もちろん相手が2年後に 文通する相手だとは知らない。パーティーが続く中、ケイトは庭へ出て休憩する。そこへアレックスが現れ、彼女に話し掛けた。ケイトは アレックスを誘い、2人でダンスを踊った。いい雰囲気になった2人はキスを交わすが、モーガンが現れたので慌てて離れた。
アレックスはヘンリーから、サイモンが倒れたという知らせを受けた。彼が病院へ行くと、サイモンの担当医はアンナだった。アンナは、 軽い心臓発作なので安定しているが、翌日に手術をすることを説明した。アレックスが病室へ行くと、サイモンはベッドの上でも仕事を していた。サイモンは「来なくても良かった。俺は平気だ」と強情な態度を言うが、手術後に容体が急変して死亡した。
ケイトはカルテを見てサイモンの死を知り、2006年に出版された回想録を郵便受けに入れた。それを見たアレックスは、父の自分に対する 思いを初めて知り、涙をこぼした。アレックスはケイトに、2006年に会うことを持ち掛けた。そこでケイトは、人気のレストラン 『イルマーレ』で会うことを決める。アレックスは店へ行き、2年後の明日に予約を入れた。翌日、ケイトは『イルマーレ』へ行き、 2年前から予約されていた席に座った。だが、いつまで待っても、アレックスは現れなかった…。

監督はアレハンドロ・アグレスティ、脚本はデヴィッド・オーバーン、製作はダグ・デイヴィソン&ロイ・リー、共同製作はソニー・ マルヒ、製作総指揮はメアリー・マクラグレン&アーウィン・ストフ&デイナ・ゴールドバーグ&ブルース・バーマン、撮影はアラー・ キヴィロ、編集はリンジー・クリングマン&アレハンドロ・ブロデルソン、美術はネイサン・クロウリー、衣装はディーナ・アッペル、 音楽はレイチェル・ポートマン。
出演はキアヌ・リーヴス、サンドラ・ブロック、クリストファー・プラマー、ショーレ・アグダシュルー、エボン・モス=バクラック、 リン・コリンズ、ヴィレケ・ファン・アメローイ、 ディラン・ウォルシュ、マイク・バカレラ、ケヴィン・ブレナン、フランク・ケイティー、アリーヤ・カー、ジェニファー・クラーク、 ジェイコブ・D・デュメル、スコット・A・エリアス、ティファニー・ファンチェズ、ロリ・アン・ガーディッシュ、マイケル・ゴーマン 、ジェニファー・カーン、ジョイ・コーカイ、シンシア・ケイ・マクウィリアムズ他。


2000年に製作された同名の韓国映画をハリウッドでリメイクした作品。
アレックスをキアヌ・リーヴス、ケイトをサンドラ・ブロック、 サイモンをクリストファー・プラマー、アンナをショーレ・アグダシュルー、ヘンリーをエボン・モス=バクラック、モナをリン・ コリンズ、ケイトの母をヴィレケ・ファン・アメローイ、モーガンをディラン・ウォルシュ、マルハーンをマイク・バカレラが演じている 。
監督はアルゼンチン出身のアレハンドロ・アグレスティで、これが初めてのハリウッド映画。

邦題はオリジナル版と一緒にしてあるが、「イルマーレ」とは海辺のこと。
オリジナル版では海辺に家があったのだが、リメイク版では湖畔に変更されている。だから原題も『The Lake House』だ。
一応、レストランの名前で「イルマーレ」という名称は残してあるけど、そこは特に重要な場所でもないので、この邦題は内容に沿って いるとは言えない。
まあ、オリジナル版の人気に便乗したいという配給会社の考えは分からないでもないし、そんなに目くじら立てて批判したくなるほど ヒドい邦題ではないけど。

アンナから「落ち着ける場所へ行くべき」と勧められたケイトはレイクハウスへ行った際、郵便受けを開ける。
空き家だと判断しての行動だろうけど、それにしても郵便受けを開けるのは少し御都合主義チックなモノを感じるものの、そこは別に いい。
ただし、その後、アレックスがケイトへの返信を郵便受けに入れるのは理解に苦しむ。
ケイトは「ここに届けて」と住所を書いてあったんでしょ。だったら、そこへ手紙を送るべきなんじゃないの(もちろん、まだアパートは 建っていないから送り返されるだろうけど)。
なんで自分が住んでいる家の郵便受けに入れたのか。しかも、なんでケイトは、しばしばレイクハウスを訪れて郵便受けをチェックして いるのか。
その辺りが良く分からない。

アレックスには「父との不和」というサブエピソードが用意されているのだが、そこがロマンスと上手く絡み合っているとは感じられず、 邪魔にさえ思えてくる。
ケイトが送った回想録を読んだアレックスが泣くというのは、「ケイトのおかげでアレックスの心が救われた」ということなんだけど、 なんか描写が上手くないから、そこに心を揺り動かすようなモノが無いのよね。
だから、親子関係の話なんて捨てて、もっとロマンスに集中した方がいいんじゃないかと思ってしまう。

この映画は、「男女が時間を越えて手紙のやり取りをする」というのが、もちろん肝になっているわけだ。
会いたくても会えない、思いが募って寂しい。ただし、自由に会えないからこそ、時間を越えても互いに繋がっていることが分かる瞬間に 遭遇すると、喜びは大きい。
そういう恋愛劇の仕掛けになっているはずだ。
「会えない寂しさ」と「繋がりを知っての喜び」、どちらを先にアレックスとケイトが感じるか、どういう順番で並べるかは自由だ。
「喜び」→「寂しさ」を何度か繰り返してもいいだろう。

この映画の場合、アレックスが用意した地図でケイトが建物巡りをしたり、アレックスの残した落書きをケイトが発見したりという、 「繋がっていることの喜び」が先に強くアピールされているように感じる。
そうなると、次に「会えない寂しさ」がアピールされるべきだろう。
ところが、アレックスは2004年のケイトの誕生日パーティーを知り、その会場に赴く。
2人は簡単に会えているのだ。

アレックスとケイトと簡単に会わせた時点で、ちょっと上手くない展開だなあとは思うが、それで全てが台無しになるというわけでもない 。助かる手は幾らでもある。
まだアレックスが一方的にケイトを認知しただけだから、「一方的に彼女を見るだけで留める」とか、「自分の気持ちを抑えて軽く会話を 交わすだけに留める」という形にすればいい。
あるいは、ケイトが恋人とラブラブなのでアレックスのことなど全く眼中に入らないとか、アレックスに不審を抱いて敬遠するとか、そう いう形にしてもいいだろう。
そうすれば、「近くにいるのに、心は通じ合っていない」という状況を作り出して、寂しさを表現することが出来る。

ところが、アレックスは何の遠慮もせず、ジェーン・オースティンの『説得』を切り口にしてケイトと親しくなろうとする。一方のケイト も、モーガンとの関係はラブラブとは程遠く、アレックスをダンスに誘う。
そして2人はいい雰囲気になり、抱き合ってキスを交わす。
そりゃあ、アレックスがケイトに会いに行ったのは、時空を超えた手紙で知り合ったことがきっかけだ。しかしケイトは、アレックスを 良く知らないのに、すぐに惚れている。
そうなると、レイクハウスから誕生日パーティーの行われた家まではそれほど遠くないし、手紙が無くても、2人が出会って惹かれ合う 関係になった可能性はあるんじゃないかと思えてしまうのだ。

ケイトはアレックスがレストランに来なかったことで、もう連絡を取り合うのをやめようと決める。
それはいいんだけど、その後、彼女がモーガンとヨリを戻すのは、「どういう神経をしているのか」と思ってしまう。
モーガンから積極的にアプローチされて、心の弱っていたケイトがなびくということなら、まだ分かるよ。だけどケイトの方からヨリを 戻しているんだよね。
そのくせ、終盤にはモーガンを捨ててアレックスに戻っている。
そりゃあモーガンって決して好感の持てる奴じゃないけど、それにしても不憫だよ。

終盤、ケイトは新居の修復を依頼するためにヘンリーと会い、デイリープラザで救えなかった男性がアレックスだと知る。
そして彼を救うため、急いでレイクハウスへ行き、デイリープラザには来ないよう求める手紙を入れる。
でも、その展開には無理がある。
だってさ、ケイトって、2004年の誕生日パーティーでアレックスと急激にいい雰囲気になり、キスしているのよ。
それなのに、事故現場で彼を見た時に全く気付かないってのは、ちょっと変じゃないかと思うのよ。

進行の上では、デイリープラザの事故があった時、まだケイトはアレックスと出会っていない。
手紙を通じて知り合ったことで、誕生日パーティーに来ていなかったはずのアレックスが現れ、ケイトの過去が書き換えられたのだ。
ただし、ケイトはアレックスからの手紙を受けて、「あの時のキスの相手は、貴方だったのね」と言っている。
ってことは、手紙のやり取りをきっかけにして過去が変化したことで、ケイトの記憶も書き換えられているということになる。

そうであるならば、アレックスからの手紙で「キスの相手はアレックスだった」と知った時に、「そのアレックスがデイリープラザの男性 だった」と気付くはずじゃないのか。
一方は「自分の惚れている相手」で、もう一方は「助けられなかったことを深く思い詰めた犠牲者」で、どっちもケイトに強い印象を 与えている相手なんだからさ。
ようするに、タイム・パラドックスの問題を、この映画は解消できていないってわけ。
実は、それ以外にもタイム・パラドックスは色々とあるんだけどね。
ただ、他は全て受け流すとしても、その部分に関しては、ちょっと寛容な気持ちになることが出来なかったなあ。

ハリウッド映画だから、ハッピーエンドにしたいという考え方は分かるけど、「ケイトが危機を知らせる手紙を送ったので、アレックスは 死なずに済んで、2人は2008年に会うことが出来ました」というのは、やっぱり違うんじゃないか。
そこは「タイム・パラドックスの問題が云々」ということよりも、安易なハッピーエンドに気持ちが乗らないんだよな。
そこは悲恋で終わらせてもいいんじゃないかと。

(観賞日:2012年3月21日)

 

*ポンコツ映画愛護協会