『イントゥ・ザ・ウッズ』:2014、アメリカ&イギリス&カナダ
昔々、遥か彼方の王国の、森の外れに小さな村があった。村には若い娘に呑気な少年、子供のいないパン屋夫婦が暮らしていた。若い娘のシンデレラは親を亡くし、継母と暮らしていた。継母には連れ子のフロリンダとルシンダがいたが、3人とも心が醜い女たちだった。シンデレラは国王の舞踏会に行きたいと思っていたが、彼女を扱き使っている継母は嘲笑した。呑気な少年のジャックはバカだった。彼の母は、貧乏生活や息子がバカであること、牛が乳を出さないことに苛立っていた。
赤い頭巾の女の子がパン屋に現れ、パンを盗もうとした。パン屋の主人に見つかった赤ずきんは、「お腹を空かせたおばあさんに、パンを食べさせてあげたいの」と釈明した。彼女が恵んでほしいと頼むと、パン屋の妻は笑顔で承諾した。シンデレラの継母は大量の豆を床にバラ撒き、「時間までに豆を拾って、仕事を片付けたら舞踏会に連れて行くよ」と告げる。継母と連れ子たちが立ち去ると、シンデレラは歌で鳥の群れを呼び寄せた。彼女は鳥たちに頼んで、豆を集めてもらった。
ジャックは母から、牡牛のミルキー・ホワイトを隣の村の市場で売って来るよう命じられた。ミルキーを可愛がっているジャックは嫌がるが、母の命令には逆らえなかった。赤ずきん幾つものパンを手に取ったのでパン屋の主人は顔をしかめるが、妻は駕籠を渡して送り出した。赤ずきんはおばあさんの家へ行くため、森に向かった。連れ子たちはシンデレラに舞踏会へ行く準備を手伝わせるが、きつく髪を縛ろうとしたので腹を立てて平手打ちを浴びせた。
パン屋のドアを隣に住む魔女が破壊し、店に乗り込んで来た。彼女はパン屋の主人に、「お前を妊娠していた頃、母親はどうしても隣の庭の野菜が食べたいと旦那に頼んだ。私はお前の父親が盗むのを許す代わりに、赤ん坊が生まれたら貰うことにした」と語る。彼女はパン屋の主人の妹を貰ったこと、誰にも見つからないように隠したことを話した後、パン屋の父親が特別な豆を盗んだせいで美しさと若さを失ったのだと悔しそうに明かした。さらに彼女は、パン屋の家系には永遠に子供が産まれない呪いを掛けたのだと語った。
ジャックは母親から、5ポンド以上でミルキーを売って来るよう命じられた。魔女はパン屋夫婦に、呪いを解きたければ青い満月が昇るまでに4つの品物を揃えるよう要求した。それはミルクのように白い牡牛、血のように赤い頭巾、トウモロコシのように黄色い髪、金色に輝く舞踏会の靴だ。青い満月が昇るのは百年に一度で、その時に4つが揃えば呪いを解いてやると魔女は約束した。シンジレラは継母に、「舞踏会は三夜続く。せめて一晩だけでも」と頼むが、「王は王子の妃を探すのよ。メイドじゃないわ」と一蹴し、連れ子たちと共に馬車で城へ向かった。
パン屋の妻は、夫の父親が残していたコートのポケットに豆が入っているのを発見した。彼女は同行しようとするが、パン屋の主人は1人でやると告げて森へ向かう。シンデレラは死んだ母親に願い事をするため、森の墓へ赴いた。すると母親の幻影が出現し、シンデレラは一瞬にして美しいドレス姿に変身した。赤ずきんは森でオオカミに話し掛けられ、おばあさんの家へパンを持って行くことを語る。道草するよう誘われた赤ずきんだが、それを断ってオオカミと別れた。
パン屋の主人が赤ずきんを見つけると、魔女が現れて「力ずくで奪い取れ。掟があって、私は4つの物に触れない」と告げた。パン屋の主人は赤ずきんの頭巾を奪うが、金切り声で叫ばれたので返却した。赤ずきんが去った後、パン屋の主人の元へ妻が来て「手伝うわ」と告げた。ジャックがミルキーを連れて通り掛かったので、妻は「魔法の力がある特別な豆」と称して豆5粒との交換を持ち掛けた。買い戻すことも出来ると説明され、ジャックは交換を了解した。
馬で森を移動していた王子は、塔で歌うラプンツェルの声を耳にした。王子が様子を見ていると魔女が現れ、ラプンツェルに髪を下ろすよう指示した。ラプンツェルは長い髪を下ろし、魔女はロープ代わりに使って塔を登る。ラプンツェルはパン屋の主人の妹だが、魔女を母と信じて育った。赤ずきんがおばあさんの家に到着すると、オオカミが待ち受けていた。オオカミはおばあさんを丸呑みして化けており、赤ずきんも食べてしまった。悲鳴を聞き付けたパン屋の主人が駆け付け、オオカミの腹を割いて赤ずきんとおばあさんを救った。赤ずきんは感謝し、お礼として頭巾を渡した。
ジャックが帰宅すると母親は激昂し、豆を投げ捨てて納屋に閉じ込めた。シンデレラは舞踏会で王子と踊るが、すぐに城から逃げ出した。森で転んだシンデレラは、ミルキーを連れているパン屋の妻と遭遇する。シンデレラは内緒にしてほしいと頼み、木陰に隠れた。王子と従者たちに追い掛けて来ると、パン屋の妻はシンデレラを見ていないように装った。王子たちが去った後、パン屋の妻が城から逃げた理由を尋ねると、シンデレラは「想像と違ったから」と答えた。パン屋の妻は金の靴に気付くが、シンデレラは走り去ってしまう。おまけにパン屋の妻は、シンデレラを追い掛けようとしてミルキーにまで逃げられてしまった。
翌朝、ジャックは豆から巨大な木が伸びて、空まで続いているのを目にした。ジャックは森で寝ていたパン屋の主人の元へ走り、5枚の金貨を見せた。彼は「女の巨人がいたけど、食べ物をくれた。男の巨人に食べられそうになったから、金貨を盗んで地上へ戻った」と語り、ミルキーを買い戻したいと告げる。パン屋の主人が「売りたくない」と渋ると、ジャックは「お金が足りないなら、取って来るよ」と告げて走り去った。
パン屋の妻が夫の元へ来て、ミルキーに逃げられたことを話す。主人は「後は任せろ」と言い、村へ戻るよう指示した。シンデレラを捜索していた王子は、森で弟の王子と遭遇した。2人は互いに、自分が出会った美しい娘のことを話す。弟王子がラプンツェルの頭髪について語る言葉を耳にしたパン屋の妻は、塔へ行けば黄色の髪が手に入ると知った。彼女は塔へ行き、ラプンツェルを欺いて髪を下ろさせる。パン屋の妻はラプンツェルの髪を引き千切り、その場から逃亡した。
シンデレラは2日目の夜も城から逃亡し、パン屋の妻は靴を奪おうと待ち伏せるが失敗に終わった。ミルキーを見つけたパン屋の主人は妻と合流し、後は靴だけだと知った。彼は妻に、「一緒に手に入れよう」と告げる。そこへジャックが現れ、巨人の元から盗み出した巨大な金の卵を見せる。パン屋の主人が買い戻しの提案を拒んでいると、ミルキーが倒れて死亡した。翌朝、弟王子はラプンツェルの元へ行き、キスを交わした。その様子を目撃した魔女は茨を使って弟王子を落馬させ、両目を潰す。魔女はラプンツェルに「もう誰もお前を見ない」と告げ、髪を短く切ってしまった。
ジャックは赤ずきんと遭遇し、金の卵を得意げに見せた。彼が「巨人のハープは触らなくても曲を奏でる」と言うと、赤ずきんは信じずに「だったら取って来れば」と挑発した。ジャックは巨人からハープを盗むが見つかり、慌てて地上に戻った。彼が斧で木を切ったため、巨人は墜落して死亡した。パン屋の妻は、夫に牛を買いに行くよう指示し、自身は靴を手に入れるため森に留まる。シンデレラは3日目の夜も城から逃げ出すが、兄王子が階段に塗っておいたタールで靴が脱げた。シンデレラは自分ではなく王子に決断させようと考え、わざと片方の靴を残して逃走した。
森に入ったシンデレラは、パン屋の妻から「魔法の豆と靴を交換して」と頼まれる。シンデレラは「くだらない」と豆を投げ捨てるが、パン屋の妻が必死で頼むので靴を渡して去った。シンデレラもパン屋の妻も、豆から上空へ木が伸びたことに全く気付かなかった。兄王子は靴の持ち主を捜すため村へ行き、シンデレラを見つけ出した。魔女によって沼へ追放されていたラプンツェルの元へは、弟王子がやって来た。失明を知ったラプンツェルの涙が弟王子の目に入ると、彼の視力が回復した…。監督はロブ・マーシャル、原作はスティーヴン・ソンドハイム&ジェームズ・ラパイン、脚本はジェームズ・ラパイン、製作はジョン・デルーカ&ロブ・マーシャル&マーク・プラット&カラム・マクドゥーガル、共同製作はアンガス・モア・ゴードン&マイケル・ジマー、撮影はディオン・ビーブ、美術はデニス・ガスナー、編集はワイアット・スミス、衣装はコリーン・アトウッド、振付はジョン・デルーカ&ロブ・マーシャル、作曲&作詞はスティーヴン・ソンドハイム、追加音楽はデヴィッド・クレーン、音楽プロデューサーはマイク・ハイアム、音楽監修はポール・ジェミニャーニ&マイク・ハイアム。
出演はメリル・ストリープ、エミリー・ブラント、ジョニー・デップ、ジェームズ・コーデン、アナ・ケンドリック、クリス・パイン、トレイシー・ウルマン、クリスティーン・バランスキー、リラ・クロフォード、ダニエル・ハットルストーン、ビリー・マグヌッセン、マッケンジー・マウジー、タミー・ブランチャード、ルーシー・パンチ、フランシス・デ・ラ・トゥーア、サイモン・ラッセル・ビール、ジョアンナ・ライディング、アネット・クロスビー、リチャード・グローヴァー他。
大ヒットを記録したブロードウェイの同名ミュージカルを基にした作品。
監督は『シカゴ』『NINE』のロブ・マーシャル。
脚本は舞台版も手掛けたミュージカル演出家のジェームズ・ラパイン。
魔女をメリル・ストリープ、パン屋の妻をエミリー・ブラント、オオカミをジョニー・デップ、パン屋をジェームズ・コーデン、シンデレラをアナ・ケンドリック、シンデレラの王子をクリス・パイン、ジャックの母をトレイシー・ウルマン、シンデレラの継母をクリスティーン・バランスキー、赤ずきんをリラ・クロフォード、ジャックをダニエル・ハットルストーン、ラプンツェルの王子をビリー・マグヌッセン、ラプンツェルをマッケンジー・マウジーが演じている。「童話の人気キャラクターたちがハッピーエンドを迎えてからの後日談を描いた作品」という触れ込みだったが、実際の内容は大きく異なっている。
映画の大半で描写されているのは、有名な童話のアナザー・ストーリーだ。幾つかの物語が並行して進められ、それが結末に到達してから、ようやく後日談が少しだけ描かれるのだ。
だから宣伝されていた内容とは全く違うのだが、それでも中身が面白ければ一向に構わない。
だから本作品の問題は、面白くないってことにある。劇中で取り上げられる童話は、『シンデレラ』『ジャックと豆の木』『赤ずきん』『塔の上のラプンツェル』の4つだ。
「どうせ知っている話でしょ」ってことなのか、それぞれのキャラクター紹介は軽く済まされ、ストーリーもザックリと処理されている。
全て有名な童話だから、大半の観客は内容を知っているだろう。
ただ、それはそれとして、もうちょっと丁寧に扱った方がいいんじゃないかと。かなり雑に片付けているのよね。映画が始まると、いきなりミュージカル形式になっている。
そこでは足早にシンデレラと継母&連れ子、ジャックと母、パン屋夫婦が次々と登場するので、一気に主要キャラを全て登場させるのかと思いきや、赤ずきんだけは後回しにされている。
また、「全員がそれぞれの理由で森へ向かう」というシーンでは、継母&連れ子まで含まれているのに、一方でラプンツェルは登場しない。
そりゃあ塔に幽閉されているから無理なのは分かるけど、どうにもキャラの出し入れやバランスが良くないと感じる。前述したように、オープニングからミュージカルになっているのだが、これが邪魔でしょうがない。
歌うことによって説明を省略するとか、物語を進めるという役割を担っているはずだが、それよりも「映画に入り込むことを妨害している」という印象が強い。
おまけに、歌と台詞で進めていたのに、主要キャストが森に入ると今度はナレーションで状況を説明するのだ。
それだけでも不細工なのだが、そこで説明される大半の内容は全く必要性が無いのだ。シンデレラが城で王子と踊るシーンは、ナレーションで処理するだけ。そのシーンは描かれない。
それと、12時で魔法が解けるわけではないから、城から逃げ出す理由を用意しなきゃいけないのだが、「想像と違ったから」という全くスッキリしない台詞で片付けている。
ジャックが木に登って巨人と出会う出来事も、後から彼が歌って説明するだけで、該当するシーンは描写されない。
省略技法を使うのはいいけど、その辺りも雑な処理に感じる。パン屋の主人の父親が魔女の野菜を盗んでいるとか、赤ずきんが幾つものパンを遠慮なく手に取るとか、おばあさんの家に着く前に大半は食べてしまうとか、「健全で行儀の良い童話」からは外れた描写が色々と登場する。
だからシニカルな切り口から描くとか、ブラック・ユーモアで飾り付けるとか、そういうアプローチなのかと思ったが、そこまで徹底して振り切っているわけでもない。
中途半端な味付けに留まっている。
頭巾を奪おうとしたパン屋の脛を蹴り上げたり、頭巾をプレゼントした礼として頬にキスされたら嫌がったりする赤ずきんのキャラクターは魅力的だけど、他の面々は総じて凡庸だし。「有名な童話のアナザー・ストーリー」と前述したが、異なっている部分に面白さが詰まっているわけではない。別々の物語が交差する部分に、面白さがあるわけでもない。
また、4つの話は有名な童話だが、そこに「パン屋夫婦の物語」を盛り込んでいる上、そこがメインになっている。
これもまた、アンバランスだと感じる。
しかも、パン屋夫婦が魔女から4つの品物を手に入れるよう言われるのは、「他の4つの話と結び付けることが目的」ってのが不恰好な形で露骨に分かっちゃうし。複数の物語のキャラクターが入り混じる構成を上手く整理できておらず、無駄にゴチャゴチャしている。また、他の物語と関わることで影響を受けたり、変化が起きたりすることも乏しい。
そもそも、それらは全て「パン屋夫婦が必要な品物を集める」という目的のために絡ませているに過ぎないのだ。
だから、どの物語も、絡む対象はパン屋夫婦の物語ばかりという状態が続く。
『シンデレラ』『ジャックと豆の木』『赤ずきん』『塔の上のラプンツェル』が互いに絡み合うシーンは、なかなか訪れない。映画開始から1時間ほど経過して、ようやくジャックと赤ずきんが遭遇する。赤ずきんの挑発に乗ったジャックが巨人のハープを盗み出すという展開になるので、一応は「他の物語に影響を及ぼす」という形になっている。
しかし、そんなことがなくても、ジャックが再び巨人の元へ行く展開は何の問題も無く普通に用意できる。
それに、「盗みを働いたジャックが追い掛けられ、斧で木を切って巨人を倒す」というのは、童話にある筋書きだ。つまり、有名な童話から内容をズラすために他のキャラが関与しているわけではない。
それと、ジャックがハープを盗んで巨人の元から逃げ出すトコも、またナレーションだけの処理なのよね。終盤に入ると、夫を殺されて激昂した女巨人が地上へ降り立ち、主要キャラの面々が退治するために協力するという展開が訪れる。
しかし、女巨人が地上へ来るまでは何の関係も無く別々で行動していたし、巨人と関わったのもジャックだけなので、まるで乗れない展開だ。
バラバラに見えていたピースが1つにまとまるという気持ち良さが、全く感じられない。
強引に合流させているけど、単なる烏合の衆に過ぎない。それぞれの話が一応のハッピーエンドを迎えた後、「バッドエンドじゃないけどハッピーエンドとも言い切れない」という微妙な結末を用意しているのも、どういうつもりなのかと言いたくなる。
完全ネタバレだが、ジャックの母、パン屋の妻、魔女は死亡し、シンデレラは王子と決別する。
残ったパン屋の主人、赤ずきん、ジャック、シンデレラは巨人を倒し、一緒に暮らすことを決めるってのが結末だ。
これ、どう受け止めればいいエンディングなのかと。魔女の処遇はともかく、なぜジャックの母やパン屋の妻を殺し、シンデレラが王子と決別する展開を用意するのか、理解に苦しむ。
パン屋の妻に関しては、「シンデレラの王子と浮気したので、その報いとして命を落とした」ということなのかもしれない。だけど、そもそも彼女と兄王子が浮気する展開自体が、すんげえ唐突で不自然なのよ。
それに、そんなことで殺すのなら、巨人の元から色んな物を盗んだジャックは絶対に死の報いを受けさせなきゃダメでしょ。
生き残る奴と死ぬ奴の基準がサッパリ分からんよ。
皮肉に満ちた味付けってわけでもなくて、ただ不愉快でモヤモヤした気持ちだけを残して映画が終わる。(観賞日:2017年7月22日)