『インシディアス 序章』:2015、アメリカ&イギリス&カナダ

ランバート家の怪奇現象の数年前。ウィーラン・パークに住む女子高校生のクイン・ブレナーは親友の母から教えてもらい、霊媒師のエリーズ・ライナーを訪ねた。エリーズは「忙しいので霊との交信はやっていない」と断るが、クインが遠方から来たと知って「話ぐらいなら」と招き入れた。クインは1年半前に癌で死んだ母のリリーと話したいのだと明かし、「今でも近くにいる気がする。夜中に目覚めて、置いた覚えの無い場所に日記があったり」と語った。
どうしても母に聞きたいことがあるのだとエリーズが訴えると、エリーズは仕事ではなく好意で交霊を引き受けると告げる。彼女は封印している交霊室を使わず、その場でリリーの魂に呼び掛けた。しかし悪霊の存在に気付いたため、彼女は「来ないで」と怯えて交霊を中止した。エリーズはクインに、「他の霊能者に頼んで。二度と自分では話し掛けないで。全ての死霊に聞こえるのよ」と忠告した。しかしアパートへ戻ったクインは夜中に気配を感じ、「ママ?」と話し掛けた。通気口から気配を感じた彼女は、立ち上がって覗き込もうとした。すると通気口の蓋が突如として外れたので、クインは驚いた。
翌朝、起床したクインは、配線工事の仕事をしている父のショーンと言い争いになる。弟のアレックスは同じアパートに住むヘクターが姉に惚れていると知っており、彼に遭遇すると茶化した。グレースという老女も同じ階に住んでおり、その言動から住人たちにはボケていると思われている。演劇学校のオーディションに赴いたクインは、ある男の影に気付いた。上手く台詞が話せなかったクインは父に練習を邪魔されたせいだと感じ、親友であるマギーの前で不満を漏らした。
マギーと別れたクインは、道の向こうで手を振る男の影を目撃した。その直後、クインは車にひかれて病院へ運ばれた。手術を受けて回復した彼女は、ショーンに「何か覚えてるか?」と訊かれて「マギーと一緒にいたら、男の人が手を振ってた。たぶん劇場にもいた人」と説明した。両足を骨折したクインは、3週間後に車椅子で退院した。彼女がアパートへ戻ると、グレースが来て「息の出来ない男が通気口に住んでる。昨夜、アンタの名前を呼んでた。今も部屋で待ってる。その内に会うよ」と告げた。
ショーンは自由に動き回れないクインのため、呼び出し用のベルを渡した。その夜、グレースの言葉を思い出したクインが不安を抱いていると、急にベルが鳴った。ショーンが来て「呼んだか?」と尋ねたので、クインは「いえ、平気」と告げた。クインは壁のノックを聞き、隣に住むヘクターだと感じた。クインが壁を叩くと、反応があった。しかし彼女がヘクターにメールを送信すると、自宅にいないことが判明した。クインが改めて壁をノックすると、返事は無かった。
寝ようとしたクインは、天井から出現した不気味な腕に引っ張られて悲鳴を上げる。ショーンが駆け付けると腕は消えており、彼は天井のヒビに気付く。ショーンは管理人に連絡し、真上の514号室を見せてもらう。そこには誰も住んでいないはずだが、黒い足跡が残っていた。次の朝、クインは1ヶ月前にエリーズと会ったことをショーンに明かした。ショーンが「霊能者なんてロクなもんじゃない」と告げると、クインは「パパはママの話を避けてる。存在を無視してる」と反発する。ショーンは「違う」と否定し、「毎日、思い出してる。お前を見る度に」と述べた。
エリーズはクインのことが気になっており、リリーの魂に「娘さんが危ないの。力を貸して」と呼び掛けた。しかしリリーからの反応は無く、床に黒い足跡が出現する。エリーズが足跡を辿ると地下の交霊室へ続いており、封印したはずの扉が開いていた。エリーズは「何が目的?母親じゃないわね。クインを騙してる。姿を見せなさい」と言いながら、交霊室へ足を踏み入れた。しかし天井から逆さ吊りで出現した悪霊に襲われ、慌てて逃げ出した。交霊室の扉を閉めた彼女は、「無理よ。もう出来ない」と弱音を吐いた。
クインはパソコンでマギーとチャットしている最中、「隣に立っているのはアレックス?」と問われる。パソコンはフリーズしてマギーの声が途絶え、窓際に黒い人影が出現した。クインが消えた人影を捜すと、天井から出現した腕に捕まって投げ落とされた。クインが悲鳴を上げたため、ショーンが駆け付けた。怪奇現象の形跡は消えていたが、クインは「人じゃない何かに投げ出された。呼吸の補助用のマスクを付けてた」と話した。
クインは夜中に気付くと、5階の廊下に車椅子で移動していた。そこに息の出来ない男が現れ、クインを車椅子ごと514号室へ放り込んだ。顔の無い女の死霊が現れたので、クインは悲鳴を上げる。ショーンが駆け付けると、死霊は姿を消す。クインは父に、黒い足跡が残っていることを教えた。その足跡を辿ると窓まで続いており、ショーンが外を覗くと女の死体が地面に転がっていた。クインも覗き込もうとすると、窓の向こうに息の出来ない男にいて引きずり落とそうとした。ショーンが娘の危機に気付き、慌てて救助した。
ショーンはエリーズの元へ赴き、クインを助けてほしいと要請する。エリーズは1年前に鬱病だった夫のジャックが自殺したこと、彼と話したくて闇の世界へ行ったことを話す。エリーズは闇の世界から怨念を持つ女性の魂を連れ帰ってしまい、霊能力を使う度に「殺してやる」という声が聞こえるようになってしまった。このままでは確実に自分が死んでしまうと感じたエリーズは、霊との交信から足を洗うことにしたのだった。
事情を聞かされたショーンは、せめて娘と会ってほしいと要請した。エリーズはアパートを訪れてクインと話し、霊と交信することにした。しかし闇の世界に入ったエリーズは悪霊に命を狙われたため、怯えてアパートを去った。アレックスは『心霊捜査班』という幽霊退治のサイトを知っており、運営者であるタッカーとスペックスに頼もうとショーンに提案した。他に頼る相手もいないため、ショーンは2人に連絡して来てもらう…。

脚本&監督はリー・ワネル、キャラクター創作はリー・ワネル、製作はジェイソン・ブラム&オーレン・ペリ&ジェームズ・ワン、製作総指揮はスティーヴン・シュナイダー&ブライアン・カヴァナー=ジョーンズ&チャールズ・レイトン&ピーター・シュレッセル&リア・ブーマン&ザヴィエル・マーチャンド、共同製作はリック・A・オーサコ&ジャネット・ヴォルトゥーノ=ブリル&ベイリー・コンウェイ&フィリップ・ドウ、製作協力はローラ・アルトマン、、撮影はブライアン・ピアソン、美術はジェニファー・スペンス、編集はティム・アルヴァーソン、衣装はアリイェラ・ワルド=コヘイン、音楽はジョセフ・ビシャラ。
出演はダーモット・マローニー、ステファニー・スコット、リン・シェイ、アンガス・サンプソン、リー・ワネル、ヘイリー・キヨコ、テイト・バーニー、マイケル・リード・マッケイ、トム・ギャロップ、フィリス・アップルゲイト、スティーヴ・コールター、コーベット・タック、トム・フィッツパトリック、ジェリス・リー・ポインデクスター、エル・キーツ、フィル・エイブラムス、エリン・アンダーソン、アマリス・デヴィッドソン、アシュトン・モイオ、ルーベン・ガーフィアス、フォーン・アイリッシュ他。


シリーズ第3作。これまで脚本を手掛けてきたリー・ワネルが、初監督を務めている。
前2作で監督を担当していたジェームズ・ワンは、製作に回っている。
エリーズ役のリン・シェイ、タッカー役のアンガス・サンプソン、スペックス役のリー・ワネルは、このシリーズのレギュラー出演者。
ショーンをダーモット・マローニー、クインをステファニー・スコット、マギーをヘイリー・キヨコ、アレックスをテイト・バーニーが演じている。

3作目だが、2作目の続きや「その後」ではなくて、前日譚を描く内容となっている。ザックリ言っちゃうと、「エリーズがタッカー&スペックスを助手にする前の出来事」を描く作品である。
なので、もう最初の段階で「エリーズもタッカーもスペックスも死なない」ということは分かっている。また、悪霊退治が成功するんだろうってことも予想できる。
前作でランバート家の問題が片付いたものの、エリーズは死亡したため、シリーズを続ける上で「その後」を描いても重要人物を欠くことになる。
それなら「前日譚」を描く方が、観客に受けるだろうという判断だったのだろう。

エリーズやタッカー&スペックスの過去を描いているが、前2作と大きくキャラクターが異なっているわけではない。
エリーズは交霊の仕事を引退し、怯えて仕事を断るけど、「困っている人を助けたい」という気持ちで行動する。タッカー&スペックスはコメディー・リリーフ的な役回りで、既にハイテク機器で幽霊退治の仕事を始めている。
「まだ3人が組む前」という以外は、大して変わらないのだ。
じゃあ「3人が組むことになるまでのドラマ」が面白いのかというと、答えはノーだ。
そもそも、そこに全く重点が置かれていないからドラマなんて無いし。

一言で言えば、「マンネリズムの極致」である。
「誰かが悪霊に狙われ、怪奇現象に見舞われる」→「最初は悪霊の仕業だと気付かないが、やがて理解する」→「エリーズがタッカー&スペックスと共に、悪霊を撃退する」というのが大まかな流れで、これは今までの2作と同じことの繰り返しだ。
っていうか、このシリーズに限らず、「これまでに作られたホラー映画で見たことがあるような気が」と思わせるような、ものすごくベタなストーリー進行である。

クインはエリーズから「二度と自分では話し掛けないでと」忠告されたにも関わらず、その夜には気配を感じて「ママ?」と呼び掛ける。愚かではあるのだが、どうしても母親に聞きたいことがあるのだから、その気持ちは理解できる。
むしろ問題なのは、邪悪な霊がいることを知ったのに、それをクインに教えず「二度と自分では話し掛けないで。全ての死霊に聞こえるのよ」という程度の忠告で済ませているエリーズの方だ。
クインを助けてあげないのなら、せめて悪霊のことぐらい教えてやれと言いたくなるのよね。それを早めに知っていれば、クインだって何らかの手を打つことも可能なわけで。
もちろん、早めに霊能者を呼んだところで、悪霊を撃退してくれるかどうかは分からないよ。ただ、序盤でエリーズの行動に大きな落ち度があるので、最終的に彼女が悪霊を撃退しても、「ただのマッチポンプ」にしか見えないという状態になっちゃうのよね。

クインはエリーズの忠告があった後、「通気口が急にガシャッとなる」「劇場で人影を見る」という出来事を体験する。
1つ目はともかく、2つ目に関しては、その段階では何の恐ろしさも無いし、怪奇現象という認識も無い。その場所に誰かがいても不思議ではないのでね。
で、そんな出来事の後、「車にひかれて大怪我を負う」というシーンが到来する。「ジワジワと静かに恐怖が忍び寄る」という演出が開始された直後なのに、それをブチ壊しにする衝撃のある出来事だ。
しかも、これは悪霊の仕業ではない。その直前にクインは悪霊を目撃しているが、そいつが車を動かしたわけではないのでね。

クインが車にひかれたのは、ただの事故だ。
なのに、怪奇現象よりも遥かに衝撃が大きいという、厄介なことになっている。
しかも、それによって入院したクインが、例えば「意識不明の状態で、夢の中で恐ろしい何かを目撃する」とか、「入院中に怪奇現象を体験する」とか、そういうことにも繋がらない。ショーンと話した後、すぐに「3週間後」ってことで退院してしまうのだ。
そうなると、その事故は何の意味があるのかと思ってしまう。

たぶん「クインが両足に怪我を負い、自由に動き回れなくなってしまう」という状況を作るために、事故を用意したんだろうと思われる。
でも、それなら最初から「足が不自由で車椅子生活をしている」ってことでも良かったんじゃないかと。
それだと「エリーズの元へ行く」とか、「演劇学校のオーディションを受ける」という部分は使えなくなる。しかし、そこを使わず別の形に変更したとして、それによるデメリットなんて何も感じないのよね。
例えばクインが演劇をやりがっていることって、ストーリー展開に何の影響も無いし。

クインは序盤でショーンと言い争っており、マギーの前で父親への強い嫌悪感を示している。
ところがクインが事故に遭った後は、そんな不和の関係なんて無かったかのように消えてしまう。
しばらく経ってから「パパはママの話を避けてる。存在を無視してる」とクインが訴えるシーンはあるけど、それはマギーに愚痴っていた時の苛立ちとは全く種類が違うしね。
どうせ「父と娘の仲が悪かったけど、解消される」というドラマを描くつもりが無いのなら、最初から仲良し親子にしておけばいいのよ。

クインは怪奇現象によって恐ろしい経験をした後も、ショーンに対して「昨日の音も、ママが話し掛けてるのかもしれない。ママ以外に有り得ない」と告げる。
それは理解し難い発言だ。
本当にママだと思っているのなら、怯えて悲鳴を上げるのは筋が通らないでしょうに。ママだと思っているのなら、なぜ怪奇現象に見舞われた時に「ママ?」と呼び掛けなかったのかと。
冒頭で「ママと話したい」とエリーズに言っていたものの、しばらく経つとその設定が完全に忘れ去られちゃうから、その辺りで取って付けたように「クインはママと話したいと思っている」ってのをアピールしているのよね。
その結果として、言動に矛盾が生じちゃってるのよ。

タッカー&スペックスは、コメディー・リリーフとまでは行かないまでも、やや軽妙なテイストのキャラとして登場する。
シリアス一辺倒で進んで来たホラーなのに、そこで急に明るく楽しいノリが入るのは邪魔でしかないが、こいつらのキャラに関しては今さら言っても仕方が無い。
それよりも気になるのは、彼らに仕事を依頼する時のアレックスだ。
彼はタッカー&スペックスと違い、本気でクインを心配し、助けてあげたいと思っているはず。それにしてはタッカーたちに依頼する時の様子が軽いし、何となく楽しそうなのよね。
こいつまで軽妙なノリに参加させちゃダメでしょ。

エリーズはショーンたちに、「通常、闇に住むタイプの霊体は生者の体を奪おうとする」と説明する。
悪霊がクインの体を乗っ取って闇から抜け出そうとしているなら分かりやすいのだが、今回のケースは「生者の魂を闇に取り込みたい者だ」とエリーズが語っている。
それなら、なぜ悪霊がクインだけを殺そうとするのかが分かりにくい。ショーンに対しては、ハッキリと「お前は生かして苦しめる」と告げているしね。
「母親と話したいクインが闇に近付こうとしたから」という解釈は成り立つかもしれないが、彼女だけが標的にされる動機としては、ちょっと弱いかなと。

「急に大きな音を出して脅かす」という手法は本シリーズの特徴なので、もちろん今回も使われている。
通気口が外れる時も、不気味な腕が出現する時も、それに合わせて急に大音量のSEを入れる。呼び出し用のベルが突如として鳴るってのも、同じ意味合いの演出だね。
急に大きな音を出せば誰だって驚くのが普通であり、恐怖演出としてのテクニックはそんなに上質なモノを求められない。
ただ、そんなことは今さら言っても意味が無い。そういう手法で観客を脅かすことに特化したシリーズなのでね。

(観賞日:2018年2月17日)

 

*ポンコツ映画愛護協会