『インヘリタンス』:2020、アメリカ

検事のローレン・モンローはウォール街の大物であるランドルフを詐欺罪で追及しており、ニューヨーク郡裁判所で集まった記者たちの 質問に応じた。ローレンは不正を徹底して糾弾しており、ランドルフの弁護士が求めた取引も拒否した。彼女の弟のウィリアムは下院議員で、再選を目指して選挙活動中だった。ローレンも応援演説を引き受けるが、ウィリアムは労働組合への便宜供与を疑われていた。そんな中、ローレンたちの父で銀行家のアーチャーが、突然の心臓発作で死去した。
アーチャーの葬儀から1週間後、顧問弁護士のハロルド・シューリスがモンロー家の面々を別荘に集めて遺言書の内容を読み上げた。妻のキャサリンには家督と取締役会の譲渡、ウィリアムには2千万ドルの相続という遺言を残したアーチャーだが、ローレンが相続するのは100万ドルに過ぎなかった。ハロルドはローレンを呼び、アーチャーから預かっていた封筒を渡した。封筒の中にはUSBメモリが入っており、ローレンがパソコンに差し込むとアーチャーの動画メッセージが再生された。
アーチャーはローレンに向けて、「これは私の過ちだ。秘密は墓まで持って行け。お前の秘密基地の近くに、答えがある。だが、真実は掘り起こすな」と語り掛けた。ローレンが幼少期に遊んだ秘密基地へ行くと、地下の隠し階段が見つかった。ローレンが階段から地下道を進むと奥には部屋があり、鎖で繋がれた男が監禁されていた。男が動いたので、ローレンは怖くなって逃げ出した。彼女は警察に電話を掛けるが考え直し、「娘が携帯で遊んでいた」と嘘をついた。
ローレンは母にも弟にも、そして夫のスコットにも、地下の部屋や監禁された男のことを話さなかった。スコットは娘のクレアを連れて、先にモンロー邸を去った。ローレンは銃を持って地下室へ行き、男が寝ているのを確認して指紋を採取した。男が目を覚ますと、彼女は顔を隠して逃げ出した。ローレンが仮面を着用して再び地下室を訪れると、男は彼女の素性や経歴を詳しく知っていた。ローレンは仮面を外し、地下室にいる理由を質問する。男はステーキなど複数の料理を用意するよう要求し、「最終的に君は真実を知り、俺を解放することになる」と自信満々で告げた。ローレンは第35分署のエミリオ・サンチェスに指紋を送り、調べるよう依頼した。
ローレンは男が要求した食事を用意し、地下室へ戻った。男は料理を食べ始めるが、地下室にいる理由を話そうとしなかった。ローレンは「戻ったら真実を離して。でなきゃ二度と来ない」と通告し、地下室を去った。彼女は検事補に電話を掛け、裁判に遅れることを伝えた。ローレンが地下室に戻ると、男はモーガン・ワーナーと名乗る。彼は若い頃にアーチャーと遊び歩いていたこと、アーチャーが酒を飲んで車を運転中に若者をひき殺してしまったこと、死体を埋めて隠蔽したことを話す。助手席にいたモーガンは隠蔽工作に手伝わなかったが黙認し、アーチャーは通報を恐れて監禁したのだと説明した。
モーガンはアーチャーが自殺をそそのかしたこともあったと話し、「生きることが復讐だった」と告げる。ローレンは「信じられない」と述べ、証拠はあるのかと詰め寄った。モーガンは薄笑いを浮かべて「説明するまでもない」と言い、アーチャーにはジプシーローズという愛称を持つ愛人のソフィアがいたこと、その関係は死ぬまで続いていたことを語る。彼はソフィアの住所を教え、自分の目で確かめるよう勧めた。ローレンはエミリオに電話を掛け、モーガン・ワーナーという行方不明者について調べるよう依頼した。
ローレンはソフィアの家へ赴き、アーチャーとの不倫関係が事実だと知らされる。ソフィアにはアレックスという息子がいて、ローレンは「貴方の弟」と言われた。ローレンはハロルドの元を訪れ、「知ってたんでしょ」と非難した。ハロルドは「私は弁護士だ」と言い、守秘義務の契約があるのでソフィアがアーチャーとの関係を暴露する恐れは無いと語る。ローレンは他にも秘密は無いのかと問い詰め、「私と弟のキャリアが懸かってるのよ」と告げる。ハロルドは「害は及ばない」と言い、放っておくよう促した。
ローレンが「モーガン・ワーナーの名前を父から聞いたことは?」と尋ねると、ハロルドは「聞き覚えが無い」と答えた。ローレンは母にもモーガンのことを訊くが、全く知らない様子だった。ローレンは地下室へ戻り、「死体の話は嘘かも」と告げる。するとモーガンは、自分を連れ出せば案内すると言う。ローレンは警戒しつつも彼の首の鎖を外し、拳銃を突き付けて地下室から連れ出した。ローレンは車を運転し、モーガンが指示する森の奥へ赴いた。ローレンが土を掘ると、白骨化した死体が見つかった。
ローレンはモーガンを地下室に連れ戻り、首枷を付けるよう要求した。モーガンは解放するよう頼むが、ローレンは「こうなったのは私のせいじゃない」と承諾しなかった。モーガンは静かに余生を送ると約束するが、彼女は「ごめんなさい」と告げて去った。翌日の法廷で、ローレンはランドルフのダミー会社のリストに「ジプシーローズ社」という名を見つけた。彼女はハロルドの元へ行き、激しく非難した。ハロルドは静かな口調で、「知らなければ罪に問われない。君はジプシーローズ社について何も知らない」と述べた。
ローレンはウィリアムと会い、「家族を破滅させる材料を持つ男がお金を必要としている」と相談する。ウィリアムは即座に、「俺なら、家族を脅す奴がいたら、金を払うか死体を川に沈める。父さんも同じだ」と語った。ローレンはモーガンに手錠の鍵を渡し、出発の身支度を指示した。彼女はハロルドと会い、「ケイマン諸島に口座を開いて100万ドルを振り込み、現金10万ドルを用意して」と指示する。さらに彼女は、偽の身分証とジェット機の手配も依頼した…。

監督はヴォーン・スタイン、脚本はマシュー・ケネディー、製作はリチャード・バートン・ルイス&デヴィッド・ウルフ&アリアンヌ・フレイザー、製作総指揮はサントシュ・ゴヴィンダラジュ&ダン・リアドン&デルフィーヌ・ペリエ&ヘンリー・ワインスタイン&サイモン・ウィリアムズ&ダニエル・ネグレ&アンダース・エアデン&セス・ウルフ&チェン・チアイン&リッチ・ゴールドバーグ&ピーター・ジャロウェイ&ガブリエル・ジェロウ=タバク&ジョセフ・ラニウス、共同製作はライアン・ウィンタースターン&アラナ・クロウ、製作協力はモネット・クレイトン&ネイサン・クリンガー、撮影はマイケル・メリマン、美術はダイアン・ミレット、編集はクリスティー・シメック、衣装はショーナ・ティスデイル、音楽はマーロン・E・エスピノ、スコア・プロデューサーはマーク・マンシーナ。
出演はリリー・コリンズ、サイモン・ペッグ、パトリック・ウォーバートン、コニー・ニールセン、チェイス・クロフォード、マイケル・ビーチ、マルク・リチャードソン、レベッカ・アダムス、アレック・ジェームズ、ジョシュ・マーレイ、マライア・フランシス、ジョー・ヘレラ、ルーカス・アレキサンダー・アユーブ、リディア・ハンド、ジム・E・チャンドラー、ドナ・レイ・アレン、クリスティーナ・デローサ、ハートリー・バーチ、マリ・カスヤ、クリス・ガン、タッソー・トゥールーピス、グレイ・マリーノ、ケニーシャ・ジョンソン他。


『アニー・イン・ザ・ターミナル』のヴォーン・スタインが監督を務めた作品。
脚本のマシュー・ケネディーは、これがデビュー作。
ローレンをリリー・コリンズ、モーガンをサイモン・ペッグ、アーチャーをパトリック・ウォーバートン、キャサリンをコニー・ニールセン、ウィリアムをチェイス・クロフォード、ハロルドをマイケル・ビーチ、スコットをマルク・リチャードソン、ジェンをレベッカ・アダムス、クレアをマライア・フランシス、エミリオをジョー・ヘレラが演じている。

モーガンの話を聞いたローレンは「信じられない」と言い、父の犯罪を裏付ける証拠を見せるよう要求する。モーガンは「説明するまでもない」と述べ、ソフィアとの浮気について語る。
ソフィアとの浮気が真実であっても、それ以外の部分も真実だとは限らない。ところがローレンはソフィアを訪ねて父との関係が事実だと知ると、モーガンの話を全て事実だと信じ込む。
だが、こっちはローレンほどボンクラでも単純でもないので、そう簡単にモーガンの言葉を信じる気にならない。
むしろ、証拠の提示を要求されたのに真正面から返答せずに話を摩り替えたことによって、「こりゃ嘘をついてるな」という気持ちが強くなる。

この映画には致命的な欠陥があって、それは「アーチャーがモーガンを殺さずに監禁し続けた理由がサッパリ分からない」ってことだ。
どう考えたって、事故を起こした直後に始末しておくべきでしょ。
モーガンは「自殺をそそのかされた」と話しているけど、そこまでするぐらいなら、例えば薬を飲み物に混入して殺すとか、そういう方法だって取れたはずで。
ずっと監禁を続けただけでなく、ローレンに後を引き継ぐよう遺言を残すとか、ホントに意味不明なのよ。

この映画が何をやりたいのかは、痛いほど良く分かる。
ようするに、ローレンとモーガンの関係で『羊たちの沈黙』っぽいことをやろうとしているんだろう。ローレンがクラリス・スターリングで、ハンニバル・レクター博士ってことだ。
モーガンを何もかも見透かしている男として描き、拘束されている立場なのに常に余裕があってヒロインの上を行くような態度を取らせる。一方、ローレンは秘密を探りたくて必死になり、優位に事を運ぼうとするが全く通用せず、モーガンに翻弄されて心を乱される。
この関係を使って、サスペンスを盛り上げていこうという作品だ。

ローレンとモーガンの関係描写だけを切り取れば、そんなにマズい状態には陥っていない。モーガンはハンニバル・レクターと比較するまでもないぐらい、「何でもお見通しの謎めいた男」としての弱さは否めないが、話の運び方として大きなミスは犯していない。
ただし、ローレンのボンクラぶりは、かなり呆れるモノになっている。
車を運転する間は拳銃を向けられないので、モーガンが抵抗したり脱出を図ったりする恐れもある。また、土を掘り起こす仕事はモーガンに命じればいいのに、なぜか自分でやる。その間、モーガンには待機させているが、隙を見て逃亡を図る恐れもある。
モーガンは逃げずに留まったけど、その辺りの行動は隙だらけだ。

一方、そこでモーガンが全く逃げようとしないのも、それはそれで「なんでだよ」と言いたくなる。そのくせ地下室に戻ってから「自由にしてくれ」と懇願するので、「こいつもボンクラだな」と言いたくなる。
終盤に入ってモーガンの正体や目的が明らかになると、その時に逃げなかった理由は分かる。しかし同時に、ポンコツ度数は一気に上昇する。
ネタバレだが、彼の目的は復讐だ。だったらローレンが手錠の鍵を渡して自由になれた時点で、もう復讐に取り掛かれるだろ。
なんでローレンが飛行場まで案内してハロルドに後を委ね、その場から去るまで行動に出ないのか。そこまで待つ理由が何も無い。

完全ネタバレを書くと、モーガンというのは偽名だ。それはアーチャーが車でひき殺した男の名前で、モーガンの実名はカーソンだ。
彼はキャサリンをレイプし、それを知ったアーチャーが車で連れ出した。その時にアーチャーがモーガンをひき殺してしまうと、カーソンが死体を埋めて隠蔽を図った。
アーチャーはカーソンを殴って気絶させ、地下室に監禁したのだ。
また、アーチャーの死は毒殺だ。彼は毒でカーソンを殺そうとしたが、気付いたカーソンがチェスの最中に毒を刺し、アーチャーは逃げ出すが死亡したのだ。

そんな真相をローレンが知るのは、キャサリンに散らかした資料を見られたからだ。
彼女は別荘で机の上に資料を散らかしたまま、外出してしまう。そこへキャサリンが訪問し、机の上に置いてあったカーソンの写真に気付くのだ。
なぜローレンが資料を散らかしたまま外出するのか、サッパリ分からない。あまりにも脇が甘すぎるだろ。
「キャサリンがカーソンの存在を知り、ローレンが釈明することで事実が明らかに」という手順を消化するために、かなり無理をしていると感じるぞ。

カーソンが悪党だと知ったのに、ローレンはキャサリンを別荘に残したまま飛行場へ向かう。そこでハロルドの死体を発見し、慌てて車で別荘に向かいながらキャサリンに電話する。
しかし電話は繋がらず、地下室へ行くとキャサリンが倒れている。カーソンはローレンに呼び掛け、自分を追わせてから襲う。
でも、そんな手間と時間を掛ける必要がどこにあるのか。
目的が復讐なら、まず地下室にキャサリンを連れて来る意味も無いし、ローレンが来た時も不意打ちで襲えばいい。余裕を見せたかったんだろうが、隙だらけのバカにしか見えない。
っていうか実際、バカなんだけどさ。

真相が明らかになると、ますますアーチャーが長きに渡って監禁を続けた理由がサッパリ分からない。
カーソンは「殺すより酷い目に遭わせようとした」と言っているけど、だったら今になって毒殺しようと目論んだ理由は何なのか。「その場で殺すより酷い目に遭わせるため」ってことで監禁するにしても、そのまま食事を与えずに放置し、衰弱して死なせりゃいいんじゃないかと思うし。
こいつの思考回路は、サッパリ分からん。
あと、これも完全ネタバレだが、最後の最後でローレンがカーソンの娘だと判明する。
でも、ストーリー展開に何の影響も及ぼさないので、「それは何のための設定だよ」と言いたくなる。

(観賞日:2022年11月11日)

 

*ポンコツ映画愛護協会