『あきれたあきれた大作戦』:1979、アメリカ
財務省造幣局の輸送車が覆面強盗団に襲撃され、ドル札の原板が奪われた。強盗団のリーダーはヴィンス・リカルドと会い、原版を入れた鞄を渡した。ボスが明日までに150万ドルを用意するよう言っていることをリーダーが伝えると、ヴィンスは「無理だ。息子が日曜に結婚する。忙しくて嫁の両親とも会ってない」と語る。しかしリーダーが「ボスが明日だと言ってる」と告げると、彼は「分かった。何とか集めてみる」と述べて立ち去った。
歯科医のシェルドン・コーンペットは患者のハーショーンに、娘のバーバラが結婚することを話した。結婚相手のトミーはエールの法科で、その父親は国際的な顧問業だと彼は聞いていた。その夜はコーンペット家にトミーと両親が来て、双方の家族で会食する予定になっていた。トミーたちは1時間以上も遅れて到着し、父親のヴィンスは「出張でカナダに行ってた」と説明した。彼が「グアテマラに9ヶ月ほど滞在していた。ワシほどもあるハエが子供たちを連れ去った。クチバシがあるハエで、1917年には天然記念物に指定されてる」などと会食中に喋ると、シェルドンは眉唾な情報だと感じた。
ヴィンスは長距離で外国人と話したいと言い出し、なるべく遠い場所の電話を貸してほしいと頼む。シェルドンは地下室へ行くよう促し、トミーは呆れた様子で「いつも隠れて謎の電話をしている」と口にした。ヴィンスが急に泣いたり怒ったりするので、ますますシェルドンは不審に思った。ヴィンスは地下室で強盗団のボスに連絡し、「明日までに金は無理だ。これは国際的な仕事で、麻薬を売るのとは違う。こんなこともあろうかと、1つ抜いておいた」と語る。電話を切った彼は、地下室のパイプに原版を隠した。
リカルド一家が帰った後、シェルドンはバーバラに「あの父親は様子が変だ」と告げて結婚に反対する。しかしバーバラが怒って反発すると謝罪し、もう少しヴィンスに心を開くよう求められて「分かった」と承諾した。翌日、ヴィンスはタクシーで地球商会の事務所へ向かうが、モーとアンジーの2人組が待ち伏せていたので通り過ぎた。彼はシェルドンの歯科医院を訪れ、少し抜けられないかと頼む。「患者が待ってる」とシェルドンは断るが、ヴィンスがしつこく頼むので受け入れた。
ヴィンスはシェルドンに「ウチのオフィスで金庫破りをしてくれ」と言い、タクシーに乗せた。彼は暗証番号のメモと入り口の鍵を渡し、「黒い鞄を持ち出してくれ。ビルの前にいる2人組には鞄を見られないでくれ」と説明した。「そいつらの狙いは何だ?」とシェルドンが訊くと、ヴィンスは「勘繰るな。商売の競争は厳しい」と述べた。シェルドンは事務所に入り、金庫から鞄を取り出した。モーとアンジーはドアを壊し、銃を発砲した。シェルドンは窓から抜け出し、非常階段で逃亡した。
ヴィンスはタクシー運転手とバーでお喋りし、仕事を問われてCIAだと答えた。シェルドンはモーとアンジーに追われながら、タクシーに辿り着いた。ヴィンスはモーを殴って昏倒させ、アンジーの銃を撃ち落とした。彼が運転手にタクシーを発進させると、シェルドンは怒りをヴィンスにぶつけた。シェルドンが「俺の前から消えろ」と怒鳴ると、ヴィンスは「これは造幣局で盗まれたドル札の原板だ。君はこの重大犯罪に手を貸した。捕まれば40年の懲役刑だ」と脅しを掛けた。
シェルドンの妻のキャロルは結婚式の準備をしている最中、地下室で原版を見つけた。彼女は原版を銀行に持ち込み、支配人に呼ばれた。ヴィンスは自分がCIAだとシェルドンに言い、「重大な理由がある。全ては欧米諸国に対する中南米の経済闘争だ」と説明を始めた。英国、ドイツ、スイスの原板を中南米の組織が盗み、大量の紙幣を刷った。中南米の小国は西側諸国に多額の借金を抱えているため、猛烈なインフレを起こして帳消しにしようと目論んだのだとヴィンスは説明した。
ヴィンスはシェルドンに、「昨日、私が盗ませた原板が彼らの手に渡れば準備は完了だ。通貨への信頼が失われ、世界は大混乱だ。そこで私は言った。我々が原版を盗み、プロのギャングを使って売り込み、それを餌にして中南米の連中をおびき出すと」と話す。しかし、その作戦は危険だからという理由で却下され、ヴィンスは勝手に行動していた。地下室に原版を隠したことを知らされ、シェルドンは憤慨した。するとヴィンスは、「騒ぐな。20時間後には始末する。ディック・トレーシーを名乗る探偵風の男に渡せ」と告げて去った。
財務省の役人たちはシェルドンが原版を盗んだ犯人だと疑い、リカルド家に乗り込んだ。帰宅したシェルドンは政府の車に気付き、慌てて逃亡した。彼は追われる身になり、キャロルはヴィンスのせいだと悟った。シェルドンは何とか追っ手を撒き、妻のジーンや友人夫婦と家でバーベキューを楽しんでいたヴィンスに電話を掛けた。状況を聞かされたヴィンスは、「家には帰るな。逮捕される」と忠告した。彼は「スクラントンへ向かう。2時間で済むから付き合え。戻ったら全て解決だ」と言い、マグロウ飛行場へ行くよう指示した。
シェルドンが飛行場に着くと、ヴィンスは飛行機と乗員を用意して待っていた。彼はジェルドンに「スクラントンの前に寄る場所がある」と言い、ホンジュラスの南にあるティハダへ行くことを告げた。シェルドンが当惑していると、ヴィンスは落ち着き払って「飛行場で議会の黒幕であるヘサス議員に会う。有害には組織のボスのガルシア将軍の所へ向かう。原版を渡すと2千万ドルを寄越す。そこを逮捕だ」と説明した。シェルドンは逃げ出そうとするが、ヴィンスに制圧された。
ヴィンスとシェルドンが飛行場に降り立つと、ヘススが待ち受けていた。しかし物陰に隠れていた連中にヘススが射殺され、ヴィンスたちも命を狙われた。2人はヘススの車を使って飛行場から逃亡し、ホテルに向かった。ヴィンスはガルシアに電話を入れ、すぐにタクシーで向かうことを伝えた。シェルドンは部屋を抜け出し、大使館に電話を掛けて情報部のラッツに繋いでもらう。彼が事情を話すと、ラッツは「ヴィンスは精神的な疾患でCIAを辞めてる」と告げられた。
ラッツはシェルドンに、「ヴィンスは何か思いつくと、危険なことでも平気でやる無謀な男だ。最悪のケースでは6人の犠牲者が出た」と語った。シェルドンが焦っていると、彼は「君のためにも家族のためにも、彼から離れなさい」と警告した。電話を切ったシェルドンは、ヴィンスが来たのでクビになったと聞いたことを伝えた。彼は隙を見て逃亡を図るが、ヴィンスに取り押さえられた。ヴィンスは「誰が君の相手を本気でする?スパイだと困るからクビだと嘘を言ったんだ」と話すが、シェルドンは同行を拒否する。ヴィンスはタクシーで出発するが、シェルドンは飛行場の連中が尾行するのに気付いて助けに向かった…。監督はアーサー・ヒラー、脚本はアンドリュー・バーグマン、製作はアーサー・ヒラー&ウィリアム・サックハイム、製作総指揮はアラン・アーキン、製作協力はドロシー・ワイルド、撮影はデヴィッド・M・ウォルシュ、美術はパト・ガスマン、編集はロバート・E・スウィンク、音楽はジョン・モリス。
出演はピーター・フォーク、アラン・アーキン、リチャード・リバティーニ、ナンシー・デュソールト、ペニー・ぺイザー、アーレン・ゴロンカ、マイケル・レンベック、ポール・ローレンス・スミス、カーマイン・カリディー、エド・ベグリーJr.、サミー・スミス、ジェームズ・ホン、バーバラ・ダナ、ロジカ・ハルモス、アルヴァロ・カルカノ、ホルヘ・ゼペダ、セルジオ・カルデロン、デヴィッド・ペイマー、ケント・ウィリアムズ、ジョン・ハンコック、ジョン・フィネガン、ブラス・アダムス、エドゥアルド・ノリエガ、ダニー・クワン、モーリス・スニード他。
『ラ・マンチャの男』『大陸横断超特急』のアーサー・ヒラーが監督を務めた作品。
脚本は『ブレージングサドル』のアンドリュー・バーグマン。
ヴィンスをピーター・フォーク、シェルドンをアラン・アーキン、ガルシアをリチャード・リバティーニ、キャロルをナンシー・デュソールト、バーバラをペニー・ぺイザー、ジーンをアーレン・ゴロンカ、トミーをマイケル・レンベック、モーをポール・ローレンス・スミス、アンジーをカーマイン・カリディー、バリーをエド・ベグリーJr.が演じている。一言で言うならば、1ミリも笑えないドタバタ喜劇である。
ザックリ言うと「素人の歯科医がイカれた男のせいで国際的な重大事件に巻き込まれ、犯罪者になってしまう」という話である。
いわゆる巻き込まれ型のコメディーであり、「シェルドンがヴィンスに振り回されて翻弄される」という部分が笑いの肝になる。
しかし残念ながら、シェルドンとヴィンスのコンビネーションも、アタフタするシェルドンも、ちっとも笑えないモノになっているのだ。本来なら、夕食の席でヴィンスがデタラメな話を饒舌に喋ったり、感情がコロコロと切り替わったりした時点で面白さを感じなきゃマズいはずだ。
だけど、ピクリとも気持ちが動かない。
この時点でシェルドンはヴィンスに不審を抱いているが、なぜか金庫破りを頼まれた時には素直に応じている。
「事務所の金庫から鞄を持ち出してくれ」「ビルの前にいる2人組には鞄を見られないでくれ」と頼まれた時点で怪しさ満点なのに、そこで全く躊躇しないのは引っ掛かるぞ。シェルドンがモーとアンジーに追われ、命を狙われているのに、ヴィンスはバーで呑気にタクシー運転手とお喋りしている。
身に危険が及ぶような作戦に無関係な人間を巻き込んでおいて、罪悪感は微塵も抱いていない。
もちろん、それでも笑えりゃ何の問題も無い。だけどシンプルに、「ヴィンスか身勝手で不愉快な奴でしかないし、シェルドンが不憫でしょうがない」と感じるだけだ。
ティハダに着いた後も、飛行場で命を狙われたり、ガルシアに処刑されそうになったりと、シェルドンが何度も死にそうになっているけど、ヴィンスが危険な仕事に巻き込んだことへの罪悪感を抱いている様子は皆無だし。2人の関係性を考えると、翻弄されるシェルドンがアタフタしたり怒ったりして感情を大きく表現するので、振り回す側のヴィンスが落ち着き払って泰然自若としているのは対比として大きく間違っているわけじゃない。
まあリアクション担当じゃなくても喜怒哀楽を大げさに表現するパターンはあるけど、そうじゃないのは別に構わない。
ただ、落ち着いたキャラで行くにしても、もっとトボけた味わいが出ても良かったんじゃないかな。シェルドンとヴィンスの関係性だけでなく、コメディーの作りとして大枠が間違っているとは思わない。
ただ、細かい計算の失敗や小さなミスの積み重ねってのもあるんだろうけど、ヴィンスのキャラにピーター・フォークが合ってないってのも大きいんじゃないか。
ヴィンスってシンプルに、コメディーとしての味が薄くて、つまんなくなっちゃってるんだよね。
ここを生真面目にして、周囲との関係で笑いを作るやり方もあるけど、そういうパターンじゃないし。いっそのこと、本当にヴィンスを「精神的な疾患で組織を解雇された危険な男」という設定にするのも1つの手だったんじゃないか。それなら、彼がシェルドンを危険な仕事に巻き込んで平気な顔をしているのも、ある程度は許容できたんじゃないか。
ヴィンスがホントに政府の仕事を遂行していて、そこに無関係の素人であるシェルドンを巻き込んでも偉そうな態度ってのが、ドイヒーな奴にしか見えないのよ。
シェルドンに何か弱みがあるとか、協力の見返りがあるとか、そういった事情は無くて、脅されて手伝うだけなのでね。
途中から使命感を覚えるとか、楽しくなるとか、そういった変化も無いし。そもそも、「ずっとシェルドンに手伝わせる必要がホントにあるのか」ってのが、大いに疑問なんだよね。
シェルドンが財務省に捕まると自分の作戦も台無しになっちゃうので、それを避ける意味でも逃がそうってのは分かるのよ。
ただ、ティハダへ連れて行って、ヘススとの面会やガルシアとの取引にも同行させようとするのは、「それは別にヴィンスだけでも良くないか」と。
そういう行動におけるシェルドンの仕事って何も無くて、ホントに単なる同行者に過ぎないわけでね。「バーバラとトミーの結婚」というイベントに向けて話が始まるのだが、これがメインのストーリーに絡んで来ることは全く無い。
その要素はヴィンスとシェルドンを出会わせるために使われるだけで、その役目が終わったら、ずっと放置される。っていうか、実質的には捨てられている。
最後は結婚式のシーンが用意されているけど、帳尻合わせにも程がある。
ヴィンスとシェルドンの家族がスパイ活動と関わることも、ほとんど無いしね。(観賞日:2024年12月31日)