『アイス・ロード』:2021、アメリカ

カナダのマニトバ州にあるカトカ鉱山では、作業員たちがダイヤモンドの採掘を行っていた。レネ・ランパードはメタンセンサーが切れていることに気付き、現場主任のマンキンスに知らせる。マンキンスが「電池切れだろ。カナリアを飼え」と軽く言うと、「メタンガスは命取りだ。センサーを切るな」とレネは声を荒らげた。センサーがガス漏れを検知せず、爆発事故が発生した。「ガスの突出だ」とレネが言うと、同僚のコーディーが「有り得ない」と口にした。坑道は崩れ落ち、作業員2名が死亡して26名が生き埋めになった。
ノースダコタ州ペンビナ郡。トラック運転手のマイク・マッキャンは、整備士として働く弟のガーティーが同僚からイジメを受ける様子を目撃した。マイクは同僚を殴り倒し、弟と共に解雇された。マイクはガーティーを退役陸軍病院へ連れて行き、タルボット医師に「弟を連れ回るのも限界だ。訓練で自立できますか」と相談した。事故を知った天然資源省のオトゥール次官は、カトカ鉱山のGMのシックルと社長のトマソンに電話で説明を求めた。彼はウィニペグ空軍基地の民間緊急事態担当官に連絡し、救出に必要な坑口装置の運搬を要請する。しかし担当官は「空輸は無理です」と言い、トラックで陸路を使う以外に手は無いと告げた。
オトゥールはアイス・ロードに詳しい鉱山安全課のマックス・タリーを思い出し、協力を求めた。運送会社を営むジム・ゴールデンロッドは、タリーから30時間で坑口装置と管を運ぶ仕事を要請された。運転手は休暇に出ており、アイス・ロードは3月で封鎖されているため、普通に考えれば受けられない仕事だった。しかしジムは作業員を救うため、「アイス・ロードを政府に開放させて、俺が運転手と整備士を手配すれば可能だ」とタリーに告げた。
マイクはガーティーの検査が一向に終わらないので、気になって様子を見に行く。するとガーティーは向精神薬を投与されており、マイクは腹を立てて連れ出した。カーディーが自前のトラックを欲しがると、マイクは「20万もするんだぞ」と言う。アイス・ロードの運転手を急募していると知った彼は、弟を連れて面接会場に向かった。ジムは運転手を確保するため、収監されているタントゥーの保釈金を支払う。タントゥーはジムの元部下で、作業員のコーディーを心配して仕事を引き受けた。
マイクはジムと会い、弟がイラク戦争で傷を負って失語症の後遺症に苦しんでいることを説明した。ジムはガーティーの整備の腕前を確認し、すぐに採用を決めた。シックルは部下のフレッドに指示し、モールス信号で閉じ込められた作業員との交信を試みる。コーディーたちはモールス信号に気付き、26名の生存を知らせた。シックルはガスを抜いてから坑道を爆破する計画を伝えるが、救助の時間が遅れれば酸素が無くなって全員が死亡する危機は残されていた。
ジムは3基の坑口装置を用意し、3台のトラックで運ぶことにした。カトカ保険会社のトム・ヴァルネイも同行することになり、ジムはタントゥーと同乗するよう指示した。マイクとガーティー、タントゥーとヴァルネイ、ジムは3台のトラックで出発し、アイス・ロードに入った。最後尾を走っていたジムのトラックが動かなくなり、マイクはナイロンベルトで牽引しようとする。しかし氷が割れてトラックの後輪が沈み、ジムの左足にロープが巻き付いてしまう。
タントゥーは慌てて助けようとするが、ジムは他のトラックも巻き添えになると感じてロープを切るよう指示した。タントゥーは止むを得ず指示に従い、ジムは氷の中に沈んだ。氷の崩壊が広がったため、マイクたちはトラックが繋がれたまま発進する。スピードを上げるとトラックは横転するが、そのおかげで氷の崩壊は止まった。一方、レネはコーディーの「有り得ない」という言葉を思い出し、「なぜ有り得ない?」と尋ねる。「そう聞いた」という言葉に「誰から聞いた?」とレネは質問するが、明確な返答は無かった。
マイクはタリーに連絡し、トラック1台が沈んでジムが死んだことを伝えた。ヴァルネイが「引き返すだろ」と言うと、彼は「半分以上も来た」と進むことを告げる。マイクは嵐が迫っていることを教え、「帰りたければ急いだ方がいいぞ」と述べた。ヴァルネイは「事故の原因を知りたくないか」と言い、ジムのトラックが動かなくなったのはタントゥーの仕業だと吹き込んだ。タントゥーはトラックを盗んでジムの会社をクビになっており、恨みを抱いていたのだとヴァルネイは説明した。
マイクは「タントゥーが軽油ではなくガソリンを入れた」というヴァルネイの説明を信じ、タントゥーを追及した。マイクが「金を独り占めする気か」と責めると、タントゥーは鉱山に異母兄のコーディーがいることを話して「早く助けに行かないと」と訴える。タントゥーはマイクに動かないよう命じられ、銃を構えた。背後からガーティーが銃を奪い、タントゥーを取り押さえた。マイクはガーティーに彼女を縛るよう指示し、「会社に照会する」と告げた。
マイクはタリーに電話を掛け、「タントゥーがガソリンを入れた。コーディーについて調べてくれ」と話す。マンキンスは「このままだと酸素が足りなくなる」とレネたちに語り、人減らしをすると言い出した。レネは反対するが、マンキンスは多数決を取って決めると告げる。コーディーは「お前がヤバいからだろ。ペテン師の上に人殺しだとはな」と、嫌味っぽく告げた。マイクはトラックを引き起こし、荷物を調べようとする。彼とガーティーが荷台に入ると、ヴァネルイは扉を閉めて閉じ込めた。
ヴァネルイはタントゥーのトラックに戻り、おとなしくするよう脅す。タントゥーが抵抗を試みると、彼は殴り付けて昏倒させた。彼はダイナマイトを仕掛け、トラックを発進させた。マイクとガーティーはパイプを使って扉を壊し、荷台から脱出した。マイクはトラックの下に仕掛けられたダイナマイトを発見し、急いで投げ捨てた。ヴァルネイはマイクたちの携帯も銃も工具も、全て持ち去っていた。荷台の前輪が割れた氷に沈んだため、マイクとガーティーは引き上げようとする。ウインチが外れてガーティーが氷に沈み、マイクは急いで救助した。トレーラは氷に沈み、マイクとガーティーはトラクタ部分だけで脱出した。
ヴァルネイはシックルと合流し、タントゥーを事故に見せ掛けて崖から転落死させるよう指示された。レネは会社の幹部がノルマを優先してガス漏れの危険性を軽視していたこと、マンキンスたちが金を貰ってセンサーを止めていたことを知った。彼はライターで火を付けると脅し、「全員で生きるか、全員で死ぬかだ」とマンキンスの人減らしを阻止した。目を覚ましたタントゥーは、ヴァルネイと格闘してトラックを奪った。タントゥーが逃走する際、ヴァルネイは燃料ホースを外した。
タントゥーはヴァルネイとシックルの手下たちに追われ、マイクに無線で助けを求めた。彼女はマイクに、「会社はガスを放置して作業員もろとも葬るつもり」と伝えた。タントゥーの元へ急ぐマイクとガーティーは、襲って来るシックルの手下たちを始末した。タントゥーは燃料切れでトラックが停止し、ヴァルネイに追い詰められる。そこへマイクが駆け付け、ヴァルネイを車ごと崖下に転落させた。マイクはガーティーにタントゥーのトラックを修理させるが、ヴァルネイが雪崩を起こして抹殺しようと目論む…。

脚本&監督はジョナサン・ヘンズリー、製作はリー・ネルソン&デヴィッド・ティシュ&シヴァニ・ラワット&アル・コーレイ&バート・ローゼンブラット&ユージン・ムッソ、製作総指揮はデヴィッド・ビューロウ&キース・レイ・パッマン&ジャレッド・D・アンダーウッド&アンドリュー・C・ロビンソン&アダム・レボヴィッツ&ジュリー・ゴールドスタイン&コナー・フラナガン&リサ・ウィルソン&マイルズ・ネステル&ジョナサン・ダナ&モニカ・レヴィンソン、共同製作はジョン・レオネッティー&ケアリー・デイヴィース、撮影はトム・スターン、美術はアーヴ・グレイウォル編集はダグラス・クライズ、衣装はヘザー・ニール、視覚効果監修はトリスタン・ゼラファ、音楽はマックス・アルジ、音楽監修はローラ・カッツ。
主演はリーアム・ニーソン、共演はローレンス・フィッシュバーン、ベンジャミン・ウォーカー、アンバー・ミッドサンダー、マーカス・トーマス、ホルト・マッキャラニー、マーティン・センスマイヤー、マット・マッコイ、マット・サリンジャー、チャド・ブルース、アダム・ハーティグ、ブラッドリー・サワツキー、マーシャル・ウィリアムズ、ポール・エシェンブル、アーン・マクファーソン、ガブリエル・ダニエルズ、ナターシャ・エリース・コツベイ、ローレン・コクラン、ハリー・ネルケン、アル・コーレイ、ポール・メイゲル、ロバート・ネイハム、ジャクリーン・ローウェン、アリシア・ジョンストン他。


『パニッシャー』『キル・ザ・ギャング 36回の爆破でも死ななかった男』のジョナサン・ヘンズリーが脚本&監督を務めた作品。
マイクをリーアム・ニーソン、ジムをローレンス・フィッシュバーン、ヴァルネイをベンジャミン・ウォーカー、タントゥーをアンバー・ミッドサンダー、ガーティーをマーカス・トーマス、レネをホルト・マッキャラニー、コーディーをマーティン・センスマイヤー、シックルをマット・マッコイ、トマソンをマット・サリンジャーが演じている。

粗筋では触れなかったが、ガーティーはネズミを飼って可愛がっている。
「オツムの弱い弟がネズミを飼っていて、兄は面倒を見ているが苛立ちを覚えることもある」という関係性は、たぶんジョン・スタインベックの『二十日鼠と人間』が元ネタだろう。
そして多くの人が指摘しているように、物語の基盤になっているのは『恐怖の報酬』だと思われる。
ただし『恐怖の報酬』と違って、こちらは荷物を届けて仕事が完了するわけではない。閉じ込められている大勢の作業員を救う必要があるし、タイムリミットもある。

助けを待つ人々がいるってことは、おのずと「荷物を運ぶ側」だけの描写では済まなくなる。だから途中で坑道サイドの様子を何度か挟む構成になっている。
ただ、ホントは坑道サイドにも主要キャストを置いて、ただ救助を待つだけでなく、そっちのドラマも厚くした方が話のバランスがいいんじゃないかと思うんだよね。
それを考えると、そっちにマイクの身内を置いた方が良かったんじゃないか。
赤の他人を助けに行かせるより、そっちの方が使命感や切迫感も増すだろうし。

もちろんマイクだって、仕事としては「大勢の従業員が閉じ込められていて、30時間で到着しないと死ぬ」という説明は受けている。でも、理屈では分かっていても、助ける相手は顔も名前も知らない赤の他人だ。
なので冷たい言い方をすると、「知らんがな」ってことになる。
そもそもマイクが仕事を受けたのは「トラックを買う金を稼ぐため」であって、「大勢の従業員が閉じ込められている」と知ったからではないのだ。
人命救助なんてことは、面接に言った時点では全く知らないのだ。

それでも、「最初は金目当てで引き受けた仕事だが、途中で使命感や正義感が芽生える」という展開にすることは出来る。
コーディーが閉じ込められているという設定を利用し、「タントゥーの切なる思いに心を打たれ、命懸けで仕事を成功させようという気になる」という流れにすることも可能だろう。
でも、そんな展開は無い。
それどころか、マイクがタントゥーを「金目当てでジムを殺した犯人」と疑う展開が用意されているのだ。

ただ、こっちはコーディーが鉱山にいることを最初から知っているので、タントゥーがジムを殺していないのも分かり切っている。なので、そのミスリードは何の意味も無い。
タントゥーが「兄を救いたい」と必死に訴えているのに、マイクが「トラックにガソリンを入れてジムを殺した」と決め付けているのも、アホにしか見えない。そしてアホにしか見えないだけでなく、ちょっとイラつく。
あとタントゥーを犯人扱いすることでヴァルネイが真犯人なのもバレバレになるし、どの面から見てもプラスが無い。
しかも、完全に失敗ではあるが、持ち込んだ以上はタントゥーのミスリードをしばらく続けるのかと思ったら、すぐにヴァネルイが本性を現すんだよね。
なので、ますます「マイクがタントゥーを疑う」という手順がバカバカしくなっている。

無序盤でマイクとガーティーの関係を描いたんだから、本来ならば「兄弟の絆」を軸にしてドラマを描くべきだろう。
しかし、いざ仕事が始まると、「別にガーティーっていなくても良くねえか」とか、「そのポジションは弟じゃなくて良くねえか」とか、「ガーティーが脳に障害を負っている設定は無くても良くねえか」とか、そんなことを思ってしまう。
マイクは当然のことながら、「仕事をやり遂げる」とか「ヴァルネイを倒す」という部分に意識が向かうので、「弟の世話が大変」とか「弟を守らないと」という部分を使う展開は乏しい。
彼がガーティーを救助して詫びるシーンはあるけど、それよりもタントゥーを助ける要素の方が遥かに大きいし。

ガーティーは、大半の時間で「マイクの同行者」という役割に留まっている。
ただ、このプロットで「マイクの相棒で整備士」という場所に弟を配置したら、「兄弟の絆」を扱うのが難しくなるのは「そりゃあ、そうなるよな」と感じるんだよね。
ここに置くのなら、せめてヴァルネイが連行して始末しようとする役目でも担当させないと厳しいんじゃないか。
でもまあ、繰り返しになるけど、やっぱり鉱山にガーティーを置いた方が良かったんじゃないかな。

マイクとガーティーが兄弟で、タントゥーとコーディーが腹違いの兄妹なので、ここの関係を重ねる形で使うのかなあと思っていたのよね。
でも実際には、「タントゥーとコーディーは異母兄妹」という設定を、まるで使い切れていないんだよね。
まず、コーディーは自分を救うためにタントゥーが行動していることを知らないし、救助を待つ中でタントゥーのことを思い浮かべることも全く無い。だから、ここの関係は完全に一方通行になっている。
また、タントゥーにしても、もちろんコーディーを救うために仕事を引き受けた設定だが、それが無くてもキャラの動かし方は大して変わらないんじゃないかと感じるし。

完全ネタバレを書くと、終盤にガーティーはトラックを守って命を落とす。
でも、こいつを死なせる必要なんて絶対に無いと断言できる。
「トラックを守って命を落とす」と書いたけど、それも設定として「そうなっている」というだけなのよね。
実際に死亡するシーンを見た限り、「そこで彼が命懸けの行動を取る必要は本当にあるのかな」と疑問を覚えるし、そんなに盛り上がる感じも無いのよね。
そこで悲劇や感動を生みたかったのは分かるけど、なんか安っぽいし、「無駄死に」に見えちゃうのよね。

(観賞日:2023年6月20日)

 

*ポンコツ映画愛護協会