『アイ・アム・レジェンド』:2007、アメリカ

2009年、アリス・クルピン博士は、はしかウィルスを改良してガンの治療薬を開発した。薬は1万9人のガン患者に試験投与され、全員が 救われたはずだった。その3年後、ニューヨークはコ゜ーストタウンと化していた。軍の科学者ロバート・ネヴィルは愛犬サムを車に乗せ 、猛スピードで走らせていた。シカの群れが現れたので、ネヴィルは銃を構えたが、動きが速くて撃てなかった。
ネヴィルは車を降り、群れから離れたシカを狙った。だが、そこへライオンが現れ、シカに食い付いた。ネヴィルの腕時計のアラームが 鳴った。もう夕方で、もうすぐ日が暮れる。帰宅したネヴィルは食事を済ませ、サムの体を洗った。またアラームが鳴り、ネヴィルは全て のドアと窓を厳重にロックした。日が落ちて、ネヴィルは眠りに就いた。
3年前、ネヴィルは妻ゾーイと娘マーリーを車に乗せて出発した。彼はゾーイに「街を出たらATMで金を卸せるだけ卸して北へ向かえ。 農場で落ち合おう」と告げた。ゾーイに「感染が広がったの?」と問われ、ネヴィルはそれを認めた。治療薬のウイルスは人間を凶暴化 させるクルピン・ウィルスに変異していたのだ。30分後にニューヨークは閉鎖されることになっている。ネヴィルはゾーイに、「ここに 残って2週間以内に治療薬を見つける。研究を続ける」と告げた。
翌朝、目を覚ましたネヴィルは、体を鍛える運動を行った。それから地下の研究室へ行き、モルモットを使った治療薬の実験に入った。 一匹のモルモットには攻撃性の減退が見られた。ネヴィルはDVDショップへ行き、借りていたDVDを返却して新しい作品を手に取った 。ネヴィルは店内にマネキンを配置し、客や店員のように見立てている。ネヴィルは店員に見立てたマネキンのフレッドに話し掛け、客に 見立てた女性のマネキンに今度こそ話し掛けるとサムに約束した。
ネヴィルは畑でトウモロコシを収穫し、地図にチェックを付けた。既に幾つもの箇所にバツ印が書いてある。ネヴィルは銃を構えて一軒の 家に押し入るが、そこには誰もいない。彼は英語の周波数全てに合わせ、ラジオで自分の声を発信している。彼は他にも生存者がいると 信じ、「毎日正午にサウス・ストリートのシーポートで待機している。食料を提供するし、隠れ家もある」と語る。
戦闘機の翼に乗ってゴルフをしていたネヴィルは、シカの姿を目撃して追跡した。シカを追ったサムが廃屋に入って行くので、慌てて ネヴィルは「止まれ」と命じる。だが、サムは廃屋の中に消えてしまった。ネヴィルは怯えながらも銃に装着したライトを点灯させ、廃屋 の中へと入った。彼は廃屋の隅に、ウイルス感染者であるダーク・シーカーの集団を発見した。慌ててライトを逸らしたネヴィルが周囲を 捜すと、机の下にサムの姿があった。
ネヴィルはサムを呼び寄せて廃屋から立ち去ろうとするが、集団から離れていたダーク・シーカーが襲ってきた。ネヴィルは急いで 逃げ出し、窓を破って廃屋から脱出する。ネヴィルを捕まえようとしたダーク・シーカーは太陽光線に当たり、苦悶して死んだ。ネヴィル は廃屋に罠を仕掛け、女性のダーク・シーカーを宙吊りにして捕獲した。仲間は太陽に当たると死ぬため、廃屋から出て来られない。 ネヴィルは彼女を研究室に運んで試薬の実験台にするが、芳しい効果は見られなかった。
翌朝、車を走らせていたネヴィルは、道の真ん中にフレッドが立っているのを発見した。激しく動揺したネヴィルはフレッドに向かって銃 を乱射し、ゆっくりと近付いた。それはダーク・シーカーの仕掛けた罠だった。ネヴィルは廃屋で自分が仕掛けた罠にやられ、逆さまで 宙吊り状態になった。そのまま気を失っていたネヴィルが目を覚ますと、もう日暮れが近付いていた。
ネヴィルは何とか罠から脱出するが、誤ってナイフで右の太股を刺してしまった。ネヴィルが這いずりながら車に戻ろうとしていると、 感染した野犬の群れが現れた。ネヴィルは車に置いてあった銃で野犬を倒すが、サムが噛み付かれて感染した。ネヴィルは研究所にサムを 運んで試薬を注射するが、やはり効果は無く、死んでしまった。ネヴィルはサムを埋葬した。彼はDVDショップへ行き、女のマネキンに 約束通り話し掛けた。当然、マネキンは何も喋らず、ネヴィルは「返事をしてくれ」と泣いた。
夜中に車で出掛けたネヴィルはダーク・シーカーの集団を発見し、「死ね」と叫びながら次々に撥ね飛ばした。しかし車を横転させられ、 集団のボスに襲われそうになる。その時、車の外で眩しい光が放たれ、ネヴィルは気を失った。ボンヤリと意識を取り戻すと、彼は車の 助手席にいて、一人の女性が運転していた。「家はどこ?」と問われ、ネヴィルは住所を教えて、また失神した。
翌朝、ネヴィルが目を覚ますと、自宅のソファーで眠っていた。太股の傷は縫合してあった。キッチンへ行くと、運転していた女性と幼い 少年がいた。女性は卵とベーコンで朝食を用意していた。彼女は自分がアナ、少年がイーサンだと告げ、ラジオを聴いてメリーランド州 から来たことを語った。彼女は「バーモントにある生存者のコロニーへ行く。そこは安全地帯よ」と口にした。
ネヴィルは「嘘だ、生存者はいないし、安全地帯なんか無い」と否定するが、アナは「山の中に誰も感染しなかった集落がある」と言う。 するとネヴィルは「嘘だ」と怒鳴り、食事の入った皿を投げ捨てた。彼は「ベーコンは大事に取っておいたのに。一人にさせてくれ。2階 に行って来る」と告げた。2階に行き、気持ちを落ち着けた彼はキッチンに戻り、アナに傷の手当の礼を述べた。しかしアナが「明日の 明け方に出発すれば一日でバーモントに行ける」と言うと、ネヴィルは「俺は残って研究を続ける」と告げる…。

監督はフランシス・ローレンス、原作はリチャード・マシスン、脚本原案はジョン・ウィリアム・コリントン&ジョイス・H・コリントン、 脚本はマーク・プロトセヴィッチ&アキヴァ・ゴールズマン、製作はアキヴァ・ゴールズマン&ジェームズ・ラシター&デヴィッド・ ハイマン&ニール・モリッツ、共同製作はジェフリー・“J.P.”・ウェッツェル、製作総指揮はマイケル・タドロス&アーウィン・ ストフ&デイナ・ゴールドバーグ&ブルース・バーマン、撮影はアンドリュー・レスニー、編集はウェイン・ワーマン、美術はナオミ・ ショーハン、共同製作はトレイシー・トーメ、衣装はマイケル・カプラン、視覚効果監修はジャネク・シルス、音楽はジェームズ ・ニュートン・ハワード。
主演はウィル・スミス、共演はアリシー・ブラガ、ダッシュ・ミホク、チャーリー・ターハン、サリー・リチャードソン、ウィロウ・ スミス、ダレル・フォスター、エイプリル・グレイス、ジョアンナ・ヌマタ、アビー、コナ、サミュエル・グレン、ジェームズ・マッコーリー、 マリン・アイルランド、ペドロ・モヒカ、アンソニー・マッザ、スティーヴン・サーバス他。


リチャード・マシスンの長編小説デビュー作『吸血鬼』(後に『地球最後の男〈人類SOS〉』、『地球最後の男』と2度の改題があり、 この映画に合わせて『アイ・アム・レジェンド』と改題された)を基にした作品。
原作小説は1964年にヴィンセント・プライス主演で『地球最後の男』、1971年にはチャールトン・ヘストン主演で『地球最後の男  オメガマン』として映画化されており、これが3度目の映画化となる。今回は『地球最後の男 オメガマン』のリメイクという形を取って いる。
ネヴィルをウィル・スミス、アナをアリシー・ブラガ、イーサンをチャーリー・ターハン、ゾーイをサリー・リチャードソン、マーリーを ウィル・スミスの娘ウィロウ・スミスが演じている。アンクレジットだが、クリピン博士を演じているのはエマ・トンプソン。
監督は『コンスタンティン』のフランシス・ローレンス。脚本は『ポセイドン』のマーク・プロトセヴィッチと『ダ・ヴィンチ・コード』 のアキヴァ・ゴールズマンが担当。

ニューヨークは廃墟と化しているが、死体は転がっていない。
それは全員が脱出した後だから当然で、理屈としては合っているんだけど、死体が転がっていないことで怖さ、不気味さは減退して いる。
あと、ネヴィルって他の人間と会いたがっているんでしょ。だったら全員が脱出したニューヨークに残っていても、会えるわけが無い じゃん。
そこからラジオで呼び掛けるより、人恋しさがあるのならば、何よりもまずニューヨークから出ることを考えるべきだと思うんだが。 望みと行動が一致してないぞ。

シカがライオンに食われた直後にアラームが鳴り、ネヴィルは諦めて帰宅している。
でも、家に戻った後、ゆっくりと食事を済ませ、浴槽でサムを洗ってやるだけの余裕があるのなら、諦める必要は無かっただろ。
それと、感染した野犬が登場し、サムも感染しているが、シカとライオンは元気に走り回っている。
ってことは、シカとライオンは感染しないのか。だとすれば、それは治療薬を作るためのヒントになるように思うんだが、ネヴィルが それを気にする様子は全く無い。

ネヴィルが住むのは大きな屋敷で、食料もたくさん置いてある。
外は無人だけど、家に入ると、あまりにも物質的に恵まれすぎていて、「ごく普通に一人で暮らしている」という印象しか受けない のよね。
導入部でネヴィルの孤独感を表現しない(もしくは、やろうとしたが出来ていない)のであれば、ネヴィルがダーク・シーカーを殺す シーンをさっさと描いてしまった方が良かったんじゃないか。
っていうか、それを掴みにしなかったのは、構成として失敗じゃないのかな。
ひょっとするとゾンビ映画として見られることを嫌ったのかもしれないが、でもゾンビ映画だからね。

ところで21世紀に入ってからのゾンビ映画って、ゾンビの動きが素早くなってるんだよね。スピードで怖がらせようとしているのかも しれんけど、それって正直、あまり怖くないんだよね。
この映画なんて完全にゾンビをCGで描いてるんだけど、ますますゾンビとしての怖さは薄れている。
考え方が古いのかもしれんけど、やっぱりゾンビって、特殊メイクで、ワラワラと来てくれないと雰囲気が出ないなあ。
「これはゾンビじゃなくてダーク・シーカーだ」と言われるかもしれんけど、実質的にはゾンビだからね。
あと、ゾンビってのは、あくまでも「そもそもは人間で、人間が変貌した怪物」なんだけど、CGで描かれた本作品の怪物は、最初から 非人間としての存在、ファンタジーの世界の生物のような印象を受けるんだよね。

ネヴィルは「彼らに人間的な知能は感じられない」と言っているが、ダーク・シーカーはボスの統率下で集団行動しており、ネヴィルの 仕掛けた罠をすぐに模倣する。
その辺りからすると、彼らには知性があり、人間的な社会生活を送っていることが推測される。
っていうか実際、そういう設定のようだ。
ところが、その伏線は放り出されたまま終わっている。
それは、最初に撮影された結末に映画会社上層部がNGを出して、撮り直されているという事情によるものらしい。

発電機が映るので、電気が使えることは分かった。
でも、風呂場でシャワーを使ったよな。水道は生きているのか。
あと、ガスはどうしているのか。
その辺りは何の説明も無い。
回想シーン、ネヴィルはゾーイに「ここに残って研究を続ける」と言い、その理由を問われると「ここから感染が始まった。僕は科学者 だ」と説明している。
でも、それは全く理由になってないと思うぞ。

ネヴィルはちっとも科学者には見えない。
それは体を鍛えてマッチョになったからではなく、ウィル・スミスだからだ。
あと、ネヴィルは体を鍛えるためにランニング・マシンを使っているけど、それも電力が必要な道具だろ。
発電機があるとは言え、電力を無駄遣いするなよ。
あと、地下の研究室にはマッキントッシュや医療機械があるけど、それらは普通に使えているのね。
もうメンテナンスも出来ないのに、ずっと故障していないってことなんだろうな。

ネヴィルが車を横転させられてダーク・シーカーに襲われた時、眩しい光があって、どうやらダーク・シーカーたちは退散 したようだ。
だけどダーク・シーカーって太陽光線に弱いだけで、光に弱いわけじゃないと思うんだけど。
設定としては、紫外線への耐性を失っているだけでしょ。そうじゃないのかな。
終盤も、光にも弱い様子を見せているんだよな。
その辺りは良く分からない。

ネヴィルはラジオで「君は一人じゃない」と呼び掛けているが、それは自分に向けての言葉でもあるはずだ。
彼はマネキンに話し掛けたりしているし、誰かとのコミュニケーションを求めているはずだ。
それなのに、アナやイーサンと遭遇した時の、拒否反応にも近い態度はどうしたことか。
アナが「生存者のコロニーがあって、そこへ行く」と説明した時、ネヴィルは「嘘だ」と怒鳴って食事の入った皿を投げ捨てる。
まあ突然のことで混乱もあるんだろうけど、あれほど生存者を切望し、他の人間とのコミュニケーションを願っていた人物の 反応とは思えない。

ただ、「その反応、ちょっと分からないでもないな」と思うのは、アナはともかく、イーサンが単なるクソガキでしかないんだよな。
このガキって何かの役に立つわけでもないから、足手まといにしかならないし。
自分の息子だったら愛情が沸くだろうけど、見知らぬガキだからね。まあ、気持ちが落ち着いた後のネヴィルは愛情が沸いたみたい だけどさ。
ただ、そこは「せめて女の子だったら」という思いはあるね。
別にワシはロリコンじゃないよ。でも、「幼い男の子」と「幼い女の子」だと、実は随分と受ける印象が違うんじゃないかという 気がする。
っていうか男女の性差は置いておくとしても、イーサンって、ちっとも可愛げが無いんだよな。

アナが「明け方に出発すれば一日でバーモントに行ける」と言うと、ネヴィルは「俺は行かない、ここに残る」と告げる。
それは全く理解できない。
もう気持ちが落ち着いたのなら、他の生存者と会うことを渇望してもいいんじゃないのか。
またネヴィルは残る理由について「俺は科学者だ」と口にするが、そんなことを「この紋所が目に入らぬか」みたいに言われても、 恐れ入ったりしないよ。

困ったことに、「コロニーがある」と主張するアナの主張には何の根拠も無くて、「神様のお告げを聞いたから」というもの なんだよね。
結果的には、実際にコロニーはあるんだけど、でも、あの状況で「神のお告げを聞いた。コロニーはある」と言われたら、そんなのは イカれた女の妄言でしかないよ。
そこは脚本として、もっとキッチリとした根拠を用意しておくべきだろうに。

終盤は、ほとんど『バイオハザード』のような状態になる。
ようするにアクション映画になっちゃうってこと。
ビッグ・バジェットのメジャー映画だから、そういう派手な展開にしなきゃ仕方が無かったのかねえ。
そんでネヴィルは「神の声が聞こえた」とかバカなことを言って自爆するんだけど、その必要ってあったのか。
自分も脱出してから、地下室を爆破すればいいだけじゃないのか。
それとネヴィルが死んでアナが最後のモノローグを担当したら、そりゃ「アイ・アム・レジェンド」じゃなくて「ヒー・イズ・ レジェンド」だろ。

(観賞日:2010年4月24日)

 

*ポンコツ映画愛護協会