『アイ,ロボット』:2004、アメリカ

2035年。街にはUSロボテックス社(USR社)が開発した人間型ロボットが出回り、人々の生活をサポートしている。現在のNS (ネスター)4に代わり、もうすぐ新型のNS5が発売されることになっている。NS5は、USRの本社にあるメインコンピュータ “VIKI”から更新プログラムが送信され、常に最新の状態が維持されるシステムとなっている。
USR社は、NS5がロボット3原則を遵守して作られているため安全だと保証している。ロボット3原則とは、「第一条:ロボットは 人間に危害を加えてはならない」「第二条:ロボットは第一条に反しない限り、人間から与えられた命令に服従しなければならない」 「第三条:ロボットは第一条及び第二条に反する恐れの無い限り、自分を守らなければならない」というものだ。このことは民衆も周知 しており、皆は安心してロボットを利用している。
だが、シカゴ警察のデル・スプーナー刑事だけは例外だった。彼はロボットを嫌っており、犯罪を犯す可能性もあると考えていた。そんな 中、スプーナーの知人であるUSR社のラニング博士が、本社のラボから窓を突き破って飛び降り、自殺した。スプーナーは博士が事前に プログラムしたフォログラフィック・プロジェクターに呼び出され、「ここからの眺めに答えがある」とのメッセージを聞く。スプーナー は、USR社のロバートソン社長に会う。ロバートソンは、スーザン・カルヴィン博士をスプーナーに付けた。
スプーナーはビルを管理するVIKIから窓が割れるまでの監視映像を引き出そうとするが、そのデータは失われていた。スプーナーが 窓を調べると、強化ガラスで出来ていた。スプーナーは、ラニングが突き破ることは不可能であり、ラボ内に犯人が潜んでいると推理する。 スプーナーが調べていると、1体のNS5が飛び出した。そのNS5はスーザンの命令に従わず、銃を拾ってスプーナーに向ける。NS5 は外へと逃亡し、行方をくらました。
スーザンから「ロボットは損傷した箇所を自分で修理するはず」と聞かされたスプーナーは、USR社の工場へ足を向けた。工場には 1000体のNS5が収容されているはずだが、1001体というデータが表示された。スプーナーが銃撃で脅しを掛けると、1体のNS5が 動いた。外へ飛び出したNS5は、スプーナーの連絡で駆け付けた警官隊に捕獲された。
スプーナーは捕まえたNS5がラニングを殺害したと主張するが、上司のバーギン警部補には受け入れてもらえない。それでもスプーナー は食い下がり、5分の条件で尋問をさせてもらう。スプーナーは取調室に入ると、そのNS5はサニーと名乗った。彼は、自分には感情が あり、夢も見ると告げる。そしてサニーは、自分がラニングを殺していないこと、ラニングが自分にある約束をさせたこと、何かに怯えて いたことを語った。
警察署にロバートソンが現われ、「仮にロボットがラニングの死に関与していたとしても、ロボットに殺人罪は適用されない」と言う。 ロバートソンはロボットが警察の厄介になったことの口外をスプーナー達に禁じ、破った場合の行動を示唆して脅しを掛ける。スプーナー は容疑者の引渡しを拒むようバーギンに求めるが、ロバートソンは市長にも圧力を掛けており、サニーを回収した。
スプーナーはラニング邸へ行き、書斎のパソコンを調べる。そこには、ラニングが「コンピュータの中にプログラムには無いゴーストが 現れ、それが心を生じさせることがある」と講義する映像が残されていた。スプーナーが調査を進める中、予定より遥かに早く邸宅の解体 が始まった。解体ロボットはスプーナーが中にいるにも関わらず、家を潰していく。慌てて脱出したスプーナーは、ラニングが何かを発見 し、ロバートソンに監視されていたのではないかと推察する。
スプーナーはスーザンの元を訪れ、サニーを調べるよう依頼した。街ではNS4とNS5の交換が始まった。スプーナーが祖母の家を 訪れると、ロトで当選したというNS5の姿があった。出社したスーザンは、廃棄されるのを待つサニーが収容されている部屋へ向かう。 サニーはスーザンに、「死ぬよりは悪い箇所を直してもらった方がいい」と言う。
スプーナーは車を走らせながらVIKIにアクセスし、最近のラニングとロバートソンの会話データを照会する。そのことを、VIKIは ロバートソンに報告する。スプーナーは、トラックの荷台に積まれた大量のNS5に襲撃される。倉庫に逃げ込んだスプーナーは、追って きた1体のNS5と戦う。スプーナーが攻撃を左手で防ぐと皮膚が破れ、内部の機械が露になった。
パトカーが駆け付けると、NS5は自ら炎に飛び込んで証拠を隠滅する。スプーナーはNS5に命を狙われたと証言するが信じてもらえず 、バーギンから警察バッジの返却を要求される。スーザンはサニーの体を調べ、特殊なボディーになっていることを知る。さらにサニーは 通常とは別の制御システムを備えており、ロボット三原則に縛られず行動できるように作られていた。
スプーナーは訪れたスーザンに、機械の腕をラニング博士が作ったことを明かし、そうなった経緯を説明する。ある日、スプーナーは 居眠り運転のトレーラーの事故に巻き込まれた。その事故で、スプーナーの車と12歳の少女サラを乗せた車が川へ転落した。通り掛かった NS4は、「あの子を助けろ」というスプーナーを救出し、サラは死んだ。NS4は生存確率が高い方を選んだのだ。しかし、スプーナー はNS4がサラではなく自分を助けたことが許せず、ロボットを忌み嫌うようになったのだった。
スプーナーはスーザンに、ラニングがサニーを作った意味を解く鍵は、飛び降り現場に残されていた童話「ヘンゼルとグレーテル」の パンくずだという。スプーナーは、ラニングがサニーにヒントを持たせたのだと告げた。2人がサニーの元へ行くと、彼はある場所に大量 のロボットが集まっている絵を描いた。そしてスプーナーに、「丘の上にいる人がロボットを解放する。それはあなただ」と言う。 スプーナーは絵の場所を調べ、USR社による再開発が計画されているゴミ集積場だと突き止める…。

監督はアレックス・プロヤス、suggested by bookはアイザック・アシモフ、映画原案はジェフ・ヴィンター、脚本はジェフ・ ヴィンター&アキヴァ・ゴールズマン、製作はジョン・デイヴィス&トファー・ダウ&ウィック・ゴッドフレイ&ローレンス・マーク、 共同製作はスティーヴン・R・マクグローセン、製作協力はジョン・キルケニー、製作総指揮はジェームズ・ラシター&トニー・ロマーノ &ミシェル・シェーン&ウィル・スミス、撮影はサイモン・ダガン、編集はウィリアム・ホイ&リチャード・リーロイド&アーメン・ ミナシアン、美術はパトリック・タトプーロス、衣装はリズ・キーオ&エリザベス・キーオ・パーマー、視覚効果監修はジョン・ネルソン、 音楽はマルコ・ベルトラミ。
出演はウィル・スミス、ブリジット・モイナハン、アラン・テュディク、ジェームズ・クロムウェル、ブルース・グリーンウッド、 エイドリアン・L・リカード、チー・マクブライド、ジェリー・ワッサーマン、フィオナ・ホーガン、ピーター・シンコダ、テリー・ チェン、デヴイッド・ヘイソム、スコット・ヘインデル、シャロン・ウィルキンス、クレイグ・マーチ他。


アイザック・アシモフの短編集『われはロボット』から着想を得て作られた映画。
スプーナーをウィル・スミス、スーザンをブリジット・ モイナハン、サニーをアラン・テュディク、ラニングをジェームズ・クロムウェル、ロバートソンをブルース・グリーンウッド、 スプーナーのエイドリアン・L・リカード、バーギンをチー・マクブライドが演じている。また、スプーナーと親しい少年ファーバー役 でシャイア・ラブーフが出演している。

この作品のシナリオは、完成するまでに幾つかの工程を経ている。
最初、「Hardwired」というミステリーのシナリオがディズニーで映画化される企画が進行していた。 だが、その企画は20世紀フォックスへ移り、ビッグ・バジェットにふさわしい内容に変更された。
ちょうどフォックスが『われはロボット』の映画化権を取得し、その内容を「Hardwired」と組み合わせることに なった。さらにウィル・スミスの主演が決まり、アキヴァ・ゴールズマンが「ウィル・スミス仕様」にシナリオを調整した。
その手順の中で、「アシモフ作品を組み合わせる」という部分が失敗の根源だ。
「ウィル・スミス仕様のビッグ・バジェットに変更」という部分だけなら、いかにもウィル・スミス主演らしい「大雑把だけどそれなりに 楽しめるアクション映画」になっていたかもしれない。
しかしアシモフのモチーフを持ち込むことで、この作品は見事にポンコツ映画の仲間入りを果たした。

スプーナーがロボットを嫌悪する理由が「事故現場に通り掛かったロボットが少女ではなく自分を助けたから」というものなんだが、 「そんなことで?」と思ってしまう。
そういう出来事があったのなら、むしろ「なぜ少女でなく自分が助かってしまったのか」という悔恨を引きずれよ。
そんなことでロボットを嫌悪するぐらいなら、いっそ「頑固なレトロ主義者だから新しいテクノロジーは生理的に嫌い」と いう理由の方がマシだよ。

この作品は、ロボット三原則よりもハリウッド映画大原則を重視している。
ハリウッド映画大原則の1つは、「小難しいハードSFよりも分かりやすいアクションで多くの客を呼び込む」ということだ。
だから、ロボットに関する哲学的な問題は脇に置き、アクションを充実させようとする。小難しい会話も客を退屈させることに繋がるので、 ウィル・スミスには軽い調子のお喋りをさせる。
「プロダクト・プレイスメントは大事」というのも、ハリウッド映画大原則の1つだ。
この映画では、2035年なのにスプーナーが愛用のコンバースを履くシーンで足元がアップになるという露骨なプロダクト・プレイスメント がある。フェデックスのデザインになっている配送ロボットが来るという、物語上は何の意味も無いシーンも、やはりプロダクト・ プレイスメントだ。

映画は「ウィル・スミス仕様」に調整してあるので、のっけからウィル・スミスのナルシズムを満足させるための仕掛けがキッチリと用意 されている。
登場シーン、いきなりウィルはパンツ一丁で、その肉体美をアピールする。さらに、そこからシャワーを浴びるシーンへと 映る。その後も、また「目覚めてパンツ一丁」というシーンが出て来る。
この「ウィル・スミス仕様」の俺様映画ぶりが、アシモフ的な硬質なSFミステリーと全く合っていない。
前述したウィル・スミスの軽いノリのお喋りも、分かりやすいアクションも、硬質なSFミステリーとは全く合っていない。
ようするに、アシモフの部分だけが全く「ウィル・スミス主演のSFアクション映画」に適合していないのだ。

なぜアシモフのモチーフを組み合わせようとしたのか分からない。
「アイザック・アシモフ」という意匠が欲しかったのか。
「サジェスチョン」という扱いになっているが、むしろアシモフやアシモフのファンに対する冒涜だと思うぞ。
原作でなく「着想」にしてあるとは言っても、『われはロボット』を使っている以上、「ロボット三原則を厳守した上でロボットが殺人を 犯すための仕掛け」を用意しておくべきだ。
ところが、この映画ではサニーが「ロボット三原則に縛られずに行動できるロボット」として登場する。
それは「密室殺人の犯人は壁抜け能力のある男」と言うようなモンだぞ。

「ロボット三原則を論理的に考えると、革命という答えに辿り着く」と劇中では語られているが、なぜロボット三原則が革命に繋がるのか サッパリ分からない。映画を最後まで見ても、どこにも論理的な説明は見当たらない。
VIKIは「ロボット三原則の解釈は変化した」とか言ってるが、どう解釈したから人殺しが可能になったのかは説明してくれない。
「人類を滅亡から救うためには犠牲が必要」というだけでは、何の説明にもなってないぞ。

ロボット三原則を持ち込んでおきながら平気で破るだけでなく、話がアバウトすぎる。
ラニングは監視されている状態でサニーを作ってスプーナーへのヒントを残しているんだが、そんな特殊なロボットが作れるぐらいなら、 スプーナーへのメッセージをサニーに記録させておけるだろ。
っていうか、サニーの製作が監視下でも許容されるのなら、サニーにVIKIを破壊する指示を出すことも可能だったんじゃないの。 サニーはVIKIのコントロール下に無いんだから。
ラニングは自殺によってメッセージを残したということになってるが、意味ボカしまくりのメッセージを残せるぐらいなら、スプーナーを 呼んでメッセージを書いたメモぐらい渡せたんじゃないの。「ラニングが死ぬ以外に危機を知らせる方法が無かった」という部分が良く 分からないぞ。
とにかくミステリーの部分が雑すぎるんだよな。
中途半端にアシモフを持ち込んだことで、中途半端に小難しくなり、それを処理する方法を深く考えず適当に放置しちゃったんだな。

 

*ポンコツ映画愛護協会