『アイ・ラブ・トラブル』:1994、アメリカ

父親の葬儀に参列したスプリング・クラーク高校の化学教師ダリル・ビークマンは、フィルムをサインペンに隠し、ブリーフケースの中に 収めた。彼は列車に乗るため駅へ行くが、子供達が大勢いた。ベレー帽の男がダリルに声を掛け、「最後尾の車両が空いている」と教えた。 礼を述べて列車に乗り込むダリルの後ろ姿を、ベレー帽の男は意味ありげな表情で眺めていた。
ピーター・ブラケットは、シカゴ・クロニクル紙の名物コラムニストとして働いている。事件記者からコラムニストに転進した彼は、 初めての小説も出版した。女性との逢瀬でサイン会をすっぽかしたピーターは、コラムの締め切りギリギリに出社する。彼は昔のコラムを 少し修正しただけで編集長のマットに提出し、締め切りに間に合わせた。
特急の脱線事故の報が入るが、クロニクル紙では事件記者が全て出払っていた。マットから現場行きを求められたピーターは拒否するが、 原稿が焼き直しであることを見抜かれ、仕方なく指示に従った。ピーターは唯一の目撃者である乗客の男に会い、話を聞く。男は新郎で、 新婦は事故に巻き込まれていた。そのカップルは、ダリルが列車に乗った時に駅で見送られていた。
列車事故の内容は、最後尾車両の連結が切れて斜面を滑り落ち、5人が死亡するというものだった。事故現場に泥棒2人組が現われ、列車 から運び出された荷物の幾つかを持って逃げ去った。その様子を、ベレー帽の男が目撃していた。ピーターは、シカゴ・グローブ紙の 美人記者サブリナ・ピーターソンと出会った。彼はサブリナに声を掛けるが、「口説いても無駄よ」と冷淡に言われた。
担当のベーコン刑事は集まった記者に質問されるが、詳しいことは何も話さなかった。しかしサブリナはベーコンを尾行し、連結器の係員 の名前がレイ・ボッグスであることを突き止めた。サブリナはメドウィック編集長に情報を伝え、ボッグスの母親と連絡を取った。 サブリナはボッグスがアルコール依存症だと聞き出し、翌朝のグローブ紙一面に掲載した。
朝のトーク番組への出演を終えたピーターは、グローブ紙のスクープ記事を見て驚いた。マットに焚き付けられたピーターは、秘書の ジェニーにボッグスの徹底取材を命じた。だが、翌朝の朝刊でも、またグローブ紙がボッグスの失踪というスクープを掲載した。ピーター の元には、サブリナからの挑発的なメッセージが届けられた。ピーターは「連結器は正常だった」というスクープ記事を掲載し、サブリナ に挑発的メッセージをお返しした。ピーターとサブリナは、ライバル心剥き出しで事件の取材に熱を入れる。
あるパーティーに出席したピーターは、情報提供者として親しくしているサム・スマザーマンと会った。サムは民主党に鞍替えし、 ウィスコンシン州選出のゲイル・ロビンズ上院議員の補佐になっていた。ピーターは会場でサブリナと遭遇し、互いに皮肉を言い合った。 そこへ刑事が現われ、ボッグスが警察署に出頭して無実を主張したこと、嘘発見器のテストもパスしたことを明かした。
ピーターとサブリナは双方ともボッグスが事故に無関係だと考え、調査を進める。やがて2人は、新婚夫婦の親が駅で撮影したビデオ テープを入手するチャンスを得る。ピーターはサブリナの前でわざと受け取り場所を記したメモを落とし、彼女を別の場所に行かせる。 その間に、ピーターはテープを入手した。テープを見たピーターは、整備員の服装をした男が出発前の列車に触れているのを確認した。 しかし調べた結果、ボッグスの後で列車を点検した整備員はいないことが分かった。
サブリナの元にダニー・ブラウンという男が電話があり、「事故現場のブリーフケースに大切そうなものがあったのでグローブ紙で購入 しないか」と持ち掛けてきた。指定された廃墟へ向かったサブリナは、そこでダニーの死体を発見する。サブリナは死体の右手に「LD」 の文字を発見し、近くに転がっていたサインペンでメモを取った。それがダリル・ビークマンの物だとも知らず、サブリナはサインペンを 持って現場から去った。
ピーターは犠牲者の家族から話を聞くが、ビークマン宅を訪れると彼の妻ドロレスから「8時にオフィスで」と言われる。一方、サブリナ もピーターと同じ時間にドロレスから呼び出された。オフィスビルのエレベーターで、ピーターとサブリナは鉢合わせする。突然、電気が 消えてエレベーターが停止した。2人は殺し屋に襲われ、必死に銃撃をかわす。殺し屋は死亡し、ピーターとサブリナは死体のポケット から落ちたメモに「内線307番」と書いているのを目にした。
ピーターとサブリナがビークマン邸へ赴くと中は荒らされており、誰もいなかった。ピーターは、ウィスコンシン州スプリング・クラーク から届いドロレス宛の封筒に「LDF」「307」の走り書きがあるのを見つけた。家族写真を目にした彼は、自分が会ったドロレスが 偽者だと知った。一方、サブリナは鳥篭に敷いてあるスプリング・クラーク日報に気付いた。
ピーターとサブリナは互いに自分が得た情報を隠し、「この事件から降りる」と口にした。2人は言葉とは裏腹にスプリング・クラーク 行きの飛行機に乗り込み、機内で顔を合わせた。2人は共同戦線を張ることにしたが、手の内を全て明かす気は無く、相手を出し抜こうと 画策していた。互いに相手の隙を見て、ピーターはサブリナのバッグを、サブリナはピーターの財布を調べた。
サブリナはピーターにスプリング・クラーク日報から切り抜いた記事を見せ、ビークマンの父親のことを語る。ビークマンの父は定年の 1年前にチェス化学を退職し、列車事故の1週間前に自宅の火災で死亡していた。彼は遺伝子工学の権威であり、乳牛のための人工 ホルモンLDFをチェス化学で開発していた。しかしLDFの安全性が疑われ、農村委員会が審査を行うことになった。その委員長は、 ゲイル・ロビンズ上院議員だった。
ピーターとサブリナはサムの元を訪れ、LDFについて聞く。通常の乳牛は生後2年目から乳を出すが、LDFを注射すると生後9ヶ月 に早まるという。サムはLDFについて、乳牛にも人体にも害は無いと断言した。3人はステーキ・ハウスへ場所を移し、話を続ける。 チェス化学は倒産の危機にあったが、LDFの発明で息を吹き返した。現在の社長は創業者の息子ウィルソン・チェスで、サムは「エール 大学の後輩だが会ったことは無い」と言う。店を出た3人は、暴走してきた車にはねられそうになった。
ピーターとサブリナは、チェス化学の見学ツアーに参加した。事前に、内線307番が社員食堂で働く老婦人であることは突き止めていた。 2人は、ウィルソンと話していた女性研究者キムに目を付ける。サブリナはキムの社員証を盗もうとするが、失敗する。しかし、彼女が ルビーのバーへ行くという情報は得た。ピーターは、ウィルソンが大学時代にヴァルガスという同級生と共に英文科ビルに放火しようと して、退学になっていることを突き止めた。
サブリナはバーでキムに接触し、親しくなった。そこへピーターが現われ、キムをダンスに誘って一緒に踊る。ピーターはキムから研究者 の集合写真を手に入れ、アレックス・ハーヴェイというLDFの共同開発者の存在を知った。彼はネバダ研究所の所長に昇格したが、 脳卒中で倒れて休職中だ。ビークマンの父は、昇進の話を断っている。ピーターとサブリナは、LDFの実験で不正を行う見返りが昇格で あり、ビークマンは正しい実験結果を息子に渡したが、会社が殺し屋ヴァルガスを使って始末したと推理する。
ダイナーを出て車に乗ったピーターとサブリナは、後部座席に隠れていた殺し屋ペコスに銃を突き付けられ、「こっちの物を渡せ」と 脅される。ピーターは車を猛スピードで走らせ、急ハンドルでペコスを側面に衝突させて失神に追い込む。ピーターとサブリナは車から 逃亡し、ネバダ州へ向かうことにした。湖で水浴びをしたサブリナは、レンジャーの少年達に裸を見られそうになった。
ラスベガスに辿り着いたピーターとサブリナは、ベレー帽の殺し屋マンドに追われ、簡易結婚式の教会に飛び込んだ。治安判事レイに 声を掛けられた2人は、成り行きで結婚式を挙げる。ホテルに戻った2人は、肉体関係を持つ。サブリナは翌朝、ピーターがキムの社員証 を隠し持っていることを知った。ピーターとサブリナはハーヴェイ宅を訪れ、彼の妻に会う。ピーターはトイレに行くと称し、書斎を 探し回る。一方、サブリナはハーヴェイ夫人から、「夫が会社から持ち出した」というフロッピーを渡される。
帰りの飛行機に乗ったピーターとサブリナは、結婚の解消を決めた。サブリナはキムの社員証を盗み、ピーターはフロッピーを盗んだ。 サブリナはピーターを出し抜き、見学ツアーのガイドとしてチェス化学に潜入する。チェス化学に赴いたピーターは、サブリナを見て 驚いた。「フロッピーは自分が持っている」と主張するピーターだが、サブリナに「あれは偽物」と言われて追い出された。ピーターは サムに電話を掛け、サブリナに出し抜かれたことを語る。だが、サムはウィルソンやマンドとグルだった…。

監督はチャールズ・シャイア、脚本はナンシー・マイヤーズ&チャールズ・シャイア、製作はナンシー・マイヤーズ、共同製作はブルース ・A・ブロック、製作協力はジョン・D・スコフィールド&ジュリー・B・クレーン、撮影はジョン・リンドレー、編集はポール・ ハーシュ&ウォルター・マーチ&アダム・ベルナルディー、美術はディーン・タヴォラリス、衣装はスーザン・ベッカー、音楽は デヴィッド・ニューマン。
出演は出演はジュリア・ロバーツ、ニック・ノルティー、ソウル・ルビネック、ロバート・ロッジア、ジェームズ・レブホーン、チャールズ・ マーティン・スミス、リサ・ルー、ダン・バトラー、ユージーン・レヴィー、ノーラ・ダン、ポール・グリーソン、ケリー・ ラザフォード、オリンピア・デュカキス、マーシャ・メイソン、ジェーン・アダムス他。


当時は夫婦だったチャールズ・シャイアとナンシー・マイヤーズのコンビが作った映画。
サブリナをジュリア・ロバーツ、ピーターをニック・ノルティー、サムをソウル・ルビネック、マットをロバート・ロッジア、マンドをジェームズ・レブホーン、メドウィックを チャールズ・マーティン・スミス、ハーヴェイ夫人をリサ・ルー、ウィルソンをダン・バトラー、レイをユージーン・レヴィー、ベーコン をポール・グリーソン、キムをケリー・ラザフォード、ジェニーをオリンピア・デュカキスが演じている。

一応は「最初に大きな事件が発生し、ピーターとサブリナが真相を探っていくが命を狙われる」という筋書きがあるので、ミステリー・ サスペンスというジャンルに入れることは出来る。ただ、それよりもオールド・ファッションドなロマンス映画としての色が濃いと感じる。
サスペンスとロマンスをコミカルな味付けで描いて、『シャレード』みたいなモノを狙ったのかなと。
で、まあハッキリ言ってメイン2人がミスキャストでしょ、50年代から60年代の雰囲気を持った「コミカルなサスペンス&ロマンス」を やるには。
ニック・ノルティーは男臭さが強すぎて、「適当に仕事を手抜きする調子のいいプレイボーイ」には合わないよなあ。ジュリア ・ロバーツは「明るく行動的」な役は似合うかも知れんけど、オードリー・ヘプバーンのポジションにソフィア・ローレンを持って来た ような感じかな。
ようは『シャレード』を作るつもりが、『アラベスク』になっちゃったってなことか。

例えばエレベーターで死体がダラリと垂れ下がった時に、2人のリアクションの薄いことと言ったら。
まだ男はともかく、女は腰を抜かすなりキャーキャーと悲鳴を上げて騒ぐなりすべきポイントなんじゃないの、あそこは。ほぼノーリアクションって、どういうことよ。
「キャリア・ウーマン」のイメージってことなのかもしれんが、やたら冷静すぎるのもどうかと思うぞ。
「2人が激しく言い争っている間に、なぜか和解に辿り着く」という場面でも、オシャレなノリ、エレガントな雰囲気が足りないから、 何か引っ掛かりを感じてしまう。
そこはもちろん、ダイアローグや演出の問題もあるだろう。
でも、やはりニック・ノルティーとジュリア・ロバーツの芝居や醸し出す雰囲気による説得力ってのも足りないなあと感じるのだ。

サスペンスだからってことなんだろうけど、ちょっとシリアスになりすぎたかなという印象もある。
もっと余裕を持って軽やかに進めても良かったんじゃないのかな。
かと思ったら、ネバダ州へ向かうところから、「もっと話を動かさなきゃ」と思ったのかどうか知らないが、「水浴びで裸を子供たちに 見られそうになる」とか、「式場に迷い込んで結婚式を挙げるハメになる」とか、急にコメディーの意識がグッと強くなる。
ただし、持続力は無い。

そもそも事件が無駄にややこしいんだな。
でも、2人が会わないまま取材合戦をやってる間に得たネタは何の意味も無い。
反発しながらも同じ場所に行ったりする辺りから得るネタには意味があるんだが、途中で一気に見立てをしたのがほぼ全容解明ってな 感じなので、謎解きの醍醐味は無い。
でも、後半になるに従ってベタベタのロマコメ映画としての匂いが強くなってるので、その一方で事件の方も核心に 迫っているのに、そちらが頭に入ってこないという困ったことになっている。
バランス調整に失敗したったことだな。

 

*ポンコツ映画愛護協会