『アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング』:2018、アメリカ
レネー・ベネットは小太りの体型を気にしており、初めて出向いたスポーツジム「ソウル・サイクル」でも周囲の目が気になってしまう。彼女は流行のヘアスタイルに挑戦してみるが、イメージとは全く違った仕上がりになった。服を買いに出掛けた店では、店員に「サイズが無いのでオンラインショップで」と告げられた。レネーは化粧品会社「リリー・ルクレア」の社員だが、本社はニューヨーク五番街なのに、彼女が所属する通販部門はチャイナタウンの地下倉庫だ。社員は彼女と同僚のメイソンの、たった2人だけだった。
レネーは親友のジェーンとヴィヴィアンから、3人一組で登録する「グルーパーデート」という交際サイトに誘われた。しかし女性たちのオシャレで綺麗な写真を見たレネーは、「勝負にならない」と嫌がった。彼女はジェーンたちに、「プロフィールを見る男なんかいない。見るのは写真だけ」と告げた。そこでレネーたちは、面白い写真を撮影した。翌朝、レネーが出勤するとサーバーが落ちており、報告書を送れない状態になっていた。既にメイソンは報告書をコピーしており、レネーは本社へ持って行くよう頼まれた。
本社を訪れたレネーは、受付係の女性に報告書を渡した。社長のエイヴリー・ルクレアを見た彼女は美しさに興奮し、「その席にいるのが羨ましい」と受付係に告げた。すると受付係は自分がインターンであり、今なら募集していると教えた。エイヴリーは会議に出席し、手頃な商品を量販店で販売する「セカンド・ライン」の方針についてCFOのヘレンたちと話し合う。しかしエイヴリーも幹部のジェンたちも、誰も量販店で化粧品を買った経験が無かった。創設者のリリーは呆れ果て、エリート主義の考えを改めるよう説いた。
レネーは憧れの仕事である受付係への応募を検討するが、絶対に無理だと感じて諦めた。買い物に出掛けた彼女は、ソウル・サイクルで会話を交わしたマロリーと遭遇した。レネーが喋っているにも関わらず、男がマロリーに声を掛けてナンパを始めた。マロリーは男に電話番号を教えてほしいと言われ、すぐに断った。レネーはマロリーが同じような経験を何度もしていると知り、「貴方みたいな美人だったら、私の人生も違っていたかもしれない」と漏らした。
夜、家で映画『ビッグ』を見ていたレネーは、落雷の中で外へ飛び出した。彼女は噴水の銅像に向かって「美人になってみたい」と祈り、コインを投げた。彼女は手鏡を見るが、何の変化も無かった。翌日、彼女がソウル・サイクルに行くと、インストラクターのターシャは生徒に「鏡の中の自分を見つめれば、いつもと違う自分がいる。ずっとなりたかった理想の自分よ」と告げる。レネーはエアロバイクから転落死、頭を打って意識を失った。
目を覚ましたレネーは、自分が痩せて美人になったと思い込んだ。街に出た彼女は自信満々で闊歩し、受付係に応募した。バーでジェーンとヴィヴィアンに会ったレネーは、「信じられないかもしれないけど、レネーよ」と告げる。彼女が「ずっと願っていたことが起きて、美人になったの」と饒舌に話すので、ジェーンとヴィヴィアンは困惑した。クリーニング店で順番待ちしていたイーサンと話したレネーは、整理券の番号について質問された。ナンパだと思い込んだレネーは、自ら電話番号を交換した。
レネーがジェーン&ヴィヴィアンとグルーパーデートの閲覧数を確認すると、誰も彼女たちの写真を見ていなかった。レネーは友人たちに「私の昔の写真のせいよ」と謝罪し、「私の写真を撮り直せばいい。ヒップホップ系のビキニ写真を撮れば大丈夫」と自信満々に告げた。レネーは受付係の面接に赴き、エイヴリーとCFOのヘレンに会った。レネーは受付係が自分の夢だったと語り、「ここに来る皆さんに幸せを感じてほしい」と言う。エイヴリーが採用を決め、レネーは喜んだ。
受付係の仕事を始めたレネーは、小さな冷蔵庫に冷やした水を用意し、来客にはストローを付けて出した。女性編集者が容姿を見て困惑の様子を見せても、レネーは全く気にせず堂々たる態度を示した。エイヴリーに会いに来た弟のグラントは、その様子を見て好感を抱いた。レネーはタブロイド誌で見ていたグラントに興奮し、彼が好きなコールドプレスジュースを出した。会議の場に水を持って行ったレネーは、セカンド・ラインのチークについてエイヴリーから意見を求められた。レネーは一般的な女性が高級ブラシを持っていないことを教え、チークにブラシを付けた方がいいと告げた。
レネーはイーサンを誘ってデートに出掛け、バーでビキニ・コンテストが開かれると知って飛び入り参加を決めた。イーサンは困惑するが、レネーは何の躊躇も無くステージに立った。彼女のパフォーマンスは観客の喝采を浴びるが、出来レースだったので優勝は逃した。バーのマスターはイーサンに「アンタの連れは最高だ」と言い、優勝者が自分の姪だと教えた。優勝を逃したレネーだが、満足そうな表情でイーサンの元へ戻って来た。
レネーはエイヴリーから、量販店に美容アドバイザーを置いてセカンド・ラインを紹介する考えについて相談された。レネーは普通の女子が綺麗なアドバイザーと自分の容姿を比較し、気後れして恥ずかしい思いを抱いてしまうと告げた。エイヴリーは自分がバカに見えることや変な声にコンプレックスを持っていたが、レネーは全く気にしていないことを伝えた。エイヴリーはレネーの助言に礼を言い、ディナーに招待するのでボーイフレンドを連れて来てほしいと告げた。
レネーはイーサンとデートに出掛け、「君は完璧な女性だ。自分のことを理解し、他人の目も気にしていない」と称賛された。レネーは彼とキスを交わし、一夜を共にした。レネーがイーサンを伴ってエイヴリーのディナーに赴くと、その場所はレストランのプライベート・ダイニングだった。ディナーにはエイヴリーだけでなく、リリーとグラントも来ていた。リリーたちから「一緒にボストンへ来て、量販店でセカンド・ラインについて商談してほしい」と言われたレネーは、喜んで承知した。
レネーはジェーンとヴィヴィアンを連れて中華料理店「チャイナ・パール」へ出掛け、超エリートだけが許される秘密クラブへの入室を断られた。他のグループが案内されるのを見たレネーは腹を立てるが、ジェーンとヴィヴィアンは秘密クラブに行きたいなどと全く思っていなかった。ジェンが秘密クラブへ向かうのを見たレネーは、声を掛けた。ジェーンとヴィヴィアンの元へ戻って来た彼女は、「私だけはOKだけど、2人は入れないと言われたから戻って来たわ。でも2人が別に構わないなら、行くけど」と語る。彼女はジェーンたちの返事を待たず、「分かった、ありがとう。じゃあ行って来る」と秘密クラブへ向かった。
受付で仕事をしている時、レネーは来訪する女性の見た目によって対応を変えた。彼女はジェーンとヴィヴィアンを連れて合コンに参加し、自信満々に振舞った。ヴィヴィアンが男性と織物の話で盛り上がっていると、レネーは口を挟んでセクシーな方向へ話題を変えようとした。彼女はジェーンとヴィヴィアンに「どういうつもり?」と言われ、「男を引っ掛けたいなら、つまらない女とバレないようセクシーに攻めるの」と得意げに語った。
レネーはルクレア家のプライベート・ジェットに乗せてもらい、ボストンへ赴いた。彼女がホテルにチェックインすると、グラントが部屋にやって来た。グラントに口説かれたレネーは、彼のキスを受け入れようとする。しかしスマホが鳴ったので、慌てて「酷い下痢なの」と嘘をついてグラントに部屋から出て行ってもらう。浴室に入ったレネーは鏡を見つめ、「アンタは誰なの」と声を荒らげた。浴室を出ようとしたレネーは誤って頭を打ち、気を失った。目を覚ました彼女が再び鏡を見ると、元の姿に戻っていた…。脚本&監督はアビー・コーン&マーク・シルヴァースタイン、製作はマックG&メアリー・ヴィオラ&ニコラス・シャルティエ&エイミー・シューマー&アリッサ・フィリップス&ドミニク・ラスタム、製作総指揮はジョナサン・デクター&ダニエル・ラパポート&ジャスティン・バーシュ&ケヴィン・ケイン、共同製作はウィリアム・A・イーロン、撮影はフロリアン・バルハウス、美術はウィリアム・O・ハンター、編集はティア・ノーラン、衣装はデブラ・マクガイア、音楽はマイケル・アンドリュース、音楽監修はリンダ・コーエン。
主演はエイミー・シューマー、共演はミシェル・ウィリアムズ、ローレン・ハットン、ナオミ・キャンベル、ローリー・スコーヴェル、エミリー・ラタコウスキー、ビジー・フィリップス、エイディー・ブライアント、トム・ホッパー、エイドリアン・マルティネス、サシーア・ザメイタ、デイヴ・アッテル、アンジェラ・デイヴィス、キャロライン・デイ、アナスタージア・ピエール、ジア・クロヴァティン、オリヴィア・カルポ、カイル・グルームズ、ポール・マッカリオン、フィル・ハンリー、ニッキー・グレーサー、ダコタ・ラスティック、ジェフリー・グローヴァー、ウィリアム・ケネディー他。
『エイミー、エイミー、エイミー! こじらせシングルライフの抜け出し方』『クレイジー・バカンス ツイてない女たちの南国旅行』のエイミー・シューマーが主演と製作を兼任した作品。
脚本&監督のアビー・コーン&マーク・シルヴァースタインは、いずれも長編映画デビュー作。
レネーをエイミー・シューマー、エイヴリーをミシェル・ウィリアムズ、リリーをローレン・ハットン、ヘレンをナオミ・キャンベル、イーサンをローリー・スコーヴェル、マロリーをエミリー・ラタコウスキー、ジェーンをビジー・フィリップス、ヴィヴィアンをエイディー・ブライアント、グラントをトム・ホッパーが演じている。ソウル・サイクルで気絶したレネーは目を覚まし、心配するターシャの前で自分の腕や太腿を見て戸惑いの表情を浮かべる。この時点で、彼女は「自分が見違えるようにスリムになった」と思い込んでいるのだ。レネーは「すっかり引き締まってる」と興奮し、鏡で顔を見ると「理想のフェイスライン。美人になってる」と喜ぶ。
こういう場合、オーソドックスに考えれば「痩せて美人になっているレネー」の妄想を映像化し、その上で現実には何も変化していないことを示すだろう。
しかし本作品の場合、「理想の姿」を全く見せない。つまり観客は、何の変化も無いのにレネーが「自分は変わった」と思い込んで興奮したり喜んだりする様子を見せられるわけだ。
このシーンはエイミー・シューマーのコメディエンヌとしての本領が見事に発揮されており、ギャグとして大正解の演出と言えるだろう。容姿へのコンプレックスで消極的だった女性が、自信に満ちた言動を取って明るくなり、それによってモテるようになったり仕事も上手く行ったりするようになったという話なら、それは「全てのイケてない女子たちにエールを送る物語」として評価できたかもしれない。
でも、この映画って、明らかに「自分が美人だと思い込んでいる不美人なヒロイン」を馬鹿にしているんだよね。
「小太りでブスなのに、美人のように自信満々で振舞うヒロインに周囲が呆れ果てる」ってのをギャグとして描いているんだよね。レネーは「自分のような美人が、通販部門の小さなオフィスにいるのは勿体無い」とか、「本当はモデルになれるぐらいの美人だから、こんな場所で受付係をしているのは似つかわしくない」とか、そういうことを堂々たる態度で言い放つ。
これって、仮にレネーが本物の美女だったとしたら、ただの高慢な女になってしまう恐れもある。
レネーは「美人になって自信が付き、明るく前向きになった」ということじゃなくて、美人を鼻に掛けて得意げになっている。「美人ってのは特権だから、他の女性ではダメなことでも許される」と思い上がっている奴になっている。
「そういう態度を不美人が取っている」ってのをギャグにしているんだけど、それって思い上がった美女を茶化しているように見せ掛けて、実はブスいじりになっちゃってるよね。粗筋でも触れたように、レネーが友人たちに嫌味な態度を取ったり、来客に失礼な態度を取ったりするシーンがある。
だが、それは「少しずつレネーが増長して嫌味な女になっていった」という感じじゃなくて、それ以外の部分では「美人になった」と思い込んだ時から全く変わらない。
そんな中で、急に「レネーが嫌な女になった」と感じさせるエピソードが挿入されている。
しかも、そこから「レネーが嫌な女になった」という方向で話を進めるのかと思ったら、粗筋で触れたエピソードだけで終了してしまう。そして物語は、「グラントに口説かれ、頭を打って魔法が解けて」という展開に入る。だったら、増長パートは要らないでしょ。
そもそも、レネーが美人になったと思い込むのは、「ポジティヴ・シンキングで自信を持つことで、人生は上手く行く」という前向きなメッセージを発信する話として進めていたはずで。
それなのに「嫌味な女になる」という描写を入れると、メッセージがブレちゃうよ。
着地したい場所がどこにあるのかは結果を見れば分かるけど、それを見た上で、それでも「ブレてる」と感じざるを得ない。レネーがホテルの部屋からグラントを追い出し、浴室の鏡に映る自分を見つめて「アンタは誰なの」と感情的になるのは、どういうことなのか良く分からない。
その後、ロビーで鏡を見たレネーが「元に戻っている」と感じ、「魔法が解けちゃった。いつか解けると思ってたけど」と漏らすのも、違和感を覚える。
その台詞だと、「何となく気付いていた」ってことになっちゃうでしょ。でも、そうじゃなくて完全に信じ込んでいた設定にすべきだよ。
だから、そこは鏡を見て元の姿に戻っていても、すぐには認めようとしないとか、何とか再び美人になろうとするとか、そういう方向でレネーを動かした方がいいよ。魔法が解けたレネーは以前のように自信の無い消極的な性格に戻るのかと思ったら、悪酔いして周囲に当たり散らし、美人に悪態をつくシーンがある。
その後は「以前の状態に戻ってしまう」という描写が続くけど、だったら悪態シーンは余計な雑音でしかないでしょ。
前述した増長パートもそうだけど、製作サイドが本気で「不美人な女性へのエール」を意図して作っているのか疑わしい描写が色々と気になる。
そんで最終的には「見た目を気にせず、あるがのままの自分でいいんだ」というメッセージを訴えようとするんだけど、そこまでレネーの外見を揶揄する描写を散々盛り込んでおいて、それはハード・ランディングになってないか。(観賞日:2023年10月19日)