『王様のためのホログラム』:2016、アメリカ&フランス&ドイツ&イギリス&メキシコ

大きな車も家も妻も失ったアラン・クレイはアラブ人だらけの飛行機に搭乗し、サウジアラビアに到着した。ジェッダのホテルにチェックインした彼は、ベッドに倒れ込んで泥のように眠り込んだ。彼は部長のランドールから「君が雇われたのは、国王の甥の知り合いだからだ。この契約は重要だが頼りない」と言われ、「サウジへ行ったことは無いんです。現地の状況も、国王の考えも分かりません」と告げた。「君はしばらく無職だった。これはシュウィン社で自転車を売るのとは違う。必ず契約を決めるという強い意志を見せろ」とランドールが語ると、アランは絶対に契約を勝ち取ると約束した。
ホテルで目を覚ましたアランはKMET(国王の経済・貿易・新都市)へ行くため、レンタカーを呼ぼうとする。しかしフロントのエドワードに電話を掛けた彼は、国際免許を持っていないと運転できないことを知らされる。アランはエドワードに頼み、運転手付きの車を呼んでもらった。やって来たのはユセフという男で、「爆弾を仕掛けらるかもしれないから、ロビーへ行く前に車の配線を外しておいた」と話す。アランが驚くと、彼は「テロじゃない。人妻を寝取ったと思われ、旦那に殺されそうで」と説明した。
ユセフからKMETへ行く目的を問われたアランは、IT関係だと答えた。「何も無い街だぞ」とユセフが言うと、彼は「技術を紹介し、全力で開発を進める」と述べた。ユセフが「まず見てみろよ」と言って送り届けたKMETは大半が砂漠で、複数の建物が点在している状態だった。アランが1つの建物に入ると、サイードという男が出迎えた。彼は今日は国王が来ないことを告げ、2025年に完成予定の街の模型図を見せた。計画では工業地帯や大学、レジャー施設などが充実した街になる予定だった。
サイードはアランを車に乗せ、彼が勤務するレリアンド社のプレゼン室へ案内した。プレゼン室は大きなテントで、そこで働くブラッド、レイチェル、ケイリーはWi-Fiが通じないことをアランに話す。国王との連絡係であるカリームに会うため、アランは隣のオフィスへ行く。すると受付係のマハは、カリームがジェッダにいて明日まで戻らないと告げた。ホテルに戻ったアランは、背中のコブに気付いた。娘のキットからは、「ママから電話があった。いつもと同じでパパの悪口ばかり。私はまだ大学に行ってないけど、それでいいの。私はパパを信じてる。ママが間違ってると証明して。見返して」というメールが届いていた。
アランは父のロンに電話を掛け、サウジで仕事をしていると告げる。具体的な内容を問われた彼は、「国王に売り込む画期的なテレビ会議システムだ。3Dホログラムだ」と説明した。ロンは彼に、「今、テレビで何を見てるか分かるか。オークランドの巨大な橋を中国が建設してるって番組だ。お前はシュウィン社の製造を中国に移し、地元の連中の職を奪った。あの時、俺は思った。利益だけが目的の腹黒い連中が、経済を空洞化させるって」と語る。彼が話を続ける中、アランは途中で電話を切った。
翌朝、ユセフの車でホテルを出たアランは、「ホテルから見えるモスクだ。昨日は大勢いた」と言う。するとユセフは淡々とした口調で、「きっと処刑だよ」と告げた。アランがマハの元へ出向くと、「予定が変更されて、カリームはリヤドに行っている」と言われる。アランが勝手にエレベーターで上の階へ行くと、カリームの部下のハンナと遭遇した。ハンナは彼に、「私が来てから1年半、国王を見たことは無い」と話す。彼女はオリーブオイルに偽装した酒瓶を、アランにプレゼントした。Wi-Fiについてアランが尋ねると、ハンナは「それは小さな問題だわ」と告げた。
ホテルに戻ったアランは酒を飲み、娘に「お前の人生を辛い物にした」と謝罪するメールを書いた。彼はコブが気になり、ナイフで切って膿を出そうとする。次の朝、シーツに大量の血が付着しているのを見て、彼は嘔吐した。ユセフはアランを車に乗せると、「KMETに国王は来ない。イエメンにいる」と教えて新聞記事を見せた。彼は「二日酔いに効く」と言い、アランをアラビア料理の店へ連れて行った。電話を受けたユセフは、相手が人妻のジャミーラだとアランに告げた。ユセフによると、ジャミーラの夫は外国で少年売春に手を出しているらしい。ユセフがジャミーラと浮気していないことを改めて話すと、アランは夫と話して分かってもらうよう勧めた。
アランはコブを治療してもらうため、病院へ赴いた。女医のハキムは診察し、良性の脂肪腫だろうと告げる。アランが不安を吐露すると、彼女は組織検査をして分析に出すと述べた。結果は日曜日に出ると言われ、アランは病院を後にした。ホテルに戻った彼はハンナから電話を受け、デンマーク大使館のパーティーに誘われた。アランが大使館へ行くと、クラブ音楽に合わせて大勢の人々が踊っていた。ハンナはアランをクロークへ連れ込み、セックスに誘った。しかしアランは、「君は最高だけど、気が咎めるよ」と遠慮した。
次の日、アランがプレゼン室へ行くと、空調が壊れてブラッドたちがグッタリしていた。アランがマハの元へ行くと、カリームはNYだと告げられる。アランはハンナに会うため上の階へ行くが、彼女は不在だった。代わりに用件を聞くと言って応対したのが、カリームだった。彼は建設中の高層建物へ行くと告げ、アランを車に乗せた。アランが「テントにWi-Fiが通じない。空調は壊れている。食事はホテルから持参している」と訴えて対処を求めると、カリームは全て手配すると約束した。「いつまで国王を待てばいいのか」と尋ねると、彼は「分からない」と答えた。
カリームはアランがシュウィン社にいたことを知っており、「ニュージャージーで暮らしていた頃、シュウィンに乗っていた。ビジネススクールで研究していたこともある」と話す。「自転車は国際競争が激しい。それぞれに技術も異なる」と彼が言うと、アランは「もはや過去だ」と告げた。アランはカリームに、「中国で早く安く製造するのが、当時は最善策だと思った。でも自転車作りを教えたら、中国製を作り始めた。市場も独占だ。彼らは同じ自転車に違うメーカーのラベルを貼るだけだ」と語った。「当時、貴方は取締役だった。他に米国内で生き残る道があったと思いますか?」と質問され、彼は「複雑な問題でね」と口にした。
カリームはモデルルームの見学をアランに進め、5階に住んでいるハッサンが案内すると告げて建物を去った。アランはハッサンを訪ね、仕事について尋ねた。ハッサンは厳しいと告げ、1階に並んでいる飲食店の看板についてアランが訊くと「1軒も決まってない」と述べた。ホテルに戻ったアランは酒を飲んで就寝するが、息が出来なくなって目覚めた。彼はユセフに電話を掛けて助けを求めた後、ハキムにも連絡した。最初に駆け付けたのはハキムで、気を失っているアランに注射を打って落ち着かせた。
ハキムは目を覚ましたアランに、「恐怖心が全ての元凶です。貴方の症状はパニック障害の兆候です」と告げた。ユセフが来ると、ハキムは部屋を去った。アランはユセフから「なぜサウジ女が部屋にいる?夫や子供がいるぞ」と責めるように言われ、「落ち着け。浮気じゃない」と告げる。ユセフはアランに、ジャミーラの夫が2人の男を連れて家の外へ来たことを話す。彼が「町を出て親父のいる山へ行く。そこなら安全だ」と言うと、アランは同行することにした。
次の日、アランはユセフの車に乗り、ホテルを出発した。ユセフは途中で、甥のサーレムを同乗させた。ユセフはジャミーラのメールに意識を向けていたせいで、最後の出口を見落としてしまった。サーレムが気付いてユセフを非難し、2人は激しい口論になった。アランが説明を求めると、ユセフは「ムスリムしか入れない聖地メッカへの道に入ってしまった」と話す。彼は軽く笑って「聖地に行くか。トーブを着れば誤魔化せる」と言い、車をハラムへ向かわせた…。

脚本&監督はトム・ティクヴァ、原作はデイヴ・エガーズ、製作はウーヴェ・ショット&シュテファン・アルント&アルカディー・ゴルボヴィッチ&ティム・オヘア&ゲイリー・ゴーツマン、製作総指揮はスティーヴン・シェアシアン&ガストン・パヴロヴィッチ&クローディア・ブリュームフーバー&アイリーン・ゴール&ゲロ・バウクネット&ジム・セイベル&ビル・ジョンソン&シャーヴィン・ピシュヴァー、共同製作はマシュー・J・マレク&レナード・グローウィンスキー、製作協力はマンドゥーハ・アル=ハーシー、撮影はフランク・グリーベ、美術はウリ・ハニッシュ、編集はアレクサンダー・バーナー、衣装はピエール=イヴ・ゲロー、視覚効果監修はロバート・ピンナウ&ドミニク・トリムボーン、音楽はジョニー・クリメック&トム・ティクヴァ。
出演はトム・ハンクス、アレクサンダー・ブラック、サリタ・チョウドリー、シセ・バベット・クヌッセン、トム・スケリット、ベン・ウィショー、デヴィッド・メンキン、メーガン・マツコ、クリスティー・メイヤー、トレイシー・フェラウェイ、エリック・メイヤーズ、ジェーン・ペリー、カリッド・ライス、アミラ・エル・サイード、アブドゥラ・アル・ムスレマニ、ジェイ・アブド、ワリード・エルガディー、ダーフィル・ラブディニ、ザイダン・カラフ他。


デイヴ・エガーズの同名ベストセラー小説を基にした作品。
脚本&監督は『パフューム ある人殺しの物語』『クラウド アトラス』のトム・ティクヴァ。
アランをトム・ハンクス、ユセフをアレクサンダー・ブラック、ザーラをサリタ・チョウドリー、ハンナをシセ・バベット・クヌッセン、ロンをトム・スケリット、ブラッドをデヴィッド・メンキン、レイチェルをメーガン・マツコ、ケイリーをクリスティー・メイヤーが演じている。

アランはサウジアラビアへ行く時点で、何も分かっていない。国際免許が無ければ運転できないことも、アルコールが禁じられていることも知らない。
ランドールに対する「現地の業況も国王の考えも分からない」ってのは、その通りだろう。
だけど、ネットも普及して情報が溢れている時代なんだし、国際免許やアルコールについては事前に調べれば分かるはず。
カルチャーギャップに直面して苦労する様子を描きたかったのかもしれないけど、あまりにも準備不足なだけじゃないのかと感じてしまうぞ。

アランがサウジへ向かう様子が最初に描かれて、後から短い回想を何度も挿入することで「それまでの経緯」が示される形となっている。
ランドールの台詞で、かつてアランがシュウィン社にいたこと、しばらく無職だったことは分かる。その後の回想が幾つかあって、彼が離婚していること、妻から娘の大学資金のために家を売るよう離婚調停で要求されたこと、娘が大学を辞めてバイトしていることなどが少しずつ分かって来る。
後から事情説明を入れるのは別にいいのだが、それは一気に片付けた方がいい。
短い回想を何度にも分けて断片的な情報を小出しにするやり方は、この映画にはそぐわない。そこでミステリー的に引っ張っても、何の得も無い。

アランがランドールと話すシーンでは、何の契約でサウジへ行くのかは分からない。ユセフの質問を受けた時にIT関係で開発事業への参加を狙っていることは分かるが、具体的に何を売ろうとしているのかは分からない。
ロンと話すシーンで、ようやくテレビ会議システムの3Dホログラムだと判明する。
でも、そこまで謎にしたまま引っ張る意味なんて全く無い。
だから、ただ説明するタイミングを逸している、間違っていると感じるだけだ。

アランはハキムの診察を受けた時、「動作が鈍い。やる気が出ない。生き方を見失った。昔は物事を単純化するのが得意だった。そういう能力を失った」と語り、それがコブのせいではないかと言う。
ハキムは「無関係です」と断言し、「数年前に胸が締め付けられる感覚があって、心電図で異常が見つかると思ったが何も無かった。気にし過ぎです」と告げる。
このやり取りが、映画のテーマに直結している。
「深く考え込んで色んなことを背負い込まず、肩の力を抜いて生きてみよう」ってのが作品のメッセージだ。

3Dホログラムには何の意味も無くて、アランが売ろうとする物は何だって構わない(だからって説明が遅くていいわけではないよ)。もっと極端に行ってしまえば、「国王から契約を取り付けようとする」という設定さえ、そんなに重要性があるわけではない。
ビジネス方面での面白い展開を期待すると、肩透かしを食らう羽目になる。
それと、ビジネスを重視しないのなら、他のトコに意識があることを分かりやすく伝えた方がいいし、そっちを充実させるべきだ。だけど、この映画だと、何を描こうとしているのか焦点が定まらず、全体がボヤけているだけなんだよね。
途中でアランが中国のビジネスのやり方について詳しく説明するシーンがあるが、これも実は全く意味が無い。ビジネスに主眼が無いのなら、中国がどんな手口を使おうが、わざわざ粒立てる必要は無いはずだし。
あと、そこで語られる中国企業のあこぎな手口なんて、誰でも知っているような情報だし。

ハンナからセックスに誘われたアランは、「君は最高だが、気が咎めるよ」と断る。でも、なぜ断るのか全く理解できない。
「酒を飲んでいるし、大使館のクロークの床だ」とアランは言うけど、それが下手な言い訳なのは明らかだ。でもアランは妻と別れているから、浮気というわけではない。妻への未練があるわけでもない。
だったら、ハンナの誘いを断る理由はこれといって見当たらないんじゃないかと。そこで据え膳を食わない理由なんて無いんじゃないかと。
そこで彼がハンナとセックスして、その後の展開に影響が出ることなんて特に無さそうだぞ。遠慮したからって、好感度が上がるわけでもないし。
些細なことだと思うかもしれないけど、どうにも不自然に感じられて、かなり引っ掛かっちゃうんだな。

アランが息苦しくなって失神し、ハキムからパニック障害の兆候だと言われるシーンがある。
ようするに、この映画は「初めての土地で苦労が重なり、ストレスを溜め込んでいくアランが、そこから解放されて楽になるまでの話」を描こうとしているわけだ。そのための道具として、「国王に会って3Dホログラムの契約に漕ぎ付けようとする」という目的が設定されているわけだ。
だからビジネスの中身は、どうでもいいのだ。
だから、そこの筋書きは全く先へ進まず、ただ「国王に会えない日が続く」ってのを見せているだけだ。

アランは間違ってメッカへ行くことになるが、それで何か起きるのかというと、特に何も無いまま通過してしまう。ムスリムじゃない人間がメッカに入るのは危険な行為という前フリをしておきながら、サラッと流してしまう。
その後、実家に着いたユセフはアランに「ここに将来は無い。国に残って物事を変えたいる民主革命を起こしたら支援してくれるか」と尋ねる。それに対してアランは「米国の派兵は無理だが、個人的に支援する」と約束する。
でも、実際に支援するかどうかは分からないし、その動きも見えないまま映画は終わる。
その辺りでハッキリするのが、「実はサウジアラビアである意味も、そんなに大きくない」ってことだ。

終盤に入るとアランはハキムが気になり、彼女に会うための口実を作ったりする。だが、どこで彼女に惚れたのか、サッパリ分からない。
そもそも、この恋愛劇そのものが付け足しのようにしか思えず、まるで必要性を感じない。
むしろ、この要素を終盤になって中心に据えたことで、アランが帰国せずサウジに留まる理由が「惚れた女と一緒にいるため」ということになるという弊害が生じている。
そういう動機がダメってことじゃなくて、そこを着地にするなら、もっと2人の関係を前半から描いておかなきゃいけないんじゃないかと。
終盤に入り、慌てて2人の恋愛劇を進めようとするから、ものすごく不細工な収束の形になっちゃってるのよ。

(観賞日:2018年11月2日)

 

*ポンコツ映画愛護協会