『穴/HOLES』:2003、アメリカ

18歳のスタンリー・イェルナッツ4世は祖父から、「ひいひい爺さんのせいで一族はツキが無い」「代々の呪いがある」と言われ続けている。ある日、スタンリーが道を歩いていると、上空から靴が降って来た。スタンリーが靴を拾うと警官たちが追って来て、彼は逮捕されてしまった。その靴はメジャーリーグのクライド・リヴィングストンが使っていた靴で、スタンリーは判事から「刑務所へ行くか、更生施設のキャンプ・グリーン・レイクへ行くか、どちらかを選びなさい」と促された。
スタンリーはグリーン・レイクを選び、バスで護送された。名前には「レイク」と付いているが、そこは湖など無い荒野の施設だった。柵さえ設置されていない状態だったが、施設を取り仕切るミスター・サーは「どうせ逃げられない。160キロ四方で水はここだけだ。3日でハゲタカの餌になる」と述べた。彼はスタンリーに、「毎日、一つずつ穴を掘る。ショベルが広さと深さの物差しだ。トカゲとガラガラ蛇には気を付けろ。放っておけば襲われないが、黄斑トカゲに噛まれたら死ぬ」と説明した。
指導員のドクター・ペンダンスキーはスタンリーに施設を案内し、「ここの掟は一つ。所長を怒らせないことだ」と告げた。D班に配属されたスタンリーは、同じ宿舎で生活するゼロやX−レイ、スクイッド、アームピット、マグネット、ジグザグ、トウィッチといった面々に会った。ペンダンスキーはスタンリーの教育係にアームピットを指名した。何をして捕まったのか問われたスタンリーは、「クライド・リヴィングストンがホーレムス施設に寄付した靴を盗んだ」と答えた。いつもは無口なゼロが「赤いバツ印の?」と興味を示したので、X−レイたちは驚いた。
その夜、スタンリーは祖父の口癖である「ブタ泥棒のひいひい爺さんのせいで、一族の運命が決まった」という嘆きを思い出す。祖父の父は株で大儲けしたが、女盗賊のキッシン・ケイト・バーロウに襲われて全て失っていた。キッシン・ケイトは殺した相手にキスマークを残すことで有名な盗賊だが、馬車を襲われたスタンリー曽祖父は置き去りにされただけだった。翌朝、スタンリーは他の面々と共に穴掘りへ向かい、サーから「何か見つけたら、俺かペンダンスキーに報告しろ。所長が気に入れば、その日は休める」と告げられた。
スタンリーは穴掘りを始めるが、X−レイたちから嫌がらせを受ける。祖父が「一族の運命を決めた」と言っているエリャ・イェルナッツは、ラトビアの村で暮らしていた。マイラという女に一目惚れした彼は、占い師のマダム・ゼローニに相談する。ゼローニは「あの子の頭はカラッポだよ」と忠告するが、エリャはマイラの父であるモリスに「娘さんを下さい」と言う。マイラにはイゴールという男も求婚しており、モリスは「イゴールは太った豚をくれるそうだ。お前は?」と貢物を要求した。
ゼローニはエリャから相談を受け、自分の豚を与えることにした。その時点では子豚だったが、ゼローニは山へ連れて行って小川の水を飲ませれば大きくなると説明した。ゼローニは豚を与える代わりに、それをモリスに引き渡したら自分を山へ連れて行って水を飲ませるよう要求した。彼女はエリャに、「約束を破ったら一族は永遠に呪われる」と告げた。エリャは求婚に出向くが、マイラのバカさ加減に呆れ果てた。彼は豚をモリスに渡すと、ゼローニとの約束を忘れてアメリカへ渡った。
スタンリーは穴を掘っている最中に化石を見つけ、ペンダンスキーに見せた。しかしペンダンスキーは、「所長は化石に興味が無い」と述べた。「湖があったんでしょ」とスタンリーが尋ねると、彼は「町もあった。所長の祖父が、湖と町の半分を所有してた」と語った。X−レイはスタンリーに、「何か見つけたら、俺に寄越せ。新入りが休むのは不公平だ」と脅しを掛けた。ゼロから「字が読めないから教えて」と頼まれたスタンリーは、「穴掘りの後で、そんな気力は無いよ」と断った。
スタンリーは「K.B」と刻まれた薬莢のような物を発見するが、X−レイに奪われる。X−レイは自分がアナで発見したように装い、ペンダンスキーに見せた。連絡を受けた女性所長が現場へ来たので、スタンリーは初めて彼女の姿を目にした。見つけた物品を確認した所長は、X−レイを宿舎に戻して休みを与えるよう指示した。彼女は他の面々に対し、X−レイの穴を掘るよう命じた。しかし4日に渡って掘り続けても、所長が望む物は見つからなかった。
かつてグリーン・レイクに住んでいた女性教師のキャサリンは、玉ねぎを売る黒人のサムと密かに惹かれ合うようになった。金持ちの息子であるトラウト・ウォーカーから言い寄られても、キャサリンは冷たく拒んだ。しかしキャサリンはサムと接吻する様子を目撃され、校舎に火を付けられた。保安官はキャサリンの抗議を受けても動かず、住民たちはサムを殺害された。復讐心を燃やしたキャサリンは保安官を殺害し、キスマークを残した。こうして彼女は、女盗賊のキッシン・ケイトに変貌したのだった。
マグネットは給水中、サーの持っているヒマワリの種の袋を密かに盗んだ。しかしサーが戻って来たので、スタンリーが慌てて隠した。スタンリーはサーに見つかり、所長の元へ連行された。所長室に入ったスタンリーは、壁に飾られているケイトの指名手配書を目にした。サーは「スタンリーが盗んだのではなく、誰かを庇っています」などと得意げに言うが、所長は怒りを示した。彼女は爪でサーの頬に傷を付け、スタンリーに作業へ戻るよう指示した。
スタンリーが作業現場へ戻ると、ゼロが自分の穴を掘ってくれていた。スタンリーは礼として、彼に字を教えることにした。スタンリーはゼロに、「見つけたのは口紅のケースだ。K.Bはケイト・バーロウのイニシャルだ」と述べた。スタンリーが名前の綴りを教えると、ゼロは「それは本名じゃない。本名はヘクター・ゼローニだ」と述べた。さらに彼は、最初はホームレス生活をしていたこと、母親が失踪していること、良く公園で寝ていたことを語った。
スタンリーが字を教える代わりにゼロが穴掘りを手伝っていることを知り、マグネットが難癖を付けて来た。スタンリーとマグネットが喧嘩になり、サーやペンダンスキーが駆け付けた。所長は事情説明を受け、スタンリーに「自分の穴掘りを手伝ってもらわないように」と注意した。ペンダンスキーから読み書きのことで馬鹿にされたゼロは、彼の頭をシャベルで殴り付けて脱走する。サーが拳銃を持って追い掛けようとすると、所長が「撃たないで。調査でもされたら最悪よ」と制止した。彼女はゼロが孤児だと知り、ペンダンスキーに「記録を破棄して無かったことにするのよ」と指示した…。

監督はアンドリュー・デイヴィス、原作はルイス・サッカー、脚本はルイス・サッカー、製作はマイク・メダヴォイ&アンドリュー・デイヴィス&テレサ・タッカー=デイヴィース&ローウェル・D・ブランク、製作協力はクラーク・ヘンダーソン、製作総指揮はマーティー・ユーイング&ルイス・フィリップス、撮影はスティーヴン・セント・ジョン、美術はメイハー・アーマッド、編集はトム・ノードバーグ&ジェフリー・ウルフ、衣装はアギー・ゲラード・ロジャース、視覚効果監修&第二班監督はウィリアム・メサ、音楽はジョエル・マクニーリー、音楽監修はカリン・ラットマン。
出演はシガーニー・ウィーヴァー、ジョン・ヴォイト、シャイア・ラブーフ、ティム・ブレイク・ネルソン、パトリシア・アークエット、デュレ・ヒル、ヘンリー・ウィンクラー、ネイト・デイヴィス、リック・フォックス、スコット・プランク、ローマ・マフィア、アーサ・キット、シオバン・ファロン・ホーガン、クレオ・トーマス、ブレンダン・ジェファーソン、ジェイク・M・スミス、バイロン・コットン、ミゲル・カストロ、マックス・カッシュ、ノア・ポールティエク他。


ルイス・サッカーの児童小説『穴』を、彼自身の脚本で映画化したウォルト・ディズニー・ピクチャーズ作品。
監督は『ダイヤルM』『コラテラル・ダメージ』のアンドリュー・デイヴィス。
所長をシガーニー・ウィーヴァー、サーをジョン・ヴォイト、スタンリーをシャイア・ラブーフ、ペンダンスキーをティム・ブレイク・ネルソン、ケイトをパトリシア・アークエット、サムをデュレ・ヒル、スタンリーの父をヘンリー・ウィンクラー、スタンリーの祖父をネイト・デイヴィス、クライドをリック・フォックス、トラウトをスコット・プランク、カーラをローマ・マフィア、ゼローニをアーサ・キット、スタンリーの母をシオバン・ファロン・ホーガン、ゼロをクレオ・トーマスが演じている。

序盤から「代々の呪いがある」「ひいひい爺さんのせいでツキが無い」ってことを、スタンリーや祖父が何度も台詞でアピールしている。
単に「スタンリーの一族はツキが無い」ってことだけを表現しておきたいのなら、それだけで事足りる。
しかし、ツキの無さを生み出したエリャに関わるエピソードは、後の展開に絡んで来る。
それならば、何度も「ひいひい爺さんのせいでツキが無い」ってことを言うだけでなく、早い段階で「どういうことがあったのか」を説明しておくべきだろう。

ところが、「一族が呪われるきっかけになった出来事」は、なかなか説明してもらえない。
それより先に「スタンリーの曽祖父がキッシン・ケイトに襲われた出来事」が映像付きで挿入されるが、そんなのは後回しでもいいのだ。
それと、その出来事を祖父や父が話した時にスタンリーは「キッシン・ケイト」と聞いて興奮しているから有名人という設定のようだが、その示し方は上手くない。
有名人の設定なら、先に「いかにケイトが有名か」を示しておいて、それから曽祖父の襲撃された出来事を説明した方がいい。

開始から20分ほど経過して、エリャがゼローニとの約束を忘れて渡米したエピソードが描かれる。
しかし、それは無駄に引っ張り過ぎだ。スタンリーが更生施設に入る前に、それは説明しておいた方がいい。
しかも、最初にエリャのエピソードが挿入された時には、「約束を忘れて渡米した」ってトコまでは描かれないのだ。途中で「スタンリーたちが給水を受ける様子」をチラッと写してから、残りの部分を描くのだ。
だけど、どうせエリャが約束を守らなかったことなんて明白なんだから、そこを二度に分割する意味が無い。給水を「ゼローニに小川の水を飲ませる約束」を重ねているつもりなら、何の効果も無いし。

「湖があったんでしょ?」という質問を受けたペンダンスキーが所長の祖父について触れると、かつてのグリーン・レイクの様子が描写される。
そこでは、サムが玉ねぎを売っていること、キャサリンが教師をしていること、トラウトが彼女に惚れていることが示される。
しかし、ここも「キャサリンがキッシン・ケイトになるまで」の出来事を一度に描かず、分割している。スタンリーがシャワーを浴びると、キャサリンとサムが惹かれ合うようになっていく様子が描かれる。
でも、そのタイミングでキャサリンたちのエピソードに入ると、まるで「スタンリーが回想、もしくは想像しているシーン」のようになるので、上手い構成とは言えない。

全員がX−レイの穴を掘る様子とキャサリンのエピソードを、短いシーンを連ねて交互に描く手順に入ると、「スタンリーの回想っぽくなってしまう」という問題は起きない。
ただ、「分割して描く必要があるのかな」という部分は、やや疑問が残る。
ナレーションでも使用して「こういうことが過去にありまして」と説明し、それから一気に「キャサリンがサムを殺されて復讐心を燃やし、キッシン・ケイトになりました」ってのを見せちゃった方が、スッキリするんじゃいかなと。

「K.B」と刻まれた口紅ケースが見つかった時点で、「所長はケイトの隠した大金を探しているんだろうな」ってのが何となく分かる。
ついでに書くと、「K.B」の物品が見つかった段階だとスタンリーたちは「それが何なのか」を誰も分かっていないけど、形状からして口紅なのはバレバレだ。
だから、それが何なのかをミステリーにしたまま引っ張り、スタンリーがケイトの指名手配書を手掛かりとして「あれはケイトの口紅だ」と突き止める手順は、まるで効果的ではない。

後半、スタンリーが穴掘りをゼロに手伝ってもらっていたことが発覚すると、所長は「自分の穴は自分だけで掘るように」と注意する。
ここからの流れがスムーズでなくて、まず「ゼロがペンダンスキーから馬鹿にされ、頭をシャベルで殴り付けて昏倒させる」という手順に繋がるのがギクシャクしている。
その上、ゼロが脱走する展開に至ると、「そのタイミングで脱走なのかよ」と言いたくなる。
流れとか予兆なんてのが皆無なので、すんげえ唐突で違和感が強いのよね。

序盤で説明されているように、更生施設には周囲を遮る柵が存在しない。だから逃げようと思えば、いつだって逃げられる。
それでも全員が施設に留まっているのは、「そこにしか水が無いから逃げても死んでしまう」という事情があるからだ。
なので強い覚悟を決めるとか、ギリギリまで追い込まれるとか、そういうことが無いと脱走に至らないはず。
ところがゼロは、ものすごく軽いノリで脱走しているのだ。
それを「バカだから」ってことで受け入れるのは難しいよ。

幾つもの伏線を張り巡らせて、それを回収するという作業は綺麗に実施されている。
ただ、物語が着地に入った時に、「だから何なのか」と思ってしまう。何が描きたかったのか、どういうテーマだったのか、その辺りが良く分からないのだ。
スタンリーの成長が描かれているわけではないし、冒険が繰り広げられるわけでもない。
スタンリーって、過去の出来事を一つにまとめて綺麗に着地させるための駒に過ぎないんじゃないかと。
本人が「ツキが無いのは呪いのせいだ」と諦めていたが、「人生は自分で切り開くものだ」という考えに変化し、その結果として呪いが解けるわけでもないのよね。

1時間20分ほど経過した辺りでスタンリーはゼロを救おうとして脱走し、そこで「スタンリーとゼロのサバイバル・アドベンチャー」という様相を呈する形になる。
ただ、既に全体の3分の2ほどを過ぎているので、それをメインと捉えるには始動が遅すぎる。
実際、それほど膨らむことも無いまま、すぐにサバイバル・アドベンチャーは終了してしまう。
そこに重点を置いていないのだから、当然っちゃあ当然なんだろう。
ただ、繰り返しになるけど何を描きたかったのかが今一つ見えて来ないので、伏線は綺麗に回収されているんだけど、難なく物足りなさが残るのだ。

(観賞日:2016年8月14日)

 

*ポンコツ映画愛護協会