『アーノルド・シュワルツェネッガーのSF超人ヘラクレス』:1969、アメリカ
オリンポスの山には神々が暮らしていたが、ゼウスの息子である半神半人のヘラクレスは地上へ行きたがっていた。ゼウスが認めないので、ヘラクレスは「でもマルスは」と言う。ゼウスは「軍神としての任務だ」と告げるが、ヘラクレスは見物だけでもさせてほしいと頼む。ゼウスは「必ず面倒が起きる」と言うが、ヘラクレスは「何千年も飽き飽きした」と告げる。ゼウスは「人間界は悪化する一方だ。見ても面白くない」と話すが、ヘラクレスは「自分で判断します。同じ暮らしには飽きました」と口にする。
ゼウスが「ここにいるのだ」と厳しい口調で命じると、女神のヴィーナスはヘラクレスに優しくするよう求める。しかしゼウスは「口を出すな」と言い、「たかがの人間の女の息子が、生意気な」とヘラクレスを罵倒した。ヘラクレスが考えを変えないので、ゼウスは怒りの雷撃を食らわせた。ヘラクレスが地上へ向かう様子を、飛行機に乗っていた老女が目撃した。ヴィーナスはヘラクレスを許すよう、ゼウスに頼む。しかしゼウスの妻であるジュノーは、身勝手の報いを受けて苦しむべきだと主張した。ゼウスは「様子を見よう」と告げ、皆でヘラクレスを観察することにした。
海に落ちたヘラクレスは、通り掛かった船に拾われた、船長はヘラクレスが船から落ちたのだと考えるが、理解に苦しむことを話されて困惑する。「ヘラクレス・ゼウス」という名前だと誤解した船長は、とりあえず水夫として働かせることにした。しかし甲板長に仕事を命じられたヘラクレスは腹を立てて暴れ、船員たちを叩きのめした。船がニューヨークへ到着すると、ヘラクレスは勝手に港へ降りた。甲板長が制止しても、彼は聞く耳を貸さなかった。
甲板長は港にいた連中に報酬を約束し、ヘラクレスを捕まえるよう持ち掛ける。ヘラクレスが男たちを撃退する様子を、プレッツェルの行商人であるプレッツィーが目撃した。彼は「殺されるぞ」と忠告し、ヘラクレスをタクシーに乗せる。プレッツィーはヘラクレスをギリシャ人だと思い込んだまま、セントラル・パークへ連れて行く。タクシー料金の支払いを求められたヘラクレスは、「訳の分からないことを。僕に金は不必要だ」と言う。
プレッツィーも文無しだったため、タクシー運転手は激怒する。プレッツィーが逃げ出そうとすると、運転手はヘラクレスに殴り掛かった。ヘラクレスは運転手を投げ飛ばし、タクシーを怪力で横転させた。プレッツィーと共に逃げたヘラクレスは、大学のスポーツ選手たちが練習する風景を目撃した。優勝候補の最強チームだとプレッツィーが教えると、ヘラクレスは鼻で笑った。勝手にグラウンドへ入った彼は、コーチや有望選手であるロッドに「模範を見せてやる」と言う。
ヘラクレスは円盤を構え、遥か遠くまで軽々と飛ばした。コーチが槍投げや幅跳びを要求すると、こちらも驚異的な記録を出した。その様子を見ていたカムデン教授と娘のヘレンは、「俺のダチだ」と自慢していたプレッツィーに声を掛けた。お茶に招待されたヘラクレスとプレッツィーは、カムデン邸を訪れた。ヘレンはヘラクレスに凝視されて「全てが完璧だ。女神に似てる」と言われたので戸惑いを見せた。ヘラクレスはプレッツィーから「女性に対して失礼な態度だ」と注意されるが、まるで理解できなかった。
ヘレンの恋人であるロッドが来た時も、ヘラクレスは失礼な言葉を口にする。ロッドが腹を立てても、彼は理由が分からなかった。ロッドが腹を殴るとヘラクレスは余裕で受け止め、彼を抱き上げて肋骨を折った。ヘラクレスから誘われ、ヘレンはデートに出掛けた。帰り道の公園に動物園から逃げ出したヒグマが現れるが、ヘラクレスが退治して新聞に取り上げられた。プレッツィーはホテルの宿泊代を払うため、レスリングの試合に出場するようヘラクレスに持ち掛けた。興行主のドゥガンが記事を読み、興味を持って訪ねて来たのだ。
ヘラクレスがレスリングで活躍するようになると、ギャングのマキシーやナイトロたちはプレッツィーにマネージャーの仕事を譲るよう要求した。プレッツィーは拒否するが、脅されたので従った。ヘラクレスの行動について報告を受けたゼウスは激怒し、罰を与えるためにネメシスを差し向けようと考える。しかしマーキュリーが「彼にチャンスを一度だけ与えて下さい。説得に行かせて下さい」と申し入れ、女神たちも頼み込んだ。そこでゼウスは、マーキュリーを派遣することにした。
マーキュリーは地上へ行ってヘラクレスと会い、オリンポスへ戻るよう説いた。ヘラクレスが「まだ帰らない」と拒むので、マーキュリーはネメシスが派遣されることを話す。しかしヘラクレスが耳を貸さないので、マーキュリーは「そんなに身勝手では大変なことになるぞ」と忠告して窓から飛び去った。その様子を見たプレッツィーは仰天してヘレンやカムデンたちに話すが、信じてもらえなかった。ゼウスはマーキュリーの報告を受け、ネメシスに「プルートーの冥界へ100年間閉じ込めろ」と指示した。ジュノーはゼウスに内緒でネメシスと接触し、神力を奪う薬をヘラクレスに飲ませるよう命じる…。監督はアーサー・A・シーデルマン、製作&脚本はオーブリー・ウィスバーグ、製作総指揮はルイス・G・チャピンJr.&マーレイ・M・カプラン、製作協力はウィラード・W・グッドマン、撮影はレオ・レボウィッツ、編集はドナルド・フィナモア、Art Director美術はペリー・ワトキンス、衣装はチャールズ・D・トムリンソン、音楽はジョン・バラモス。
出演はアーノルド・スタング、アーノルド・ストロング“ミスター・ユニヴァース”(アーノルド・シュワルツェネッガー)、デボラ・ルーミス、ジェームズ・カレン、アーネスト・グレイヴス、タニー・マクドナルド、ハワード・バーステイン、マーウィン・ゴールドスミス、ジョージ・バーテニエフ、タイナ・エルグ、マイケル・リプトン、ジャン・アダムス、ウィリアム・バス、ルディー・ボンド、レイン・キャロル、トニー・“ミスター・ワールド”・キャロル、オリヴァー・クラーク、エリカ・フィッツ他。
アーノルド・シュワルツェネッガーの映画デビュー作。
脚本は『キャプテン・キッドと奴隷娘』『四十人の女盗賊』のオーブリー・ウィスバーグで、製作も兼ねている。
監督のアーサー・A・シーデルマンは、これが初メガホン。
プレッツィーをアーノルド・スタング、ヘラクレスをアーノルド・シュワルツェネッガー、ヘレンをデボラ・ルーミス、カムデンをジェームズ・カレン、ゼウスをアーネスト・グレイヴス、ジュノーをタニー・マクドナルド、ロッドをハワード・バーステイン、マキシーをマーウィン・ゴールドスミス、ナイトロをジョージ・バーテニエフ、ネメシスをタイナ・エルグ、プルートーをマイケル・リプトンが演じている。わざわざ言うまでも無いことだろうけど、ヘラクレスってのはギリシャ名であり、英語だとハーキュリーズになる。
だから劇中で主人公は自らのことを「ハーキュリーズ」と呼ぶし、他の神々からもそう呼ばれている。
ただ、粗筋では邦題に従い、「ヘラクレス」と表記している。
まあ、その呼び方に従うのなら、ホントはゼウスを「ジュピター」、ジュノーは「ヘラ」、ヴィーナスは「アフロディーテ」と呼ぶべきなんだけどね。公開当時、アーノルド・シュワルツェネッガーは「Arnold Strong 'Mr. Universe'」という別名義で表記されていた。
「アーノルド・ストロング」という名前は本人が望んだものではなく、「シュワルツェネッガー」ではアメリカで受けないだろうと考えた製作サイドの判断だ。
「ミスター・ユニヴァース」は、全米アマチュア・ボディービルディング協会が主催する大会の優勝者に与えられる称号のこと。
シュワルツェネッガーは大会で5度の優勝歴を持っている。また、ボディービルの最高峰であるミスター・オリンピアでも、映画が公開された1969年は準優勝だったが、翌年からは6連勝を飾っている。かつて『アーノルド・シュワルツェネッガーのヘラクレス』『シュワルツェネッガーのヘラクレス』といった邦題でTV放送されたことがあり、DVD化の際には『アドベンチャー・オブ・ヒーロー』という邦題が付けられた。
前の2つは主演俳優と役柄をくっ付けているだけの単純なモノだが、内容から外れちゃいないので一向に構わない。
しかし『アドベンチャー・オブ・ヒーロー』はダメだろ。内容と全く合ってないぞ。
そもそも『SF超人ヘラクレス』ってのはB級らしさも含めてピッタリの邦題なのに、変える必要性が無いよ。冒頭、ヘラクレスは「同じ暮らしには飽きました」と言うが、その「同じ暮らし」を描写する過程を飛ばしているから、ヘラクレスが同じ日々の繰り返しに退屈していることが伝わりにくい。
ゼウスが「たかが人間の女の息子が、生意気な」と罵るんだからヘラクレスは腹を立てたり「私はいいが母を侮辱するのは許せない」と言ったりすりゃあいいのに、「母は人間でも、父は神である貴方です」と言っちゃう。
つまり人間である母が侮辱されたことは普通に受け入れちゃうわけで、どう考えてもダメだろ。ヘラクレスは地上へ行くことに関しては、なぜか執拗に「絶対に行きます」と主張する。ゼウスが認めなくても、激昂しても、その態度は全く変わらない。
だったら、もう断られた時点で密かに地上へ向かえばいいものを、なぜか認めないと分かり切っているゼウスに楯突いて「行くったら行くもんね」という態度を示す。
だからゼウスは「罰を与えてやる」と激怒して雷攻撃を食らわせ、爆発が起きている。
だけど、それでヘラクレスが傷付いたのかと思いきや、地上へ落下していくんだよな。
つまり彼は望み通りに地上へ向かったわけで、ゼウスは何がしたかったのかと。地上へ向かうにしても、「傷付いた状態や気絶した状態で墜落していく」ってことなら、まだ分からんでもないよ。でもヘラクレスは全くダメージを受けず、飛行機の老女に笑顔で手を振る余裕もあるのだ。
だから、女神たちが「半分は人間なのです。死んでしまう」「貴方の息子です」とゼウスに言っている意味が無くなっている。
その後でヴィーナスがヘラクレスを許すようゼウスに頼み、ジュノーが「彼は身勝手の報いを受けるべきよ」と口にするけど、その会話も意味が無いんだよな。
だって、ヘラクレスは地上へ向かっており、ゼウスの罰を受けているわけではないのだ。そんな奴を許すよう頼むのも、報いを受けるよう求めるのも、ピントがズレてるでしょ。「海に落下する」→「通り掛かった船が発見し、引き上げる」という描写をカットしているのは予算の都合だろうけど、それは話のテンポとしても省略してOK。
ただし、せっかく「船長が水夫として働かせる」という手順があるのに、実際にヘラクレスが働いたり、人間の常識や船でのマナーなどを知らないせいでトラブルが起きたりドタバタ劇になったりするという様子を全く見せないのは雑だわ。
喧嘩して船員たちを叩きのめす描写だけで済ませるのなら、もう「ニューヨークに落ちました」で始めた方がスッキリするわ。港で6人の男たちがヘラクレスに襲い掛かるのだが、もちろん全く歯が立たない。ただし、そのパワー・バランスは、すんげえ中途半端。
ヘラクレスは6人が襲い掛かろうとすると慌てて近くにあった長い板を掴み、それを盾代わりにして攻撃を防ぐ。そして、そのまま怪力で押して数名を海へ落とし、残りを叩きのめす。
その行動、かなりモタモタしているのだ。
デミゴットなんだから、もっと圧倒的な力を披露すべきでしょ。幾ら6人が相手でも、人間を倒すのに苦労するって、どんなヘラクレスだよ。ヘラクレスが高慢なキャラになっているのは、あまりプラスとは思えない。
船では働かずに暴れ、偉そうな態度を取る。タクシー料金が無いのに「このヘラクレスに御者代を払えと?」と見下したような言い方をして、運転手の投げ飛ばしたり車を横転させたりする。
ただの迷惑な暴れ者じゃねえか。
「人間社会の常識やルールを知らないからトラブルを起こす」というのは、ベタではあるけど、他に道筋なんて無いんだから、それで構わない。でも、主人公が単なるオレ様主義の暴君ってのはダメだろ。ちっとも好感が持てないし、そいつが起こすトラブルも笑えないぞ。ヘラクレスは地上の情報を何も知らないはずなのに、陸上の練習風景を目撃した時は「模範を見せてやる」と言い出す。彼は「ギリシャ・オリンピックで模範を見せた」と言うんだけど、円盤投げのような古くからある物については知っているというわけだ。
でも、そうなるとヘラクレスである意味が薄いでしょ。「遥か昔からタイムスリップしてきた男」でも、その手のネタは成立する。
もちろん「デミゴッドの能力」という要素もあるので、それだけじゃないんだけど、どうも半端になっているように感じる。
っていうか根本的な問題として、オリンポスにいても地上を見ることは出来るはずでしょ。だから、むしろ「地上の情報は知っているけど、中途半端な形でしか把握していないので戸惑いもある」とか、あるいは「地上の情報は完全に理解している」ってことにしてしまい、「デミゴッドの能力」という部分だけに絞り込んでも良かったんじゃないかと。
笑いを取るためのネタとしては、他にも「ヘラクレスの正体を知らない人間たちが振り回されたり困惑したりする」ということでも表現できるわけだし。お茶に誘われて訪れたヘラクレスが失礼な発言でヘレンを困惑させたりロッドを激怒させたりした翌日、カムデンは「ユニークな男だ」と言う。ヘレンは「気が変なのよ。ロッドの肋骨を折ったのよ」と言うが、カムデンは「面白い男だ。もっと良く知りたい」と話す。ヘレンは「デートを申し込んで来たの」と不愉快そうな表情で言うが、カムデンから「返事は?」と問われると笑顔になって「もちろんOKよ」と話す。
なんだ、そりゃ。
ヘレンが不愉快そうな表情から一変して「もちろんOKよ」と言わせるトコでオチを付けたつもりかもしれんけど、上手くオチてないぞ。
ヘラクレスに好感を抱いたのなら、普通に描けよ。変な捻りがマイナスにしか作用していない。
っていうかロッドの肋骨を折って暴れた男に惚れるって、気が変なのはヘレンの方だろ。その段階だと、まだヘラクレスは単に「ヤバそうな奴」でしかないぞ。
しかも、登場シーンの会話からするとロッドはカムデンも公認したヘレンの恋人のはずなのに、それは見事なスルーしちゃうのね。デート風景は描かれず、「その帰り道」ってことで夜のシーンに移る。人間の世界に不慣れなヘラクレスがどんなデートをするのか、それに対してヘレンがとせんな反応を示すのかってのは、色々と使い場所も多いはずだけど、バッサリと省略してしまう。
で、夜のシーンでは、ヘラクレスとヘレンが普通に馬車で移動している。
どこで調達したんだよ、その馬車は。
で、並行して動物園の様子が写るので何の意味があるのかと思ったら、「動物園から逃げ出したヒグマが2人の前に現れる」という、強引さしか無い展開に繋がる。
そんでヘラクレスが倒して話題になるのだが、ヒグマがキグルミ丸出しなのは置いておくとして、もうちょっとスムーズにやれなかったものかと。ヘラクレスが誘ってヘレンが承諾したデートの様子は省略したのに、その後でヘレンがヘラクレスを町案内する様子は描写する。
だったら、それをデートのシーンにすりゃ良かったんじゃねえのか。
その一方で、レスリングで活躍するシーンは全く描かないし。
しかもギャングがプレッツィーを脅してマネージャーを辞めさせる様子を描いた後、それに対するヘラクレスの反応も入れず、ヘレンと街を歩く様子やマーキュリーと会う様子に移っちゃうし、構成がメチャクチャだわ。ジュノーを「ヘラクレスを憎む悪役」という設定にしているが、なんせヘラクレスは地上へ降りているので直接的に何かを仕掛けることは出来ず、しばらくは「ゼウスに意見するだけ」というヌルいポジションになっている。
映画が3分の2ほど過ぎた辺りで、「ヘラクレスに対するゼウスの天罰は甘い。神力を奪うべし」とネメシスに命じる。でも、もちろんジュノーが悪意で神力を奪おうとしているのは分かるけど、「それぐらいの罰は与えてもいいんじゃないか」と思っちゃうのよね。
「ヘラクレスは神力があるから地上で大きな顔をしている」というジュノーの意見は納得できるし、そういうヘラクレスの態度は不遜だし。
どうせ力が失われるのは薬の効果が続いている間だし、懲らしめる意味でも、そのぐらいの天罰は与えた方がいいんじゃないかと。神力を失ったヘラクレスは大金の賭けられた重量挙げ対決に敗北し、マキシーたちに追われる身となる。カレンが車で囮になって逃亡するとヘラクレスは助けに駆け付けるけど、「そもそもテメエのせいだからな」と言いたくなる。
で、ヘラクレスが反省したり落ち込んだりする手順を挟まず、ギャングの攻撃でピンチになった彼をゼウスが救うという展開にしてしまう。
そりゃダメだろ。
その後でヘラクレスは反抗心を反省していると言うけど、それは神力を失ったことで気付いたわけで。つまりジュノーの与えた天罰が正解だったということになるわけで、最後までグダグダだな。(観賞日:2015年9月19日)