『大いなる遺産』:1998、アメリカ

フロリダの小さな町。10歳のフィン・ベルは、姉のマギー、彼女の恋人ジョーと共に暮らしている。ある日、フィンは脱獄囚ラスティグに脅され、脱走の手助けを要求される。フィンは足の鎖を切るボトルカッターや薬を運び、ラスティグを逃がした。しばらくして、フィンはラスティグが警察に逮捕されたというニュースをテレビで見た。
フィンはジョーに同行し、ディンズムア夫人の邸宅を訪れた。彼女には、30年前に婚約者に去られたという過去があった。ディンズムア夫人の姪エステラと会ったフィンは、一目で彼女に惹かれた。フィンは、エステラの肖像画を描いた。
フィンがエステラに何度も会う中で、年月が過ぎていった。ある日、フィンはエステラと共にパーティーに行った帰り、彼女に誘惑された。しかし、エステラは体は許さなかった。その翌日、エステラはフィンに何も言わず、ヨーロッパへ旅立った。
7年後、フィンは絵を描くことをやめて漁師となり、ジョーを手伝っていた。そんなある日、ニューヨークからラグノという弁護士がやって来た。ラグノは、フィンがニューヨークで個展を開くため、匿名の支援者が援助を申し出ていることを告げた。
申し出を受けることにしたフィンは、安ホテルに泊まって個展のために作品を描き始めた。町でデッサンをしていたフィンは、エステラと再会した。しばらくして、エステラはホテルに現れ、絵のモデルになった。だが、彼女は急に、時間が無いと告げて帰ってしまう。
やがてフィンは、新進気鋭のアーティストとして注目されるようになった。パーティーに参加したフィンの前に、エステラが現れた。フィンはエステラを追い掛け、恋人ウォルターの元から彼女を連れ出した。ジョーとエステラは、初めてベッドを共にした。
フィンの個展は大成功を収め、ジョーも駆け付けた。だが、場の雰囲気にそぐわない態度を取るジョーを見て、フィンは彼を怒鳴り付けた。エステラの家に向かったフィンは、ディンズムア夫人から、彼女がウォルターと結婚したことを告げられる。
自分のスタジオへ戻ったフィンの前に、白髪の老人が現れた。彼は、フィンが幼い頃に助けたラスティグだった。そしてラスティグこそ、匿名の支援者であった。フィンは、ラスティグが昔の仲間に追われていることを知り、彼の逃亡を助けようとする…。

監督はアルフォンソ・キュアロン、原作はチャールズ・ディケンズ、脚本はミッチ・グレイザー、製作はアート・リンソン、共同製作はジョン・リンソン、製作総指揮はデボラ・リー、撮影はエマニュエル・ルベッキ、編集はスティーヴン・ワイズバーグ、美術はトニー・バーロウ、衣装はジュディアナ・マコフスキー、音楽はパトリック・ドイル。
出演はイーサン・ホーク、グウィネス・パルトロウ、ロバート・デ・ニーロ、アン・バンクロフト、ハンク・アザリア、クリス・クーパー、ジョシュ・モステル、キム・ディケンズ、ニール・キャンベル、ガブリエル・ミック、ジェレミー・ジェームズ・キスナー、ラクエル・ボーディン、スティーヴン・スピネラ、マーラ・スカレッツァ、イザベル・アンダーソン、ピーター・ジェイコブソン他。


チャールズ・ディケンズの同名小説を映画化した作品。1946年にデヴィッド・リーン監督で映画化されているが、今回は舞台をアメリカに置き換えている。フィンをイーサン・ホーク、エステラをグウィネス・パルトロウ、ラスティグをロバート・デ・ニーロ、ディンズムアをアン・バンクロフト、ウォルターをハンク・アザリア、ジョーをクリス・クーパーが演じている。
原題は『Great Expectations』で、邦題は『大いなる遺産』。確かに「Expectation」には遺産という意味もあるが、ここでは「期待」という意味で受け取った方がいいと思う。この映画の「期待」とは、フィンが自分の将来に対して抱いた期待である。

フィンはディンズムア夫人の邸宅を訪れた時、金持ちである彼女のために好きな絵を描き、愛するエステラと幸せになるという期待を抱く。だが、エステラが旅立った後、彼は、それらの期待を捨てる。絵を捨てて、エステラのことも忘れようとする。
7年後、フィンは今度は、ニューヨークで画家として成功し、エステラと幸せになるという期待を抱く。しかし、画家として成功したものの、代償として過去を捨て、ジョーとの絆を切ってしまう。そしてエステラとの恋は、やはり今度も報われないままだ。

この映画で私が最も惹き付けられたのは、フィンとジョーの擬似親子の関係である。
マギーが家出した後、ジョーは父親代わりとしてフィンを育て、優しく接した。フィンが漁師の仕事を辞めてニューヨークに行く時も、ジョーは金目当てではなく、温かく送り出した。
しかし、そんな優しいジョーが個展に現れた時、フィンは彼を怒鳴り付ける。田舎者丸出しのジョーを見て、すっかり都会に染まって成功者となったフィンは、恥ずかしいと感じたのだ。ジョーは淋しそうな表情を浮かべて、会場を後にする。
その時、フィンは、ジョーの態度が恥ずかしいと思った、その自分の気持ちが恥ずかしいと感じるのだ。

ラスティグとの関係も、もっと印象的になるかと思ったが、彼が聞かれてもいないのに自分から「俺はお前のために金を使った。絵を全て買った」などと言い始めるので、すっかり冷めてしまった。このプロットは、もう少し上手く使ってほしかった。
フィンとジョー、ラスティグとの関係は、いずれも小さなサプ・プロットに過ぎない。メインとなるのは、フィンとエステラの関係である。
フィンは10歳の時に、イカれたディンズムア夫人の遊び道具として利用され、エサとして用意されたエステラに食い付いてしまう。

しかしエステラは、男に裏切られたディンズムア夫人によって、男への復讐の道具として育てられたので、フィンを弄ぶだけだ。男を振り回す女性を小悪魔と呼んだりするが、エステラはそんな可愛いものではない。
イヤな女というだけだ。

エステラはディンズムア夫人が企んだ通り、男の心を引き裂く恐ろしい女になった。フィンとの付き合いの中で、エステラの中に優しい気持ち、本当にフィンを愛する気持ちが芽生えるようなことも無い。その気配さえも、全く感じられない。
だから途中で、フィンの恋が上手くいかないだろうし、上手くいったとしても「イヤな女と結ばれた」という、素直に祝福できない結末になることは見える。そのような恋愛劇(一方的な恋愛だが)がメインというのは、キツイのではないかと思ってしまった。

 

*ポンコツ映画愛護協会