『大蜥蜴の怪』:1959、アメリカ

暗い影に閉ざされた秘密の森では、巨大な毒トカゲが生息していた。パット・ウィーラーと恋人のリズ・ハンフリーズは、車を森に停めて音楽を聴いていた。だが、突如として車が押され、谷底へと転がった。ダイナーで若者たち音楽に合わせて踊っていると、ゴーディーとジェニーも合流した。チェイスが恋人のリサを連れて店に入り、まだパットとリズが来ていないことを聞く。リズはパットの父親であるウィーラーと、つい先刻まで一緒にいた。パットが帰って来ないので、ウィーラーは怒っていたという。
ハリス老人が入って来たので、チェイスは車を売るよう持ち掛ける。チェイスはハリスの車が気に入っており、何度か交渉しているのだが、まだ売ってもらえずにいた。若者たちは店を出て、ドライブ・インに向かった。次の日、ウィーラーは保安官のジェフに会い、パットとリズが戻っていないことを話して捜査を依頼する。ジェフは駆け落ちの可能性を指摘するが、ウィーラーは「有り得ない。全てチェイスが元凶だ。年上のあいつが悪いことばかり教える」と言う。
ジェフは「あいつは、そんな奴ではありません。父親が無くなってから、母親と妹を支えてきた男です。むしろバットの教科書です」とチェイスを擁護した上で、捜査を承諾した。ジェフはチェイスの働く自動車修理工場へ行き、パットとリズが行方不明になっていることを話す。「駆け落ちだと思うか?」とジェフが尋ねると、チェイスは「結婚したがってるのは聞いたことがあるけど、違うと思う」と告げた。彼はパットがスピード狂だったことを語り、事故を起こして入院している可能性もあるのではないかと告げた。
ジェフはリズの両親を訪ね、駆け落ちの可能性について質問する。母のアガサは、仕事をクビになったので有り得るかもしれないと述べた。修理工場のオーナーであるコンプトンは、ニトログリセリンを積んだ車を運んで来た。ケースから出したまま外に放置していると聞いたチャンスは、慌てて倉庫に収納した。事故を起こして溝に落ちている車が見つかったという情報を得たチェイスは、現場へ向かった。車を調べると、座席には大量の血が付着していた。しかし周囲を捜索しても、乗っていた人間は見当たらなかった。
コンプトンはレッカー車を運転し、事故現場へ向かった。途中でヒッチハイカーがいたが、コンプトンは停まらずに通過した。その直後、ヒッチハイカーは巨大トカゲに襲われた。ジェフの調べにより、事故を起こしたのは盗難車だと判明した。チェイスとジェフは事故現場から戻る途中、道路脇に放置されているヒッチハイカーの鞄を発見した。ジェフは事故と関係があるのではないかと考え、鞄を持ち帰ることにした。近くに巨大トカゲが潜んでいたが、2人は気付かなかった。
次の日、チェイスはスミスという男が酔っ払い運転で側溝に突っ込んでいる現場に遭遇し、声を掛けた。チェイスは事故車を工場まで運び、泥酔しているスミスを寝かせてやった。スミスが目を覚ますと、チェイスは自作の歌を口ずさみながら仕事をしていた。素面に戻ったスミスはチェイスに礼を述べ、「君が気に入った。力になりたい。街に来る時があったら訪ねてくれ」と名刺を差し出し、40ドルを渡して立ち去った。名刺を見たチェイスは、彼が有名なラジオDJのスチームローラー・スミスだと知って興奮した。
ジェフはチェイスの元へ行き、捜査協力を要請した。現場には直角になったタイヤ跡が残されていたが、ジェフの報告を本部は信じようとしなかった。それを聞いたチェイスは「本部が間違っている」と言い、ジェフから証言を求められると承諾した。ジェフは仲間に声を掛け、手分けしてパットとリズを捜索する。チェイスはリサと共に渓谷を調べ、動物が何かを引きずったような跡を見つける。ゴーディーとジェニーがパットの車を発見し、チェイスたちを呼んだ。しかし、車の近くには誰もいなかった。
チェイスはパットの車を修理工場まで運び、ジェフに現場の状況を説明した。仕事でオイルトラックを運転していたコンプトンは巨大トカゲと遭遇し、驚いて事故を起こしてしまった。チェイスが帰宅すると、足の悪い妹のミッシーが器具を装着した状態で真っ直ぐに立っていた。彼女は「リサがくれたの」と言い、ふらつきながらも少しだけ歩く。彼女が「昼間から練習してたの」と言うので、チャンスは感激した。チェイスは彼女のために、ウクレレを弾きながら歌った。
チェイスはジェフからの電話で、コンプトンの事故を知った。現場へ急行したチェイスは途中でジェフとハリスを車に乗せ、事故現場へ向かう。ハリスは目撃者から事故のことを告げられ、ジェフに通報していたのだ。事故現場に到着するとオイルトラックが炎上していたが、コンプトンの姿は見つからなかった。ジェフは家畜が消える出来事が続発していることをチェイスに教え、パットやコンプトンの失踪と関連しているのではないかと話す。
大トカゲが陸橋を破壊したため、列車の脱線事故が起きた。酒を飲みながら車を運転していたハリスは事故を目撃し、ジェフの元へ行って状況を説明した。動物学者から話を聞いたジェフはチェイスを呼び、巨大トカゲが一連の出来事に関与しているという推理を口にした。チェイスも幾つかの証言や痕跡から、巨大トカゲの存在を確信する。ジェフの元を訪れたウィーラーは相変わらずチェイスへの強い嫌悪感を示し、タイヤを盗んだ罪で逮捕しろと要求する…。

監督はレイ・ケロッグ、原案はレイ・ケロッグ、脚本はジェイ・シムズ、製作はケン・カーティス、プロダクション・マネージャーはベン・チャップマン、撮影はウィルフリッド・M・クライン、編集はアーロン・ステル、装置はルイーズ・コールドウェル、アート・ディレクターはルイス・コールドウェル、特殊撮影効果はラルフ・ハマラス&ウィー・リッサー、音楽はジャック・マーシャル、音楽協力はオードレイ・グランヴィル、スペシャル・ソングスはドン・サリヴァン。
出演はドン・サリヴァン、フレッド・グレアム、リサ・シモーヌ、シャグ・フィッシャー、ボブ・トンプソン、ジャニス・ストーン、ケン・ノックス、ゲイ・マクレンドン、ドン・フルールノア、セシル・ハント、ストーミー・メドウズ、ハワード・ウェア、パット・リーヴス、ジャン・マクレンドン、ジェリー・コートライト、ビヴァリー・サーマン、クラーク・ブラウン、グラディー・ヴォーン、デズモンド・ドゥーグ、アン・ソンカ、ヨランダ・サラス他。


特殊効果マン出身のレイ・ケロッグがメガホンを執った作品。『人喰いネズミの島』と本作品が彼の監督デビュー作(2本立てで公開された)。
テキサスのラジオ局や映画館チェーンのオーナーを務めていたゴードン・マクレンドンが出資し、その2本を製作している。
TVシリーズ『ガンスモーク』などに出演していた俳優のケン・カーティスが、この2本立て興行で初めてプロデューサーを担当している。
チェイスをドン・サリヴァン、ジェフをフレッド・グレアム、リサをリサ・シモーヌ、ハリスをシャグ・フィッシャー、ウィーラーをボブ・トンプソン、ミッシーをジャニス・ストーン、スミスをケン・ノックスが演じている。
ケン・ノックスは、ゴードン・マクレンドンが所有するラジオ局で番組を持っていた本物のDJだ。

チェイスは自分で歌を作っている設定で、歌唱シーンも用意されている。
しかも、ミッシーのためにウクレレを弾きながら歌うシーンでは、『The Mushroom Song』という曲をフルコーラスで歌い切ってしまう。
それはドン・サリヴァンが作った歌だ。
アンクレジットだが、他にも『My Baby, She Rocks』と『I Ain't Made That Way』というドン・サリヴァンの自作曲が劇中歌として使用され、前者はチェイスが仕事をしながら口ずさむシーン、後者はパーティーでレコードが掛けられるシーンで流される。

ドン・サリヴァンが有名な歌手だったわけではない。そもそも、他に彼が歌を披露した映画は1本も無い。
それなのに、なぜ本作品だけは、彼が自作した歌が3曲も使われているのである。
どういう裏事情があったのかは良く分からない。映画の出資者や、その身内だったわけでもないし。
ひょっとすると、ゴードン・マクレンドンと強い結び付きがあって、「彼の曲を使う」という条件があったのかもしれない。
とにかく、何か裏事情が無ければ、有名歌手でもない彼にフルコーラスを歌わせている説明が付かない。
幾らレイ・ケロッグでも、それをノホホンとやらせるほどバカじゃないはずだ。

『人喰いネズミの島』と同じく、登場する怪物は「トカゲ特撮」で表現されている。
トカゲ特撮とは、本物の生物をセットに配置し、巨大な怪物に見せ掛けるという撮影方法だ。
この映画の場合、登場する怪物が巨大トカゲなので、まさに「トカゲ特撮」である。
併映された『人喰いネズミの島』では巨大ネズミ(っていうかトガリネズミだから正確にはネズミ目の動物じゃないんだけど)として毛皮を着せた犬を使っていたので、それよりはマシかな。トカゲはトカゲなので。

「ミニチュアのセットの前にトカゲを置いて巨大に見せ掛ける」という方法を取っているのだが、技術がレイ・ケロッグに無かったのか、予算が足りなかったのか、その両方が原因なのかは知らないが、実写パートと特撮パートは完全に分離されている。
巨大トカゲは、一度も人間たちと絡まない。
じっとしているトカゲ、舌をペロンと出すトカゲ、ノタノタと歩いているトカゲの姿が、単独で画面に写し出されるだけだ。

だから厳密に言うと、巨大トカゲは人間たちを一度も襲わない。「襲う」という位置付けで用意されているシーンは存在するが、人間とトカゲが同じカットで共存することは無い。
例えばヒッチハイカーが襲われる時は、「驚く男」→「トカゲ」→「転倒する男」→「伸びて来るトカゲの前足」という風に、人間とトカゲのカットが交互に写し出される。
しかも、その「伸びて来る前足」のカットは、タイトル直前のカットを使い回すという手抜きっぷり。
最初に書いたように、これでもレイ・ケロッグの本職は特殊効果マンである。

もうタイトルで何が出て来るのかはバレバレなので、変に勿体を付けても意味が無いってことなのか、冒頭で車が谷底へ転がる様子を描写した後、トカゲの前足がカメラに向かって伸びて来て、そこでタイトルが表示される。
で、どれだけトカゲが大きいのかというと、これが微妙。
というのも、ミニチュアセットの前にトカゲを配置しているシーンだけでなく、普通の荒野にいるカットもあるので、その場その場でサイズが変化している(ように見える)のだ。
途中までは、せいぜいコモドオオトカゲ程度にしか見えない。

そりゃコモドオオトカゲの戦闘能力は高いから恐ろしい存在だけど、このトカゲは別物だ。
それに実際に存在する生物と同じぐらいのサイズってのは、映画に出て来る「怪物」のサイズとしては物足りなさがある。
ただ、陸橋を襲撃するシーンや事故を起こした列車に這い寄るシーン、パーティー会場の納屋を壊すシーンなどはミニチュア撮影なので、一気にサイズが巨大化して車や列車よりもデカくなる。
でも本作品の場合、サイズが云々ということじゃなくて、それ以前の問題がデカすぎるんだけど。

冒頭、「その土地は広く、足を踏み入れた者は無かった。寒々とした土地には誰も行こうとせず、生物も確認されていなかった。神からも見放された、この寂しい場所の暗い影に閉ざされた秘密の森では、巨大な毒トカゲが生息していた。その怪物が、どれほど巨大なのかは誰も知らない」という大層なナレーションが入り、観客を脅かそうとする。
ただ、実は長々とした語りだが、その内容は実に薄っぺらくて、似たような内容を繰り返しているだけである。
なお、そうやって最初にコケ脅しのナレーションを入れているが、いざ本編が始まるとポンコツな仕上がりだ。
そのせいでハードルを上げたことが見事に逆効果となってしまい、結果的にはナレーションの大仰さが恥ずかしいモノになってしまうというのは、Z級映画のお約束である。

テンポが悪くてダラダラしているのも、Z級映画ではお約束と言っていいだろう。
人間ドラマや会話劇に時間を使うことで、物語に厚みや深みが生じているのであれば、何の問題も無い。むしろ歓迎すべきことだ。
しかし、それが単なる無駄話や余計な道草にしかなっていないからこそ、Z級映画なのである。
ウィーラーがハリスに捜査を依頼する際に「グズグズしないでくれ」と言うが、それはレイ・ケロッグに突き付けたいセリフである。

チェイスがハリスの車を買いたがっていることを示す会話も、ジェフがハリスから修理を請け負っていることを示す会話も、チェイスが足の悪いミッシーのために金を溜めていることを示す会話も、ストーリー進行には何の関係も無い。
そういうキャラクター描写や人間関係の紹介が、本筋に全く影響を及ぼさない。
むしろ、無駄な箇所で時間を費やし、変に間延びさせてしまうせいで、緊張感が減退してしまう。
っていうか、この映画の場合、そもそも醸し出されている緊張感がゼロなので、それより減らしようがないんだけど。

ベロベロに酔っ払っているスミスが事故を起こした車を運転しようとしてグダグダするシーンなんて、ホントに何の意味があって時間を費やしているのかと言いたくなる。
中身がペラペラだから、そうやって時間稼ぎをしているのかと。
そこに限らず、ただの時間稼ぎでダラダラと会話を引き延ばしたり、ノロノロと事を進めたり(っていうか進めなかったり)しているとしか思えない箇所だらけだ。
むしろ、ダラダラしていない時間帯が見当たらないんじゃないか。

ミッシーが器具を付けて少しだけ歩き、それにチェイスが感動するというシーンにしても、そういう家族の絆を描くドラマであれば別にいいけど、そうじゃないでしょうに。
しかも、ミッシーの足が悪いことは会話の中で触れていたけど、彼女が登場するのは、そのシーンが初めてなのだ。そこで急に「足の悪いミッシーが密かに練習を積んでおり、兄の前で歩いて見せました」というのを感動的なモノとして描写されても、完全に浮いてるでしょ。
細かいことを言っちゃうと、例えば「ドライブ・インへ行く」ということでチャンスたちがダイナーを出た後、何も起きないまま翌朝のシーンに移ってしまうというのは、どうにも淡白だし、勿体無い。
ドライブインでの出来事を用意しないのであれば、例えば「森で何かが動く」とか、巨大トカゲの存在をチラ見させるようなカットを1つ入れるような作業があってもいいだろう。
そういう細かい配慮が無くて、ものすごく雑。さすがはZ級映画。

それ以降、何度かトカゲの姿が挿入されるが、チェイスも仲間たちも全く気付かない。そしてチャンスたちは、何の緊張感も危機感も抱かない。パットとリズは行方不明になっているのに、それど心配する様子も見せない。
渓谷を捜索する時は、近くに巨大トカゲが潜んでいるのだが、チャンスが何かの気配を感じて怯えたり、巨大生物がいるのではないかと感じさせる痕跡を発見して警戒したりすることも無い。それどころか、呑気にリサとキスをする。
そりゃあ映画に緊張感が張り詰めないのも当然だろう。
しかも、巨大トカゲの存在を確信し後も、まだチャンスはノンビリしており、パーティーで呑気に歌っている。残り8分を切った辺りでパーティー会場が巨大トカゲに襲撃され、ようやくチャンスは危機感を持つ。
ある意味、恐ろしいわ。

(観賞日:2014年4月26日)

 

*ポンコツ映画愛護協会