『L.A. ギャング ストーリー』:2013、アメリカ

1949年。ロサンゼルスでは麻薬や売春や暴力が蔓延し、ボクサーからギャングになったミッキー・コーエンが帝国を築いていた。彼はシカゴから話し合いに来たギャングのルッソを捕まえ、残酷な方法で処刑した。ジョン・オマラ巡査部長は相棒のウィル・ヘンドリックスと共に、コーエンの縄張りで美女を口説くミッチ・ラシーヌを張り込んでいた。ミッチは映画のオーディションと称し、女をホテルに連れ込んだ。ウィルはコーエンの縄張りであることから、関わりになることを嫌がった。ジョンは1人でアパートへ乗り込み、エレベーターでチンピラ2人を始末した。彼は部屋へ乗り込み、女を強姦しようとしていたミッチと子分たちを殴り倒した。
ジョンはミッチたちを警察署へ連行するが、クインキャノン署長は令状も無しに踏み込んだことを理由に彼らを釈放した。カーター判事から人身保護条例が届いている手回しの良さに、ジョンは内通者の存在を確信する。署長だけでなく、警察はコーエンの言いなりになっている連中が大半だった。ジョンの妻であるコニーは妊娠中で、夫の危険な行動を心配している。コーエンは用心棒のカール・ロックウッドを伴い、釈放されたミッチたちの元へ赴いた。彼はミスを犯したミッチたちを許さず、エレベーターに閉じ込めて焼き殺した。
夜、ジョンの同僚であるジェリー・ウーターズは靴磨き少年のピートと会話を交わした後、クラブで情報屋のジャック・ウェイレンと会う。ジャックはジェリーに、コーエンは戦争する気だと告げる。ジェリーは視線を移動させ、別のテーブルにいるコーエンの姿を確認する。ジャックは彼に、コーエンと一緒にいる連中のことを説明する。殺し屋のレヴォック、カーター判事、顧問弁護士のソロモン、バーバンク警察本部長のジャクソン、ロサンゼルス郡保安官のビスケレスといった面々だ。
しかしジェリーは彼らよりも、コーエンの世話係で情婦のグレイス・ファラデーが気になった。グレイスの方も、ジェリーに視線に気付く。ジェリーはジャックから「馬鹿なことはするな」と忠告されても耳を貸さず、カウンターへ移動したグレイスを口説きに掛かった。パーカー市警本部長は腹心のダリル・ゲイツから、ジョンの行動に関する報告を受けた。パーカーはジョンを呼び寄せ、コーエンにゲリラ戦を仕掛ける部隊のリーダーに指名した。「殺すんですか」とジョンが訊くと、彼は「コーエンが死んでも帝国が残れば似た奴が現れる。奴の組織を突き潰すんだ」と述べた。
チームの人選を命じられたジョンは、コニーにコーエンを追うための組織を結成することを話す。コニーは泣いて反対するが、ジョンは協力を求めた。ジェリーはグレイスと一夜を明かし、楽しい朝を迎えた。グレイスは「見つかったら殺されるわよ」と言うが、ジェリーは軽く受け流した。コニーはジョンが用意した候補者の資料をチェックし、「優秀な警官はコーエンが真っ先に買収する。優等生を捜しても駄目よ」と述べた。ジョンはジェリーと会い、チーム選びの協力を要請する。しかしジェリーは「ここじゃ何も変えられないさ」と言い、関わり合いになることを拒んだ。
ジョンはコニーの助言を受け、部隊のメンバーを選抜した。ジョンが最初にスカウトしたのは、過剰な暴力で命令違反を繰り返しているコールマン・ハリスだ。ナイフ投げの達人であるコールマンは、ヘロインで姪を亡くしていた。次に彼が引き入れたのは、有名なガンマンのマックス・ケナードだ。そして最後に選んだのは、陸軍情報部出身で知能派のコンウェル・キーラーだった。他の2人と違って彼には妻と息子がいたが、ゲリラ部隊への参加を快諾した。
コーエンはギャングのドラグナとレストランで会い、ルッソを殺したことを咎められる。しかしコーエンはシカゴの連中に喧嘩を売る行動を屁とも思っておらず、ドラグナに対して挑発的な態度を取った。ジャックはグレイスに会い、ジェリーと別れるよう促した。グレイスが「彼は子供じゃないわ」と拒否すると、ジャックは「奴は狼の皮を被った羊だ。いきがってるが、決してワルじゃない」と告げた。
ジョンはチームの面々に対し、「俺たちはコーエンに正体を知られていない。バッジは家に置いて来い。事件を解決するわけじゃない。戦争を仕掛けるんだ」と語った。そこへマックスの相棒であるナヴィダ・ラミレスが現れ、仲間に加えるよう要求した。「いざという時、逃げ出す奴じゃない」というマックスの推薦もあり、ジョンはナヴィダもメンバーに加えた。ジョンはバーバンクにあるコーエンのカジノ襲撃計画を明かし、「店内を破壊して金は燃やせ」と告げた。
ジョンたちは覆面強盗を装ってカジノに乗り込み、拳銃を構えて「金を出せ」と告げる。しかしカジノには用心棒をしている数名の警官がいたため、ジョンたちは慌てて逃げ出した。しかし発砲を受けてジョンとコールマンは捕まり、郡保安官事務所へ連行された。2人は尋問に黙秘し、暴行を受けて留置された。ジェリーはピートに靴磨きを頼んでいる最中、コーエンの手下たちとドラグナ一味の不穏な空気を感じる。ジェリーが家に帰るようピートに告げた直後、路上で激しい銃撃戦が発生した。ジェリーは身を伏せるが、ピートは弾丸を受けて死亡した。ジェリーはギャングを射殺し、コーエンを始末するためクラブへ足を踏み入れる。しかし殺気に気付いたジャックが駆け付け、彼を制止した。ジャックは彼に、カジノ襲撃で2人が捕まったことを教えた。
マックスたちは保安官事務所へ赴き、ジョンとコールマンを脱獄させようとする。ジェリーはコーエンの使者として事務所へ出向き、2人の引き渡しを要求した。だが、その直後に本物の手下2人が来たため、ジェリーが偽者だと露呈した。ジョンやジェリーたちは格闘して敵を倒し、その場から逃走した。一方、コーエンはカーターたちに、施設馬券売り場を開設してシカゴから西の取引を全て牛耳って大儲けしようと目論んでいることを明かした。
コーエンはレヴォックたちを差し向け、ドラグナ夫妻とメイドを皆殺しにした。カジノ襲撃の黒幕がドラグナだと思い、報復に出たのだ。ジョンは「戦争に犠牲は付き物だ」と冷淡に告げるが、コンウェルは「無関係な犠牲者は出したくない」と言う。彼はコーエンの動きを探るため、盗聴器を用意していた。ゲリラ部隊はコーエンの屋敷に潜入し、盗聴器を取り付けた。しばらく盗聴したジョンたちはヘロイン売買の動きを知るが、詳しいことは分からなかった。
コールマンは売人のデルを脅し、金曜の夜にバーバンク飛行場で取引があることを白状させた。ジョンたちは飛行場でヘロインを積んだトラックと護衛の車を追跡し、銃撃を受ける。部隊は激しい銃撃戦とカーチェイスの末、トラックを横転させた。彼らはトラックに乗っていた2人を捕まえ、コーエンの元運び屋だと知る。彼らの脚を撃って蹴り落としたジョンに、ジェリーは「勝ちたいのか、それとも戦って死にたいのか。次はもっと利口にやらなきゃ。こんな突撃を続けていたら、1週間後には全滅だぞ」と警告した。
パーカーはジョンの元を訪ね、コーエンが犯人捜しに躍起になっていることを教える。「君らが警官だとバレるのも時間の問題だ。作戦のテンポを速める必要がある。徹底的に叩け」と言われたジョンたちは襲撃や放火を繰り返し、新聞は大きく書き立てた。盗聴を続けていたコンウェルは、コーエンがエルドラド電信という新しい事業を始めようとしていること、ルッソの電信会社を乗っ取るため彼を殺したこと、コーエンは賭け屋の司令部を作ろうと目論んでいることを知った。
司令部の場所が分からないため、ジョンはジェリーにグレイスから情報を聞き出すよう要求した。「お前がやらなきゃ俺がやる」と言われ、仕方なくジェリーは承知した。しかし彼はグレイスと言い争いになり、何も聞き出せなかった。コンウェルは電信会社の通信を傍受し、司令部の場所がクラブだと突き止めた。ジョンたちはバンドに化けてクラブに潜入し、コンウェルが警報を切った。ジョンたちは司令部を襲撃し、集められていた金を燃やして立ち去った。
ジョンは金が奪われていないことを知り、犯人が警察の人間だと見抜いた。ジョンは「情報を漏らした奴がいる」と言い、自宅に盗聴器が仕掛けられていると確信して捜索を開始した。グレイスはメイドに促され、すぐに屋敷を出て行った。ジョンは盗聴器を発見し、犯人を誘い出すためにチャイナタウンで取引をする偽情報を流した。何も知らないジョンは、その情報を絶好のチャンスと捉えた。彼は悩みを吐露したコンウェル、グレイスと会いに出掛けたジェリー以外の面々を連れてチャイナタウンへ向かう…。

監督はルーベン・フライシャー、原作はポール・リーバーマン、脚本はウィル・ビール、製作はダン・リン&ケヴィン・マコーミック&マイケル・タドロス、共同製作はジョン・シルク、製作総指揮はポール・リーバーマン&ルーベン・フライシャー&ブルース・バーマン、撮影はディオン・ビーブ、美術はメイハー・アーマッド、編集はアラン・ボームガーテン&ジェームズ・ハーバート、衣装はメアリー・ゾフレス、視覚効果監修はアリエル・ヴェラスコ・ショウ、音楽はスティーヴ・ジャブロンスキー。
出演はジョシュ・ブローリン、ライアン・ゴズリング、ショーン・ペン、ニック・ノルティー、エマ・ストーン、アンソニー・マッキー、ジョヴァンニ・リビシ、ロバート・パトリック、マイケル・ペーニャ、ミレイユ・イーノス、トロイ・ギャリティー、ホルト・マッキャラニー、サリヴァン・ステイプルトン、ジェームズ・カルヒネロ、ジェームズ・ヘバート、エヴァン・ジェームズ、ジョシュ・ペンス、ジョン・エイルウォード、ジャック・コンリー、ジャック・マッギー、ジョン・ポリート他。


ポール・リーバーマンの同名ノンフィクションを基にした作品。
監督は『ゾンビランド』『ピザボーイ 史上最凶のご注文』のルーベン・フライシャー。
脚本はTVシリーズ『キャッスル 〜ミステリー作家は事件がお好き』のウィル・ビールで、映画を手掛けるのは初めて。
ジョンをジョシュ・ブローリン、ジェリーをライアン・ゴズリング、コーエンをショーン・ペン、パーカーをニック・ノルティー、グレイスをエマ・ストーン、コールマンをアンソニー・マッキー、コンウェルをジョヴァンニ・リビシ、マックスをロバート・パトリック、ナヴィダをマイケル・ペーニャ、コニーをミレイユ・イーノスが演じている。
当初の北米公開予定は2012年9月7日だったが、同年7月20日にコロラド州オーロラで銃の乱射事件が起きたことを受けて変更された。映画の終盤に、映画館内での乱射シーンがあったからだ。ワーナー・ブラザーズは再撮影を行い、公開日を2013年1月11日に延期した。

原作本も『L.A. ギャング ストーリー』という邦題で刊行されているから、仕方が無いっちゃあ仕方が無いんだけど、このタイトルは完全に失敗だ。
「ギャング ストーリー」というタイトルだと、ギャングがメインの内容だと思ってしまう。しかも「ストーリー」とあるから、人間ドラマの要素を重視した話だと思ってしまう。
でも実際には警官の方が主役であり、しかも派手に暴れまくるアクション映画なのだ。
この邦題だと、そういうのを喜ぶ観客に対する訴求力はゼロと言ってもいいよ。

原作はノンフィクションだが、映画は大幅に改変されている。そもそもミッキー・コーエンはギャングらしからぬ生活を送っていた人であり、町の名士として人気を得ていたらしい。
ノンフィクションを大幅に脚色したことによって、むしろ本作品は「実際の出来事に着想を得た」というのが邪魔になっている。
何しろリアリティーの欠如した連中ばかりが登場し、まるでグラフィック・ノベルや漫画のような世界観になっているのだ。
だから最初から「リアリティーなんて無視して見るべき映画ですよ」という感覚になっていた方が、絶対にプラスなわけで。「実話がベース」というのが頭にあると、「それなのにリアリティーが無い」という風に、リアリティーの欠如が大きなマイナスになってしまうのだ。

冒頭、コーエンがルッソを車で真っ二つに体を引き裂くという、ケレン味に溢れた残酷な処刑シーンがある。
これを「バカバカしいけど面白い」と好意的に受け取るか、「いや絶対に有り得ないし、リアリティー無視かよ」と否定的に受け取るかによって、かなり本作品へのアプローチは変わって来る。
っていうか、そういう冒頭の描写と、監督がルーベン・フライシャーであることからして、「そういうノリの映画」ってことに気付く必要がある。
それに気付かないと、「期待している物と違う」という引っ掛かりを抱いたまま観賞する羽目になる可能性が高い。

「そういうノリ」ってのは、つまり「これってマジじゃないのよ」ってことだ。
ギャングを取り上げているが、フランシス・フォード・コッポラとか、マーティン・スコセッシとか、ブライアン・デ・パルマとか、そういう巨匠たちが撮る類の犯罪映画とは全く違う。例を挙げると、サム・ライミの『クイック&デッド』みたいなモンだと捉えるべきだろう。
『クイック&デッド』は西部劇の体裁を取っていたが、マジな西部劇ではなくて、荒唐無稽な映画だった。それと似たようなテイストが、この作品にも感じられる。
ザックリ言っちゃうと、これは荒唐無稽な『アンタッチャブル』だ。そして『アンタッチャブル』をベースにして、他にも様々なギャング映画や刑事映画からネタを拝借している。

ただ、ジョンたちの行動が荒っぽいのはいいとして、映画自体が粗いのはダメでしょ。
手順を追う意味でのストーリー展開はあるのだが、ドラマとしての肉付けが著しく不足している。ほとんど骨ばかりのフライドチキンか、ほとんど衣ばかりのトンカツでも食べさせられているかのようだ。
骨や衣が大半でも、しっかりと味付けはしているから、薄味だとかマズいという感想は抱かない。だけど、「チープ」という感想は湧くし、「メニューを見て期待した内容には到底見合わない」と感じる。とにかく登場人物やドラマが薄っぺらいのだ。
だからジェリーがピートの死を受けて怒りに燃えるシーンなんて、こっちもホントなら復讐心が燃えたぎるべきなんだろうに、ちっとも心に響くモノが無い。

パーカーは登場した直後、ジョンを呼んでゲリラ部隊の結成を命じている。登場した後、何かしらのエピソードを挟んで再登場させ、部隊の編成を命じる展開に入るわけではない。
すんげえ淡白な登場シーンの処理だ。
そしてジョンの方も、あっさりと承諾している。「本来の警察としての行動に縛られないゲリラ部隊を組織せよ」ってのは異例のことなのに、「異例の指令が下されている」という印象を受けない。
そこは、もっと粒立ててアピールすべきでしょうに。
そのためには、オマラにもう少し驚きのリアクションをさせるなり、もっと質問をさせるなりすべきでしょうに。

ジョンはコーエンに懐柔されず犯罪に対して厳格な態度を取るが、その根源となる部分に「こんな理由が」とか「こんなきっかけが」という説明が無いのは構わない。単純に「正義感の強い男」というだけで構わない。
ただし、彼には妊娠中の妻がいるわけで。
コーエンに刃向かえば、自身だけでなく家族まで標的にされる可能性は充分に考えられる。にも関わらず、ジョンが何の迷いも無くコーエンたちの撲滅に取り組むってのは、どうにも理解し難い。
理解し難いっていうか、共感を誘いにくい。

ジェリーがグレイスと深い仲になる筋書きも、この映画に面白さに全く貢献していない。
ジェリーを軽薄っぽい奴にしておくのは、後で「ピートの死を受けて熱血モードに入る」という変化があるので、そこを効果的に機能させる上では意味がある。
だけど、そういうドラマ展開においてもグレイスの必要性は薄い。
ジェリーはジャックから忠告されても、コーエンが近くにいるのに平気で彼女をナンパしているから、「命懸けの恋」「禁じられた恋」という印象は皆無だし。

コンウェルは自分たちのせいでドラグナ夫妻とメイドが皆殺しにされたことを知り、「無関係な犠牲者は出したくない」と言う。
しかし、そこに大きな後悔や罪悪感を抱いている様子は見られない。
それに、そこから彼が苦悩や葛藤を抱える展開になるわけでもない。
「無駄な犠牲者を出さないように盗聴器を仕掛けて情報を得る」ということで、「無関係な犠牲者は出したくない」というコンウェルの悩みは簡単に解消されてしまう。

チャイナタウンの情報を知った直後、コンウェルはジョンに「俺がここにいるのは、諦めないで何かやろうとしたって息子に言いたかったからだ。だが、俺のしたことは息子に言えないことばかりだ。俺たちとコーエンの違いを教えてくれ。俺には良く分からなくなってきた」と言うが、それは悩みを打ち明けるタイミングが違うわ。
そのシーンまで、もう悩みなんて完全に消えているような様子だったじゃねえか。
そういうことを漏らすなら、そこまでに彼が沈んだ表情、何か悩んでいる表情を示すシーンを用意しておくべきなのよ。司令部を突き止める時も、クラブ襲撃の時も、まるで悩んでいる様子なんか無かったでしょうに。
その後に悩み始めたとしたら、何がきっかけなのかサッパリ分からないし。

人物描写が薄っぺらいってのが災いし、登場人物が上っ面だけカッコ付けてる感じになってしまい、ちっともカッコ良く見えない。
たぶん上っ面だけのカッコ良さでも、やり方次第で魅力的に見せられると思うんだけど、それに失敗しているってことなんだろう。
あと、車裂きの刑はケレン味のある暴力描写だけど、それ以降は「すんげえ普通」になっているんだよな。アクションシーンは幾つも用意されているんだけど、じゃあ見せ場はどこかと問われた時に、どれでもないんだよね。
映像表現として凝っている箇所はあるけど、暴力描写としてのケレン味が弱い。
そもそも車裂きの刑にしても、やってることは派手だけど描写そのものには物足りなさがあるぐらいなのに。

バカの方向性を完全に間違えているってのもダメ。
おバカな映画にするのと、登場人物をバカな奴にするのは全く違うのよ。だけどジョンたちは、すんげえマヌケなんだよな。
巧妙な作戦、緻密な戦略で行動していたけど、予想外のハプニングで計画が狂うとか、相手側にもキレ者がいて作戦を見抜かれるとか、そういうことなら一向に構わないのよ。
だけど「ゲリラ部隊がボンクラだから作戦に失敗した」というだけだから、今一つ話が盛り上がらない。

まずジョンの登場シーンからして、エレベーターで簡単に拳銃を突き付けられ拳銃を渡すよう脅されるわ、手錠を見られて警官だとバレているわと、既にポカをやらかしている。そして、敵に発砲するけど腕を掴まれ、殴られて取り押さえられそうになっている。部屋に乗り込む時も、銃を奪われた後だから殴られてダメージを受けている。
そこはもっとスッキリと、簡単にチンピラどもを退治してしまうべきでしょ。
そんなトコで、わずかとは言え苦労する手間なんて掛けるべきではない。
のっけから格闘シーンを用意することで観客を引き付けようと思ったのかもしれないが、それは計算間違いだわ。そこはジョンがワルを一方的に制圧する形にしておいた方が効果的だ。

ジョンたちはカジノを襲撃したら警官がいて、逃げ出すけど捕まっている。
どんだけボンクラなのかと。普通は事前に下見をしておくべきでしょうに。
ヘロインを積んだトラックを追跡し、簡単に気付かれて先制攻撃を浴びるのもアホだ。
ところがジョンはジェリーに「こんな突撃を続けていたら、1週間後には全滅だぞ」と警告されても、「上手く行っただろ」と全く気にしていない。「たまたま幸運だった」というだけなのに、まるで自覚症状が無いのだ。

金を奪わず全て燃やしているので警官だとバレるってのも、すんげえバカだ。
燃やすにしても、とりあえず現場から奪い去り、バレない場所で密かに処分すべきでしょうに。そんなトコで中途半端に正義感を見せても、アホでしかないのよ。
そもそも、ジョンたちはカジノ襲撃の際は覆面で顔を隠すが、トラック追跡の時は素顔をさらしており、しかも目撃者を始末していない。テンポを速めるようパーカーに言われた後の行動でも、やはり素顔をさらしての襲撃を繰り返す。クラブを襲う時でさえ、やはり素顔のままなのだ。
そこは大勢の連中が働いていて目撃者だらけなのに、警戒心ゼロなのかと。正体がバレても平気なのかと。

一方でコーエンの一味もアンポンタンで、ジョンの素性を知って自宅を襲撃したのに、手下たちは外から乱射しただけで去ってしまう。コーエンは「家族も皆殺しだ。ガキもだ」と怒り狂っていたのに、すんげえ甘い。
なぜ自宅へ突入して、家族がいるのを確認し、ちゃんと始末しないのか。ドラグナの時は、ちゃんと突入して全員を確実に殺害していただろうに。コニーだけは始末せず、無事に出産までするんだぜ。なんだよ、その下手すぎる御都合主義は。
そりゃあ、もしもコニーが殺されたら、それはそれで後味が悪すぎるってのは確かだよ。でもジョンが身重の妻がいても全く迷わず、平気な顔でコーエン一味の撲滅にまっしぐらなので、妻が犠牲になったとしても仕方が無いっちゃあ仕方が無いと思ってしまう。
万が一バレた時のためにコニーほ安全な場所へ非難させておくとか、自宅を嗅ぎ付けられた時のための対策を取っておくとか、そういうのは何もやっていないんだし。

たまたま手下がボンクラでコニーを始末せずに去ったというわけではなく、コーエン自身もボンクラだ。グレイスがジャックに預けられていると確信したからこそ彼の家へ乗り込んだはずなのに、ジャックを射殺しただけで満足してしまい、さっさと立ち去るのだ。
いやいや、何がしたいのかと。
結局、これって「ボンクラとボンクラの戦い」になっちゃってるんだよな。
そんで一番の問題は、その「ボンクラとボンクラの戦い」であることが簡単にバレちゃうってことだろう。

ジョンのやり方がボンクラすぎるから、終盤になってコーエンへの敗北を認めたパーカーからチーム解散を命じられても、そこに悔しさや無念さを感じ取ることが出来ない。
もちろんジョンはそういう気持ちになっているんだけど、その気持ちに共感できないのだ。「お前がアホだったから失敗したんだよ」と言いたくなるのだ。
クライマックスとして用意されている銃撃戦にしても、「拡声器で呼び掛けたら向こうが準備を整えて銃撃して来ることは目に見えているのに、もうちょっと利口にやらないものか」と思ってしまう。
なんで犠牲者が出るリスクの高い方法を積極的に取ろうとするのか、まるで賛同しかねるわ。

コーエンを追い詰めたジョンが、「逮捕しな」と彼が両手を出したのに拳銃を捨ててボクシング対決を挑むのもアホにしか見えない。
ジョンがコーエンとボクシングをやるのを「最終決戦」に据えるなら、そこで2人がボクシングをやるべき事情や経緯を用意し、そのための伏線を張っておくべきでしょ。
そんなの何も無かったじゃねえか。
「タイマンの殴り合いは燃えるよね」と思ったのかもしれんけど、ちゃんと流れを作っておかないと、それを急にやられても燃えないよ。

(観賞日:2015年5月14日)

 

*ポンコツ映画愛護協会