『アニマル・ウォーズ 森林帝国の逆襲』:2010、アメリカ&UAE

ロッキー・スプリングスの森では、不動産会社の台木な宅地開発事業が展開されていた。次期担当者として視察に訪れたリッグスは車を走らせながら上司のライマンと電話で話し、「宝の山です。木を切り倒せば最高の土地が手に入りますよ」と告げた。電波が途絶えた後、彼は葉巻を道路脇に投げ捨てた。森の動物たちは用意しておいた罠を作動させ、リッグスを車ごと崖から転落させた。酷い目に遭ったリッグスは、次期担当者としての座を放り出した。
現在の宅地開発責任者であるダン・サンダースは、3ヶ月前からモデルハウスに移り住んで現場監督のフランクたちを指揮している。妻のタミーと息子のタイラーも、シカゴからダンに同行している。タイラーは周囲に何も無い僻地での生活にウンザリしており、早くシカゴに帰りたがっている。そんな彼を、タミーは「あと9ヶ月の辛抱よ」となだめる。ダンが今の仕事を受け持つのは1年間の約束なのだ。
ダンは庭でブルーベリーを食べているリスを見つけ、スプリンクラーで追い払った。動物たちのリーダーであるアライグマはリスから報告を受け、仕返しをしてやろうと考える。ライマンが自家用機でロッキー・スプリングスへ来たため、ダンはサンドウィッチをバスケットに入れて空港へ向かう。アライグマがバスケットに忍び込んだことに、彼は気付かなかった。ダンはライマンに愛想良く挨拶し、開発地区へ案内しようとする。だが、車で1時間も掛かると聞いたライマンは、「有り得ない」と呆れて機内に戻った。
スチュワート小学校の理科教師として赴任したタミーは、校長のベイカーから自然フェスティバルの実行委員長を押し付けられた。ダンから進捗状況を聞かされたライマンは、「第一段階は順調だな」と口にする。ダンが困惑すると、ライマンは秘書のフェルダーに第二段階の図面を見せた。それは森を全て取り払い、巨大ショッピングモールを建設する計画だった。ライマンから「あと4年の任期だ」と宣告されたダンは約束が違うので難色を示すが、脅迫めいた指示を受けると、その任務を受け入れた。
帰宅したダンから任期が延びたことを聞かされたタミーとタイラーは激怒し、冷たい態度を取った。ショッピングモール建設計画を知ったアライグマは森に戻って仲間たちに知らせ、ダンへの攻撃を開始することにした。翌日から、動物たちのダンに対する嫌がらせが始まった。ダンは車を壊され、大事な会議に行けなくなった。夜になるとカラスが窓を執拗に叩き、ダンの眠りを妨害した。カラスを捕まえようとしたダンは、屋根から転落してしまった。
次の朝、ダンは寝不足で疲れ果てているが、何の被害も受けていないタミーは「カラスを捕まえようと屋根に上がるなんて、普通じゃない。専門家に診てもらった方がいい」と告げた。タミーとタイラーが出掛けた後、まだ動物たちの嫌がらせが始まり、ダンはトレーニングや食事を妨害された。ダンは車でライマンとの会合へ出掛けようとすると、密かにスカンクたちが忍び込んでいることに気付かなかった。車を発進させた彼は、スカンクのガスを大量に浴びた。
ダンが風呂で匂いを洗い流そうとしている間に、カラスがタオルをブラジャーと摩り替えた。ダンは誤ってブラジャーを着けてしまい、その姿を窓の外にいた作業員たちに見られた。カラスが服を盗み取ったため、ダンはタミーの物を借りるしかなかった。その格好でダンが車へ向かったので、作業員たちは彼に女装趣味があると誤解した。ようやく空港に到着したダンは、ライマンに「息子の学校で風疹が流行しているので、機内に入れません」と嘘をついた。
電話でライマンと話したダンは、「10日後にインド人投資家が来る。ここを特別な土地だと宣伝する必要がある」と告げられる。ダンは彼に「自然フェスティバルの後援はどうでしょう?環境への姿勢を住民に示すことも出来ます」と提案し、承諾を貰った。鳥に追われたダンは慌てて茂みに逃げ込むが、そこにはハチの巣があった。ダンはハチの群れに刺されて絶叫し、顔を腫れ上がらせて帰宅した。その夜、彼は動物たちが家の中で踊り狂う悪夢を見て飛び起きた。
翌朝、ダンは庭にアライグマを捕獲する罠を幾つも仕掛け、それを見たタミーに「動物たちに狙われてる。アライグマがリーダーだ。奴を捕まえれば全て解決する」と話す。タミーはダンの頭がおかしくなったと確信し、クリスチャン・バー医師のクリニックへ行かせる。ダンがセラピーを受けている間に、アライグマとスカンクが車へ侵入して勝手に動かし始めた。それを目撃したダンは外へ飛び出し、車に乗り込もうとする。だが、アライグマとスカンクが川へ車を突っ込ませたため、ダンはズブ濡れになった。
タイラーは図書館で親しくなったガールフレンドのアンバーから民話の本を借りており、それをダンに見せた。そしてタイラーは、森の動物が人間を狙うのは今回が初めてではなく、遥か昔から入植者たちが襲われてきたことを語った。タイラーは「ちょっと調べてみたら、ライマンは政府にも影響力がある。彼は森林保護区の見直しを企んでいる。動物たちは建設に怒って復讐しようとしているんだ」と話すが、ダンは信じようとしなかった。
防犯カメラにアライグマが捕獲された様子が写ったので、ダンは興奮して庭へ飛び出した。しかし罠に掛かっていたのはヌイグルミだった。物陰で様子を窺っていたアライグマは、仲間の熊をダンに差し向けた。慌てて逃げ出したダンは、簡易トイレに避難する。しかし熊は簡易トイレを倒して転がし、木の上に吊し上げた。翌朝、ダンは土地警備主任のウィルソンたちに救助されるが、汚物まみれになっていたため、集まった人々は顔を歪めた。
ダンは様子を見ているアライグマに気付き、全速力で追い掛けた。森でアライグマを追い詰めたダンはボウガンを構えるが、「殺すなんて出来ない。話し合おう」と手を差し出す。しかしアライグマはダンに襲い掛かり、小便を浴びせた。そこへウィルソンが駆け付け、麻酔銃でアライグマを眠らせた。ダンはウィルソンに協力を要請し、動物たちを麻酔銃で捕獲してもらう。一掃作戦によって動物たちは檻に入れられ、ダンは平穏な生活を取り戻すのだが…。

監督はロジャー・カンブル、脚本はマイケル・カーンズ&ジョシュ・ギルバート、製作はロバート・シモンズ&キース・ゴールドバーグ、共同製作はテリー・ゴッダード、製作総指揮はアイラ・シューマン&ブレンダン・フレイザー&ジェフ・スコール&ジョナサン・キング&モハメド・カラフ、製作協力はモリー・オキーフ、撮影はピーター・ライオンズ・コリスター、編集はローレンス・ジョーダン、美術はスティーヴン・ラインウィーヴァー、衣装はアレクサンドラ・ウェルカー、視覚効果監修はデヴィッド・ゴールドバーグ、音楽はエドワード・シェアマー、音楽監修はパトリック・フーリハン。
主演はブレンダン・フレイザー、共演はブルック・シールズ、マット・プロコップ、ケン・チョン、アンジェラ・キンジー、トビー・ハス、スカイラー・サミュエルズ、サマンサ・ビー、リッキー・ガルシア、アリス・ドラモンド、ビリー・ブッシュ、ユージーン・コーデロ、パトリス・オニール、ジム・ノートン、ジェリー・ベドノブ、アレクサンダー・チャンス他。


『クルーエル・インテンションズ』『クリスティーナの好きなコト』のロジャー・カンブルが監督を務めた作品。
ダン役のブレンダン・フレイザーが製作総指揮も兼ねている。
タミーをブルック・シールズ、タイラーをマット・プロコップ、ライマンをケン・チョン、フェルダーをアンジェラ・キンジー、ウィルソンをトビー・ハス、アンバーをスカイラー・サミュエルズ、ベイカーをサマンサ・ビーが演じている。アンクレジットだが、リッグスをロブ・リッグル、バーをウォレス・ショーンが演じている。

冒頭、森の動物たちが登場し、何も喋らないまま、用意しておいたピタゴラスイッチ的な仕掛けを作動させてリッグスを攻撃する。その後、喋るようになるのかと思ったら、ずっと言葉は喋らないままだった。
吹き出しの中に画像を入れるという演出を使うことで、リスやアライグマが他の動物に何を伝えようとしているのか、大まかなことは理解できる。
ただ、人間の言葉を喋っているということじゃなくて「動物同士の会話」という設定でいいから、役者の吹き替えでセリフを喋らせた方が良かったんじゃないかなあ。
細かいニュアンスや感情が伝わらないってのは、意外に大きい。あと、喋らせることで個性を付けることも出来るし。
この映画だと、見た目は違うけど、中身のキャラクター造形による差別化が不足しているんだよな。

ダンは「ビーバーのダムが排水溝を塞いでいるせいで工事が遅れている。ダムを壊せば簡単ですが」とフランクに言われると、「ウチはエコな会社なんだ」と言う。「事故に見せ掛けて壊せば?」と提案されると、「ライマン氏が来る前に問題を起こしたくない」と告げる。
そこには「ビーバーのダムを壊したら可哀想」という動物愛護や自然保護の意識など微塵も無い。ダムの破壊に難色を示すのは、保身のためだ。
だから、まだ工事が遅れそうだと聞かされると、ダムの破壊にゴーサインを出している。
それ以外にも、リスが庭でブルーベリーを食べていると、ダンが煙たそうな顔でスプリンクラーを向けて追い払うという描写もある。

ダンはライマンから森を全て破壊する新たな計画を聞かされた時、かなり驚いている。
だが、続いて任期の4年延長を宣告され、激しく動揺する。
もはや森を破壊する計画のことなんて、完全にどこかへ飛んで行っている。帰宅してからも、森の破壊計画について「さすがに森を全て取り壊すのはダメなんじゃないか」と考えるようなことも無い。
で、そういう入り方をするなら、「ダンは自然破壊に何の罪悪感も抱いておらず、土地開発のために森を潰そうとする動物の敵」というキャラにしておけばいいのに、そこが半端になっている。

何が半端なのかと言うと、ダンを「ライマンに命じられ、仕方なく計画を推進する哀れな中間管理職」という設定にしていることだ。
ダンはリッグスのように、森の破壊に対してノリノリになっているわけではないのだ。
ダンが動物たちから酷い目に遭わされる様子を見て、笑ったりスカッとしたり出来なきゃダメなはずなのに、むしろダンが可哀想になってくるし、動物たちに対しては「ちょっとやり過ぎじゃないか」と嫌悪感が湧いて来る。

ダンが動物の嫌がらせ攻撃を受けるのは、ライマンの計画が明らかになってからのことだ。
実は、その前に1つだけ嫌がらせがあるのだが、なし崩し的に消滅している。
ダンがライマンのために用意したサンドウィッチを食べてしまうためにアライグマはバスケットへ忍び込んだのに、その嫌がらせは全く無意味なモノになっているのだ(サンドウィッチが食べられたことにダンは気付かないし、そもそもライマンがサンドウィッチを欲しがっていない)。

その「スプリンクラーの仕返しでアライグマがサンドウィッチを食べる」というのを入れても、3ヶ月前からダンはモデルハウスに住んで宅地開発を進めて来たわけで、それに対する嫌がらせは無かったということになる。
それは疑問を感じるなあ。動物たちは、宅地開発だけなら別に構わなかったのか。
あと、アライグマはライマンがダンに第二段階の計画を説明する様子を盗み見て怒りを覚え、仲間たちと共に行動を起こそうと決めたはず。だったら、ダンを責めるのが御門違いってことも分からんのか。ダンを攻撃して追い払っても、別の担当者が来るだけだ。計画の首謀者はライマンなんだから、彼を攻撃しなきゃ無意味でしょ。
「動物たちはアホだから、その事実に気付かない」ということで納得するのは無理だぞ。

ダンが車を破壊された後、土地の警備担当者であるウィルソンという男がタミーの前に現れ、彼女を夫の殺害犯と決め付ける。
そういうキャラを登場させることで、「そのエピソードで何を描くのか」という焦点がボンヤリしてしまう。
そこは「ダンが動物の嫌がらせで大変な目に遭う」ということに集中しようよ。ウィルソンを登場させるにしても、そのタイミングじゃないだろ。
っていうか、土地の警備主任という存在は必要かもしれんが、「タミーを殺人犯として疑う」という要素は全くの無意味なので要らない。

タイラーは何の用事だか良く分からないが図書館を訪れ、そこでシカゴの友人に電話を掛けて田舎暮らしの愚痴をこぼす。
そんな場所で電話を掛ける必要性はゼロなのだが、そこでは「図書委員のアンバーと出会う」という手順を消化する必要があるのだ。
ただし、タイラーが電話を掛けなくてもアンバーと会う手順は消化できるし、図書館じゃなくても消化できる。
で、そこで出会った後、次にアンバーが登場すると、もうタイラーの家へ遊びに来ており、すっかり仲良くなっている。
すんげえ早いのね、心の距離を詰めるのが。

ただ、そこまで無理をしてタイラーと絡ませているアンバーだが、あまり存在意義は大きくない。
一応、「環境保護や動物愛護に強い関心を持っている人」という設定があって、彼女にすっかり感化されたタイラーがダンを非難するという展開はあるのだが、そもそもタイラーを「環境破壊に批判的な息子で、だからダンとの仲が良くない」ということにでもしておけばアンバーは要らないんだよな。
タイラーを「田舎暮らしを嫌っている」という設定にしているところをそんなに有効活用できていないので、その設定からして変えちゃってもいいんじゃないかと思ったりするのだ。

ダンはタイラーから「動物たちが復讐してる」と聞かされても信じないのだが、それはキャラの動かし方として違うだろ。
だったら、なぜ自分が襲われるのか、ダンは見当が付いているのかと。
一方で、「動物が狙っている」というダンの話を全く信じていなかったタイラーが、アンバーと出会って瞬時に仲良くなり、瞬時に「動物が人を襲う」という話を信じるようになるってのも、違和感を禁じ得ない。
そこはタイラーの心情の移り変わりが、あまりにも強引すぎるでしょ。

アンバーに感化されるタイラーの変貌があまりにも急速なので、「そんなことならアンバーは要らんわ」と思ってしまう。
アンバーを上手く使ってあげるには、「タイラーがアンバーと出会い、親しくなる。動物が襲うという父の話を全く信じていなかったが、アンバーから民話を聞かされたり証拠を見せられたりして考えが変化する」というところを、もう少し時間を掛けて丁寧に描写する必要がある。
フランクやタミーの同僚である老女のマーティンといったキャラの描写に時間を割くよりも、そっちに時間を使った方がいい。
もちろん、どっちも充分に描写できるなら文句は無いが、出来ていないんだから、どっちかを選ぶなら後者だわ。

終盤、タイラーは動物たちが檻に捕獲されているのを見つけ、「エコだと言いながら動物たちを檻に入れるなんて、最低の偽善者だ」とダンを厳しく非難する。
しかし、あのまま放置していればダンは動物たちの攻撃を浴び続け、下手すりゃ大怪我を負う可能性もあったのだ。それを回避するには、仕方が無い処置だろう。
ダンがアライグマに対して「話し合おう」と提案したのに、それを蹴って攻撃したんだし。そりゃ動物側が悪いよ。
そこはホントなら「ダンが間違っている」と観客が感じるようになっていなきゃマズいのに、彼を擁護したくなるんだから、話の作りとして失敗していると言わざるを得ない。

その後、ライマンが動物たちを殺処分しようとしていると知ったダンが、檻から動物を逃がして計画への反対を表明する。
しかし、そもそも彼は森を全て潰す計画を以前から知っていたわけで。
そうじゃなくて、「環境に配慮した計画と思っていたが、終盤に入り、そうではなかったことを初めて知る」という流れにした方がいいんじゃないかと。
ただし、その場合も「悪事のボスではないダンばかりを動物たちが攻撃するのは御門違い」という問題は残るし、やっぱり色々と無理があるなあ。

(観賞日:2014年4月20日)

 

*ポンコツ映画愛護協会