『EX エックス』:2002、イギリス&ドイツ&ルクセンブルグ

アメリカのCM制作会社経営者ジェフリーは、新型デジタラカメラのCM撮影を請け負った。ラフティングの撮影では演出家のイアンが原案と異なる映像を作るが、クライアントのイマハラ常務には気に入られた。ジェフリーはイマハラの前で、雪崩の映像はCGではなく本物を使うと約束し、イアンや撮影担当のウィルから非難される。
雪崩の撮影は、オーストリアのカラヴァンケン山脈で行うことになった。スキーヤーやスノーボーダーに雪崩から逃げてもらい、それを撮影して迫力のCMを作ろうというのだ。ウィルがスノーボーダーのサイロとキティを、ジェフリーが滑降の金メダリスト、クロエを呼び寄せた。だが、イアンはクロエをスタントに起用することに反対する。
飛行機に乗ったウィル達は、新聞で飛行機墜落事故の記事を目にした。飛行機には戦争犯罪人のパヴロフが乗っており、事故で死亡したらしい。列車でオーストリアを移動したウィル達は、駅を降りてコーディネイターのゾランと顔を合わせた。
ふもとのホテルに宿泊する予定だったウィル達だが、サイロとキティがバカ騒ぎを起こしたせいでダメになってしまう。そのため、彼らは建設中のスキーリゾート地に宿泊することにした。しかしリゾート地には、パヴロフと恋人ヤナ、息子スラフコなど仲間が潜んでいた。飛行機事故は、パヴロフが死んだと見せ掛けるための作戦だったのだ。
ウィル達はリゾート地に到着した翌日、撮影を開始する。しかしイアンはクロエを滑らせず、その日の撮影を終わらせた。イアンに怒りをぶつけるクロエだが、実際の雪崩を見て怯えてしまう。一方、パヴロフ達は撮影クルーをCIAと勘違いし、抹殺しようとする…。

監督はクリスチャン・デュゲイ、原案はティモシー・スコット・ボガート&マーク・マリン、脚本はマイケル・ゼイダン、製作はモシュ・ディアマント&ジャン・ファントル、共同製作はフランク・ヒューブナー&トム・リーブ、製作総指揮はロメイン・シュローダー&ルディー・コーエン&マーク・デイモン&デヴィッド・サウンダース、撮影はハネス・フーバッハ、編集はクライヴ・バレット&シルヴァイン・レベル、美術はフィリップ・ハリソン、衣装はマリア・シッカー、音楽はノーマンド・コーベイル&スタニスラス・サイレウィック。
出演はデヴォン・サワ、ブリジット・ウィルソン=サンプラス、ルパート・グレイヴス、ルーファス・シーウェル、クラウス・レーヴィッチェ、リリアナ・コモロウスカ、ハイノ・フェルヒ、ジョー・アブソロム、ジャナ・パラスキー、ジャン=ピエール・カスタルディー、デヴィッド・シェラー、デトレフ・ボス、ハインリッヒ・シュミーダー、フランジョ・マリンチッチ、ラド・ラドヴィッチ、レックス・クレップス他。


『アート・オブ・ウォー』のクリスチャン・デュゲイがメガホンを執った作品。
ウィルをデヴォン・サワ、クロエをブリジット・ウィルソン=サンプラス、ジェフリーをルパート・グレイヴス、イアンをルーファス・シーウェル、マークをハイノ・フェルヒが演じている。
他に、シロをジョー・アブソロム、キティをジャナ・パラスキーが演じている。パヴロフを演じたクラウス・レーヴィッチェは、これが遺作。また、ロケ地のスカウティングを担当していたウェルナー・コーニッグが雪崩に巻き込まれ、死亡している。

「エクストリーム・スポーツって、迫力があるだろ。あれを使って、何か1つ映画を作れるんじゃねえかな?」
「でも、スポーツの映像だけだと、ただのイメージ・フィルムになってしまいますよ」
「だからさ、体裁を整えるために、何かくっ付ければいいじゃん」
などという会話から、このフィルムが作られたのではないかと想像したりする。

ここで問題になるのは、何をドッキングさせるか、である。
この作品の場合、まず他の要素があって、そこにエクストリーム・スポーツを組み合わせているわけではない。まず何よりもエクストリーム・スポーツである。だとすれば、エクストリーム・スポーツに関わる人々の群像劇や、試合に出ているプロの物語にするという手も考えられる。
しかし、この作品では、そういう分かりやすいパターンを避けている。そして、代わりに持って来たのが、「テロリストが襲い掛かってくる」という設定である。
こうして、世にもオツムの悪い連中が、オツムの悪い行動ばかり取る様子が綴られることになった。

テロリスト集団は、なぜかCM撮影クルーをCIAではないかと勘違いし、良く確かめもせずに襲撃する。しかも、リゾートで殺せばいいのに、わざわざ雪崩の撮影現場にヘリで出向く。さらには「女同士でキスしろ」とか「男は裸になれ」とか言い出す。そんなバカチンなので、簡単に内輪揉めを始めて撃ち合い、勝手に自滅する。
一方のウィル達も、決して負けていない。ヘリコプターに乗ってさっさと逃げればいいのに、テロリストがアジトにしているスキーリゾートへ荷物を取りに行く。そんなバカチンなので、もちろんテロリストに襲撃される。しかし転んでもタダでは起きない精神で、爆発で起きた雪崩が迫ってくるのをカメラで撮影する。

冒頭のラフティング以降、雪山の撮影が始まるまでは間隔が空く。しかし、その時間帯も無駄にせず、エクストリーム・スポーツの映像を見せたいという意識がある。そこで、サイロとキティには列車に引っ張らせてスノボーをやったり、ホテルでスノボーを使って騒いだりという、オツムが空っぽなキャラクターが割り当てられている。
とにかく、スキー&スノーボードの映像を見せたいだけ。ようするに、そういう作品なのである。テロリスト集団は完全にオマケなので、なかなか現れない。前半は「そこにいる」ということを示すためにチラッと出てくるだけで、後半にウィル達と絡むための前振り、予兆は無い。ようやく本格的に動き始めても、簡単にやられて貧弱ぶりをさらけ出すのみ。

この作品の抱えている最大の問題点は、「エクストリーム・スポーツの映像を楽しむのなら、余計なキャラ設定とかテロリスト集団とか邪魔な要素を放り込んだモノより、普通に撮影したプロモーション・フィルムを見た方が面白いんじゃねえの?」という疑問に対して、それを否定するための意見が全く思い当たらないということである。
「この作品の中で、エクストリーム・スポーツの部分だけを編集して30分ほどにまとめたら面白いフィルムになるんじゃねえの?」という意見は、簡単に否定できる。
なぜなら、大して迫力が無いからだ。
ここにあるのは、CMとしての軽い映像でしかない。

エクストリーム・スポーツをやってるだけのCMが30分も続いて、それで面白いのかと問われると、大半の人にとっては「ノー」だろう。
で、考えて欲しいのだが、実際のフィルムは30分どころか、約90分もあるわけだ。
そりゃあ、キツいと思うのは当然だろう。

 

*ポンコツ映画愛護協会