『エクスポーズ 暗闇の迷宮』:2016、アメリカ

クラブ「マイアミ」で遊んでいたイサベルは、疲れを感じて休憩を取る。一緒に来ていた義弟のロッキーは、その様子を見て店を出ることにした。しかしロッキーは恋人のジェセニアを伴っており、イサベルは気遣って「私は1人で帰れる。2人で楽しんで」と言う。店の前で話すイサベルたちの様子を、何者かが密かに撮影していた。ロッキーは友人のナルドに声を掛けられ、服役を終えて刑務所から出たばかりであることについて会話を交わした。
ロッキーがタクシーを呼ぼうとすると、イサベルは「地下鉄で帰るから」と遠慮した。ロッキーは地下鉄の駅までイサベルを送り、そこで別れた。イサベルは構内を歩き、ホームレスと遭遇する。ホームレスが果物を落としたので、彼女は拾うのを手伝った。ホームに着いたイサベルが列車を待っていると、白い頭髪で白いアゴヒゲを生やした紳士が現れた。紳士は宙に浮かんでイサベルに会釈し、ホームに戻る。イサベルが唖然としていると、紳士はやって来た列車に乗って去った。
翌朝、信仰心の厚いイサベルは神に祈り、ロッキーが戻ったことに感謝する。夫のホセは1年前からイラクに出征しており、イサベルは無事に戻るよう願う。一方、ニューヨーク市警のスコッテイーは相棒のジョーイが死体で発見されたことを受け、捜査を開始する。上司のギャルウェイは彼に、女性刑事のラミレスと組むよう指示した。スコッティーは情報屋のウォレスを脅して尋問したが、何の手掛かりも掴めなかった。ジョーイは停職中にも関わらずハーレムを調べていたが、その目的は不明だった。
イサベルはホセの妹であるマリソルから、恋人がプロポーズする気だと聞かされた。スコッティーがジョーイのカメラのフィルムを現像すると、クラブの前で話すロッキーたちの姿が写っていた。イサベルは義姉のエヴァや義母のグロリアたちに、宙に浮かぶ不思議な紳士のことを話した。翌日、保育所で働くイサベルは、女児のエリサが何かを探しているのに気付いた。イサベルが声を掛けると、エリサは馬のヌイグルミが無くなったことを語った。
町を歩いていたスコッティーは、女児が馬のヌイグルミを持っている様子を目撃した。スコッティーは女児を連れている祖父に、それが売られていた場所を尋ねた。スコッティーは妻を亡くし、一人息子のアンソニーとは離れて暮らしていた。イサベルはギフトショップへ馬のヌイグルミを買いに出掛けた帰り、全身真っ白の不思議な女性を目撃した。イサベルはエリサに馬のヌイグルミをプレゼントし、家庭に何か問題があるのではないかと推測した。
スコッティーは裏社会の人物であるブラックを逮捕し、ジョーイ殺しの一件で事情聴取を行う。ウォレスは女性と共に、アパートで死体となって発見された。ブラックはナルドを呼び出し、ジョーイの隠し撮り写真に写っていたことを教えた。ナルドは殺人と無関係であることを主張し、「ジョーイは悪党だ。ダチのケツに突っ込んでムショ送りにした。そのダチがロッキーだ。ロッキーは何も話さずに服役した。きっと奴はロッキーを調べていたんだろう」と語った。
スコッティーはギャルウェイから、「ジョーイは下劣で悪に染まり切った男だったが、せめて奥さんには手当てを与えてやりたい。下手に掘り起こせば、年金を失いかねない」と忠告された。スコッテイーがブラックに疑いを持っていることを明かすと、彼は「奴は何年間もFBIの監視下に置かれている。本人も承知だ。殺しは無理さ」と述べた。イサベルは通りを歩いている途中、また全身真っ白の女性を目撃した。ロッキーはナルドから、ジョーイの写真に写っていたことを知らされる。ナルドから警告されたロッキーは、殺人とは無関係であることを主張した。
イサベルは年配の知人であるオルガに、「神が許せば天使の姿が見えると思う?」と質問した。するとオルガは、「全ては神の思し召し次第。貴方の身に何か特別なことが起こるのかも」と話す。スコッティーはラミレスを伴い、ジョーイの妻であるジャニンの元を訪れた。スコッティーがラミレスに「調査でジョーイの過去の行状が明るみに出ると、遺族年金が打ち切られる可能性もある」と説明してもらうと、ジャニンは「これが貴方の仕打ち?」と激しく非難した。
ホセは数日中の帰国が決定し、イサベルは楽しみに待っていた。しかしホセは戦闘で命を落とし、連絡を受けたイサベルとホセの家族は悲嘆に暮れる。教会で葬儀が執り行われ、イサベルはホセの遺体を抱き締めた。ロッキーは友人から、ナルドが殺されたこと、ジョーイの仕業だという噂が広まっていることを知らされる。写真の女を捜索していたスコッティーは、偶然にもイサベルを目撃する。イサベルはエリサから、プレゼントしたヌイグルミに「イサベル」と名付けたことを聞かされる。エリサはイサベルから「家まで送ろう」と言われると、「帰りたくない」と嫌がる。イサベルは説得してエリサをアパートまで送り届け、待っていた男に引き渡した。
吐き気を催したイサベルは病院で診察を受け、妊娠していると言われて「有り得ない」と驚く。彼女はホセの家族に「奇跡が起きた」と妊娠を打ち明け、「地下鉄の出来事を話したでしょ。あの夜に、神とマリア様が授けてくれた」と喜ぶ。しかしホセの家族は夫を裏切ったと決め付け、グロリアは激しい怒りを示した。ロッキーでさえ味方になってくれず、イサベルは出て行かざるを得なくなった。彼女は保育所の仕事も辞め、実家に戻って両親と暮らし始める…。

監督はデクラン・デイル、脚本はジー・マリク・リントン、製作はロビン・ガーランド&キアヌ・リーヴス&ジー・マリク・リントン、製作総指揮はカシアン・エルウィス&ケイティー・マスタード&エリー・サマハ&ランドール・エメット&ジョージ・ファーラ&バリー・ブルッカー&スタン・ワートローブナディーン・ドゥ・バロス&ロバート・オグデン・バーナム&アイク・スーリー&ジャクリン・アン・スーリー&ケヴィン・フレイクス&バディー・パトリック&アンクール・ルンタ&スコット・フィッシャー&ガルト・ニーダーホッファー&ダン・グロドニク&セス・クレイマー&カート・クレイマー、共同製作総指揮はライアン・ブラック&ヴィシャル・ルングタ&テッド・フォックス、共同製作はパブロ・ゴンザレス&マーク・ダウニー、製作協力はジェームズ・ギブ&ミッシー・ヴァルデス、撮影はトレヴァー・フォレスト、美術はタニア・ビジラーニ、編集はメロディー・ロンドン、衣装はアメラ・バクシッチ、ヴォーカル・ソロはジャネット・ダカル、音楽はカルロス・ホセ・アルヴァレス。
出演はアナ・デ・アルマス、キアヌ・リーヴス、クリストファー・マクドナルド、ビッグ・ダディー・ケイン、ミラ・ソルヴィーノ、ヴィーナス・アリエル、マイケル・リスポリ、ガブリエル・ヴァルガス、ローラ・ゴメス、イスマエル・クルス・コルドヴァ、ジャネット・ディローン、デニア・ブレーシュ、アリエル・ローランド・パチェコ、メリッサ・カルデロ・リントン、ジュリッサ・ローマン、ネルソン・ランドリウ、アンソニー・ルイス、オルテンシア・コロラド、スティーヴン・トンプソン、クララ・ウォン、ダニー・ホック、サンディー・テハダ、レオポルド・マンスウェル他。


キアヌ・リーヴスが脚本に惚れ込み、出演だけでなくプロデューサーも買って出た作品。
脚本のジー・マリク・リントンは、これが初長編。
イサベルをアナ・デ・アルマス、スコッティーをキアヌ・リーヴス、ギャルウェイをクリストファー・マクドナルド、ブラックをビッグ・ダディー・ケイン、ジャニンをミラ・ソルヴィーノ、エリサをヴィーナス・アリエル、ディブロンスキーをマイケル・リスポリ、ロッキーをガブリエル・ヴァルガス、エヴァをローラ・ゴメスが演じている。

この映画は当初、ナタリー・ケリーの主演で2009年に製作される予定だった。しかし撮影に入る1ヶ月前に製作中止となり、そのまま企画は頓挫していた。
その後、スコッティー役のオファーを受けたキアヌ・リーヴスは脚本を読んで作品を気に入り、プロデューサーも兼務することになった。
この段階では、スコッティーは脇役に設定されていた。
脚本のジー・マリク・リントンは監督も務めており、彼は人種差別や女性差別など様々な社会問題を描く作品に仕上げようと考えていた。

ところが映画会社の主導で編集が行われ、スコッティーは主役のような扱いになった。
また、本来は大半がスペイン語の台詞で構成されていたが、契約の都合で英語ばかりの内容に編集されてしまった。
自身のイメージから大きく逸脱した完成版に怒りを覚えたジー・マリク・リントン、監督としてのクレジットを外すよう要求した。
そのため、デクラン・デイルという監督表記になっているのだ。
つまりデクラン・デイルは実在する人物ではなく、かつてのアラン・スミシーと同じ意味だ。

ジー・マリク・リントンの望まなかった勝手な編集が、どれぐらい作品の本質を変化させてしまったのかは分からない。
確実に分かるのは、この公開されたバージョンが意味不明な描写の連続で出来の悪いクライム・サスペンスに仕上がっているってことだ。
オープニング、黄色い光をバックにしたイサベルがカメラ目線で登場するが、このカットからして、どういう意図があるのか全く分からない。
それ以降も、とにかく意味不明な描写のオンパレードなのである。

イサベルのパートとスコッティーのパートが、並行して描かれる構成になっている。
スコッティーのパートでは、彼がジョーイ殺しの犯人を捜査する様子が描かれる。ロッキーにジョーイを憎む動機を用意し、彼が容疑者に見えるような細工を施している。
しかし、それと並行してイサベルのストーリーがずっと描かれるし、ロッキーとの関係性を特別に重視しているわけでもない。
そうなると、もはや「犯人はイサベル」という答えに辿り着かないと話が無事に着地しない。
つまりフーダニットのミステリーとしてスコッティーのパートは進行しているが、早い段階で底が見えてしまうってことだ。

一方、イサベルのパートに関しては、かなり厄介なことになっている。
ロッキーの出所やマリソルの婚約など、嬉しい出来事もある。一方で、ホセの戦死といった不幸な出来事もあるし、エリサの幼児虐待疑惑といった問題もある。そんな中で、イサベルが不思議な人物を目撃するとか、不可解な妊娠が発覚するといった出来事も描かれる。
どこにピントを当てているのか、何をどんな風に描こうとしているのかが判然としない。
様々な出来事を1つにパッケージするための鍵が、どういう物なのかが見えて来ない。

っていうか最初から鍵なんて無くて、思い付いた社会問題をザックリと全て盛り込んだだけじゃないのかと思ってしまう。
さらに厄介だと感じるのは、それらの出来事と不思議な現象の関係性が良く分からないってことだ。
その不思議な現象だけを抽出しても、イサベルは謎の白い人物を「天使」と理解したようだが、むしろ悪魔的な印象だぞ。
まあ、そこは人種によって感覚が異なるんだろうと解釈するにしても、最初は白髪で白いヒゲの紳士を目撃したのに、2度目と3度目は全身真っ白の女性なので、どういうことなのかと。

終盤に入ると、意味不明だった出来事の謎を解明するための真実が明かされる。
完全ネタバレになるが、イサベルはクラブを去って地下鉄の構内で入った時、ジョーイにレイプされて殺害したのだ。
そのショックが大きすぎて、「不思議な男を見た」という記憶に摩り替えてしまったのだ。
また、彼女は幼少期、父か性的虐待を受けていた。その頃に作り出した別の人格がエリサだ。ずっと消えていた存在だったが、レイプされたショックによって復活したのだ。

オチが犯された時に、「イサベルが体験する奇跡の謎」については一応の答えが出る形となる。
しかし、「1度目はヒゲの紳士、2度目以降は真っ白な女」という部分の疑問がスッキリするわけではない。
また、やたらと馬のヌイグルミが出て来るのは何か意味が込められているんだろうと思うが、これまた意味不明。
イサベルがエリサと話す時だけ登場するなら、「幼少期に大事にしていたヌイグルミ」という理屈も付けられるだろう。だけど、スコッティーが馬のヌイグルミを気にするシーンもあるのでね。

それと、そういう真相が明かされた時に、「整合性が取れていないんじゃないか」と言いたくなる部分もある。
イサベルがエリサに呼び掛ける時、近くに複数の人間がいるケースもある。
しかし誰一人として、不審を抱く様子が見られないのだ。保育所でイサベルがエリサに話し掛けるシーンなんかは、大勢の児童が見ているのだ。
それなのに、イサベルに対して「誰と話しているのか」「誰もいない」と言う児童が誰もいないってのは、ものすごく不自然だ。

諸々を含めて考えた時に、仮にジー・マリク・リントンが希望するような編集を行ったとしても、やっぱり芳しくない出来栄えになったんじゃないかという気がするのだ。
どうやら日本には入って来ていないディレクターズ・カット版もあるらしいので、それを観賞すれば答えはハッキリするんだろう。
だけど、そこまで確かめようという労力は無い。
「本当は面白かったんじゃないか」という期待を強く抱かせるほど、魅力を感じる作品ではないのよ。
っていうか、まあ駄作だわな。

(観賞日:2017年8月16日)

 

*ポンコツ映画愛護協会