『エボリューション』:2001、アメリカ

アリゾナ州のグレン・キャニオン。消防士志願の若者ウェイン・グリーンは、隕石の落下を目撃した。グレン・キャニオン大学の地質学講師ハリー・ブロックは情報を知り、同僚の生物学講師アイラ・ケインを伴って現場へ向かう。ハリーは全米地質研究所の支部長なのだ。採取したサンプルを調べたアイラは、急激に進化を遂げる未知の生物を発見する。
アイラとハリーは生徒のディークやダニー、ナディーン達を連れて、再び隕石の落下地点へ出向いた。地下洞窟を調べたアイラ達は、そこに奇妙な生物がいるのを目撃した。彼らは調査を進めようとするが、アイラのコンピュータをハッキングしていた国防総省のウッドマン将軍らに追い払われる。アイラは、かつて国防総省で働いていたのだ。
アイラとハリーは裁判を起こし、発見者の権利を主張する。しかしアイラが強烈な副作用のあるワクチンを使用した過去が明らかにされ、敗訴してしまう。国防総省は勝訴だけでは飽き足らず、アイラ達の研究データまで盗み出した。アイラ達は国防総省が封鎖した隕石落下現場に潜入するが、ハリーが進化した虫に襲われて病院送りになってしまう。
消防士試験に落ちたウェインは、バイト先のゴルフ場でイヤな客が進化した生物に襲撃される事件と遭遇していた。軍の封鎖は失敗しており、生物は外へと逃げ出しているのだ。生物の死骸を手に入れたウェインは、それをアイラとハリーの元に持ち込んだ。アイラとハリーはウェインを仲間に加え、ファミレスで作戦会議を開く。ファミレスでは、アイラが元恋人デニスと会って揉めた。
アイラ達は未知の生物が出現したとの情報を得て、現場となった婦人の家へ向かった。現場にいたデニスの恋人の警官サムに許可を貰い、アイラ達は家に入って生物を調べた。家の裏手に回ったアイラ達は、そこに広がる光景に唖然とする。荒野を埋め尽くすかのように、巨大な翼竜の死骸が無数に転がっていたのだ。
アイラ達は死骸を調べようとするが、瀕死だった1匹の翼竜が子供を産む。誕生した翼竜はショッピング・モールに紛れ込み、客をパニックに陥れる。アイラ達は翼竜を退治し、ウッドマン将軍らの元へ出向いた。ウッドマンはルイス州知事の許可を得て、生物を全て焼き尽くす作戦を立てた。アイラ達はアリソン・リード博士を仲間に加え、別の対策を考える…。

監督はアイヴァン・ライトマン、原案はドン・ジャコビー、脚本はデヴィッド・ダイアモンド&デヴィッド・ウェイスマン&ドン・ジャコビー、製作はアイヴァン・ライトマン&ダニエル・ゴールドバーグ&ジョー・メジャック、共同製作はポール・ディーソン、製作総指揮はトム・ポロック&ジェフ・アップル&デヴィッド・ロジャース、撮影はマイケル・チャップマン、編集はシェルドン・カーン&ウェンディ・グリーン・ブリックモント、美術はJ・マイケル・リヴァ、衣装はアギー・ゲイラード・ロジャース、視覚効果監修はフィル・ティペット、音楽はジョン・パウエル。
出演はデヴィッド・ドゥカヴニー、ジュリアン・ムーア、オーランド・ジョーンズ、ショーン・ウィリアム・スコット、テッド・レヴィン、イーサン・サプリー、キャサリン・タウン、マイケル・レイ・バウアー、パット・キルバーン、タイ・バーレル、グレゴリー・イッツェン、ダン・エイクロイド、アシュレイ・クラーク、ミッシェル・ウルフ、サラ・シルヴァーマン、リチャード・モル、マイケル・マッグレイディー、スティーヴン・ギルボーン他。


『6デイズ/7ナイツ』のアイヴァン・ライトマンが監督した作品。
アイラをデヴィッド・ドゥカヴニー、アリソンをジュリアン・ムーア、ハリーをオーランド・ジョーンズ、ウェインをショーン・ウィリアム・スコット、ウッドマンをテッド・レヴィン、ディークをイーサン・サプリー、ナディーンをキャサリン・タウン、ダニーをマイケル・レイ・バウアー、ルイスをダン・エイクロイドが演じている。

アイヴァン・ライトマンが宇宙生物版の『ゴーストバスターズ』をやろうとしたことは、誰の目にも明らかだ。
ライトマンも、それを隠そうとはしていない。
むしろ映画公開を『ゴーストバスターズ』からちょうど17年目に合わせる辺り、『ゴーストバスターズ』がヒット映画だったという過去の栄光を利用して、この映画を売り込もうとしていた意識が伺える。
この作品、そもそもはシリアスなSFホラー映画として企画されていたらしい。そこへアイヴァン・ライトマンが参加し、コメディーに書き換えたという経緯を踏んでいるようだ。
たぶん、そこでの「シリアスからコメディーへ」という急激な方針転換が非常に困難な作業だったため、退屈な出来映えになってしまったのだろう。

たぶん基本のストーリー展開は当初のシナリオを踏襲し、1つ1つのシーンをコメディー的に改変するという方法を取ったのではないかと推測される。
しかし、「急激に進化するエイリアン」という設定だけを残して、それ以外はまるっきり別の話にするぐらいの思い切った対策が必要だったんじゃないだろうか。
原案が『ダブルチーム』『ヴァンパイア/最期の聖戦』のドン・ジャコビーなので、そもそもホラーだった段階では、荒唐無稽なSFだったのではないかと予想される。しかし出来上がった作品を見る限り、科学的な考証はキッチリとやっているようだ。
そこは荒唐無稽にしちゃっても良かったんじゃないかと思うけどね。

隕石や未知の生物を発見したのに、裁判を始めたりアイラの過去を明らかにしたりする作業で時間を割き、肝心のエイリアンはそっちのけ状態になっているという前半の構成からして、もう「ダメだな、この映画」と強く感じさせる。
未知の生物に主人公がサプライズを感じたはずなのだから、そこで観客のハートキャッチを目指すべきだろうに。裁判のシーンも、笑いゼロだし。

メインの4人の中では、ショーン・ウィリアム・スコットが「オツムの弱い若者」のキャラで、コメディーらしさを発揮している。オーランド・ジョーンズは黒人のステレオタイプの役回りで騒がしい奴を演じているが、ちょっとバランス無視というトコロがある。
ただし、それでもコメディーとしてのアピールがあるだけマシだろう。

その2人に比べると、残る2人は全く冴えが無い。
デヴィッド・ドゥカヴニーはモルダー捜査官のセルフ・パロディーをやっているのかもしれないが、真面目で凡庸な学者に過ぎない。彼は、すました顔でトボけたことを言えば笑いに繋がるというチェヴィー・チェイスのような「スカし芸」の持ち主ではない(というか、スカした笑いさえ、ほとんど取りに行かないが)。
ジュリアン・ムーアは、「やたらとコケる」というキャラクター設定を用意されている。しかし、それは可愛らしさのアピールには繋がるかもしれないが、笑いに繋がる要素としては成立していない。
デヴィッド・ドゥカヴニーにしろジュリアン・ムーアにしろ、かなり普通の役柄を担当しており、笑いを発信するようなキャラクターになっていない。

キャラクター設定だけでなく、ストーリー展開や演出にしても、中途半端に真面目な部分を残しすぎている。
アイラとハリーのコンビネーションにも、例えばボケとツッコミの掛け合いで笑いを作ろうという意識は感じない。
ディークやダニーなど、脇役の使い方も物足りない。
ナディーンなんて、後半は完全に消えちゃってるし。

『ゴーストバスターズ』のゴーストは、愛嬌があってカートゥーン的だった。それに比べると、『エボリューション』のエイリアンは総じてグロテスクだ。いわゆる「キモかわいい」という類ではなく、ただ気持ち悪い奴らが多い。
最後に登場する巨大エイリアンの排便シーンも、お下劣で汚い。見た目のグロさも、映画にとって相当にマイナスだったのではないだろうか。
しかし考えてみれば、『ゴーストバスターズ』だって、ストーリーや演出が抜群に良かった、強烈に面白いコメディーだったというわけではない。
あの映画がヒットした理由を推察してみると、『エボリューション』に決定的に欠けていたのは、レイ・パーカーJr.の主題歌とマシュマロマンだったのではないかと思う。
これは、半分以上、マジな意見だ。

 

*ポンコツ映画愛護協会