『イベント・ホライゾン』:1997、イギリス&アメリカ

2040年、人類史上初の太陽系外縁調査に出発した探索船イベント・ホライゾンが、海王星付近で消息を絶った。それから7年後、ミラー船長と乗組員を乗せたUSAC救助船ルイス&クラーク号は、海王星に向かうことを指示された。
ルイス&クラーク号にはウェアー博士が同乗することになり、彼が乗組員に事情を説明する。イベント・ホライゾンは超光速飛行を可能とする重力推進の実験後に消息を絶っていたが、今になって救難信号が送られてきたのだという。
ルイス&クラーク号はイベント・ホライゾンに到着し、ミラーや乗組員が船内に入る。ブリッジには血の跡があり、目玉をえぐり取られて皮膚を切り裂かれた死体が見つかった。生存者の姿は全く無かったが、生命反応が船全体から確認された。
イベント・ホライゾンの機関にある動力推進のコアから発生した爆発で、ルイス&クラーク号の船体が損傷する。乗組員はイベント・ホライゾンに移動するが、空気が20時間で無くなってしまう。やがて乗組員は、幻聴や幻覚に襲われるようになる…。

監督はポール・アンダーソン、脚本はフィリップ・アイズナー、製作はローレンス・ゴードン&ロイド・レヴィン&ジェレミー・ボルト、製作総指揮はニック・ギロット、撮影はエイドリアン・ビドル、編集はマーティン・ハンター、ジョセフ・ベネット、衣装はジョン・モロ、視覚効果監修はリチャード・ユーリッチ、音楽はマイケル・ケイメン。
出演はローレンス・フィッシュバーン、サム・ニール、キャスリーン・クインラン、ジョエリー・リチャードソン、リチャード・T・ジョーンズ、ジャック・ノーズワーシー、ジェイソン・アイザックス、ショーン・パートウィー、ピーター・マリンカー、ホリー・チャント、バークレイ・ライト、ノア・ハントリー、ロバート・ジェゼク他。


簡単に内容を説明すると、「地獄より恐ろしい場所にワープした船に到着した連中が恐怖を体験して、最後の方になって博士が狂って暴れる」という感じの話。
船長を演じているのがローレンス・フィッシュバーンで、博士の役がサム・ニール。

監督のポール・アンダーソンは『ショッピング』という破滅的な青春映画でデヴューし、『モータル・コンバット』という格闘映画を撮り、そして今作品を作った。
てんでバラバラな感じだが、実は「映像と音楽にこだわっている」という共通点がある。

ポール・アンダーソン監督は、ドラマとしての充実度には大して関心を示さない。
今作品は演出云々を言う以前にシナリオが雑すぎるのだが、ポール・アンダーソンにとってはシナリオが良く書けていようがボロボロであろうが、あまり意味は無いのだ。

磁力のあるブーツで足場を固定するとか、重力タンクに入って航行するとか、科学考証がしっかりとされている。道具や装置の造形や船内の様子も、なかなか凝っている。
SFの部分ではかなり頑張っていて、そこで萎えさせることは無い。
しかし、これは舞台設定はSFだが、中身はオカルト・ホラーだ。
お化け屋敷と同じで、急に物陰から現れて驚かせるようなショッカー表現によって恐怖を醸し出そうとしている。
しかし、ポイントを繋ぎ合わせる道を作ることは忘れたらしい。

登場人物の過去が幻覚として現れて怖がらせるという展開があるのだが、それまでにキャラクターのバックグラウンドを描いていないので効果は薄い。
それを恐怖表現に用いても、登場人物にとってだけの恐怖になってしまい、観客にまで迫ってこない。

ウェアー博士は執拗にイベント・ホライゾンに残ろうとするのだが、そこには開発者というだけでは説明が付かないほどの「何か」があるようだ。
その「何か」を説明するのに充分な時間はあるはずだが、説明は不充分に終わっている。
どうやらウェアー博士は終盤で何かに取り憑かれたようなのだが、それが分かりづらいので、彼の行動に観客の気持ちが置き去りにされてしまう(まあしかし、基本的に今作品は、観客の気持ちなど考えずに最後まで行ってしまうのだが)。
というか、それまでは船が恐怖を与える展開だったのに、ウェアー博士が乗組員を襲い始めたら話の方向が変わって来るし。
どうして最後まで「船が化け物」で押し通さなかったのか。
ウェアーを化け物にするなら、終盤になってからでは遅すぎるし。

 

*ポンコツ映画愛護協会