『11ミリオン・ジョブ』:2013、アメリカ

警備会社から800万ドルが盗み出される事件が発生し、FBIとニューヨーク市警察が捜査に当たる。会社の屋根には穴が開けられており、監視カメラの映像から内部に共犯者がいる可能性が考えられた。ランソン刑事はエディーという男を捕まえ、「クリスはどこだ?そして金はどこにやった?」と尋問した。その3ヶ月前。1982年、クイーンズ区。エディーはイタリア人が店主を務める食堂の仕事が嫌になり、悪態をついて飛び出した。店長からクビを宣告された彼は、「俺が辞めたんだ」と声を荒らげた。迎えに来た親友のクリスに、エディーは「店の物を盗んだと言われた」と不満を漏らす。それは事実だったが、エディーは「それでもムカつく」と口にした。
クリスは母のために石像を調達し、エディーと共に車で運ぶ。エディーにはエレーニという恋人がいるが、経済的な理由もあって結婚する気は無い。クリスは石像を運んだ後、父のトミーが働く店へ赴く。そこは麻薬組織のボスであるスピロが営む店で、クリスが行くとトミーはトイレ修理の最中だった。「そんなことまで父さんが?」とクリスは言い、トイレへ来たスピロに喧嘩腰で突っ掛かった。トミーが仲裁に入ると、スピロは「俺に命令するのか」と凄んだ。
帰宅したクリスは、トミーに「あの店で働くのは嫌だろ?」と問い掛ける。トミーは「平気さ、仕事だからな」と答えるが、クリスは「分かってる。でも助けたいんだ」と言う。トミーはアメリカへ来る前、故郷のギリシャで警官として働いていた。クリスは父と同じ仕事に就きたいと考え、勉強に励んでいた。彼は警官になって家族全員を保険に加入させたいと望んでいたが、試験の申し込みに「応募不可」という返事が届く。かつてエディーが大麻で捕まった際、クリスも巻き添えを食らって前科が付いていたからだ。
クリスは馴染みのダイナーへ行き、エディーと会う。エディーはスピロの手下であるジミー&マイクと一緒にいて、食事を御馳走になっていた。ジミーとマイクが去った後、クリスは警官になれなかったことでエディーに文句を言う。彼が落胆した様子を見せていると、店で働く幼馴染のナンシーが励ました。新聞の求職広告をチェックしたクリスは、エンパイア社という警備会社へ赴いた。社長のハニーウェルの提示した週給2千ドルは満足できる金額では無かったが、他に選択肢も無いのでクリスは雇ってもらうことにした。
クリスは初日から拳銃を渡され、先輩警備員のトニーと組んで仕事を始める。トニーは妻のマリアと娘のジアンナを撮った写真を彼に見せ、家族のために働いているのだと語る。彼はクリスに、「金を集めて連邦準備銀行に運ぶ仕事だ。上の連中は金を盗むなど、色々と汚いこともやってる。奴らの会社だからな」と話す。金を集めて会社に戻ると、夜勤の金庫番は居眠りをしていた。金庫はボタン1つで簡単にゲートが開くシステムだが、そこには2500万ドルが集められていた。トニーは「誰も数えないから、袋が幾つか無くなっても分からない」と言い、クリスは警備の杜撰さを知った。
帰宅したクリスは、父かトイレの一件でスピロからクビを通告されたと知る。10年も働いたのに冷たい仕打ちを受けたことでクリスは怒りを燃やすが、トミーは「仕方が無い。経営者には解雇する権利がある」と諦めの態度で告げる。翌日、クリスがトニーと金を回収していると、パイブ爆弾を使った覆面強盗2人組に襲撃される。2人組はトニーを射殺して逃亡するが、クリスは防弾チョッキのおかげで助かった。現場に来たランソンはクリスを尋問するが、強盗には無関係だと判断して解放した。
クリスはハニーウェルから、夜勤に回るよう命じられた。会社の資料を見た彼は、ハニーウェルがトニーの遺族に5万ドルの死亡手当の1割しか支払わないことを知った。そのことをクリスがエディーに話すと、「会社から金を盗んで懲らしめてやれ」とそそのかされる。エディーはクリスから、会社の警備が杜撰であることも聞いていたからだ。その夜、クリスは仕事中にゲートを開けるが、ハニーウェルから電話が入る。「ゲートを開けたか?」と訊かれた彼は、「照明が点滅していたので確認のために」と誤魔化した。
ハニーウェルは「何かあれば通知が来るようになっている」と告げ、電話を切った。クリスはゲートの隙間から棒を入れ、札束の入ったバッグを盗み出した。クリスはエディーに盗んだ金を見せ、「パッとやろうぜ」と誘われる。クリスは半額をトニーの妻であるクリアに渡し、残りはエディーとクラブへ繰り出して散在する。エディーはジミーとマイクがVIPルームで売人と会っているのに気付き、そこへ出向いて馬鹿にする態度を取った。売人は穏やかに対応するが、エディーが去った後で「あいつら、どこで大金を手に入れたんだ?」と疑問を口にした。
ジミーとマイクはエディーにヤクを渡し、詳しい事情を聞き出した。そこへクリスが現れると、ジミーたちは「エンパイア社から簡単に金が盗み出せるんだって?」と確認する。クリスは「エディーの話はデタラメだ。忘れてくれ」と告げ、彼らと別れる。彼はエディーと2人になると、口外したことを批判する。エディーが「泥棒しようぜ」と誘うと、クリスは「馬鹿なことは考えるな」と拒否する。しかし、エディーは「一生このままか?良く考えてくれ」と問われた彼は帰宅して思案し、金を盗むことに決めた。
クリスとエディーはジミーとマイクを呼び出し、エンパイア社から金を盗み出す計画について話す。ジミーが「スピロに話すべきだ」と主張すると、エディーは「全て取られる」と反対する。マイクもエディーに賛同するが、ジミーは計画から外れると告げた。クリスは行動の手順をエディーとマイクに語り、会社の近くにある電話ボックスで待つよう指示した。しかしクリスが会社で計画を進めようとすると、ランソンが部下を引き連れて乗り込んで来た。驚くクリスに、強盗が入るというタレコミがあったのだとランソンは説明した。
クリスはランソンたちの目を盗んでエディーに電話を掛け、警察が来たことを知らせた。ランソンたちは覆面強盗2人組を発見し、クリスは社内で待つよう指示される。しかしランソンたちが2人組と銃撃戦に突入する中、クリスは拳銃を構えて事務所の外へ出る。彼は強盗の1人がランソンを撃とうとするのに気付き、発砲して始末した。一方、マイクはジミーが情報を警察にバラしたと考え、彼を射殺した。ジミーはエディーに、「計画は続行だ。絶対に成功させる」と告げた。
強盗事件の解決に協力したことで、クリスは翌日の朝刊に新聞に英雄として名前が載った。エディーはクリスに、マイクがジミーを始末して計画の続行を決めたことを教える。クリスが「マイクは関係ない。スピロに知られたら殺されるぞ」と言うと、エディーは「だから、彼らより先に金を奪おうぜ」と持ち掛ける。クリスは「もう諦めろ」と諭すが、エディーは「お前無しでもやるぞ。今夜8時に行く」と告げた。その夜、エディーは屋根に穴を開けてエンパイア社に侵入し、クリスは仕方なく彼に協力する。クリスは金庫を開け、監視カメラを破壊した。エディーは金を盗み、クリスを昏倒させて逃亡した…。

監督はディート・モンティエル、脚本はアダム・メイザー、製作はランドール・エメット&ジョージ・ファーラ&ステパン・マーティローシアン&マーク・スチュワート&サンディー・キルコスタス、共同製作はブランドン・グライムス&クリス・ポタミティス&ガス・ファーラ&ダマ・クレール、製作総指揮はマーティン・リチャード・ブレンコウ&ブラント・アンダーソン&ブレント・グランスタッフ&エリーザ・サリナス&コーリー・ラージ&テッド・フォックス&ジェフ・ライス&バリー・ブルッカー&スタン・ワートリーブ&レミントン・チェイス&マイケル・ブレンコウ&ヴァンス・オーウェン&ニコラ・ピアシー、製作協力はテオ・キルコスタス&ライアン・ブラック&フッリップ・ヌーラニ、撮影はデイナ・ゴンザレス、美術はイーサン・トーマン、編集はジェイク・プシンスキー、衣装はアビー・オサリヴァン、音楽はデヴィッド・ウィットマン、音楽監修はマイク・バーンズ。
出演はリアム・ヘムズワース、エマ・ロバーツ、ドウェイン・ジョンソン、マイケル・アンガラノ、ニッキー・リード、クリス・ディアマントポロス、ポール・ベン=ヴィクター、ジェリー・フェレーラ、マイケル・リスポリ、シェネイ・グライムス、グレッグ・ヴロートゥソス、シャロン・アンジェラ、ウェイン・ペレ、クレイグ・レイデッカー、ケヴィン・“ラッキー”・ジョンソン、ジェームズ・ランソン、ジーア・マンテーニャ、ロジャー・グーンヴァー・スミス、エマニュエル・ヨアニディス、レイ・ガスパール他。


アメリカで1982年に起きた1100万ドル強奪事件を基にした作品。
脚本は『アメリカを売った男』のアダム・メイザー。
監督は『シティ・オブ・ドッグス』『陰謀の代償 N.Y.コンフィデンシャル』のディート・モンティエル。
クリスをリアム・ヘムズワース、ナンシーをエマ・ロバーツ、ランソンをドウェイン・ジョンソン、エディーをマイケル・アンガラノ、スピロをクリス・ディアマントポロス、トミーをポール・ベン=ヴィクター、ジミーをジェリー・フェレーラが演じている。

序盤、クリスはスピロの店へ赴いた時、彼が父の肩を軽く抱いただけなのに「触るな」と荒っぽく振り払っている。
その時点ではスピロが麻薬組織のボスであることが語られていないものの、カタギじゃないんだろうってことは何となく分かる。
しかし、「スピロがトミーを安い賃金で扱き使っている」とか、「理不尽な仕事をさせている」という描写は全く無いし、そんな印象も受けない。
トイレ修理についてクリスは「そんなことまで」と不満を口にするが、それほど憤懣を抱くようなことにも思えない。
そもそも、トミーが何の仕事でスピロに雇われていたのかも良く分からないし。

そんなわけだから、そこは「スピロが父を扱き使っている酷い奴だからクリスが激怒する」というシーンじゃなきゃダメなはず。
なのに、「クリスが理不尽に怒っている」という風にさえ見えてしまう。
クリスを悪人にしたくないから、序盤から彼に共感させるための要素を色々と持ち込もうとしているんだろうけど、そこに無理があってスムーズに伝わって来ない。
そこでクリスに共感させたいのなら、もっと明確に「いかにスピロが酷い奴で、いかにトミーが理不尽な仕事をさせられているか」ってのを示しておく必要がある。

冒頭、エディーが働いていた店で泥棒を働いていたのに「ムカつくから辞めてやった」と言うと、クリスは笑って済ませている。
クリスも似たような奴ってことなら、泥棒を笑って済ませるのは構わんだろう。でも、クリスは「良心のある善人」として描かれるので、なのに「泥棒してる加害者なのに、被害者である店側を批判して罵る」というエディーの行為を笑って済ませちゃダメなんじゃないかと。
あと、そりゃあ親友だから仲良くするのは当然だろうけど、前科のことで大きな迷惑も被っているのに、それも簡単に許しちゃうのよね。
その上、盗んだ金を見せるとか、アホなのかと。

そもそもクリスが何もかも話しているのがバカすぎるんだけど、エディーはクラブへ繰り出すと女たちに「彼が会社から金を盗んだ」と簡単に喋る。すぐに「冗談だ」と言っているけど、どうしようもなく口が軽い。
だからジミーたちからヤクを貰うと、エンパイア社の警備体制や金を盗んだこともベラベラと喋ってしまう。
こいつのクズっぷりが酷すぎて、スピロやハニーウェルの「悪人」としての印象が著しく弱まっている。
エディーの方が、不快感が遥かに強いわ。

クリスだけじゃなくて周囲の面々も含めて、貧乏な暮らしを強いられているという状況がある。で、「何もかも貧乏が悪いんや」という不満がある一方、「父を扱き使ったのに冷たく解雇したスピロや、トニーの遺族に1割の死亡手当しか支払わないウォルターソンは酷い」という怒りがある。
この2つの感情がクリスの中には混在しているのだが、それを上手く捌けていない。
「貧乏が悪いんや」ってことなら、「金持ちになりたい」とか「金持ちから盗んでやる」ってのが彼を突き動かす気持ちになる。
後者であれば、「悪党への怒り」ってのがモチベーションになる。
その辺りが、何となくフワフワしちゃってる印象なのよね。

クリスは最初に盗みを働いた時、エディーに「トミーのことで会社への怒りがあった」と説明している。
つまり「トミーの遺族に正当な金を支払おうとしないから、義憤にかられて金を盗んだのだ」と主張しているのだ。
でも、盗んだ金の半分は遊びに使っているわけだから、その時点で「下手な言い訳」に成り下がる。
その後で彼がエディーやマイクと泥棒の計画を立てるのは、「ずっと貧乏暮らしが続くのは嫌だな」という思いからだ。そこで「私欲のための身勝手な泥棒」ってことが明確になる。

別に「金持ちになりたい」とか「貧乏暮らしを抜け出したい」という気持ちで金を盗もうと企てても、そんなのは一向に構わない。
しかし色んな言い訳を用意して、まるでクリスを「善良で清らかな人間」のように描こうとしているもんだから、どうしても無理が生じてしまう。
そして、それが映画を観賞する上で大きな引っ掛かりになってしまう。
そりゃあ周囲の人間からすると、クリスは比較にならないほど悪人のイメージから程遠いキャラになっている。だけど擁護の姿勢が強すぎて、なんか鼻に付くのよね。

後半に入ると、周囲の面々が勝手な行動を取り、クリスは巻き込まれたり翻弄されたりする立場になる。
だけど、そもそも最初に警備会社から金を盗んだのはクリスだし、エディーたちとの計画を立てたのも彼なのだ。
自分が招いたトラブルなのに、「全面的に被害者です」と言わんばかりのツラをされてもね。
とにかく、クリスを「良き人間」として描こうとしていることが、あちこちで問題を生んでいる。彼が野心や私欲で泥棒に及んだ設定にしたとしても、見せ方次第では魅力的なキャラになったし、感情移入もさせられたはず。
主人公のクリス・ポタミティスは実在の人物であり、この映画に共同製作として参加しているので、そこに制限があったのかねえ。

(観賞日:2016年12月17日)

 

*ポンコツ映画愛護協会