『エリザベス』:1998、イギリス

1554年、旧教徒メアリー一世が治めるイングランド。21歳の新教徒エリザベスは、ロバート・ダドリー卿と惹かれ合う関係にあった。だが、彼女は反乱を起こしたトマス・ワイアット卿との共謀を疑われ、ロンドン塔に幽閉されてしまった。
エリザベスは、異母姉のメアリー一世から敵視されていた。メアリー一世の周囲には、王位を狙うノーフォーク公爵、スペイン大使のアルヴァロといった面々がいた。メアリー一世の夫フェリペ二世はスペイン王で、イングランドを狙っている。
腫瘍が出来たことにショックを受けたメアリー一世はエリザベスを呼び、自分が死んで王位を継承しても、イングランドを今の宗教体制にしておくよう頼んだ。エリザベスは拒否したが、メアリー一世は処刑執行を命じることは無く、やがて命を落とした。
1558年、王位を継承した25歳のエリザベスは、閣僚会議に出席した。出席者はエリザベスの他、彼女の支持者であるウィリアム卿、官僚となったロバート、追放されていたフランスから戻ったウォルシンガム卿、ノーフォーク公爵といった面々だ。
エリザベス達は、スコットランドへの派兵について話し合う。ノーフォーク公爵を始めとして、多くの閣僚が派兵すべきだと考えていた。ウォルシンガム卿だけは反対し、エリザベスも同調しようとするが、ウィリアム卿の意見もあって、派兵が決定した。
スコットランドでの戦いは、メアリー・ド・ギーズ率いる敵軍に惨敗した。メアリー・ド・ギーズは和睦の証として、彼女の甥であるアンジュー公フランソワとエリザベスの結婚を提案する。一方で、エリザベスはフェリペ二世からも求婚される。
ロバートを愛するエリザベスは、フランス大使ド・フォアに結婚の返事をしようとしない。ウィリアム卿はエリザベスに、ロバートが既に結婚していることを明かした。女装趣味のあるアンジュー公との結婚は断ったエリザベスだが、夫は持たないと決めた。
1570 年、ヴァチカンのローマ法王ピウス5世が、エリザベスの暗殺を指示した。ノーフォーク公爵はピウス5世と手を組んでおり、ウォルシンガムのスパイとして潜り込んでいた付き人トマス・エリオットはヴァチカンから来た僧侶に殺害される。一方、ウォルシンガムはメアリー・ド・ギーズを誘惑して関係を持ち、ベッドで彼女を暗殺する。
スペイン大使アルヴァロの言葉に乗せられたロバートは、エリザベスにスペイン王との結婚を進言したが、拒否される。イングランドをスペインとフランスの属国から解き放とうとするエリザベスは、ウィリアム卿にバーリー卿の名を与えて引退させた。
エリザベスはウォルシンガムに命じて、ヴァチカンからの僧侶を捕まえさせた。ウォルシンガムは僧侶を拷問に掛け、謀反を企む者の名を吐かせた。その中には、ロバートの名前もあった。僧侶が持っていたノーフォーク宛の書簡には、メアリー・ド・ギーズの娘メアリー・スチュアートと結婚し、エリザベスを追放するよう記されていた…。

監督はシェカール・カプール、脚本はマイケル・ハースト、製作はアリソン・オーウェン&エリック・フェルナー&ティム・ビーヴァン、共同製作はデブラ・ヘイワード&リザ・チェイシン、撮影はレミ・アデファラシン、編集はジル・ビルコック、美術はジョン・Myhre、衣装はアレクサンドラ・バーン、音楽はデヴィッド・ハーシュフェルダー。
主演はケイト・ブランシェット、共演はジェフリー・ラッシュ、クリストファー・エクルストン、ジョセフ・ファインズ、リチャード・アッテンボロー、キャシー・バーク、ファニー・アルダン、エリック・カントナ、ジェームズ・フレイン、ヴァンサン・カッセル、ジョン・ギールグッド、ダニエル・クレイグ、アンガス・ディートン、エドワード・ハードウィック、ジェイミー・フォアマン、テレンス・リグビー、アマンダ・ライアン、ケリー・マクドナルド、エミリー・モーティマー他。


女王エリザベス一世の半生を描いた作品。エリザベスをケイト・ブランシェット、ウォルシンガムをジェフリー・ラッシュ、ノーフォークをクリストファー・エクルストン、ロバートをジョセフ・ファインズ、ウィリアム卿をリチャード・アッテンボローが演じている。
他にメアリー一世をキャシー・バーク、メアリー・オブ・ギーズをファニー・アルダン、ド・フォアをエリック・カントナ、アルヴァロをジェームズ・フレイン、アンジュー公をヴァンサン・カッセル、法王をジョン・ギールグッドが演じている。

中世ヨーロッパの歴史に強い興味がある人は、それなりに楽しんで最後まで見ることが出来るのかもしれない。しかし、そうでない人にとっては、何しろドラマティックな盛り上がりが無く静かに淡々と流れていくので、退屈だと思ってしまうんじゃないだろうか。
登場人物は多いし、人間関係は複雑だし、その時代に詳しい人、もしくは歴史を予習した人でないと、話に付いていくのが大変だ。「こいつは誰だっけ?」「こういう行動を取るのはなぜだっけ?」と、途中でクエスチョンマークだらけになる怖さがある。

いや、ひょっとするとヨーロッパの人なら、この話を容易に理解できる知識を持っているのが当たり前なのかもしれない。日本人なら、例えば戦国時代のことは結構分かるようなものか。そこは日本人だから難しいというハンディキャップはあるんだろう。

大勢の人間が入り乱れ、様々な感情を沸き立たせているはずだが、何しろ淡々と描いているので、キャラクターの感情が強く伝わってくることは無い。ヒロインのエリザベスでさえも、観客から遠い場所に立っており、共感を頑なに拒否している。
画面が暗いのは、意図している演出なのだろう。ただ、何を意図しての演出なのかが分からない。人物の顔が良く分からないし、奥行きも感じられなくなるし、話そのものが暗い雰囲気になるし、悪いことずくめで、メリットなんて1つも無いように思えてしまう。

最初は恋に生きる感情豊かで優しい女性だったエリザベスが、政治の世界に生きる中で、最終的に冷徹な女性になる。ただ、冷静に考えると、エリザベスは政治の荒波に翻弄された悲劇の女性というよりも、世渡りが下手すぎる女性なんじゃないだろうか。
「若いから未熟だ」というエクスキューズはあるかもしれないが、メアリー一世の死に際の願いを真っ向から否定するし、皆が反対しているのに法案をゴリ押しするし、人前で平然とロバートとイチャイチャするし。
芯が強いというより、あまり利口じゃないって感じが。

 

*ポンコツ映画愛護協会