『悪魔の沼』:1977、アメリカ

家出した新人売春婦のクララは、客のバックに要求されたプレイを拒否する。彼女はバックに激しく抵抗し、女将のハッティーを呼んだ。ハッティーはバックに抗議され、2人でサービスさせると告げて納得してもらう。彼女は「お前が働きたいと言ってきたんだよ」とクララを責め、売春宿から追い出した。従業員のルビーはクララに同情し、近くにモーテル「スターライト・ホテル」があることを教えた。彼女はクララに餞別を渡し、「ここで働いていたって言っちゃダメよ」と忠告した。
クララは薄暗いスターライト・ホテルに到着し、その隣にフェンスで囲まれた沼があるのを目にする。モーテルを営む義足のジャッドは、不気味な笑顔でクララを歓迎した。彼は宿帳に記入させ、沼に視線をやったクララにクロコダイルを飼っていることを話す。彼はクララを2階の客室へ案内しながら、ワニがロバを食い殺した出来事を語る。ジャッドはクララが売春宿から来たことを悟り、レイプしようとする。クララは抵抗して逃げようとするが、ジャッドは鋤で襲い掛かる。クララは瀕死の状態に陥り、ジャッドは沼に投げ入れた。
ジャッドが部屋で歌っていると、ロイとフェイの夫婦が幼い娘のアンジーと愛犬のスヌーピーを連れて車でやって来た。ロイからトイレを貸してほしいと言われ、ジャッドは場所を教える。ジャッドがフェイに目を留めて話していると、バックが車で現れた。ジャッドは「出て行け」と怒鳴ると、バックは「俺は逆だぞ」と言う。バックは金を差し出すが、ジャッドは怒鳴って追い払った。アンジーは檻の中の猿が死んでいるのに気付き、フェイに知らせた。
スヌーピーはフェンスを越えて沼に近付き、助けようとしたアンジーの眼前でワニに食い殺された。泣き叫ぶアンジーをロイが抱き上げると、ジャッドは夫妻に中へ入るよう促した。彼は休むよう告げ、一家を2階の客室へ案内した。フェイはベッドにアンジーを寝かせ、落ち着かせようとする。娘に寄り添っていた彼女は、ロイの「まだか?」という言葉に「当然よ」と返す。ロイが「悪かったよ、何もかも俺のせいなんだろう」と口を尖らせ、フェイへの怒りを必死で押し殺した。「何が望みだ?」と彼が訊くと、フェイは煙草を吸いながら「貴方には何も期待してないわ」と告げた。
ハーヴェイは長女のリビーと共にモーテルを訪れ、次女であるクララの写真をジャッドに見せる。「娘を知らないか?」と彼が尋ねると、ジャッドは「知らない」と嘘をついた。ハーヴェイとリビーはクララを捜するため、荷物をジャッドに預けて町へ向かった。ロイはフェイと口論になった後、ワニを殺そうと外へ出た。彼は車に積んであったショットガンを取り出し、ジャッドが止めても無視してワニに発砲しようとする。ジャッドが大鎌で襲っていると、ワニが飛び出してロイを沼に引きずり込んだ。
フェイが浴室に行くと、ジャッドが入って来た。ジャッドはフェイの両手を縛り、抵抗する彼女を殴り付ける。アンジーは気付いて悲鳴を上げ、モーテルの外へ逃げ出した。ジャッドは大鎌を手に取り、アンジーを追い回す。アンジが床下に隠れると、ジャッドは入り口を封鎖して閉じ込めた。ホテルに戻った彼はフェイに平手打ちを浴びせ、口を塞いでベッドに縛り付けた。ハーヴェイとリビーは保安官事務所を訪れ、マーティン保安官に売春宿の調査を依頼した。
ジャッドはアンジーを引きずり出すため、床下に潜り込んだ。ハーヴェイはマーティンに同行して売春宿を訪れるが、ハッティーはクララの写真を見せられても「知らない」と告げた。ジャッドはアンジーを見つけるが、そこへハーヴェイが戻って来た。ハーヴェイは床下から聞こえる声に気付いて覗き込むが、ジャッドに鎌で襲われた。ハーヴェイは鎌で首を突き刺され、沼に落ちてワニに食われた。リビーは夕食を取るため、マーティンとバーへ赴いた。マーティンはウェイトレスから、バックが暴れて困っていると相談された。マーティンは恋人のリネットと遊びに来ていたバックを注意し、店から出て行くよう命じた。
バックはリネットを連れてモーテルへ行き、追い払おうとするジャッドを無視して2階の客室へ向かった。彼はベッドに入り、リネットとセックスを始めようとする。縛られているフェイが激しく暴れたため、ジャッドは音がバックたちの部屋に聞こえないようラジオの音量を上げた。それでもフェイが暴れ続けたため、バックは物音に気付いた。ジャッドはフェイの部屋へ行き、ベッドを移動させた。外に出たバックはアンジーの声に気付くが、ジャッドが沼に突き落としてワニに襲わせた…。

監督はトビー・フーパー、脚本はアルヴィン・L・ファスト&トビー・フーパー、翻案はキム・ヘンケル、製作はマーディー・ラスタム、製作総指揮はモハメド・ラスタム、共同製作はアルヴィン・L・ファスト、製作協力はサミール・ラスタム&ラリー・フーリー&ロバート・カンター、撮影はロバート・カラミコ、美術はマーシャル・リード、編集はマイケル・ブラウン、音楽はトビー・フーパー&ウェイン・ベル。
出演はネヴィル・ブランド、メル・フェラー、キャロリン・ジョーンズ、マリリン・バーンズ、ウィリアム・フィンレイ、スチュアート・ホイットマン、ロバータ・コリンズ、カイル・リチャーズ、ロバート・イングランド、クリスティン・シンクレア、デヴィッド・ヘイワード、ジャナス・ブリス、ベティー・コール、シグ・サコウィッツ、ロナルド・W・デイヴィス、クリスティン・シュナイダー、デヴィッド・“ゴート”・カーソン、リンカーン・キビー、ジェームズ・ガラニス、タージャ・リーナ・ハリネン、カレン・ホワイト、ヴァレリー・ルークカート、ジャニーン・レイチャート他。


『悪魔のいけにえ』で注目を浴びたトビー・フーパーが、ハリウッドに進出して撮った作品。
ジャッドをネヴィル・ブランド、ハーヴェイをメル・フェラー、ハッティーをキャロリン・ジョーンズ、フェイをマリリン・バーンズ、ロイをウィリアム・フィンレイ、マーティンをスチュアート・ホイットマン、クララをロバータ・コリンズ、アンジーをカイル・リチャーズ、バックをロバート・イングランド、リビーをクリスティン・シンクレアが演じている。

クララがモーテルに着くと沼を見るし、宿帳を書いた後も改めて沼に目をやる。するとジャッドは、彼女に「見ましたか。ワニじゃなくてクロコダイルです」と言う。
でも、この段階では、まだワニの姿は全く見せていない。でも動物パニック映画じゃないんだし、その流れだと先にワニの姿を見せておかないと意味が無い。
見せないのであれば、ジャッドに「見ましたか。ワニじゃなくてクロコダイルです」なんて言わせない方がいい。
クララが襲われる時に、初めて「ジャッドが沼でワニを飼っている」と明かすべきだ。

ジャッドがクララを沼に落とすシーンでも、ワニの姿は描かれない。なので、クララがワニに食われたかどうかも良く分からない。
なので、「ジャッドが沼でワニを飼っている」という仕掛けが機能不全に陥っている。
スヌービーが襲われる時に初めてワニの姿を見せるのだが、それは初登場のタイミングがズレている。
そこで初めてワニを出すのなら、そこまでは「そこにワニがいる」ってのを隠しておいた方が絶対に得策だし。

っていうか、そもそも沼で飼われているワニに頼っている時点で、失敗じゃないかと思うんだよね。
ジャッドが自分で殺している設定の方がいいよ。そもそもクララの殺害にしても、ほぼ彼がやっているわけだし。
「それだと『悪魔のいけにえ』の模倣になるから避けよう」という考えだったのかもしれないけど、どっちにしろ模倣になってるからね。
トビー・フーパーがハリウッドでの初仕事にビビって安全策を取ろうとしたのか、製作会社から二番煎じ的なモノを求められて素直に応じたのかは知らないけどさ。

トビー・フーパーのデビュー作である『悪魔のいけにえ』は、偶然が全て良い方向に転がって出来上がった奇跡の映画だった。そんな奇跡なんて、もう二度と起きることは無い。
ただ、それにしても本作品は、かなりドイヒーなことになっている。有名俳優を起用したことも、セット撮影にしたことも、奇跡を引き起こした前作の製作環境を全否定しちゃうようなモノだ。
ジャッドが感情豊かなキャラになっていることも、大きなマイナスだ。『悪魔のいけにえ』のレザーフェイスは顔を隠しており、何を考えているのか分からない不気味な奴だった。ホラーアイコンとしての力が、比較にならないほど下がっている。
まるで深夜枠で好調だったバラエティー番組をゴールデンに昇格させて一気にダメにしてしまうテレビ朝日に匹敵するぐらい、その落ち具合が急激だ。

ロイは精神的に不安定な男で、フェイに向かって「煙草を僕の目に突っ込め。ごめんなさい、灰皿と間違えたわって」と急に言い出す。彼はヒヒヒと不気味に笑い出し、「目をくり抜かれた。どこに転がった?」と探すフリをする。フェイへの嫌がらせとして、犬のように鳴き出したりする。
でも、そんなトコにヤバそうな奴を配置して、何の意味があるのか。ここで別の恐怖が生じるでしょうに。
恐怖の発信源は、1つに絞り込んでおくべきだよ。ロイは単純に、犠牲者としての役割を守らせりゃいい。
彼とフェイの間に何のトラブルがあったのかは全く分からないし、それがストーリー展開に影響を及ぼすことも無いんだし。

ジャッドはクララを襲う時に鋤を使っていたのに、ロイやアンジーの時は大きな鎌を使う。
なんで途中で武器を変えるんだよ。そこは絶対に統一しておくべきだろ。あと、大鎌に関しては全く使いこなせていないし。
それと、ロイを襲う時は途中でワニが飛び出しているのよね。そんでジャッドがビビッちゃってんのよ。
それはダメだろ。彼はワニを飼っていて、可愛がっている状態じゃなきゃダメだろ。
こいつのワニに対するスタンスが、まるで定まっていないんだよね。

ジャッドの目的がボンヤリしているのは、大きなマイナスだ。
彼は「宿泊客を殺してワニの餌にする」という目的で動いているわけじゃないのよね。クララを襲うのは、レイプしようとして抵抗されたからだ。ワニに食わせるのも、遺体を始末するためだ。
ロイを襲うのは、彼がワニを殺そうとしたからだ。ロイの場合はジャッドが食わせたわけじゃなく、ワニが勝手に食らっている。
クララにしろロイにしろ、ジャッドは成り行きで殺しているだけであり、イカれた殺人鬼ってわけでもないのだ。

ハーヴェイたちが売春宿に行くシーンなんて、全く要らない。そこに恐怖が無いことは、分かり切っているんだから。舞台はモーテルに絞り込んだ方がいい。
それと同じぐらい、バーのシーンも不要。
そこではバックの仲間であるマーロが客に因縁を付けたり、マーティンから出て行くよう命じられたバックが客に喧嘩を吹っ掛けたりする様子が描かれる。でも、そんなのは何の意味も無い寄り道でしかない。
そもそもバーのシーンの必要性からして、まるで見出せない。そこを丸ごとカットしても、何の支障も無いぞ。

ジャッドはバックを始末する時、大鎌を使わずに沼へ突き落してワニに食わせる。リネットが出て来ると、大鎌を振り上げて追い回す。
彼の行動には、一貫性が感じられない。
そもそも、大半のシーンではジャッドが恐怖の対象として動かされており、たまにワニが出てくるという扱いなのよね。なので、ワニが邪魔なだけの存在と化しているのだ。
ジャッドならジャッド、ワニならワニに絞り込むべきだわ。
まあ絞り込んだとしても、傑作になる可能性はゼロなんだけどさ。

(観賞日:2021年9月15日)

 

*ポンコツ映画愛護協会