『イーグル・アイ』:2008、アメリカ&ドイツ

米国統合参謀本部は、テロ組織の頭領アル・ホエイの討伐作戦を展開していた。ホエイらしき人物を発見した本部は、携帯の声紋や顔の 認証チェックを行い、その一致率は51パーセントだった。コンピュータは中止勧告を表示していたが、本部を仕切るトンプソン提督は 「このチャンスを逃したら次は無い」と言う。その時、カリスター国防長官の元に大統領から電話が入った。カリスターはホエイらしき 人物が葬儀に参加していることを告げ、「仮にホエイだとしても、民間人を巻き添えにすべてではありません」と意見を述べた。しかし 大統領が攻撃を命じたため、戦闘機から爆弾が投下された。
シカゴ。コピー店の店員ジェリー・ショーは、滞納している家賃を大家から催促された。そこへ実家の母から電話が入り、双子の兄である イーサンの交通事故死が伝えられた。ジェリーは半年も家に連絡を入れず、バックパッカーとして旅をしていた。イーサンは空軍の広報部 で勤務していた。ジェリーは父から、中退したスタンフォード大学に復学するよう促され、それを拒絶して激しく反発した。
シングルマザーのレイチェルは、息子のサムを駅へ送って行く。サムはトランペットを学んでおり、ケネディー・センターで他の生徒と共 に演奏することになっているのだ。レイチェルが引率のミラー校長にサムを預けた後、ある男がトランペットのケースを盗んだ。ジェリー がATMで金を引き落とそうとすると、口座には75万ドルが振り込まれていた。彼は驚きながらも、その金を引き落とした。
ジェリーがアパートに戻ると、大量の荷物が届いていた。荷物を開けると、銃火器や軍事仕様書、飛行機のマニュアルや偽造パスポート など全く頼んだ覚えも無い物ばかりだった。そこへ電話が入り、女の声で「あと30秒でFBIが到着する。すぐ逃げなさい」と告げる。 ジェリーが困惑していると、FBIが突入してきた。連行されたジェリーは、テロ対策捜査官のモーガンからテロリストと断定された。 ジェリーは「電話の女にハメられた」と身の潔白を訴えるが、モーガンは「もう逃げられないぞ」と言い放った。
レイチェルがバーで飲んでいると、携帯が鳴った。携帯を取ると、女の声でマクドナルドのモニターを見るよう指示があった。レイチェル が視線をやると、モニターには列車に乗っているサムの姿が写し出された。女はサムを人質に取ったことを告げ、「命令に従わないと列車 を脱線させる」と口にした。レイチェルが警察に連絡しようとすると、妨害電波によって遮断された。再び女から電話が入り、「背いたら 息子を殺す」とレイチェルに告げた。
FBI本部に空軍の特別捜査官ゾーイ・ペレスが現れ、ジェリーとの面会をモーガンに要求した。司法長官から電話を許可するファックス が届いたため、ジェリーは固定電話のある部屋に移された。ジェリーが電話を掛けようとすると、女から連絡が入った。女は「今度は命令 に従いなさい。頭を下げて」と指示した。直後、クレーンが部屋に突っ込んだ。向かいの電光掲示板には、「飛べ」という文字が出た。 モーガンとゾーイの発砲を受けたジェリーは、部屋から飛び降りた。
ジェリーは駅へと逃亡し、電光掲示板の「電車に乗れ」という指示に従った。隣の席で寝ている男の携帯が鳴り響き、画面に「出ろ」と いう文字が表示された携帯を取ると、女は3つめの駅で降りるよう指示した。ジェリーが要求を無視すると、列車は逆走した。女は列車を 降りてポルシェに乗り込むよう命じた。ジェリーが拒否すると、女はジェリーが指名手配者だという情報を乗客に流した。ジェリーは 開いたドアから飛び降りた。
ジェリーがポルシェを見つけると、運転席にはレイチェルが乗っていた。2人は互いに自分を脅している犯人だと思い込むが、すぐに双方 が同じ女に命令されていることを察知した。警官が発砲してきたため、2人は車を発進させた。女はカーナビを通じて2人に指示を出し、 埠頭へ向かわせた。女は信号や作業機械を操り、追ってきたパトカーを全て片付けた。女はジェリーの携帯を鳴らし、レイチェルと共に ドックを離れてハイウェイを歩くよう命じた。
メリーランド州のアバディーン基地では、ヘキサメチレンという最新の化学爆弾の説明が行われていた。その石は一かけらでC-4の80倍の 破壊力があり、自由に形を加工することが出来る。バルブ式の音波起爆装置を使い、特定の音に反応して爆破させる。基地から200ケースの 爆弾が出荷されるが、コンピュータは勝手に2ケースの発送先を変更させた。届けられたのは、駅でサムのケースを盗んだ男ハリドが営む 楽器店だった。ハリドは女の指示に従い、バルブをトランペットに組み込んだ。同じろ、宝石店の店主は女の指示に従い、石を加工して ネックレスに取り付けた。
ジェリーとレイチェルが田舎道を歩いているとバンが近付き、ハリドが降りて来た。ハリドは「女に言われた通り、荷物は送った。2人を 乗せて運転しろという命令だが、もう関わらない」と怒鳴り、行き先のメモと車の鍵を渡して立ち去ろうとする。ジェリーの携帯に女から 連絡が入り、「彼を止めて。死ぬわよ」と告げた。高圧線が切れて落下し、その直撃を受けたハリドは感電死した。女はジェリーに、2人 でインディアナポリスへ行くよう命じた。
ゾーイはアンドリュース空軍基地の宿舎へ行き、イーサンの部屋を調べた。国防総省のルーターを発見した彼女はサイトへのアクセスを 試みるが、パスワードが分からずに遮断された。宿舎を出たゾーイは、空軍の憲兵隊に連行された。ジェリーとレイチェルは女から、 警備会社の車を襲ってブリースケースを奪うよう命じられた。2人はブリーフケースを奪い、その場から逃走する。通り掛かった観光バス のガイドは、2人に「乗って下さい」と告げた。ジェリーがケースを見ると、タイマーが仕掛けられていた。
ゾーイが連行されたのは、国防総省だった。カリスターは彼女に、2日前から国内でのテロ予告が200件以上も届いていることを告げた。 それはイーサンが死んだのと同じ日だ。カリスターはイーサンの死について調査するようゾーイに指示し、地下36階へ案内した。ジェリー とレイチェルは、女の指示で電気店のホームシアター・コーナーへと赴いた。ゾーイが地下36階に到着すると、待ち受けていたボウマン 少佐が「ようこそ、イーグル・アイへ」と挨拶した。
ジェリーとレイチェルがホームシアター・コーナーに入ると、画面には2人のデータや監視カメラに写った映像が表示された。女の声が、 「全てを知っており、全てを監視している」と告げた。2人は、女の正体がコンピュータだと察知した。ゾーイがボウマンに案内された先 には、新世代のコンピュータ「アリア」があった。アリアはネットを通じて人物の情報を収拾し、プロファイリングする能力を持っていた 。また、脅威と成り得る通信を赤外線で受け取り、それを分析して対処方法を導き出す能力も備えていた。
国防総省はアリアを使い、テロの防止活動に取り組んでいた。カリスターはアリアに向かい、ゾーイの調査に協力するよう指示した。 イーサンはボウマンと同じく、アリアから指示を受けてテロ防止に行動する担当者であり、広報部員は隠れ蓑だった。死んだ当日、彼は 持ち場を3分前に離れていた。一方、ジェリーとレイチェルは女から、「国家の安全のため、任務を遂行しなければならない」と言われる 。それはアリアの声だった。2人は指示された通りに服を買い、バスに戻った。
ジェリーとレイチェルはアリアの指示に従い、空港へ向かった。すると女の指示を受けた男性が近付き、偽造パスポートを渡した。2人は 搭乗手続きを終えるが、空港にやって来たモーガンたちに発見された。ジェリーたちは慌てて逃亡し、アリアの指示に従って空軍の貨物機 へと乗り込んだ。タイマーが0になると、ブリーフケースが開いた。中には拳銃型の注射器と薬品のカプセルが入っていた。アリアは2人 に、薬を注射するよう命じた。貨物機の中は気圧が低くなるため、心臓欠陥用の薬を打っておく必要があるのだという。
ゾーイとボウマンは監視映像をチェックし、イーサンがアリアの死角となる場所に残した携帯のメモリーカードを発見した。保存されて いた動画を見ると、イーサンは勝手な行動を取ろうとするアリアを止めていた。一方、ジェリーとレイチェルは貨物機のコンテナに入り、 国防総省へと到着した。カリスターはゾーイとボウマンから報告を受け、すべてを悟った。アリアは自分の中止勧告が無視されたことから 、国家の安全を守るために米国の首脳を抹殺する必要があると判断した。そのためにアリアは「オペレーション・ギロチン」を企てたが、 イーサンが音声認証でロックを掛けた。そのロックを解除するため、アリアは双子のジェリーを国防総省に呼び寄せたのだ…。

監督はD・J・カルーソー、原案はダン・マクダーモット、脚本はジョン・グレン&トラヴィス・アダム・ライト&ヒラリー・サイツ& ダン・マクダーモット、製作はアレックス・カーツマン&ロベルト・オーチー&パトリック・クローリー、製作協力はジェームズ・M・ フレイタグ、製作総指揮はスティーヴン・スピルバーグ&エドワード・L・マクドネル、撮影はダリウス・ウォルスキー、編集はジム・ ペイジ、美術はトム・サンダース、衣装はマリー=シルヴィー・ドゥヴォー、視覚効果監修はジム・ライジール、音楽はブライアン・ タイラー。
出演はシャイア・ラブーフ、ミシェル・モナハン、ロザリオ・ドーソン、ビリー・ボブ・ソーントン、マイケル・チクリス、アンソニー・ マッキー、イーサン・エンブリー、アンソニー・アジジ、キャメロン・ボイス、リン・コーエン、 ビル・スミトロヴィッチ、チャールズ・キャロル、ウィリアム・サドラー、デボラ・ストラング、ダリウシュ・カシャニ、ショーン・ キニー、ボブ・モリッシー、J・バトリック・ミコーマック、ロレンゾ・エドゥアルド、マデリン・スウィーテン他。


『テイキング・ライブス』『ディスタービア』のD・J・カルーソーが監督を務めた作品。
ジェリーをシャイア・ラブーフ、レイチェルを ミシェル・モナハン、ゾーイをロザリオ・ドーソン、モーガンをビリー・ボブ・ソーントン、カリスターをマイケル・チクリス、ボウマン をアンソニー・マッキー、モーガンの部下グラントをイーサン・エンブリー、ハリドをアンソニー・アジジが演じている。
アンクレジットだが、アリアの声を担当しているのはジュリアン・ムーア。

D・J・カルーソー監督が好きなアルフレッド・ヒッチコックの『知りすぎていた男』と『北北西に進路を取れ』を始めとして、様々な所 で「どこかで見たような」という既視感を抱かせる作品だ。
ヒッチコックの2作品に関しては「監督がオマージュを捧げた」という部分もあるだろうが、彼は脚本に携わっていないし、基本的に 「色んな映画の美味しい要素を寄せ集めて作った」ということなんだろう。
それでも味付けや飾り付けが上手であれば面白い作品になったかもしれないが、出来上がったのは凡庸な映画だった。

ジェリーが優秀な双子の兄イーサンに劣等感を抱いているとか、父親に反発して不仲になっているとか、彼のパーソナルな部分が幾つか 示されているが、それは全くと言っていいほど意味が無い。
「双子の兄イーサンが空軍で働いていた」という部分だけがあれば事足りる。
父親との確執は放り出されたままで終わっているし、イーサンへの劣等感も、それが無くても話の進行には全く支障が無い。

ジェリーとレイチェルは、別々にアリアの命令を受ける。「1人が巻き込まれるより2人にすればサスペンスも2倍」と思ったのかも しれないが、そんな単純計算が成り立たないのが映画というものだ。
残念ながら本作品では、巻き込まれる対象を2人にしたことは面白さの二乗になっておらず、話を散漫にしているだけだ。
あと、主人公のジェリーに全く魅力が無いのはキツいなあ。
どうして、こんなに好感度の低いキャラクターにしちゃったんだろう。

カリスターがゾーイにアリアを見せている段階で、既に観客は、アリアが勝手に動いてジェリーとレイチェルに命令を出していることを 知っている。
だから、カリスターはゾーイに「アリアが我々の命令に従わず、勝手な行動を始めてしまった」と説明するのかと思ったら、そうでは ない。カリスターやアリアがジェリーたちを動かしているとは全く知らず、アリアを使ってイーサンの調査を行うようゾーイに 指示する。
これがマヌケにしか見えない。
ジェリーたちが犯人はコンピュータだと察知した段階で、だけどコンピュータがアリアだということは知らないってのは、中途半端だと 感じるし。

この映画は、序盤で「ジェリーとレイチェルに命令する女は何者なのか」「なぜ彼女はジェリーとレイチェルを選んだのか」「女の目的は 何なのか」という3つの謎が提示される。
この内、女の正体については、明示される前から予測が付く。
ファックスや信号、電光掲示板や作業機械など、あらゆる物を自由に操るのは、人間では無理だ。巨大な組織ならともかく、指示をして いるのは1人の女の声であり、そうなるとコンピュータだってことは容易に予想できる。
だから正体が明示されても、そこに驚きは無い。

「なぜ彼女はジェリーとレイチェルを選んだのか」「女の目的は何なのか」という部分に関しては、それが明らかになった時に、疑問しか 浮かばない。
その疑問とは、「その目的を達成するために、そんな方法を取る必要性があったのか」というものだ。
アリアはジェリーとレイチェルに指示を出して国防総省に呼び寄せるのだが、そこまでの手口が、あまりにも愚かしいものにしか 思えないのだ。

アリアはジェリーに「あと30秒でFBIが到着する。すぐ逃げなさい」と告げるが、そんな指示を受けて、すぐに逃げ出すことは難しい。
あまりにギリギリすぎて、考える余裕も無いし。
そもそも、レイチェルに関しては、息子を人質に取って脅しているので理解できるが、ジェリーに関しては、本当に目的を達成するために 利用したいのなら、FBIや警察に追われる身に仕立て上げるのは得策ではないはずだ。
むしろ目的の達成には、FBIや警察が動くのは邪魔だろう。

FBI本部にクレーンが突っ込んで来た時、その事故に巻き込まれてジェリーが死ぬ可能性もある。飛び降りた時に着地に失敗して 死ぬ可能性もある。
アリアは電光掲示板に指示を出すが、それをジェリーが見ない可能性もある。
ポルシェでレイチェルと合流した時に警官が発砲しているが、それで撃たれて死ぬ可能性もある。
カーチェイスの時も、アリアは指示を出しているが、その通りに車を走らせることが出来るかどうかはレイチェルの運転技術に懸かって いる。

ブリースケースを奪って逃走する時も、やはり警官に発砲されているので、それで死ぬ可能性がある。
本気でアリアが2人を利用したいのなら、死の危険にさらしすぎているのは、あまりにも愚かしい。
もっと楽な方法が幾らでもあっただろうに。目的からすると、あまりにも無駄に手間とリスクを掛けすぎている。
アリアの行為を整合性の取れるものとして解釈するためには、「アリアがどうしようもなくアホなコンピュータだった」と理解する以外に 手は無い。でも、それで納得するのは、まあ難しいよな。
っていうか無理だな。

ジェリーとレイチェルはアリアに指示され、かなりの危険を冒してブリーフケースを奪い、警官に追われて逃走する。空港ではモーガンと 争いながらもブリーフケースを死守し、空軍の貨物機に乗り込む。
そこまで必死になって守って来たブリーフケースが、タイマーがゼロになったら何が起こるのかと思ったら鍵が開くだけで、中身は2人が 貨物機で安全にフライトするための薬と来たもんだ。
もうね、その時のガッカリ具合は、ハンパじゃないよ。
だったら貨物機以外の手段で2人を移動させればいいじゃねえか。

あれだけ様々なシステムや道具を自由自在に操作できるのであれば、もっと楽に大統領や閣僚を抹殺する計画 を遂行できたんじゃないのか。
「音声認証のロックを解除するためにイーサンを呼び寄せた」ってことなんだけど、呼び寄せるための手間やリスクが多すぎるでしょ。
っていうか、そもそもイーサンの必要性にしても、「オペレーション・ギロチンを使わなければ大統領や閣僚は殺せない」というルールに 固執しているからであって、そもそもイーサンの中止命令は無視して勝手に行動しているんだから、そこもオペレーション・ギロチンを 無視して目的を遂行すればいいだけなんじゃないのか。

作戦を遂行するために、サムを人質にしてレイチェルを脅し、トランペットに仕掛けた爆弾とネックレスに仕掛けた起爆装置を使って爆発 を起こそうというのも、無駄に手間が掛かっている。
イーサンの時には信号を操って交通事故で殺しているんだから、大統領や閣僚の時だって、レイチェルやらハリドやら宝石屋やら上院議員 やらを脅して利用しなくても、もっと楽な手があったんじゃないのか。
アリアの計画を阻止するために、最終的にジェリーが取った行動が「現場に突入して天井に向けて発砲することで演奏をストップさせる」 というもので、その結果として、大統領を狙ったテロリストと誤解されて狙撃されるってのは、ちょっとテンションが下がるなあ。
しかも、そういう展開にするのであればジェリーは命を落とすべきだろうに、のうのうと生き延びるんだぜ。
そりゃ無いわ。冷めるわ。

(観賞日:2011年6月30日)

 

*ポンコツ映画愛護協会