『狼の死刑宣告』:2007、アメリカ

投資会社の副社長を務めるニック・ヒュームは、妻のヘレン、長男のブレンダン、次男のルーカスの4人で暮らしている。ブレンダンはアイスホッケーチームでレギュラーとして活躍しており、ルーカスは別のチームで控えに甘んじている。ルーカスはブレンダンへの劣等感を抱いており、余裕を見せる兄に些細なことで突っ掛かる。ブレンダンは大事な交流戦でも先発メンバーに選ばれており、ニックに車での送迎を頼む。ニックは家族全員で観戦に行くことを考えるが、ルーカスは同じ日に試合が入っていた。ただしルーカスは先発に選ばれておらず、ブレンダンとの格差を感じていた。
ニックはブレンダンを試合会場まで送り届け、得点を取って活躍する息子の姿に興奮した。帰りの車中で、ブレンダンはカナダの大学に進んで将来はプロになりたいという考えを明かした。ニックはブレンダンと話すが、無灯火で暴走する2台の車を目撃して顔をしかめた。彼は給油のためにガソリンスタンドへ立ち寄り、ニックはジュースを買いに売店へ入った。そこへ先程の2台が現れ、乗っていた男たちが売店へ入った。彼らは覆面を被って銃を構え、店主を射殺した。
ブレンダンが怯えていると、一味はジョーという男に殺害を命じた。ジョーが震えていると、1人が「殺さないと仲間に入れないぞ」と凄んだ。ジョーはナイフでブレンダンを突き刺し、一味は車で逃亡する。逃げ遅れたジョーは、ブレンダンが刺されたことを知ったニックと揉み合いになる。ジョーはニックを叩きのめして道路に飛び出し、走って来た車にはねられた。ブレンダンは病院に運び込まれるが、そのまま息を引き取った。
ニックの面通しにより、ジョーはブレンダンの殺害容疑で逮捕された。しかしニックは検事から「最高でも懲役5年で、無罪の可能性もある」と言われ、ジョーの弁護士と取り引きをするよう促される。同席したウォリス刑事は、ブレンダンを殺したのはギャングに入るための度胸試しだと知らされた。予審に出廷したニックは裁判での証言を拒否し、不敵な笑みを浮かべるジョーを睨み付けた。彼は保釈されたジョーがギャング仲間と喜び合う姿を確認し、彼らの車を尾行した。
夜、帰宅したニックはガレージへ行き、ナイフを用意した。彼はヘレンとルーカスに「会社に忘れ物をした」と嘘をつき、車でジョーの家へ赴いた。訪ねていた女が去った後、ニックはナイフを手にしてジョーの家に入った。彼はジョーに殴り掛かり、激しい揉み合いとなった。馬乗りになったニックは何度も殴り付け、気が付くとジョーの腹部にナイフが突き刺さっていた。ニックは慌ててナイフを抜き、その場から走り去る。車で逃亡した彼は、血を拭き取たナイフを捨てて家に戻った。
翌日、ギャングのボスであるビリーは車体工場へ行き、経営者のボーンズに稼いだ金を差し出した。ボーンズは儲けの少なさに不満を示し、「お前らを哀れに思って、売人として使ってる。俺の金を盗んでると分かったら殺すぞ」と拳銃を見せて凄んだ。ギャングのアジトへ出向いたビリーは仲間たちから、弟のジョーが殺されたことを聞いた。ニックが投資会社にいると、ウォリスがやって来た。ジョーの死を伝えられたニックは、何も知らないフリをした。
ギャングはバーに集まり、復讐を考える。ニックは女に顔を見られていたため、すぐにギャングは彼が犯人であることを知った。仕事を終えたニックは、ギャングに見つかって発砲を受ける。ニックは必死で逃亡し、立体駐車場へ飛び込んだ。ギャングは手分けして捜索し、屋上に隠れたニックはトミーの接近に気付く。ニックはトミーに不意打ちを浴びせて車に入るが、捕まって揉み合いになる。彼は車が動き出したのに気付き、慌てて脱出した。取り残されたトミーは、車ごと転落して死亡した。
別の車で逃亡したニックは自宅に電話を掛け、ルーカスが戻っていないことを知った。ニックが事件のあったガソリンスタンドへ行くと、ルーカスがいた。ニックが家に帰るよう促すと、ルーカスは「僕が殺されればよかったと思ってるだろ。兄貴は希望の星だった」と泣いた。ニックは彼をなだめ、車で家に連れ帰った。ビリーの手下はニックの会社へ乗り込み、彼が落としたスーツケースを渡した。手下は脅し文句を吐き、警備員に連れ出された。
ニックがスーツケースを開けると家族写真が入っており、顔の部分にバツが付けられていた。彼が写真の裏に書かれた電話番号に掛けると、ビリーが出た。ビリーは「最後の警告だ。家に乗り込むぞ。家族も殺してやる」と言い放ち、電話を切った。ビリーはウォリスに連絡し、「家族がギャングに狙われている」と助けを求めた。彼は急いで帰宅し、ヘレンとルーカスの無事を確認した。ウォリスが家に駆け付け、警備を付けるとニックに告げた。
狙われる理由を問われたニックが真実を隠すと、ウォリスは「生きていられるのは幸運よ。でも戦争なら、最後かもしれない」と警告した。立ち去ろうとしたウォリスは、ニックが追い掛けて来たので「戦争なのね」と理解した。ニックは彼女に、「自分はどうなってもいい。家族を守ってほしい」と頼んだ。彼はヘレンに、真実を明かした。その夜、ビリーたちは警備の警官2名を始末し、家に乗り込んだ。一味はヘレンを射殺し、ニックとルーカスにも銃弾を浴びせて立ち去った…。

監督はジェームズ・ワン、原作はブライアン・ガーフィールド、脚本はイーアン・マッケンジー・ジェファーズ、製作はアショク・アムリトラジ&ハワード・ボールドウィン&カレン・ボールドウィン、共同製作はエリック・ミッチェル、製作総指揮はアンドリュー・シュガーマン&ニック・モートン&ニック・ハンソン&ラース・シルヴェスト、撮影はジョン・R・レオネッティー、美術はジュリー・バーゴフ、編集はマイケル・N・クヌー、衣装はクリスティン・M・バーク、音楽はチャーリー・クロウザー、音楽監修はシェル・シルヴァーマン。
出演はケヴィン・ベーコン、ジョン・グッドマン、ギャレット・ヘドランド、ケリー・プレストン、アイシャ・タイラー、ジョーダン・ギャレット、スチュアート・ラファティー、エディー・ガテギ、マシュー・オリアリー、リー・ワネル、ヘクター・アトレイユ・ルイス、カニン・ハウエル、デニス・キーファー、フレディー・ブシーゲス、ケイシー・ピエレッティー、リッチ・セラウロ、エリザベス・キーナー、ヨーゴ・コンスタンティン、フアン=カルロス・ガズマン、ジュディス・ロバーツ、アキール・ハサン、ケンデリック・クロス、ションテル・スラッシュ他。


ブライアン・ガーフィールドの犯罪小説を基にした作品。
監督は『ソウ』『デッド・サイレンス』のジェームズ・ワン。
脚本のイーアン・マッケンジー・ジェファーズは、これがデビュー作。
ニックをケヴィン・ベーコン、ボーンズをジョン・グッドマン、ビリーをギャレット・ヘドランド、ヘレンをケリー・プレストン、ウォリスをアイシャ・タイラー、ルーカスをジョーダン・ギャレット、ブレンダンをスチュアート・ラファティー、ボーディーをエディー・ガテギ、ジョーをマシュー・オリアリーが演じている。

何となく「デス・ウィッシュ」シリーズ第1作の『狼よさらば』に似ているなあと感じたのだが、原作者が一緒だった。
ただ、ここまで似たような話なら、『狼よさらば』をリメイクすれば良かったんじゃないかと思った。
でも製作サイドが『狼よさらば』よりも、こっちの方に魅力を感じたってことなのかな。
事情は知らないけど、内容を考えた時、『狼よさらば』の方がある種の振り切りがあるし、観客を掴みやすそうな気がするんだけどね。

何しろ主演がケヴィン・ベーコンなので、「真っ当な会社で勤務する男で、優しくて家族思いの良き父親」として登場しても、「そんなわけねえし」という感覚で見てしまう。
だから「平凡で野蛮な行為とは無縁だった父親が、息子の死をきっかけに大きく変貌して」という展開を狙っていたのなら、キャスティングは完全に失敗していると言えよう。
でも、だからといってポール・カージーのような「自警団」としてピッタリというわけでもなくて、ケヴィン・ベーコンの場合は「狂気」の方が似合っちゃうのよね。

ジョーは売店を襲撃した時、ブレンダンの殺害を命じられると震えて躊躇している。「殺さないと仲間に入れないぞ」と脅され、仕方なくナイフで突き刺している。
ここまでの様子を見ると、「ジョーはホントの悪人じゃなく、追い込まれて仕方なく殺害に及んだ」という風に見える。しかし予審のシーンではブレンダンの殺害を全く気にしておらず、不敵な態度を取っている。
それなら売店のシーンでも、ジョーに情状酌量の余地があるような描き方をするのは無意味だわ。そこで中途半端に同情を誘っても、全く意味が無いぞ。
どうせ「殺されても当然のクソ野郎」でしかないのなら、「脅されて仕方なく殺した」みたいな見せ方をするメリットは皆無だ。

ニックは裁判での証言を拒否した時点で、「ジョーが保釈させて復讐する」という行動まで想定していたはずだ。だからこそ彼を尾行し、ナイフを用意しているはずだ。
ところが、いざジョーの家の前まで行くと、「復讐なんて」と漏らして怖じ気付いている。
それでもジョーの家に行くのだが、いきなりナイフで刺せばいいものを、なぜか殴り掛かるだけで武器を使おうとしない。揉み合いの中でナイフが突き刺さっているのに気付くと、慌てて飛び退いている。つまり「殺す気は無かった」という反応だ。
そのため、「復讐を果たした」という印象は全く受けない。

もちろん、普通の人間が復讐を目論んだとしても、そう簡単に人を殺すことは出来ないだろう。強い恐怖心が湧いて、冷静に行動することは難しいだろう。仮に相手を殺せたとしても、それで一定の達成感を覚えることなど無いだろう。
だから、「復讐を企んだ男のリアル」を描いているとは言えるかもしれない。
でも、映画としてはちっとも面白くない。
どっちに振りたいのか、中途半端になっているだけにしか感じられないしね。

「ギャングに長男を殺された父親が復讐を目論む」というアイデアから予想されるのは、B級バイオレンス映画だ。でも、ジョーを殺してしまうシーン辺りを見ると、「ひょっとして、復讐の虚しさを描く重厚な人間ドラマを描こうとしているのか」と思える。
でも、この話で後者をやられても、ただ疎ましいだけ。そんなくだらないテーマなんて、どうでもいいと言いたくなる。
どうせ何をどうやったところで、ド真ん中でド直球のB級バイオレンスなのだ。だからリアルなんか無視して割り切り、せめて復讐のカタルシスぐらいは味あわせてほしいと思ってしまうのだ。
この映画で観客を満足させられる最も有効なポイントって、どう考えてもそこしか無いでしょ。

だからニックは裁判での証言を拒否してジョーが保釈された時点でガラリと変貌し、冷静に事を進める男になってほしい。
ジョーの殺害を躊躇するとか、突き刺してしまってオロオロするとか、不用意に姿を目撃されるとす、簡単に犯人だとバレて追い回されるとか、そういう姿を見せられると「コレジャナイ感」が強い。
「それはテメエの勝手な思い込みと違っただけだろ」と言われりゃ、その通りなのよ。
でも、深いトコまで掘り下げるような匂いを感じさせても結局は半端に放り出しているし、だったら要らないでしょ。

この映画は「復讐の虚しさや哀しさ」みたいなトコに行き着こうとするんだけど、そうなった原因はニックのボンクラっぷりにあるのよね。
ニックが最初から綿密に計画を立てて利口に行動していれば、最初からジョーだけでなくギャング全員を標的にしていれば、ヘレンを殺されたりルーカスが意識不明の重体になるまで暴行されたりすることは絶対に無かったと断言できる。
それに、自分が襲われた時点で、「素性がバレているってことは、住所も知られているはず。ってことは家族も狙われる危険がある」と分かるはず。
そして一刻も早く安全な場所へ避難させようとするべきなのに、それをやらないのはアホすぎる。

ただ、ビリーの方も、なぜか手下を会社に差し向けてスーツケースを返却し、家族写真で脅しを掛けるという無意味な手間を掛ける。さらに彼はニックに電話を掛けさせて、「死刑通告だ。家族を殺す」と言う面倒な手間を掛ける。
そんなことをしたら警戒されて、目的を達成するのが難しくなるだけでしょ。
弟の仇討ちが目的なのに、なんで「ゲームを楽しんでいる」みたいな余裕の行動を取るのか。
「たっぷりと時間を掛けて精神的に追い詰める」ってのも含めて復讐だと考えているならともかく、そうじゃないんだからさ。

実際、ビリーが余計な脅しを掛けたせいで、ニックはウォリスに助けを求めている。だからホントにビリーの行動はボンクラなだけなのだが、それにも増してウォリスがボンクラなのだ。
彼女はギャングが戦争を仕掛けていることを理解したはずなのに、なぜか警備する警官を2人しか用意しない。だから簡単に始末され、ビリーたちは易々とニックの家に侵入している。
ウォリスがマトモに動いていれば一味を逮捕し、それで終わっていたはずなのだ。
明らかにテメエの考えが甘かったから余計な犠牲が出たのに、ウォリスはニックに「復讐して何が得られたというの?互いに正義を主張する」と説教するんだから、どの口が言うのかと。

ただ、やっぱりビリーもボンクラなので、ヘレンを射殺しておきながら、なぜかニックとルーカスは殺さずに去っちゃうんだよな。
ニックに至っては、そんなに長く入院する必要も無い程度の怪我で済んでいる。
ニックへの復讐が目的なのに、なんで全員を殺したことを確認せずにノホホンと立ち去るのか。
一発の発砲だけで簡単に終わらせているけど、本気で「弟を殺した奴が憎い」と思っていたら、何発も撃ち込むべきじゃないのか。

終盤に入り、「実はボーンズがビリーとジョーの父親」ってことが明らかにされる。
しかし、この要素が物語にもたらす面白味ってのは、ほとんど感じられない。
ボーンズは銃を買いに来たニックに平気で売るし、「気持ちは分かるから復讐してもOK」ってなことを告げる。でも死なれたら商売のマイナスだからってことでビリーの元へ行き、彼に射殺される。
こういう展開を見て感じるのは、「なんだコレ?」ということだけだ。

ニックは最初にジョーを殺す時、なぜか撃とうとせずに掴み掛かるわ、揉み合いになって必死にもがくわと、殺人者としての能力は微塵も感じさせなかった。それまで殺人どころか格闘とも無縁の生活を送っていた人間なので、当然っちゃあ当然だ。
ところが「一味を皆殺しにする」と決意して乗り込むと、銃の扱いに長けた戦闘能力の高い男に変貌している。
「殺しを躊躇しない」という気持ちの面での豹変は理解できるけど、戦闘能力が急激に上昇するのは無理があるだろ。「実は元ホニャララで」みたいな設定があるわけでもないんだし。
とは言え、そこは苦戦せず一気に片付けてもらわなきゃ困るので、難しいところではあるんだけどさ。

ニックはギャングを次々に片付けるが、ビリーを殺す時に怪我を負う。それでもビリーを撃つと、都合良くアジトに置いてあったベンチに座り込む。すると瀕死のビリーが隣に座り、「その恰好。俺たちと同類だぞ」と言い残して死亡する。
そこに「復讐の虚しさ」みたいな匂いを感じるんだけど、そこは引っ掛かるんだよな。
テメエがボンクラなせいで余計な犠牲者が出ているわけで、そのせいで虚しさに打ちひしがれるってのは、どうなのかと。
むしろ、その「俺たちと同類」ってのは前半や中盤で敵の誰かに言わせておいて、「同類だと腹を括った上で復讐を遂行する」みたいな展開にでもしてくれなかったかなと。

(観賞日:2019年1月7日)

 

*ポンコツ映画愛護協会