『青い鳥』:1976、アメリカ&ソ連

チルチルとミチルの兄妹は、愛犬のチロを連れて遅くまで遊びに出掛けていた。家に戻った2人は、母から叱られた。橋を渡って川まで行ったことを知った母は、「罰として夕食抜きです」と告げる。その夜遅く、兄妹は花火の音と光で目を覚ます。窓を開けて外を見ると、向かいの大邸宅で大勢の人々が盛り上がっている様子だった。チルチルとミチルは、こっそり家を抜け出して様子を見に行く。バルコニーでは楽団が演奏し、庭のテーブルにはケーキや果物が並んでいた。
帰宅した兄妹が階段を上がろうとすると、背後から呼び掛ける声がした。振り返ると見知らぬ老婆が出現し、「青い鳥はどこだね?私におくれ」と言う。しかし彼女は鳥籠の中の鳩を見て、「これは違う。もっと青い鳥だ。病気の女の子のために必要なんだ。すぐに探しておくれ」と述べた。老婆はチルチルに、ダイヤの付いた帽子を手渡した。そのダイヤを左に回すと、今まで見えなかったものが見えるという。帽子を被ったチルチルがダイヤを回すと、老婆が消えて光の精が現われた。
光の精が杖を振ると、炎と水が人間の姿に変身して軽く踊った。さらに杖を振ると、パンとミルクも人間の姿になって喋り始めた。ミチルが彼女に持たされた杖を振ると、砂糖が人間の姿になった。チロは人間の男、猫のチレットは人間の女に変身した。兄妹は光の精に付き添われ、青い鳥を探す旅へ出ることになった。光の精は2人に、思い出の国へ行くことを教える。過去の霧の中で、祖父と祖母に会うのだという。一方、残ったチレットはパンたちに「青い鳥が見つかれば私たちの自由が無くなってしまう」と語り、兄妹たちの邪魔をしようと持ち掛けた。チロは「人間に従うべきだ」と主張し、真っ向から反対した。
光の精は兄妹を思い出の国の入り口まで送り届け、その場から立ち去った。チルチルがダイヤを回すと少しずつ霧が晴れていき、行く手に祖父母の家が見えた。庭先で眠っていた祖父母は目を覚まし、兄妹に気付いた。祖父母は大喜びで歓迎し、食事を用意する。兄妹は鳥篭の中のツグミに気付いた。ツグミは黒かったはずだが、眺めていると青くなった。「連れてってもいい?」と問い掛けると、祖父母は承諾した。兄妹は霧の道を引き返すが、いつの間にかツグミは黒色に戻っていた。2人はツグミを鳥籠から放してやった。
光の精たちの元へ戻った兄妹は、青い鳥が飛んで行くのを目にした。全員で追い掛けると、夜の宮殿が見えてきた。光の精は夜になると力を失うので、一緒に行けないという。彼女は兄妹に、城へ行って人間の秘密がある扉を開くよう促した。チレットは夜の王女の元へ先回りし、「我々の秘密が暴かれそうです。チルチルが青い鳥を探して、ここに来ます」と知らせる。彼女は夜の王女に、チルチルたちを脅して扉を開けさせない作戦を提案する。
城に到着したチルチルとミチルは、鍵を渡してほしいと夜の王女に頼む。王女は「何が起きても知らないよ」と行って鍵を差し出し、一行を地下洞窟へ案内した。彼女は「あらゆる悪や恐れ、嘆きや悲しみが秘められている」と説明する。洞窟にはいくつかの扉があった。ある扉を指差したチルチルが「それは?」と訊くと、王女は「亡霊よ」と答える。チルチルが鍵を使って扉を開けると、中から亡霊たちが出現した。亡霊たちはチルチルとミチルを怖がらせようとする。だが、チロに吠えられた亡霊たちが怯える様子を見て、兄妹は余裕を持った。王女は亡霊たちを扉の向こう側に戻した。
次の扉についてチルチルが尋ねると、王女は「戦争よ。大変なことになるわよ」と警告する。チルチルが開けると、中には大勢の兵士たちがいた。彼らが外へ出ようとするので、チルチルたちは慌てて扉を閉めた。チルチルが別の扉を指差すと、王女は「ここは開けないで。もっと恐ろしい。地獄よ」と懇願する。だが、チルチルは全く怯まず、扉を開けた。チルチルとミチルが中に入ると、青い鳥が何羽も飛んでいた。2人は笑顔を浮かべ、鳥を捕まえた。しかし城の外で待つ光の精の元へ行くと、全ての鳥は死んでいた。悲しむ兄妹に、彼女は「本物の鳥ではないの。太陽の光で消えるのよ」と教えた。
兄妹が水を飲むために川へ赴くと、馬に乗った女が現れて「疲れてるのね。食べ物もあるし、何でもあるわよ。いらっしゃい」と誘う。興味を示すチルチルに、ミチルは「光の精はどうするの」と問い掛ける。しかしチルチルは、女の馬に乗って去った。ミチルは光の精の元へ戻り、その出来事を報告する。チロたちは「何でもあるって」と浮かれ、女の後を追い掛ける。チルチルが案内されたのはサーカスのテントで、そこでは大勢の人々が酒を飲んだり踊ったりして楽しそうに過ごしていた。
女はチルチルに、「ここにいるのは、みんな私の友達よ。この世の“喜び”たち」と言う。追い掛けて来たチロたちは、楽しそうな光景に目を輝かせた。光の精とミチルがテントに来て、チルチルを見つけた。食事の時間になると、ミチルも一緒になってケーキを頬張った。それからミチルは、チロたちと一緒に楽しく踊る。しかしチルチルだけは拒絶反応を示し、騒ぎに参加しなかった。彼が光の精に助けを求めると、ダイヤを回すよう指示された。チルチルがダイヤを回すと突風が吹き込み、テントや“喜び”たちは消えてしまった。
兄妹が草原で佇んでいると、“母の愛”が現れる。空を飛ぶ青い鳥を指差した彼女は、追い掛けるよう促した。先回りしたチレットは、森の木々に「人間の秘密を知る青い鳥を、チルチルが探しているのです」と知らせる。森に来たチルチルがダイヤを回すと、木の精たちが登場した。そこに現れた樫の木の大王は、肩に青い鳥を乗せていた。チルチルはチレットに勧められ、チロを縛り付けた。すると大王は「我々は長年に渡って人間に苦しめられてきた。お前たちが与えて苦しみを知るがいい」と言い、木の精たちが兄妹に襲い掛かる…。

監督はジョージ・キューカー、原作はモーリス・メーテルリンク、脚本はアルフレッド・ヘイズ&アレクセイ・カプレル&ヒュー・ホイットモア、製作はポール・マスランスキー、共同製作はポール・B・ラディン&リー・サヴィン、製作起用力はジョン・パーマー、製作総指揮はエドワード・ルイス、撮影はヨナス・グリッツィウス&フレディー・ヤング、編集はスタンフォード・C・アレン&タチアナ・シャピロ、美術はブライアン・ワイルドスミス、衣装はマリーナ・アジジヤン&イーディス・ヘッド、作詞はトニー・ハリソン、作曲はアーウィン・コスタル&アンドレイ・ペトロフ。
出演はエリザベス・テイラー、ジェーン・フォンダ、エヴァ・ガードナー、シシリー・タイソン、ロバート・モーレイ、ハリー・アンドリュース、トッド・ルッキンランド、パッツィー・ケンジット、ウィル・ジーア、モナ・ウォッシュボーン、ジョージ・コール、リチャード・ピアソン、ナジェジダ・パブロワ、ゲオルギー・ヴィツィン、マルガリータ・テレコワ、オレグ・ポポフ、レオニド・ネヴェドムスキー、ヴァレンティナ・ゴニルチェ・ガニバロワ他。


メーテルリンクによる同名の童話劇を基にした作品。
監督は『スタア誕生』『マイ・フェア・レディ』のジョージ・キューカー。
光の精&母&魔女(序盤に登場する老婆)&母の愛の4役をエリザベス・テイラーが演じており、夜の王女をジェーン・フォンダ、贅沢(馬に乗って登場する女性)をエヴァ・ガードナー、猫をシシリー・タイソン、樫の木の大王をハリー・アンドリュース、チルチルをトッド・ルッキンランド、ミチルをパッツィー・ケンジット、チロをジョージ・コールが演じている。
『マザーグース』などで知られるイギリスの絵本画家、ブライアン・ワイルドスミスが美術監督を担当している。

この映画は、アメリカとソ連が初めて合作した映画である(モスクワとレニングラードでロケーションが行われている)。
一応は緊張緩和の時期に入っていたものの、それでも冷戦時代の真っ只中であったことには違いない。
そんな状況の中で米ソが手を組んで映画を製作したというのは、まさに画期的な出来事と言っていい。
だから、例えばアメリカやソ連の映画史を語る上では、この映画は取り上げる意味があるかもしれない。

でも、そういうことを抜きにした場合、この映画に観賞価値を見出すことは難しい。
観客からしてみれば、「初めてアメリカとソ連が合作した映画」とか、そんなこと、どうでもいいんだよね。
大事なのは、映画として面白いかどうかってことだ。そして本作品は、つまらないのだ。
ソ連のレン・フィルムが用意したセットはチープだし、エリザベス・テイラーやエヴァ・ガードナーは体がゴツくてボリュームがありすぎるし、イラストを挿入して切り替えるシーンとシーンの繋がりがフワフワしていて全体的にボンヤリした印象になっている。
ジョージ・キューカーは職人監督なんだから、もっと上手くまとめられそうなんだけど、やる気が無かったのか。

ミュージカル映画と聞いていたのだが、実際に観賞すると、ちょっと違っていた。
魔女が杖を振ると炎と水が擬人化して登場し、軽く踊るけど、ほんの数秒で終わり。歌は付随していないし、他の面々は突っ立っているだけ。だから、そこはミュージカル・シーンとは到底呼べない。
そこからパンやミルクなども次々と擬人化するのだが、ミュージカルで歌わせたり踊らせたりするための仕掛けかと思いきや、そうじゃないんだよね。キャラが魅力的なわけでもないし、掛け合いが面白いわけでもないから、何のために擬人化させて兄妹の周囲に配置しているのか、その意味がほとんど感じられない。
存在意義があるのって、せいぜいチレットぐらいだ。

炎と水の自己紹介チックな短いバレエの後は、なかなか歌も踊りも出て来ない。
映画開始から30分ほど経過して祖父母が登場し、ようやく歌唱シーンになる。しかし、これから歌が盛り上がるのか、あるいは踊りもプラスされるのかと思った辺りで終わってしまう。歌唱は1分半程度で、かなり物足りない。
兄妹が光の精たちの元へ戻ったところで歌唱シーンになるが、踊りはバラバラだし、そもそもちゃんとしたダンスとして振り付けられているわけでもなさそうだ。
で、ここも1分半ぐらいで、盛り上がりに欠けたまま終わる。

地下洞窟に入ると、扉から亡霊たちが登場する。
そこでミュージカル・シーンになるのか、せめて踊りは披露するのかと思ったら、ただ兄妹を怖がらせるだけ。
最後の扉の奥へ兄妹が進んだところでは、擬人化した青い鳥が登場する。ボリショイ・バレエ団のナジェジダ・パブロワが演じており、2分ほどバレエを披露する。
ミュージカル映画じゃなくてバレエ映画にするなら、それでもいいよ。
ただし、それならそれで、もっと時間を割いて丁寧に見せるべき。バレエ映画としても中途半端。

兄妹が光の精の元へ戻り、青い鳥が死んで悲しむと、歌が流れて来る。
だが、そこは誰かが歌っているという形ではなく、BGMとして流れるだけ。そんで、また1分半ほどで歌は消える。
なぜ全ての歌を約1分半で終わらせるんだろうか。何かしらの制約でもあったのか。
で、そんなことを思っていたら、兄妹が未来の国で出会う“時”が歌うシーンは約1分だった。もっと短くなっちゃうのかよ。
で、最後まで、歌唱シーンは歌唱のみで、ダンスは無い。バレエはあるけど、当然のことながら歌は付随しない。
これをミュージカル映画と呼ぶことには、抵抗感がある。
「出来損ないの」と頭に付けた上で「ミュージカル映画」と呼んでもいいのなら、そうするが。

終盤、夢から醒めた兄妹は、飼っている鳩が昨夜よりずっと青いと感じ、病気の女の子にあげようと決める。
だが、女の子にプレゼントした途端、鳩は飛び去ってしまう。
悲しそうな女の子に、チルチルは「また捕まえるよ」と話し掛け、周囲の人々に「もし見つけたら返して下さい。僕たちの幸福に必要なんです」と告げる。
で、そこで映画は終わってしまう。
ええっ、そんな終わり方なのかよ。
ちっともハッピーエンドになってないし、不時着している感じがするんだが。

(観賞日:2013年4月10日)

 

*ポンコツ映画愛護協会