『俺たちフィギュアスケーター』:2007、アメリカ

児童養護施設で育ったジミーは、幼い頃からフィギュアスケートの才能を発揮した。その滑りを見た大富豪のダレン・マッケルロイは、彼を養子に迎えた。厳しいトレーニングを積んだ彼は、実力と人気を兼ね備えた選手に成長した。彼はストックホルムで開かれた「ワールド・ウィンタースポーツ・ゲームズ」に参加し、華麗なスケーティングで観客の喝采を浴びた。熱狂的ファンのヘクターも、大きな声で声援を送った。ジミーは高得点を叩き出すが、ライバルのチャズ・マイケル・マイケルズが現れて挑発的な言葉を浴びせた。
アウトローのチャズも人気者で、セクシーな踊りで観客を熱狂させた。デトロイトで生まれ育った彼は若い頃から犯罪に手を染めていた過去を持つが、4度のアメリカ王者に輝く実力の持ち主だった。チャズとジミーは同点優勝となるが、満足できないダレンはコーチにクビを通告した。アメリカ代表チームはチャズとジミーの前に、シュトランツとフェアチャイルドのヴァン・ウォルデンバーグ兄妹がペアで金メダルを獲得した。チャズとジミーは表彰式で喧嘩を始めてしまい、事態を重く見たアメリカスケート協会は聴聞会を開いた。ジミーは低姿勢で謝罪するが、チャズは高慢な態度を取った。協会は彼らの金メダルを剥奪し、男子シングルス競技からの永久追放を通告した。ジミーはダレンから、養子縁組を解消された。
3年6ヶ月後。チャズは子供向けのアイスショーにキグルミで参加し、酒とドラッグに溺れる日々を送っている。一方、ジミーはスケートショップの店員として働いているが、客の怒りを買って店長から倉庫の仕事に回るよう指示される。ジミーが倉庫で作業をしていると、接近禁止命令を無視してヘクターが現れた。彼は復帰してほしいと頼み、永久に出場禁止なのはシングルスなのでペアなら出場できると告げる。チャズは泥酔状態でアイスショーに出て醜態を晒し、子供たちの非難を浴びた。
ジミーはコーチと会って復帰の意思を話すが、「もう諦めろ。誰とペアを組むんだ。それに相手が決まっても、代表選考会までは1ヶ月しか無い。登録は明後日だ」と言われる。女性スケーターのオーディションがあることをポスターで知ったジミーは、アイスショーの会場へ赴いた。壁に貼り出されたオーディション参加者の情報をジミーがメモしていると、ショーの責任者を務めるブライスが気付いて声を掛けた。彼はジミーがアイスショーへの参加を希望していると思い込み、「チャズはクビにした」と言う。しかしジミーが女性スケーターを探していると知り、「ウチの子を盗む気か」と出て行くよう要求した。
チャズとジミーは顔を合わせると喧嘩を始め、ショーを台無しにした。ニュースで2人の喧嘩の動きを見たコーチは、拘留された彼らの元へ赴いてペアを組むよう持ち掛けた。チャズとジミーは嫌がるが、コーチの説得で渋々ながらも引き受けた。翌朝、釈放されたチャズとジミーはコーチに伴われ、選考会の登録に赴いた。会場に着いたジミーは、ヴァン・ウォルデンバーグ兄妹のマネージャーとして同行している末妹のケイティーに目を留めた。
ヴァン・ウォルデンバーグ兄妹の取材に来ていたマスコミは、チャズとジミーがペアを組むことを知って一気に押し寄せた。注目を横取りされたヴァン・ウォルデンバーグ兄妹は腹を立て、ケイティーが「自分たちの演技に集中すればいいのよ」と言っても耳を貸さなかった。「またズルをするの?」とケイティーが不安そうに尋ねると、2人はビデオカメラを渡してスパイ行為を命じた。ケイティーは嫌がるが、両親の死に対する罪悪感をシュトランツとフェアチャイルドに利用されて従わざるを得なかった。
コーチはチャズとジミーを郊外の合宿所へ連れて行き、ずっとペアとして生活するよう指示した。彼は知人の冷凍倉庫を練習場に使わせてもらい、ペアスケートの動きをチャズとジミーに教え始めた。コーチはダンス講師のジェシーに頼み、2人に指導してもらう。ケイティーが盗撮した練習映像を見たシュトランツとフェアチャイルドは、相手にならないと確信して高笑いを浮かべた。ナショナル・フィギュアスケーティング・チャンピオンシップスに出場したチャズとジミーは、「ファイヤー&アイス」をテーマにした演技を披露する。序盤のスロージャンプでチャズに投げられたジミーは、転倒して壁に激突してしまう。ジミーが弱音を吐くと、チャズが手を差し伸べて「まだ行ける」と告げる。観客は一斉に拍手を浴びせ、チャズとジミーは演技を続行した。
会場はチャズとジミーを応援する雰囲気に包まれ、2人は華麗な演技で観客を興奮させた。ジミーはケイティーから「今の演技、すごく良かった」と声を掛けられ、緊張しながら言葉を交わした。チャズとジミーは高得点を叩き出すが、コーチは「金メダルを獲るには大技が必要だ」とジェシーに告げる。「また同じ失敗を繰り返す気?いつになったら懲りるんだ」とジェシーは呆れるが、コーチは「私を信じてくれ。必ず恐怖を克服する」と述べた。
チャズはジミーから「ケイティーに恋をした」と打ち明けられると、勝手に電話を掛けた。ケイティーが電話に出ると、彼は相手を口説くような言葉をジミーに指示した。一方、シュトランツとフェアチャイルドはケイティーに、ジミーを誘惑する発言を要求した。チャズがデートに誘うと、ケイティーは快諾した。コーチはチャズとジミーに、「かつて私はペアを教えていた。オリンピックのコーチ候補で、ある技を開発した。危険だが成功すれば金メダルは確実だった」と語る。しかしリスクを恐れる保守派に潰されたため、彼は「アイアン・ロータス」という技を北朝鮮に売り込んだ。その技は国内大会で披露されるが、女性の首が切断される惨事を招いた。コーチはチャズとジミーに挑戦するよう促し、「男女だから失敗したが、たぶん男同士なら成功する」と告げた。
ジミーはケイティーとのデートに出掛け、彼女がシュトランツとフェアチャイルドからスパイを命じられていたことを知る。「じゃあ今日のデートも?」とジミーが訊くと、ケイティーは「違うわ。それは関係ない」と否定した。ジミーは緊張しながら、ケイティーとキスを交わした。第20回ワールド・ウィンタースポーツ・ゲームズがカナダのモントリオールで始まり、現地入りしたチャズとジミーは取材を受ける。その様子を見ていたシュトランツとフェアチャイルドは、ペアの関係を悪化させようと企んだ。
シュトランツとフェアチャイルドはケイティーに、チャズを誘惑してセックスしろと要求する。ケイティーが拒否すると、2人は「嫌ならジミーに怪我をさせる」と脅しを掛けた。チャズはセックス中毒者の集団セラピーに行き、ジミーはケイティーからの手紙を受け取った。ケイティーはセラピーに行き、セックス中毒だと嘘をつく。彼女は「私の部屋で慰め合わない?」とチャズを誘い、手紙でジミーを呼んだ時間を指定する。チャズはケイティーの胸に触れるものの、ジミーとの友情を考えてセックスは拒む。しかしジミーが部屋に現れて2人の関係を誤解し、ショックを受けて走り去った…。

監督はウィル・スペック&ジョシュ・ゴードン、原作はクレイグ・コックス&ジェフ・コックス&ビジー・フィリップス、脚本はジェフ・コックス&クレイグ・コックス&ジョン・オルトシューラー&デイヴ・クリンスキー、製作はベン・スティラー&スチュアート・コーンフェルド&ジョン・ジェイコブス、製作総指揮はマーティ・ユーイング、共同製作はコリン・オライリー、製作協力はパトリック・エスポジート&ララ・ブリー、撮影はシュテファン・チャプスキー、美術はスティーヴン・ラインウィーヴァー、編集はリチャード・ピアソン、衣装はジェリー・ワイス、視覚効果監修はマーク・ブレイク・スピア、音楽はセオドア・シャピロ、音楽監督はジョージ・ドラクリアス。
主演はウィル・フェレル、共演はジョン・ヘダー、ウィル・アーネット、エイミー・ポーラー、ウィリアム・フィクナー、クレイグ・T・ネルソン、ジェナ・フィッシャー、ロマーニー・マルコ、ニック・スウォードソン、ロブ・コードリー、スコット・ハミルトン、アンディー・リクター、グレッグ・リンゼイ、ニック・ジェイミソン、トム・ヴァーチュー、ベン・ウィルソン、ウィリアム・ダニエルズ、ザッカリー・ファーレン、レミー・ジラール、スティーヴン・ギャグノン、クリス・リード、ルシアーナ・カーロ、ナンシー・ケリガン他。


『タラデガ・ナイト オーバルの狼』『主人公は僕だった』のウィル・フェレルが、『ナポレオン・ダイナマイト』『がんばれ!ベンチウォーマーズ』のジョン・ヘダーと共演した作品。
監督のウィル・スペック&ジョシュ・ゴードンは、これが長編デビュー作。
チャズをウィル・フェレル、ジミーをジョン・ヘダー、ストランツをウィル・アーネット、フェアチャイルドをエイミー・ポーラー、ダレンをウィリアム・フィクナー、コーチをクレイグ・T・ネルソン、ケイティーをジェナ・フィッシャー、ジェシーをロマーニー・マルコ、ヘクターをニック・スウォードソン、ブライスをロブ・コードリーが演じている。

フィギュアスケートを茶化すような内容だが、その世界の人々からは歓迎されていたようで、大勢の元フィギュアスケーターがゲスト出演している。
聴聞会のシーンでチャズが口説くのは。ナンシー・ケリガン。
彼女の他、ブライアン・ボイタノ、ドロシー・ハミル、ペギー・フレミングが判事としてチャズとジミーの処分を決定する。
他に、サーシャ・コーエンやリサ=マリー・アレンも出演している。
また、スケート関係者ではないが、セックス・カウンセラー役でルーク・ウィルソンが1シーンだけ出演している。

最初に触れておくべきなのは、「国際スケート連盟の競技ルールは完全に無視している」ってことだろう。
ザックリ言うと、「ほぼルール無用」の状態になっている。ここを受け入れられるか否かで、この映画に対する意識は大きく変わって来る。
個人的には、その時点でダメだったなあ。
これが「女性と男性の2人組」というルールだけを曲げて他は規定を順守するなら、それはOKなのよ。
っていうか、その形にしておくべきだったと思う。

何でも有りの状態にしちゃうと、「男子がペアを組む」という面白さまで消しているような気がするんだよね。
ルーム無用の状態にしてあると、「ペアを組むのは人間じゃなくてもいいよね」とか、「自転車でリンクを走ってもいいよね」とか、そんな風に思っちゃうのよね。
競技スポーツを題材にするのなら、ある程度のルールを決めて周囲のディティールはガッチリ固めた方がいいんじゃないか。
そうしないと、何が面白いのか、どこを面白がればいいのかという基準まで曖昧になっちゃうんじゃないかと。

「いがみ合う男子スケーター2人がペアを組む」というアイデアを持ち込むのなら、そこに集中してコメディーを作った方がいい。
クセの強いキャラクターを何人も登場させ、ハトを飛ばしたり炎を出したりと完全に競技ルールを無視するのなら、「男子のペア」という要素を持ち込むと互いの面白味を相殺してしまう。
それよりも、男子シングルスの世界を舞台にして、クセの強いフィギュアスケーターたちがルール無用でデタラメな戦いを繰り広げる内容にした方がいい。

冒頭、大会でジミーとチャズが演技を披露するシーンがある。彼らは実力がある設定で、同点で金メダルを獲得している。
だが、その演技を見る限り、とてもじゃないが高得点なんて取れる内容ではない。
何しろ、ジミーはジャンプでシングルを1回しか飛んでいないし、チャズもダブルアクセルが1回だ。2007年という時代に、そんな内容で金メダルが取れるはずもない。普通のフィギュアから逸脱した動きは見せるが、それも「驚異的な技」ってわけではない。
どうせ役者の本物の滑りを見せるわけじゃないんだから、そこはデタラメでいいから高得点が出ることを納得させるような技を持ち込めばいいでしょうに。

永久追放の処分が出た後、ジミーはダレンから養子縁組の解消を告げられて車から降ろされる。そこから3年6ヶ月後のシーンに移ると、チャズがキグルミでアイスショーに参加している。
だが、それはシーンの繋げ方としてスムーズとは言えない。ジミーが置き去りにされる様子から3年6ヶ月後に飛ぶのなら、「現在のジミー」に移った方がいい。
っていうか、なぜ永久追放になった直後のシーンで、「その影響を受けたジミー」だけを描くのか。
そこで「処分直後のチャズ」を見せておかないのは、手落ちじゃないか。そこを描いておけば、3年6ヶ月後にチャズから入っても全く問題は無いわけで。

あと、チャズは酒とドラッグに溺れているのに、アイスショーの仕事をクビになっていないのは不可解。
ブライスが「クビにしたい」と言っているが、じゃあクビにしない理由は何なのかと。しかも、その後でクビにしているし。
あと、そんな酔いどれの落ちぶれた情けない男になっているのに、まだ女たちが寄り付いているのも違和感があるのよね。
そこは「以前のようなセクシーさは失われ、女にもモテなくなった」という形にしておいた方が、ダメっぷりが強くなるんじゃないかと。

一方、ジミーはスケートショップで働いているが、少女の靴紐を強く締めると文句を言われる。少女の父親も腹を立て、ジミーが「初心者のお子さんとジミー・マッケルロイ、どっちの言葉を信じるんです?」と尋ねると「ジミー・マッケルロイって誰だ」と言う。
だけど少女はフィギュアスケートを始めようとしているのに、なんでジミーのことを全く知らないのか。
その父親にしても、ジミーを知らないのは違和感があるぞ。ジミーがフィギュアスケート界を離れてから、まだ3年6ヶ月しか経っていないのに。
フィギュアに疎い人ならともかく、その父娘はフィギュアに詳しいはずで。

復帰を決めたジミーはコーチに会うが、「もう諦めろ」と冷たく言われる。
だけどコーチはジミーの才能を買っていたから、指導していたはずでしょ。けんもほろろに「諦めろ」と言うのは不可解だ。
コーチは「フィギュアスケートは性悪女みたいなモンだ。お前を甘い言葉で誘っておいて、興味が無くなれば道端に捨てられて終わりだ」と話すが、とてもフィギュアの世界で生きていた人間の言葉とは思えない。
彼に「かつては有能なコーチだったが、何かの理由でフィギュアに幻滅して離れた」という設定でもあれば分からんでもないけど、そういうのは何も無いからね。
ジミーが永久追放されても、コーチ業への影響は少なかったはずだし。

チャズとジミーはペアを組むことを承諾するが、相変わらず喧嘩を繰り返す。
しかし、「険悪な関係なので、最初は大会に参加しても結果が出ない」という手順を経て、ペアとして成熟する展開へ移るようなことは無い。
練習中は些細なことで口論になったりしていたチャズとジミーだが、最初に出場した選考会から早くも観客を熱狂させる演技を披露している。
いつの間にか彼らは些細なことで喧嘩をしない関係になっており、それどころかジミーが転倒するとチャズが手を差し伸べている。

その大会で結果を出せないと、代表になることが出来ない。
なので、あっさりと仲良くさせちゃって、「いきなり結果を出す」という展開にしてあるわけだ。
でも、そういう進行の都合で「仲の悪かった2人が優秀なペアに変貌していく」という手順を描かないのは、本末転倒じゃないかと。
それに、「大会で結果を出す」という目的を達成するだけなら、心底から仲良くならなくても「同じ目的を達成するために、不満を抑え込んで競技では協力する」って形にしてもいいんだし。

早い段階でチャズとジミーを仲良くさせたのは、後半のストーリー展開を「妨害しようとするヴァン・ウォルデンバーグ兄妹との戦い」に絞り込んでいるからだ。
もちろん、「ライバルと戦う中でチャズとジミーに友情が芽生えて」という形で描くことも出来るが、ジミーとケイティーの恋愛劇も絡んでくる。なので、さっさとチャズとジミーを仲良くさせたんだろう。
構成を考えると、それは分からんでもない。
でも、どうであれ「いつの間にか仲良くなっている」ってのは手落ちだよ。
「少しずつ仲良くなる」というトコで時間を掛けられないのなら、「何かのきっかけで一気に協調するように」という形にすれば、1シーンで済むでしょ。

(観賞日:2020年7月31日)

 

*ポンコツ映画愛護協会