『アトランティス/失われた帝国』:2001、アメリカ

1914年、ワシントンD.C.。地図製作者にして言語学者のマイロ・サッチは、博物館で働きながら伝説の王国アトランティスについて 研究していた。伝説によると、アトランティスは大西洋の真ん中にあった大陸で、高度な文明を持っていた。しかし大きな災害に見舞われ 、大陸は海底に沈んでしまったと言われている。マイロは、アトランティスの謎を解く鍵となる「羊飼いの日誌」がアイスランドにあると 確信していた。
マイロは日誌を手に入れたいと考えていたが、理事会のハーコートたちはアトランティスの存在を信じておらず、資金援助を拒んでいた。 ハーコートはマイロをボイラー係としか考えておらず、必死の嘆願も冷たく拒絶した。マイロが落胆して帰宅すると、ヘルガ・シンクレア という女が待ち受けていた。彼女は「雇い主の依頼で興味深い話を持って来た」とマイロに告げた。
マイロがヘルガの案内で赴いた場所は、大富豪の老人プレストン・ウィットモアの豪邸だった。ウィットモアはマイロの亡くなった祖父 サディアスの親友で、祖父からマイロ宛の荷物を預かっていた。自分に何かあったら、折を見て渡すよう頼まれていたという。マイロが 小包みを開けると、それは羊飼いの日誌だった。アトランティスを見つけ出す強い気持ちを口にしたマイロに、ウィットモアは「必要な物 は全て揃っておる」と告げた。
ウィットモアはサディアスに、日誌が見つかったら探検資金は全て出してやると約束していた。サディアスが亡くなっているので、孫で あるマイロのために資金を援助しようというのだ。既にウィットモアは、探検のためのクルーも集めていた。地質学者で穴掘りのプロで あるモリエール、爆破のスペシャリストであるヴィニー、エンジンの知識が豊富なオードリー、コックのクッキー、船の放送係ミセス・ パッカード、医師のスウィート、それにローク司令官と副官のヘルガといった面々だ。
ウィットモアは、ロークたちがアイスランドで日誌を発見したことを告げた。彼はマイロに、言語のエキスパートとして探検隊に加わる よう持ち掛けた。マイロは「もちろん行きます」と喜ぶ。翌日、マイロは戦艦へ行き、ロークたちと会った。9人のエキスパートと大勢の 隊員は、戦艦に搭載されている最新式潜水艦ユリシーズに乗り込んだ。ユリシーズは深く潜航した。
ブリッジに呼び出されたマイロは、ロークたちにスライドを見せてアトランティスに関する講義を行った。マイロはアトランティスの 入り口を守っていると言われている怪物レヴィアタンのことを説明した。日誌によると、アトランティスに向かう海底トンネルがあると いう。あらゆる時代の船が沈んでいる地域を進んでいる最中、パッカードは妙な音を探知し、ロークたちに報告した。その直後、潜水艦は 巨大なロブスター型の機械レヴィアタンの襲撃を受けた。
機関室が損傷して浸水したため、ロークはクルーに退去命令を出した。探検隊は複数の小型脱出艇アクア・エバックに乗り移り、潜水艦 から脱出した。マイロが日誌を解読し、全艦は大きな裂け目に向かって潜航する。しかし追って来たレヴィアタンは圧倒的な攻撃力を 持っており、次々とアクア・エバックを破壊していく。残った2隻のアクア・エバックが裂け目を突破すると、水上に出た。そこは アトランティス大陸だった。最初のクルーは総勢200名だったが、生き残ったのは数十名だった。
複数の車両で陸地を進んだ探検隊は、夜になって野営することにした。食事の時も、マイロは日誌のページが抜けている部分が気になって いた。みんなが寝静まった深夜、仮面の部族がテントに近付くが、マイロが小便をするために起きたので、慌てて立ち去った。小便をして いたマイロは、無数の夜光虫が近付き、テントを発火させるのに気付いた。クルーは目を覚まし、急いで橋を渡って避難しようとする。 しかし橋が壊れ、車両ごと転落してしまった。
転落によって複数の車両が使えなくなったが、幸いにも全員が無事だった。だが、そこは火口の底であり、マグマが固まって天井を塞いで いた。一人だけ離れた場所に落ちたマイロが意識を取り戻すと、仮面の部族が取り囲んでいた。マイロの怪我に気付いた先頭の人物が仮面 を外すと、それは少女だった。彼女が首から下げているクリスタルを傷口に当てると、怪我はすっかり消えてしまった。
ロークたちがドリル車でやって来たので、部族は逃走した。慌ててマイロが後を追うが、見失った。しかしマイロとクルーは、すぐに仮面 の部族たちに包囲された。彼らはアトランティス人で、複数の言語を理解することが出来た。マイロの傷を癒した少女は、アトランティス の王女キーダだった。キーダはクルーをアトランティスの都に案内し、父であるアトランティス王に引き合わせた。しかし王はロークの 目的を察知しており、「時に力では取り除けぬ障害もある。今すぐ地上へ去れ」と冷たく告げた。
ロークが「休息のための滞在を一晩だけお許しください」と申し入れると、王は渋々ながらも承諾した。キーダは、かつて栄光を誇った アトランティスが落ちぶれたことを憂う気持ちを抱いていた。そのため、彼女はマイロたちが過去の秘密を解くことで、未来への希望が 生まれることを期待していた。しかし王は「生き方を変えることは出来ない」と、考えの相違を見せた。
ロークに「王が隠していることを聞き出して来い」と促されたマイロは、キーダの元へ赴いた。するとキーダは「貴方に訊きたいことが ある」と、地上の世界について矢継ぎ早に質問してきた。マイロは彼女に、この文明が海底にある理由を尋ねた。キーダは「神々が嫉妬し 、災いを起こして海底に落とした。星のような光によって母が連れ去られた」と説明した。マイロはキーダの話を聞き、若く見えた彼女が 実際は8800歳だと知った。
マイロはキーダから「どうやって、ここを知ったの?」と聞かれ、日誌を見せた。アトランティス人は、そこに書かれている古代言語を 読むことが出来なかった。そこでマイロは、キーダに日誌の中身を読み聞かせた。「いい物見せてあげる」と、キーダは不思議な乗り物を 見せる。しかし動かせないという。マイロは乗り物に書いてある文字を読み解き、動かし方を教えた。
キーダの案内で、マイロはアトランティスの町を歩き回った。夜になり、キーダは「ここの文明は死んでいる。滅亡に向かっている」と 告げ、マイロを水中に沈んだ壁画に導いた。そこにはアトランティスの歴史が刻まれていた。文字を解読したマイロは、アトランティスに 命を与えるエネルギー源がクリスタルだと知った。日誌の抜けたページには、そのことが書かれていたのだ。
マイロとキーダが浮上すると、ロークとクルーたちが銃を持って待ち受けていた。彼らはクリタスルを奪って売り飛ばそうと企んでいた。 日誌のページを抜き取ったのも彼らだった。マイロは「クリスタルを取り上げたらアトランティスの人々は死んでしまう」と訴えるが、 ロークたちは聞く耳を貸さない。ロークはキーダを捕まえて銃を突き付け、マイロにページの解読を要求した。
ロークは王を暴行し、クリスタルのありかを聞き出そうとした。マイロ、キーダ、ローク、ヘルガの4人は地下洞窟に入り、浮かんでいる 巨大なクリスタルを発見した。キーダは魅入られたように、クリスタルに歩み寄った。すると彼女は、クリスタルから地面へと伸びた光に 吸い込まれて浮上した。光に包まれたキーダは、クリスタル化した体になって戻ってきた。
ロークたちはキーダを箱に詰め、マイロを置き去りにしてアトランティスを去ろうとする。しかしマイロの批判を浴びると、ヴィニー、 スウィート、オードリー、ミセス・パッカード、クッキー、モリエールはマイロの元に残った。スウィートは王の容態を診察し、「良く ない」と口にした。王はマイロに、「母親と同じだ。危険が迫った時、クリスタルは自らと人々を守る時、王族から宿り主を選ぶ」と語る 。クリスタルと長く一体化していると、元には戻れなくなるという。王は「アトランティスと娘を守ってくれ」とマイロに言い残し、息を 引き取った。マイロはヴィニーたちと共に、キーダの救出に向かった…。

監督はゲイリー・トルースデール&カーク・ワイズ、原案はカーク・ワイズ&ゲイリー・トルースデール&ジョス・ウェドン& ブライス・ザベル&ジャッキー・ザベル&タブ・マーフィー、脚本はタブ・マーフィー、製作はドン・ハーン、製作協力はケンドラ・ ハーランド、アート・ディレクターはデヴィッド・ゴーツ、編集はエレン・ケネシー、音楽はジェームズ・ニュートン・ハワード。
声の出演はマイケル・J・フォックス、ジェームズ・ガーナー、クリー・サマー、ドン・ノヴェロ、フィル・モリス、クローディア・ クリスチャン、ジャクリーン・オブラドース、フローレンス・スタンリー、デヴィッド・オグデン・ステアーズ、ジョン・マホーニー、 ジム・ヴァーニー、コーリー・バートン、レナード・ニモイ、ナタリー・ストロム他。


古代ギリシアの哲学者プラトンが著書で記述しているアトランティス王国を題材にした、ディズニーの長編アニメーション映画。
ウォルト・ディズニー生誕100周年記念作品。
マイロの声をマイケル・J・フォックス、ロークをジェームズ・ガーナー、キーダをクリー・サマー、 アトランティス王をレナード・ニモイ、ヴィニーをドン・ノヴェロ、スウィートをフィル・モリス、ヘルガをクローディア・クリスチャン 、オードリーをジャクリーン・オブラドース、パッカードをフローレンス・スタンリーが担当している。
日本語吹き替え版では、マイロの声を長野博(V6)、キーダを木村佳乃、アトランティス王を平幹二朗、ヴィニーを内藤剛志、ヘルガを 高島礼子、オードリーを吉田美和(DREAMS COME TRUE)、ミセス・パッカードを柴田理恵が担当している。
なお、今回はミュージカル形式ではなく、BGMとして歌が流れてくる場面も無い。ディズニーアニメが得意とする音楽映画、ミュージカル 映画としては作っていない。純然たる冒険映画として勝負している。

ディズニーアニメのスタッフは、とても勉強熱心だ。
世界中の人々からディズニーのアニメは愛されているが、そのことに驕らず、常に様々な方向にアンテナを張って、もっと面白い作品を世 に送り出そうとしている。
彼らは様々なアニメーション作品を鑑賞し、そこからヒントを得たり、アイデアを思い付いたりする。
この映画は、その勉強熱心さが顕著に表れた作品になっている。

かつてディズニーアニメのスタッフは手塚治虫の『ジャングル大帝』を勉強し、それを模倣して『ライオン・キング』を製作した。
日本を除いた国の人々は『ジャングル大帝』を知らないので、『ライオン・キング』は盗作だと批判されて観客動員にマイナスの影響が 出ることもなく、大ヒットを記録した。
それどころか、一部では批判の声が高まったものの、日本でさえヒットした。
きっとディズニーのスタッフは、「これは同じ手が使えるぞ」と考えたのではないか。

そして今回、満を持して送り出したのが、かつてNHKで放送されたTVアニメシリーズ『ふしぎの海のナディア』をパクった 本作品だ。
この盗作疑惑(疑惑というより確定的なのだが)については、「本作品もナディアも、どちらもジュール・ヴェルヌの『海底二万里』を モチーフにしているので、ある程度は似ていても不思議じゃない」という反論がある(ただし、そもそも本作品にはジュール・ヴェルヌを 原作者とする表記が無いのだが)。
しかし、この映画は明らかに『海底二万里』ではなく、『ふしぎの海のナディア』を原作としている。
大きな丸メガネと赤い蝶ネクタイをした発明家の少年という主人公も、アトランティスの女王というヒロインも、『海底二万里』ではなく 『ふしぎの海のナディア』に登場するキャラクターだ。
ヒロインが青いクリスタルのペンダントを下げているのも、巨大なクリスタルがアトランティスのエネルギー源だという設定も、やはり 『海底二万里』ではなく『ふしぎの海のナディア』で使われた設定だ。

ただし、日本で受けたアニメを模倣することで大ヒットを画策したディズニーだが、一つだけ大きな見落としをやらかした。
それは、『ふしぎの海のナディア』はTVシリーズだが、これは95分の作品だということだ。
ようするに、まるで時間が足りていないのだ。
そこを深く考えずに作ったもんだから、キャラクター紹介はおざなりだし、ストーリーの展開も拙速だ。
残念なことに、ディズニーアニメのスタッフは勉強熱心ではあったが、賢明さには欠けていたようだ。
まあ賢明であれば、そもそも露骨に模倣した作品を世に送り出そうとはしないだろうが。

ジャン、じゃなかったマイロが日誌を探していることを口にしてから、わずか6分後には日誌を手に入れている。
潜水艦ユリシーズが壮大なスケールの音楽に乗せて出発するが、そこから潜水艦による海中探検が描かれて行くのかと思いきや、約8分後 には破壊されている。そして小型脱出艇で海の裂け目を突破すると、もうアトランティス大陸に到着してしまうのである。
ところが、マイロたちが陸地に上がっても、そこがアトランティス大陸だという説明は無い。
そりゃあ大勢の仲間が死んだから大喜びというわけにはいかないだろうけど、「ここがアトランティスだ」と観客に分からせるような セリフの一つさえ用意されていない。
で、車両で陸地を移動する様子は、ダイジェストで描写される。
巨大昆虫に襲われるシーンも、「マイロが日誌の解読で道を間違えてました。皆が呆れました」というギャグ的描写だけで済ませている。
なぜか巨大昆虫は、威嚇しただけで引っ込んでいる。

マイロと祖父の関係は、軽くセリフで説明する程度で、その絆、マイロの祖父に対する強い思い入れは、ほとんど伝わらない。
1914年という時代設定にしてあるが、そのことに全く意味は感じない。当時の世相や出来事と絡めるようなことは皆無だ。
キーダは8800歳という設定だが、その年齢設定も、まるで意味の無いものとなっている。
マイロとキーダは、出会ってから、あっという間に恋に落ちている。
っていうか正直なところ、いつの間に恋に落ちたのか良く分からなかった。

様々な技能のエキスパートとして集められた面々も、まるで個性が発揮されない(そもそも放送係のパッカードなんて、探検に必要な技能 の持ち主ではない)。
正直、大半が要らない奴、あるいは誰でもいい存在になっている。
技能の設定が必要なキャラは、ヴィニーぐらいじゃないだろうか。設定された技能が有効活用されているのは彼ぐらいだ。
ヴィニーたちは、それぞれの家庭環境を語るシーンも用意されているが、その場限りで終わっている。その設定が伏線となって、後の展開 に大きく関わってくるようなことは全く無い。
っていうか、それ以前に、そういうヴィニーたちキャラの設定が、まるで頭に入って来ない。
なんせ、急にセリフで軽く触れるだけなので。それを語り出すための流れがあって、そこに至るわけじゃないし。

ロークたちがクリスタル化したキーダを運び去ろうとすると、急にヴィニーたちはマイロの味方に回る。
しかし、そんな寝返りには、全く心が揺り動かされない。
オードリーはロークに「こんなこと間違ってるよ」と言うが、そんなのは最初から分かり切っていることだ。その間違ったことを、テメエ らは今までやっていたのだ。
最初に武器を持ってアトランティス人を脅した時点で、もう間違っているのよ。
それが「脅されたから」ということなら理解もしようが、お前らは金のためにやってたんだろうに。
今さら態度を変えても、もうマイナスのイメージは払拭できねえよ。

尺が短いなら、それを考慮したうえで、それなりに上手くやることは可能だった。
例えば、エキスパートを8人も用意する必要は無かった。どうせ全員の個性を表現する時間なんて無いのだから、せいぜい2人か3人に 絞って、後は没個性の船員にしておけば良かったのだ。
そうすれば、いちいち彼らの性格や家庭環境を示すために余計な時間を使う必要も無かった。どうせ途中から「悪党一味」という一括りの 扱いになるんだし、個性付けなんて全く必要が無い。
ハッキリ言って、個性を付けるのはロークだけで充分だ。

また、キーダにしても、中盤から登場させているからマイロと交流を深める時間が短くなっているが、それは登場を早めてやることで解決 できる問題だ。
そのためには、例えばマイロが探検に出るきっかけを「日誌の発見」ではなく「キーダと出会う」という形にすればいい。
そうなると、『ふしぎの海のナディア』じゃなく『天空の城ラピュタ』になってしまうという問題は起きる。
だけど、それは模倣する作品が変わるだけのことだ。大したことじゃない。

(観賞日:2010年7月2日)

 

*ポンコツ映画愛護協会