『アサルト13 要塞警察』:2005、アメリカ&フランス

デトロイト。巡査部長ジェイク・ローニックは囮捜査として、麻薬の取引現場に赴いた。だが、相手に正体を気付かれ、銃撃戦で同僚2名 を失った。8ヶ月後の大晦日。大雪の中、その日で閉鎖される13分署では残務整理が進められていた。遅番で出勤したローニックは、秘書 のアイリスや熟練警官ジャスパーと言葉を交わす。この3人は、13分署で新年を迎えることになる。
暗黒街の大物マリオン・ビショップは、教会で1人の男と話をしていた。話し合いは決裂し、ビショップは銃を向けられた。ビショップは は男を刺殺して教会から逃亡を図るが、待ち受けていた警官隊に包囲された。ビショップが連行された21分署に、組織犯罪対策班の主任 マーカス・デュヴァルがやって来た。教会で殺されたのは、デュヴァルの部下だった。
13分署に心理カウンセラーのアレックスが現れ、ローニックと面会した。彼女は内勤になったローニックのカウンセリングを担当している。 しかしローニックは反発し、2人は口論になる。アレックスが去る時、ローニックは密かに自分のファイルを盗み取った。一方、21分署 に収監されていた犯罪者は刑務所へ移送されることになった。ビショップの他、麻薬中毒のベック、ニセブランド品の専門家スマイリー、 女ギャングのアンナという4名だ。
夜、13分署ではローニックたちが新年のお祝いをしようと酒を飲んでいた。一方、ビショップたちを乗せた護送バスは、吹雪で路面が悪い中、 刑務所へと進んでいた。しかし連絡が入り、人身事故で通行止めになったため13分署で指示を待つことになった。ローニックは人員不足を 不安視するが、従うしか無かった。囚人を牢に入れた後、車が故障したアレックスが舞い戻ってきた。
新年を迎え、ローニックたちは護送車の警官2名も含めて盛り上がる。そんな中、覆面姿の男たちが銃を構え、裏口から侵入した。それに 気付いた警官のローゼンが射殺され、相棒のギルは重傷を負った。ローニックが駆け付けて発砲すると、男たちは逃亡する。ジャスパーは、仲間 がビショップを奪還に来たのだと口にした。ローニックは外部に連絡を取ろうとするが、電話は不通となっており、携帯電話も妨害電波で 使えない状態だった。そこへ、ビショップの名が書かれた石が投げ込まれた。
ジャスパーはビショップを一味に引き渡すよう勧めるが、ローニックは「警官殺しの犯罪者は絶対に渡さない」と拒否した。一味の仕業に よって、署内は停電となった。助けを呼ぼうと外に出たローニックは、襲ってきた覆面男を殺害した。男の服を探ったローニックは、 警察手帳を発見した。13分署に戻ったローニックは、ビショップに事情を尋ねた。
ビショップはローニックに、自分がデュヴァルの一味と結託して稼いでいたこと、デュヴァルが欲を出して分け前のアップを要求したが 拒否したことを明かした。デュヴァル一味は裁判で証言されることを恐れ、口封じのためビショップを始末しようと企んでいるのだ。 デュヴァルは狙撃班を呼び寄せ、激しい攻撃を仕掛けてきた。ローニックは囚人たちを牢から出し、銃を持たせて共に戦うよう命じた。必死 の応戦で一味を撤退に追い込んだローニックたちだが、それで全てが終わったわけではなかった…。

監督はジャン=フランソワ・リシェ、原案はジョン・カーペンター、脚本&共同製作はジェームズ・デモナコ、製作はパスカル・ コーシュトゥー&ジェフリー・シルヴァー&ステファーヌ・スペリ、製作総指揮はドン・カーモディー&ジョセフ・カウフマン& セバスチャン・クルト・ルメルシエ、撮影はロバート・ギャンツ、編集はビル・パンコウ、美術はポール・デンハム・オースターベリー、 衣装はジョージナ・ヤルヒ、音楽はグレーム・レヴェル。
出演はイーサン・ホーク、ローレンス・フィッシュバーン、ガブリエル・バーン、マリア・ベロ、ドレア・ド・マッテオ、ジョン・ レグイザモ、ブライアン・デネヒー、ジェフリー・“ジャ・ルール”・アトキンス、カリー・グレアム、アイシャ・ハインズ、マット・ クレイヴン、フルヴィオ・チェチェーレ、ピーター・ブライアント、キム・コーツ他。


『リオ・ブラボー』をモチーフにした1976年の映画『ジョン・カーペンターの要塞警察』をリメイクした作品。
ちなみに、ジョン・カーペンター監督は2001年に『要塞警察』を叩き台にして舞台を火星に置き換えた『ゴースト・オブ・マーズ』を 作っており、また2002年にはフランスで『要塞警察』をモチーフにした映画『スズメバチ』が製作されている。
監督はフランス人のジャン=フランソワ・リシェで、これがハリウッド進出作品となる。彼は監督2作目となる『Ma 6-T va crack-er』の アクション演出が高く評価され、その作品をプロデュースしていたパスカル・コーシュトゥーの企画で『要塞警察』をリメイクすることに なった。
脚本を担当したのは『ジャック』『交渉人』のジェームズ・デモナコ。オリジナル版では刑事がビショップという名の黒人だったが、この リメイク版では囚人がビショップという黒人になっている。
ローニックをイーサン・ホーク、ビショップをローレンス・フィッシュバーン、デュヴァルをガブリエル・バーン、アレックスをマリア・ ベロ、アイリスをドレア・ド・マッテオ、ベックをジョン・レグイザモ、ジャスパーをブライアン・デネヒー、スマイリーをジェフリー・ “ジャ・ルール”・アトキンス、アンナをアイシャ・ハインズが演じている。

この映画は、ローニックが同僚を過去に失っているという設定を用意している。それにより、「仲間の死に責任を感じ、現場が怖くなって現実に向かうこと から逃げていた男が、緊急事態の中で戦う意欲や警官としての使命感を蘇らせる」という人間ドラマを持ち込もうとしている。
だが、これは上手く表現できていない。
もう敵に襲われてすぐに、ローニックはビショップ引渡しを拒否して戦う意欲満々になっているし。迷いも何も無い。
無気力状態から、戦う意欲を見せるまでの変遷、逡巡がゼロなのよね。
で、さんざん戦いを続けてきたローニックは、終盤に入って急に弱気になり、現実逃避しようとする。
そこまで来て、そのドラマなのかと。それは臆病になるタイミングが違うんじゃないかと。
しかも、わずか1分程度で立ち直ってしまうし。
っていうか、そのローニックによる「頑張ろうドラマ」は邪魔だったんじゃないか、初期設定そのものが不要だったんじゃないかとさえ 思うんだが。

ビショップは大物の悪党だが、自ら「俺にも銃を渡せ、お前たちを守ってやる」とローニックに持ち掛けている。
そもそも命を狙われているのが本人だということもあって、彼がローニックたちを裏切る可能性はゼロになっている。
「ローニックと敵対するかもしれない。途中で裏切って一人で逃げようとするかもしれない」といった部分でのスリルは無い。
凶悪な犯罪者というよりも、頼りになるアウトローといった感じである。

ジャスパーは早くから「ビショップの一味が奴を取り戻しに来たんだ」と、しつこいぐらい主張する。
まだ何の証拠も無い状態で(名前の石さえ投げ込まれていない内から)、決め付けたような発言をする。
さらに、まだ確かめてもいないのに、「妨害電波で携帯は使えない」と言い切っている。
ちょっと不自然だなあと思っていたら、まあ、そういうことだった。
途中でビショップが「外の奴らはお前の仲間だ」とローニックでなくジャスパーに言っているのも、伏線と言えば伏線かな。

敵の目的や正体は早い内から明らかにされており、オリジナル版にあったはずの「感情の無い殺人鬼、得体の知れないモンスターのような敵」と いう恐怖感は無い。
ただし、私は随分と昔にオリジナル版を見たような気がするのだが、なんせ内容を全く覚えていないので、基本的に「オリジナル版と比較 して云々」といった形での批評は出来ない。
犯人をストリートギャングから刑事グループに変更したことによって、1つ問題が生じている。
「ビショップを始末するにしても、警察署を襲撃するより、もっと上手いやり方があっただろ」と思わされてしまうのよ。
そんな荒っぽい手口を取らなくても、狡猾なやり方が無かったのかと。
あと、ちゃんと訓練を受けた優秀な刑事が、ド素人にあっさり殺されたりするってのも、どうなのよ。
ああ、そうか。
そんなボンクラだから、荒っぽい手口しか思い付かなかったのか。

前半でギルが重傷を負い、「このままでは死んでしまう。早く連れ出して医者に診せなければ危ない」というところでサスペンスを作る のかと思いきや、銃撃戦であっさりと殺される。
この人の負傷は、「手勢が一人少なくなった」というだけに留まっており、話に何の影響も与えない。彼が怪我を負わなくても、 ローニックが助けを呼ぶため外に出るという展開は作れるし。
「あと数時間で夜が明ける」というタイムリミットが設定されており、それまで時間を稼ぐことが出来れば、ローニックたちは一味を退治 できなくても、時間切れアウトで勝利することが出来る(夜が明ければ孤立無援状態が解消されるのだ)。
しかし、ローニックが時間稼ぎを図るような展開は一切無く、タイムリミットの設定は上手く活用されていない。

後半に入り、早番で去った警官キャプラーが戻ってくる展開がある。
これに何の意味があるのか分からない。
彼が来ることで新たな展開が生まれるとか、そういう変化をもたらすことは無い。
「キャプラーはデュヴァル一味のスパイかも」というミスリードにもなっていない。ビショップがキャプラーを狙うベックに銃を 下ろさせた段階で、その可能性はゼロになる。
で、忘れた頃に「キャプラーが不審な動きをしていた」ということで怪しませようと試みるが、もう今さらって感じだし、全く疑いを持つ 気にならんよ。

アレックスがデュヴァルに捕まって即座に射殺されるのは、ヒロイン扱いだったわけだから、意外と言えば意外な展開だ。
ただし、彼女が射殺されるのは、もう残り30分ぐらいに入ってからのことだ。なので、「ヒロインでさえ簡単に死ぬのだから、誰が 殺されるか分からない」という、予定調和が無いという意味での緊迫感を醸し出すことには繋がっていない。
タイミングとしては遅すぎる。
デュヴァルの冷酷非道な性格をアピールするという意味においても、やはりアレックスの射殺はタイミングが遅い。
というか、全体を通してデュヴァルの怖さアピールは弱い。
あと、せっかく「閉鎖された空間で篭城している」というところでの緊迫感を醸し出していたのに、クライマックスになって外に脱出して しまうのは勿体無いと思うなあ。

(観賞日:2008年6月1日)

 

*ポンコツ映画愛護協会