『アサシン クリード』:2016、フランス&イギリス&アメリカ&香港
数世紀に渡り、テンプル騎士団は果実を探し求めていた。果実は人類初の反抗を導いただけでなく、自由意志に対する鍵だと彼らは信じていた。果実の秘密を解読すれば、思想の自由をコントロールできる。彼らに対して立ち上がった唯一の存在がアサシン教団だった。1492年、スペインのアンダルシア。グラナダでも異端審問が始まり、アサシン教団は王子が捕まれば統治するムハンマド皇帝が町と果実を渡すと考えていた。マスター・アサシンのアギラールは、果実を手に入れるためなら命懸けで戦うことをアサシン教団に誓った。
1986年、メキシコのバハ・カリフォルニア。自転車で帰宅したカラム・リンチ少年は、母が台所で座ったまま死んでいるのを発見する。傍らには暗器を手にしてフードを被った父のジョセフが立っており、「血は大いなるもののため。奴らが来る。闇に生きろ」と口にした。車に乗った複数の面々が家へ押し掛ける中、カラムは父に「早く行け」と怒鳴られて逃走した。30年後、アメリカのテキサス州ハンツビル刑務所。殺人罪で収監されているカラムは、死刑執行の時を迎えた。彼は薬を投与され、恐怖の中で意識が遠のいた。
カラムが意識を取り戻すと、そこは見知らぬ施設の医務室だった。ベッドに横たわる彼の傍らには、ソフィア・リッキンという科学者がいた。彼女はカラムの死亡が宣告されたことを話し、手助けするので協力してほしいと告げる。ソフィアはカラムに、そこがマドリードにあるアブスターゴ財団のリハビリ棟だと教えた。彼女は財団が完全な人類を追求する民間団体だと言い、カラムに協力してもらって暴力を根絶したいのだと語る。
警備主任のマッゴーワンがカラムに麻酔弾を撃ち込むと、ソフィアはアニムスの用意を指示した。カラムは装置に拘束され、アギラールの墓から発見された暗器を取り付けられた。ソフィアは1492年のアンダルシアへ退行させるよう職員に指示し、カラムに「今から貴方が体験するのは500年前に死んだ人の記憶よ。出来事は変えられない」と告げた。ソフィアはスキャナーを作動させ、アギラールの姿を捉えた。アギラールは仲間のマリアたちを率いて、アンダルシアに到着した。
ラミレス将軍の率いるテンプル騎士団の部隊は、村で匿われていたアハメッド王子を発見した。部隊は王子を連れ去り、村を焼き払おうとする。そこへアギラールと仲間たちが現れ、部隊の連中を次々に殺害する。カラムはアギラールに合わせて自分の体も動くことに動揺するが、ソフィアが記憶から出ないよう指示した。アギラールたちは馬車を奪って王子を救出しようとするが、すぐにテンプル騎士団の反撃を受けた。アギラールの直系の子孫であり、ソフィアは今回の退行で初めて全てがクリアになったと感じていた。
ソフィアは父親のアランから「それで秘宝は?」と問われ、「果実よ。手に届く場所にある」と答えた。退行を中断した理由を訊かれたソフィアは、「あれ以上は彼の体が持たない。信頼を得れば彼が果実へ導く」と述べた。アランはテンプル騎士団の最高幹部であるエレン・ケイと会い、来週の長老会で計画の中止が決議されることを聞く。年間30億円の予算が別のことに使われると言う彼女に、アランは果実の守護者を追跡していることを報告した。
意識を取り戻したカラムがアギラールの幻覚を目にすると、ソフィアは流入現象だと教えた。激しく詰め寄るカラムに、アニムスを使えば遺伝子記憶によって先祖の人生を再体験できると彼女は説明する。カラムはソフィアから、自分がアギラールの子孫であること、アサシンのアギラールはトルケマダ修道士とテンプル騎士団のオヘダによって、火あぶりにされたことを話す。アサシンの子孫は全員が暴力的傾向を持っており、「貴方もよ」と言われたカラムは「ポン引きだ」と告げた。
ソフィアが「母がアサシンに殺された。貴方と同じよ」と言うと、カラムは「母は父に殺された。奴を殺したい」と口にした。ソフィアは「エジンの果実は存在すると私は信じている。聖書によれば、人類初の反抗の原因だと。でも私は、人類の暴力的な理由が記されていると思う。最後の所有者がアギラールと言われている。どこに隠したか知りたい。暴力は病気よ。いつか制御できるはず」と語り、研究が終われば新たな人生を与えるとカラムに約束した。
リハビリ棟に戻ったカラムは、ムサという男から声を掛けられる。彼は「みんなアンタに注目してる。我々は果実の最後の守護者。アンタの選択次第で全員があの世行きだからな」と言い、その場を去った。ソフィアはカラムの安全を考え、時間を掛けて計画を進めようとしていた。しかしアランは「時間が無い。すぐに彼をアニムスへ。出来なければ他の者にやらせる」と言い、仕方なくソフィアは承知した。一方、リハビリ棟ではエミールやネイサンたちが、「カラムが裏切る前に止めないと」と話し合っていた。
カラムはアニムスに拘束され、アンダルシアへ退行した。アギラールとマリアはテンプル騎士団によって捕まり、王子は奪い返されていた。アギラールたちは決して諦めず、反撃の機会を狙っていた。2人は国王や大勢の信者たちの前に連れ出され、火あぶりで処刑されそうになる。アギラールは足の鎖を外して脱出し、剣を奪って兵士たちと戦う。それに合わせて動くカラムを見たソフィアは、「シンクロしている」と呟いた。アギラールはマリアを解放し、追っ手を倒しながら一緒に逃亡した。
アギラールが高い建物から飛び降りるとシンクロが喪失し、カラムは泡を吹いた。ソフィアは慌ててアニムスから下ろし、医療班を呼ぶ。ソフィアは目を覚ましたカラムに神経分離が起きたことを話し、自由意志で退行すれば死ぬことは無いと告げた。彼女はカラムに、アランが殺人現場で回収した母親のネックレスを渡した。「なぜ関わる?」というカラムの質問に、ソフィアは「教団と騎士団は戦い続けてきた。それを変えたいの」と答えた。
アランはカラムと会い、「取り引きしよう。私は果実を手に入れたい。君はシンクロが続かないが、それでは困ると」と告げた。アランはジョセフが廃人同様の患者たちが収容されている場所にカラムを案内し、「自らの意志で退行しなければ、こうなる」と述べた。患者の中にはジョセフの姿もあり、アランはアサシンブレードをカラムに渡して立ち去った。ソフィアから「間違っている」と手法を批判されたアランは、「2日後の長老会で果実を渡すと約束した。彼は過去や父親を葬りたいんだ」と述べた。
ジョセフはカラムに、「お前の血は教団の物だ。母さんは知っていたから、教団のために死んだ」と話す。カラムが「どう死んだか言ってみろ」と詰め寄ると、彼は「俺が殺して、アニムスに記憶を盗まれるのを防いだ。お前も殺すつもりだったが、出来なかった」と語った。ジョセフが「殺すなら殺せ。だが連中に操られるな。アニムスはやめろ。果実は自由意志の遺伝暗号を秘めている。それで我々を滅ぼす」と言うと、カラムは「俺が見つけて、アンタと教団が滅びるのを見物するよ」と鋭く睨み付けた。リハビリ棟に戻ったカラムは、ネイサンに襲われる。駆け付けた警備員に連行されたネイサンは、「教団を裏切るか?」とカラムに告げた。カラムは自らの意志でアニムスを使い、アンダルシアへと退行した…。監督はジャスティン・カーゼル、脚本はマイケル・レスリー&アダム・クーパー&ビル・コラージュ、製作はジャン=ジュリアン・バロンネ&ジェラルド・ギユモ&フランク・マーシャル&パトリック・クローリー&マイケル・ファスベンダー&コナー・マッコーン&アーノン・ミルチャン、製作総指揮はクリスティン・バージェス=ケマール&セルジュ・アスコエト&ジャン・デ・リヴィエール&マーカス・バーメトラー&フィリップ・リー、製作協力はダニエル・エマーソン&リチャード・ウィーラン&アレックス・テイラー、撮影はアダム・アーカポー、美術はアンディー・ニコルソン、編集はクリストファー・テレフセン、衣装はサミー・シェルドン・ディファー、視覚効果監修はGed Wrightジェド・ライト、音楽はジェド・カーゼル。
出演はマイケル・ファスベンダー、マリオン・コティヤール、ジェレミー・アイアンズ、ブレンダン・グリーソン、シャーロット・ランプリング、マイケル・K・ウィリアムズ、ドゥニ・メノーシェ、アリアーヌ・ラベド、ハリド・アブダラ、エシー・デイヴィス、マティアス・ヴァレラ、カラム・ターナー、カルロス・バルデム、ハヴィエル・グティエレス、ホヴィク・ケウチケリアン、クリスタル・クラーク、ミシェル・H・リン、ブライアン・グリーソン、ジュリオ・ジョーダン、ルーファス・ライト、アンガス・ブラウン、ケマール・ディーン=エリス、アーロン・モナハン他。
世界的な人気を誇るアクションゲームを基にした作品。
監督はカンヌ国際映画祭でパルム・ドールにノミネートされた『マクベス』のジャスティン・カーゼル。
脚本は『マクベス』のマイケル・レスリーと、『エクソダス:神と王』『トランスポーター イグニション』のアダム・クーパー&ビル・コラージュ。
カラムをマイケル・ファスベンダー、ソフィアをマリオン・コティヤール、リッキンをジェレミー・アイアンズ、ジョセフをブレンダン・グリーソン、エレンをシャーロット・ランプリング、ムサをマイケル・K・ウィリアムズ、マッゴーワンをドゥニ・メノーシェ、マリアをアリアーヌ・ラベド、ムハンマドをハリド・アブダラが演じている。早い段階でハッキリするのは、「説明が乏しくて無駄に分かりにくい」ってことだ。
カラムは殺人罪で収監されているが、具体的に何をしたのかは教えてもらえない。なので、大人になったカラムが悪の道に入っていたのか、それとも同情できる理由のある殺人なのか、その辺りが全く分からない。
それが分かろうと分かるまいと、後の展開に大きな影響を与えるわけではない。しかし、主人公のキャラを紹介し、その魅力をアピールし、観客を話に引き込むという意味では、そこの説明があった方がいいのは間違いないわけで。
少なくとも、殺人罪の事情を明かさないことのメリットは何も無い。後から「実は」と明かす仕掛けがあるならともかく、そうじゃないのでね。「騎士団が果実を手に入れようとしていて、それを教団が阻止しようとしている」という対立の構図は、さすがにボンクラ脳の私でも理解できる。しかし、そこから先は、なかなか難しいことになっている。
粗筋では早い段階から「アランたちがテンプル騎士団」ってことを明かしているが、劇中だと隠したまま進めている。とは言え、ここを見抜くのは、そんなに難しいことではない。
ただし、そこを意図的に隠している様子は見えないんだよね。どうも「明かしているつもりだけど、説明不足で分かりにくくなっている」というだけに思える。
どっちにしろ隠しておくことによる効果はゼロなので、さっさと明かしてシンプルにした方が得策だし。ジョセフはカラムに「妻を殺してアニムスに記憶を盗まれるのを防いだ」と説明しているが、どういうことか分かりにくい。「アニムスはやめろ。果実は自由意志の遺伝暗号を秘めている。それで我々を滅ぼす」ってのも、これまた分かりにくい。
「捕まったらアニムスで退行させられ、果実を見つけるために協力させられるから、それを防ぐためにカラムの母は死を選んだ」ってことなのかな。自分で推測しておきながら、まるで腑に落ちていないんだけど。
ただ、幸か不幸か、それが分かろうと分かるまいと、どっちにしろ映画の評価には何も影響しないんだけどね。
つまり、「そんなことは、どうでもいいような映画になっている」ってことよ。テンプル騎士団が躍起になって見つけ出そうとしている果実ってのが、どんな力を持っているのかも分かりにくい。
ソフィアは「暴力を止める力がある道具」と捉えているようだが、ジョセフは「自由意志の遺伝暗号を秘めている道具」と解釈している。どっちにしろ、その程度なら「ムキになって見つけ出すほどの価値」があるとは感じられない。
あと、「アニムスを使ってアサシンの子孫を退行させ、過去の人物の記憶を辿ることによって果実を見つけ出す」という方法が、何だかバカっぽく思えちゃうんだよね。
そんな機械を作るほどの技術があるのなら、もっと手間や時間を短縮できる方法があるんじゃないかと。カラムはソフィアたちに捕まって以降、格闘の動きをトレーニングする様子を見せている。ネイサンに襲われた時は、その動きで対処している。
そんなトレーニングを積む理由は、「アギラールの動きにシンクロするためには、それに見合った運動能力が必要」ってことだろう。
ただ、捕まってから数日しか経過していないのに、そんな付け焼き刃の、何の手本も無いようなトレーニングで、格闘能力が飛躍的に進歩するとは思えんぞ。
終盤にはカラムとリハビリ棟の面々がアサシン的に戦う展開があるが、無理があると感じるし。前述したように、同名のアクションゲームがベースになっているが、主人公であるアルタイルを始めとする主要キャラクターは誰も登場しない。
世界観や設定を使いつつ、オリジナルのストーリーが展開される映画として仕上げている。
私は原作ゲームのファンじゃないので、そこは全く気にならない。ゲームの映画化作品だと、まるで別物になっちゃうのは珍しくもないことだしね。
だけどゲームのファンからすると、そこは残念なポイントになるのかもね。ただ、そそもも原作はアクションゲームなので、決してストーリーが売りってわけではないのよね。パルクールを取り込んだアクションと、美しい映像が売りになっているシリーズなわけで。
そんなわけだから、どうやら製作サイドとしては、「そこの再現度さえ高ければ他は二の次でも大丈夫でしょ」と思ったようだ。
だから序盤から、少年のカラムが自転車で建物の屋上から別の建物のへジャンプしようとして失敗するとか、自宅から逃亡する時に建物の屋上を飛んでいくといったパルクールの動きを見せている。
「この映画の特徴はパルクールですよ」ってことを、早い段階でアピールしているわけだ。
その仕掛け自体は何の問題もないし、むしろ大賛成だ。ただし、最初にアギラールがアクションを披露する時点で、早くも違和感が生じる。
アギラールはマスター・アサシンなんだから、凄腕の暗殺者ってことでしょ。それなのに王子を助ける時の行動は、ちっとも隠密じゃないのよね。堂々と姿を現して、大勢で戦っている。
それを暗殺者とは呼べないでしょ。
大勢に見られることも、それがアサシン教団による殺人だと露呈することも、全く気にしていないでしょ。本物の暗殺者なら、「出来る限り気付かれないよう行動し、密かに殺す」ってのが最優先じゃないのかと。しかも、そこのアクションは全くパルクールの動きを取り込んでいないんだよね。「パルクールだけが全てじゃないから」ってことかもしれないけど、それを排除したら、ただの凡庸な格闘アクションでしかないでしょ。
せめて「アギラールが優れた能力で敵を始末し、任務を無事に遂行しました」というトコでの高揚感や爽快感ぐらいは感じさせてくれるのかと思いきや、失敗して捕まっているし。
そもそも、カラムの退行は中断しているから、最後まで見せていないし。
もうね、アクションの気持ち良さまで奪い取って、何を観客に与えようとしているのかサッパリ分からんよ。アギラールが初めて戦うシーンでは、この映画の抱えている致命的な欠点も露呈している。
それは、「コントローラーが付いていない」ということだ。
「そりゃゲームじゃなくて映画だから当然でしょ」と思うかもしれないが、この映画においては、それが致命的な欠点なのだ。
その理由は、アニムスという道具にある。
この道具は、「それを使った者が過去の人間の記憶を追体験する」という物だ。だからカラムは、アギラールが戦うと体が操られ、何も無い部屋で見えない敵と戦うような動きを見せる。
でも、それを我々が見せられて、何をどう楽しめば良いというのだろうか。これがゲームであれば、「アニムスを使った者が過去の人間の記憶を追体験する」という設定ではあっても、実際にはコントローラーを使ってキャラクターを操作することが出来る。
だから、「アニムスに拘束された者は過去の記憶を体験して操られているだけ」であろうと、何の問題も無かった。
しかし、その設定をそのまま映画に持ち込むと、操作できないことに対する不満が生じる。
それだけでなく、何も無い場所で自分の意志と無関係に暴れ回るカラムがバカみたいに見えるという問題まで生じている。そして、ふと根本的な問題に気付いてしまう。
それは、「これって現代のシーン、実は要らなくねえか」ってことだ。
「テンプル騎士団から果実を守るため、アギラールが仲間と共に戦う」という話にしちゃえば、それで「パルクールを取り入れたアクション映画」としては何の問題も無く成立する。火あぶりから逃走する時はパルクールを使っているから、そっち方面の改善点はそんなに多くないしね。
一方で「ソフィアたちがカラムをアニムスで退行させ、再体験によって果実の隠し場所を突き止めようとする」という要素が、アクション映画としては邪魔でしかない。
では、そこにドラマとしての面白さがあるのかというと、それは全く無いわけで。あるいは逆に、現代のパートだけで話を構成するってのも1つのやり方だろう。
前述したように、終盤にはカラムとリハビリ棟の面々がアサシン的に戦う展開があるが、そこに無理を感じると同時に、それなら早い段階で「アサシンの血を持つ現代の連中が覚醒して戦う」という話にでもした方がいいんじゃないかと思ったのよね。
ただ、過去のパートだけで話を作るにしても、現代のパートだけで話を作るにしても、「それって『アサシン・クリード』の映画化という意味が無くなるんじゃないか」という問題は生じる。
それに関しては、「その通り」としか言いようがないのである。(観賞日:2018年4月24日)