『アーサーとふたつの世界の決戦』:2010、フランス

地上へ出たマルタザールを倒しに行くため、セレニアは剣を抜こうとしていた。まるで抜くことが出来ずにいる彼女に、アーサーは「相手は2メートルだ。僕らは2ミリだよ」と言い、状況を冷静に分析するよう説いた。「Mは人間界を良く知らない。だから対抗するには僕らも大きくなるんだ」とアーサーが言うと、セレニアは弟のベタメシュは大きくなるための方法が無いことを口にした。何気無い2人の言葉から、アーサーは祖父の書斎に解決方法があることを思い出す。本棚に小さな瓶が置いており、中に入っている薬を飲めばミニモイも人間サイズに大きくなることが出来るのだ。
一方、地上では保安官のマーティンが新米のサイモンを引き連れてアーチボルトの家を訪れていた。アーサーの父であるアルマンが連絡を入れ、来てもらったのだ。アルマンはマーティンに「悪魔を見た」と言い、マルタザールの身体的特徴を説明する。マーティンは信じようとしなかったが、アーチボルトはマルタザールが地上へ出て来たことを理解し、ボゴマタサライ族と共に見つけ出そうとしていた。保安官事務所へ帰るために車を走らせていたマーティンとサイモンは、マルタザールを目撃した。
アーサー、セレニア、ベタメシュはアーチボルトの家に行くため、水道管を使おうと考えた。彼らは門番のフェリマンに声を掛け、水泡に乗せてほしいと頼んだ。フェリマンは3人に、数日前にはマルタザールの息子であるダルコスも水泡を使ったことを話す。アーサーたちは水泡に入り、水道管を上昇した。ただし外へ出るには、住人の誰かが水道の蛇口を捻る必要があった。それまでは全く動くことが出来ず、ひたすら待機することを余儀なくされるのだ。
保安官事務所に戻ったマーティンは、部下のダグラスに「今すぐ応援を呼んでくれ」と指示した。彼はショットガンを手に取り、部下を率いてパトカーに乗り込んだ。だが、既にマルタザールは街へと足を踏み入れていた。スティッチという美容外科医のチラシを見つけたマルタザールは、すぐに彼の元へ赴く。マルタザールは「若い頃の顔を取り戻したい。女の毒で、こんな風になってしまった」と言い、ポスターで見た魔術師Mのような顔にするよう脅しを掛けた。
アーサーたちは水泡に入ったダルコスに見つかるが、アーチボルトがトイレを使用したので水が流れ、水道管から脱出することが出来た。マルタザールは魔術師の顔に変装し、アーチボルトの家を訪れた。彼が「以前はここに住んでいた」と言うと、アーチボルトは家に招き入れた。バスルームに出たアーサーたちは、書斎へ向かった。アーサーの母であるローズは、Mの不気味な形相を見て気を失った。
ダルコスは水道管から脱出し、アーサーたちを追い掛けた。アーサーはダルコスと戦い、何とか逃げ切った。マルタザールは変装していることをアーチボルトや妻のデイジーたちに気付かれ、正体を現した。室内に潜んでいたボゴマタサライ族が襲い掛かるが、マルタザールは軽く撃退した。書斎に辿り着いたアーサーはベタメシュを待機させ、セレニアと共に本棚へ登る。2人が瓶を発見した直後、書斎に入って来たダルコスはベタメシュに気付いた。
マルタザールがアーチボルトと共に書斎へ来たので、ダルコスは大きな声で呼び掛ける。しかしマルタザールは全く気付かず、ダルコスはアーチボルトが置いた本の下敷きになった。マルタザールはアーチボルトを脅して薬瓶を手に入れ、書斎を去った。アーサーたちに助けてもらったダルコスは、「パパは僕を見捨てた」と泣き出す。アーサーが「小さくて見えなかっただけだよ」と言うと、彼は「関係ないんだ、大きさなんて。愛されてないんだ」と口にした。するとアーサーは、「僕もパパとは上手くいってないけど、愛されてる。愛情の示し方がズレてるだけだと思う」と述べた。
アーサーたちがオモチャのプロペラ機でマルタザールの捜索に出掛けようとすると、ダルコスは「俺も一緒に行く」と言う。セレニアは「ここで待ってて。必ず迎えに来るから」と彼に告げた。書斎を飛び立ったアーサーたちは、原っぱを歩くマルタザールを発見する。だが、プロペラが停止して墜落してしまった。泉へ赴いたマルタザールは瓶の薬を垂らし、飛行する虫に乗った兵士たちを巨大化させた。
セレニアはアーサーに、「あの薬と同じ物を作れる人が森の向こう側にいる」と言う。彼女は蜂を呼び寄せ、アーサーとベタメシュの3人で蜂の巣へ向かった。女王蜂と面会したセレニアはマルタザールの行動を明かし、協力して戦うよう提案した。かつてアーサーが救った蜂がいたこともあり、女王蜂は提案を承諾した。アーサーにお礼がしたいと言うので、セレニアは命の秘薬を作ってほしいと頼んだ。
アルマンは消防隊員に連絡を入れ、蜂の巣を駆除してもらおうとする。アーサーは蜂に指示して文字の形に飛んでもらい、巣の中に自分がいることをローズに伝えた。そのことをローズから知らされたアルマンは、適当な理由を付けて消防隊長に駆除を中止してもらおうとする。隊長は「当たられた任務を果たすだけ」と全く考えを変えなかったが、司令官から連絡を受けて町へ戻ることになった。マルタザールの兵隊が町を襲撃し、人手が不足していたのだ。
消防隊と両親が森を去った後、アーサーはセレニアとベタメシュに別れを告げて秘薬を口にした。元の姿に戻ったアーサーは、森を後にした。一方、書斎に入ったアーチボルトはダルコスを発見し、アーサーのことを聞き出した。家に戻ったアーサーは車を盗み、町へ向かう。アーチボルトがマルタザール退治に向かおうとすると、ダルコスは一緒に連れて行ってほしいと頼んだ。そこでアーチボルトは隠しておいた薬を使い、ダルコスを人間サイズにした。2人は車に乗り込み、町へと向かう…。

監督はリュック・ベッソン、脚本はリュック・ベッソン、製作協力はエマニュエル・プレヴォスト、撮影はティエリー・アルボガスト、編集はジュリアン・レイ、美術はユーグ・ティサンディエ、衣装はオリヴィエ・ベリオー、アート・コンサルタントはパトリス・ガルシア、CG監督はピエール・ブファン、視覚効果監修はオリヴィエ・カウウェット、音楽はエリック・セラ。
出演はフレディー・ハイモア、ミア・ファロー。
声の出演はルー・リード、イギー・ポップ、セレーナ・ゴメス、ロナルド・リロイ・クロフォード、ロバート・スタントン、ペネロープ・アン・バルフォー、リチャード・ウィリアム・デイヴィス、ジャン・ビジョテ・ンジャンバ、ヴァレリー・ココ・キングー、アブドゥー・デジレ、ビアンヴニュ・キンドキ、ローラン・メンディー、アバ・コイタ、スティーヴ・ラウトマン、デヴィッド・ガスマン、クーパー・ダニエルズ他。


『フィフス・エレメント』『ジャンヌ・ダルク』のリュック・ベッソンが監督を務めたシリーズ3部作の完結編。
アーサーをフレディー・ハイモア、デイジーをミア・ファロー、アーチボルトをロナルド・リロイ・クロフォード、アルマンをロバート・スタントン、ローズをペネロープ・アン・バルフォーが演じている。
マルタザールの声をルー・リード、ダルコスをイギー・ポップ、セレニアをセレーナ・ゴメス、ベタメッシュをダグラス・ランドが担当している。
1作目と2作目では大幅なキャストの変更があったが、2作目と3作目は配役の変更が無い。1作目でジェイソン・ベイトマンが担当していたダルコスの声が、イギー・ポップになっているだけだ。
ただし日本では3作目だけ劇場公開が見送られたため、それに伴って吹き替えの声優陣も変更となっている。

前作から物語は続いており、冒頭の段階で「マルタザールが大きくなって地上に出たので何とかしなきゃ」という状況になっている。
で、アーサーが「対抗するためには我々も大きくならないと」と言うのだが、どうやって大きくなるのかと思ったら、すぐに「書斎の瓶に入っている薬を飲めば人間サイズになれる」と言い出す。
すげえ簡単なのね。
そんで、その瓶を手に入れるまでにたっぷりと時間を掛けるという方向で物語を構築しているんだが、これが「歩みがノロいなあ」と感じさせる結果になっている。

瓶のある書斎へ行くまでに時間が掛かっているが、「もっとサクサクと進めて、さっさと到着しろよ」と言いたくなる。
アーサーたちが出発した地点から書斎までの距離って、そんなにあるわけじゃないからね。そりゃあミニミイのサイズだと遠いかもしれんけど、それにしたって時間が掛かり過ぎだと感じる。
色んな乗り物を使って移動しているけど、そこに冒険の面白さがあるわけじゃなくて、無駄に手間を掛けているだけにしか思えない。
単に乗り物で移動する映像を見せたいだけだろ。

一方、マルタザールはわざわざ変装してアーチボルトの元に来るのだが、正体がバレるまでは特に何をするでもなく、ただ突っ立っているだけ。
こっちはこっちで、無作為に時間を費やしている。お前は一体、何がしたいのかと。
しかも、皮膚が偽物だと分かっただけで自ら正体を現し、ボゴマタサライ族を簡単に蹴散らしてアーチボルトを脅し、簡単に薬瓶を手に入れているが、最初からそうすりゃいいじゃねえか。
変装した意味が全く無いだろうに。

それと、魔術師の顔になる美容整形手術を受けたのかと思ったら皮膚がペリッと剥がれるとマルタザールの顔に戻っちゃうんだから、医者の元を訪れてる意味が無いだろうに。
明智小五郎チックな変装をしている設定にするなら、特殊メイクの専門家か何かに頼むべきだろ。
そういう職業の人間が出て来ると世界観がおかしくなっちゃうという問題はあるけど、だったら最初から美容外科医に顔を変えるよう頼むという手順なんて挟まなきゃいい。
マルタザールが街で魔術師のポスターを見るシーンがあって、その次に魔術師の顔をした彼がアーチボルトの家を訪れるという形にすりゃあいい。
そうすれば、「誰がその変装を用意したのか」なんて疑問は沸かないって。本人がやったんだろうってことで脳内補完して、それで納得してもらえるって。

1作目と2作目でも感じたことだが、このシリーズは実写で描かれる人間界とCGアニメで描かれるミニモイの世界が上手く融合できていない。
だからホントは、ずっと地下を舞台にして物語を進行した方がいいのだ。
それなのに、なぜか完結篇にきて、主な舞台を地上にしてしまう。すなわち、ほとんどのシーンを実写パートにするという愚行をやらかしている。
このシリーズの売りってCGアニメーションだろうに、そこを減らすような内容にするってのは、どういうつもりなのかと。

話のスケールを大きくする狙いで、マルタザールを大きくして地上に出したのかと思ったのだが、完全に逆効果。
人間より腕力が強い以外、特にこれといった特殊能力も持たない奴なので、ミニモイにとっては恐ろしい存在かもしれないが、人間からすれば大した脅威ではない。見た目は不気味だけど、いきなり車にひかれそうになっているぐらいの奴でしかない。
そこはホントに恐ろしい奴として見せたいのなら、走って来たパトカーを弾き飛ばすとか、ぶつかってもビクともしないとか、そういう形にすべきじゃないのか。
そもそも人間サイズになって地上を征服したいと思ってるキャラなんだから、人間を圧倒する特殊能力を持っている設定にすべきじゃないのか。

マルタザールが日傘を差して町を歩くシーンなんて、BGMは不安を煽る雰囲気を出そうとしているけど、なんかユーモラスに見えるぞ。
まるで「何も知らずに人間の町にやって来た悪魔が、初めて触れる様々な物に戸惑う」というカルチャーギャップを使った喜劇のようだ。
そこでのマルサダールには、悪の帝王としての威厳や脅威が全く感じられない。
なんで最終作に来て、マルタザールを矮小化するのかと。
マルタザールとスティッチのやり取りも、脅してはいるものの、何となく滑稽な味わいがあるし。

マルタザールは薬を手に入れた後、デイジーに「ここへ奴隷を集めて王宮を作るから、毎週日曜にチョコレートパイを持って来い」と言うのだが、どうにもチンケになっちゃってるなあ。
子供向け映画だからって、ワルの親玉を幼稚にしちゃうのは違うだろ。
1作目と2作目でもユーモラスでチンケなキャラとして造形されていたのなら、それは分かるよ。
だけど3作目に来て、急にスケール・ダウンしてるのよ。それはダメだろ。

アーサーは「マルタザール捜しをダルコスに手伝わせる」ということで本の下敷きになっているダルコスを助けるんだけど、襲われたらどうするつもりだったのかと。
っていうか普通は襲われるだろ。ダルコスが急にメソメソして弱気になった上、「一緒に行く。親父を説得する」と言い出すのは、むしろ不可解だぞ。
それに、ダルコス本人が言うように今までさんざんミニモイを殺してきた奴なんだから、アーサーはともかくセレニアとベタメシュが彼を簡単に仲間として受け入れるのも不可解だわ。
あと、「マルタザール捜しを手伝わせる」ということでダルコスを助けたはずのアーサーが平気で彼を置いていくのは、言葉と行動が一致してねえだろ。

セレニアは序盤にアーサーが「大きくなってマルタザールに対抗する」と言った時、自分たちが大きくなる方法なんて何も知らないような態度だった。
ところが原っぱに墜落した後、「薬と同じ物を作れる人(厳密には人じゃなくて蜂だが)を知っている」と言い出す。しかも、どこにいるのかも分かっている。
知ってるんじゃねえか。だったら、なぜ最初に言わなかったんだよ。
っていうか、薬を奪われても別の方法がすぐに見つかるってのは、すげえ安易だなあ。

アーサーたちが女王蜂から秘薬を貰えることになった直後、アルマンが消防隊を呼んで蜂の巣を駆除してもらおうとするのは、展開としてギクシャクしている。
そんなトコに、そんな形のピンチは要らないんだよ。
もうマルタザールが兵隊を集めて町へ向かっているわけで、今さら「蜂の巣が駆除されそうになって大変だ」なんてことをやるのは、道草を食ってダラダラしているようにしか思えないのよ。
しかも、アーサーが蜂に文字を書いてもらってローズにメッセージを伝えているけど、消防隊は司令官の命令で町に戻るわけだから、それは何の意味も無いってことになるし。

マルタザールが兵士を大きくして「復讐の時は来た」と言ってから、彼らが町を襲撃するシーンが描かれるまでに、20分以上も掛かっている。
虫の群れが町の上空を飛ぶシーンが来るのは復讐宣言から約5分後だが、その時は町を襲撃に来たようには見えなかった。で、その間に他の出来事で中身を充実させ、歩みのノロさを感じさせないようにしているわけでもない。
2作目も「20分ぐらいで済む話を1本分に引き伸ばしている」と感じたが、これも同様だ。さすがに20分の内容とは思わないが、1時間もあれば収められるだろう。
ってことは前作で感じた通り、やはり2作目と3作目は1つの映画にまとめられる程度の中身なのよ。

「瓶を手に入れて薬を飲み、人間サイズになってマルタザールに対抗する」という目的に向かってアーサーたちが行動を開始したのに、セレニアとベタメシュは人間サイズにならないまま話が終わってしまう。
秘薬を作ってもらっても、それを使って大きくなるのはアーサーだけ。
ダルコスは大きくなるのに、セレニアとベタメシュは大きくならない。
だったら最初から、こいつらも大きくなることを期待させるようなことを言わなきゃいいのに。

アーサーは人間の姿に戻ってマルタザールの野望を阻止しようとするけど、このシリーズって彼がミニモイの姿になるところに大きな意味があったはず。人間の姿で行動させちゃったら、意味が無いでしょ。
せめて「ミニモイとの触れ合いで心身共に成長したアーサーが、以前とは違って人間の姿でも勇敢に行動して活躍する」という変化を描くのならともかく、すんげえ弱くて簡単に捕まっちゃうし。
マルタザールに捕まったアーサーは、すぐに拘束を解くものの、攻撃を受け止めたところで終わってしまう。マルタザールと戦って退治することはない。セレニアとベタメシュが駆け付け、薬でマルタザールを小さくする。マルタザールの兵隊は、出動した軍が制圧している。
つまりアーサーって今回、全く役に立ってないのよ。
そこまでは「マルタザールと対抗するために大きくなる」という目的でアーサーが行動する様子を描いていたのに、実際に大きくなっても活躍できずに終わるって、なんちゅう構成だよ。

(観賞日:2014年8月28日)

 

*ポンコツ映画愛護協会