『アーサーと魔王マルタザールの逆襲』:2009、フランス

アーチボルトとデイジーの夫婦が住む家の敷地では、ミニモイ族が満月の夜のディナーを用意するために食材を採取していた。蜂が飛んで来たので、ミニモイ族は攻撃して追い払った。蜂はアーチボルドの家まで飛んで行くが、アルマンがコップで捕まえた。息子のアーサーが蜂アレルギーということもあり、アルマンは敏感に反応した。彼は妻のローズに告げ、殺虫スプレーを取りに行く。その頃、アーサーはボゴマタサライ族の住み家を訪ねていた。彼は自然と同化する試験に合格して認められ、メダルを受け取った。
アーチボルドの飼い犬であるアルフレッドが住み家へ来たので、ボゴマタサライ族の酋長は緊急事態だと悟った。急いで帰宅したアーサーはコップから蜂を逃がしてやった。それを知らずに近付いたアルマンは、背後から飛んで来た蜂に刺された。アーチボルドがデイジーと共に帰宅し、列車のオモチャをアーサーにプレゼントした。アーサーは蟻の群れを家の中へと導き、列車のオモチャに乗せて楽しむ。ローズが来て列車を見ると、蟻の群れは気付かれないよう身を潜めた。
アルマンは庭の木に蜂の巣を見つけ、石を投げて壊そうとするが、ボゴマタサライ族に邪魔された。蜂を殺そうとするアルマンの行為を、アーチボルドは静かに咎めた。アーサーはローズに、今夜は10番目の満月なのでミニモイの国へ行くこと、久々にセレニアと会えるのを楽しみにしていることを話す。だが、アルマンは予定を一日早めて、今日の内に出発すると言い出した。「お前も明後日から学校だろ」と言われたアーサーは、ローズにアルマンの説得を頼む。しかしアルマンは「早く着替えろ」と、まるで耳を貸さなかった。
アーサーが仕方なく荷物をまとめていると、蜘蛛がやって来て文字の掛かれている米粒を渡した。虫眼鏡で米粒を確認したアーサーは「助けて」と書かれているのを知り、アーチボルドに知らせて後を託した。アーサーは両親と共に、車へ乗り込んだ。ガソリンスタンドで車が停まった時、ずっと追い掛けて来たアルフレッドが開いたドアから滑り込んで来た。アーサーはアルフレッドに毛布を被せて自分が寝ているように偽装工作し、両親の目を盗んで車を抜け出した。
祖父母の家へ舞い戻ったアーサーは、すぐにミニモイの国へ行く準備を整える。しかし月が雲に隠れてしまい、望遠鏡に光が差し込まなくなってしまう。アーサーから「何か他に方法は無いの?」と問われた酋長は、弦を使う緊急用の方法があることを教えた。アーチボルトは「多くの人間が命を落としている危険な方法だ」と反対するが、アーサーは弦を使う方法を使うことにした。ボゴマタサライ族はアーサーの体を弦でグルグル巻きにして、力強く引っ張った。
体が縮小化されて望遠鏡の中に滑り込んだアーサーは、マックスのバーに落下した。アーサーが「村へ行きたい」と言うと、マックスはワラジ虫のクローブが新しい警備隊長になっていること、彼の部下であるユニコーン軍団が街を取り締まっていることを話す。第七王国が倒れて以来、クローブの許可が無いと街には入れないのだという。マックスはアーサーを改造テントウムシに乗せ、パラダイス通りへ赴く。マックスによると、以前は何も無かった場所だが豊作で多くの人々が金持ちになり、クーロマッサイが何軒かのバーを開いたり土蛍のビジネスが始まったりして賑やかな街に変貌したらしい。
マックスは従妹のリプレイと会い、第一王国に関する情報を得ようとする。リプレイは何も知らなかったが、すぐ近くでベタメッシュがユニコーンたちに連行されそうになっているのをアーサーは目撃した。マックスが従弟のスノーと共にユニコーンたちの目を引き付けている間に、アーサーはベタメッシュを檻から救い出した。ユニコーンたちに追われたアーサーとベタメッシュは改造テントウムシを操って床下を抜け、庭を飛んで逃走した。
アーサーとベタメッシュは繭で眠りに就き、翌朝を迎えた。孵化した蛾に乗って移動した彼らは、蜘蛛の巣に落下した。ベタメッシュは蜘蛛を操って背中に乗り、アーサーも同乗させる。ベタメッシュは村を朝の内に交通違反で捕まっていたため、アーサーに届けられた米粒のメッセージについては何も知らなかった。王国へ到着したアーサーは、国王や側近のミロと会って米粒のことを話した。すると彼らは、「ミニモイは助けを求めるために米粒を使ったりしない」と笑い飛ばした…。

監督はリュック・ベッソン、脚本はリュック・ベッソン、製作はリュック・ベッソン、製作協力はエマニュエル・プレヴォスト、撮影はティエリー・アルボガスト、編集はジュリアン・レイ、美術はユーグ・ティサンディエ、衣装はオリヴィエ・ベリオ、アート・コンサンタントはパトリス・ガルシア、CG監督はピエール・ブファン、視覚効果監修はアンソニー・ライアント、音楽はエリック・セラ。
出演はフレディー・ハイモア、ミア・ファロー。
声の出演はルー・リード、スヌープ・ドッグ、ウィル・アイ・アム、ステイシー・ファーガソン、セレーナ・ゴメス、デヴィッド・ガスマン、ポール・バンデイ、ロン・クロォード、ロバート・スタントン、ペニー・バルフォー、ヴァレリー・ココ・キングー、アブドゥー・デジレ、ビアンヴェニュ・キンドキ、ローラン・メンディー、イブラヒマ・トラオレ、アバ・コイタ、アラン・フェアバーン他。


『フィフス・エレメント』『ジャンヌ・ダルク』のリュック・ベッソンが監督を務めた作品。彼自身が執筆した児童小説「アーサー」シリーズ4部作の中から、第3作『アーサーとマルタザールの逆襲』を基にしている。
アーサー役のフレディー・ハイモア、祖母役のミア・ファロー、アーチボルト役のロン・クロフォード、ローズ役のペニー・バルフォーは前作からの続投。アルマン役はダグラス・ランドからロバート・スタントンに交代。
声優陣では、マックス役のスヌープ・ドッグだけが続投。マルタザールはデヴィッド・ボウイからルー・リード、セレニアはマドンナからセレーナ・ゴメス、国王はロバート・デ・ニーロからデヴィッド・ガスマン、ミロはハーヴェイ・カイテルからポール・バンデイ、ベタメッシュはジミー・ファロンからダグラス・ランド、フェリマンはエミリオ・エステヴェスからレスリー・クラックに交代している。
最初から3部作として製作されているはずなのに、2作目で声優陣が大幅に入れ替わっている辺りからして、この映画の評価を下げる一因ではある。
他に、スノーの声をウィル・アイ・アム、リプレイをステイシー・ファーガソンが担当している。

今回は冒頭から、ミニモイ族がアーチボルトの敷地にある畑で食料を採取している様子が描かれる。つまり、ミニモイは地上に出て来ているわけだ。
前作でも感じたことだが、ミニモイ族は地上と完全に分断された地下の王国で暮らしているわけではない。地上にも王国の施設があるし、そこで仕事をしている奴もいる。アーサーがその気になれば、サイズは違っても普通に会うことは出来てしまうのだ。
ようするに、「10番目の満月の日にならないとミニモイと会えない」というのは、真っ赤な嘘なのだ。実際、蜘蛛がメッセージを届けているけど、そうやってコミニュケーションを取ることは出来ている。
大きさは全く違うけど、虫眼鏡を使えばアーサーがミニモイを確認することは可能だ。同じサイズになってミニモイの国へ行くことは滅多に出来ないだろうけど、交流することは難しくないはずでしょ。
そういう問題が生じているのは、設定に難があるのだ。

前作でアーサーがミニモイの国へ行く準備をしていたら、アーチボルトがアフリカで親しくなったボゴマタサライ族が急に現れたので「どこから来たんだよ」と思ってしまった。
その答えが、本作品では明らかになる。
なんと彼らは、アーチボルトの敷地に家を建てて暮らしていたのだ。
「なるほど、そこに住んでいたのか」って、納得するとでも思ったか。
なんでアフリカの部族が、当たり前のようにアメリカで暮らしているんだよ。そこの疑問は、全く解消されてないじゃねえか。

アーサーが自然と同化するテストを受けて合格したことが、ボゴマタサライ族の酋長による語りと補足映像で簡単に説明される。
そこでは、アーサーが水や石と同化したり、鹿に成り切って群れに接近したり、熊に成り切って洞窟で一緒に寝たりする様子が描かれる。
それって、どこなんだろうか。
あと、そういう危険を伴う試練を彼が受けている意味も良く分からんし。過去にアーチボルトもテストを受けて合格しているという設定だけど、だから何なのかと思うし。

アーサーが水や石と同化したり、動物に成り切って生活したりするのなら、そういう話にすればいいんじゃないのかと思ってしまう。
でも実際は「アーサーが小さなサイズになってミニモイの国を冒険する」というのが本筋なので、「だったら、アーサーが自然と同化する試練を受ける展開なんて要らなくないかと感じる。
その試験を受けることが、ミニモイと何か関係があるのか。
ひょっとすると、リュック・ベッソンの中では関係性があるのかもしれないが、こっちには伝わらない。

自然の試練を受けたことに関連しているんだろうけど、アーサーはアルマンの捕まえた蜂を逃がしてやったり、蟻を室内へ導いて列車のオモチャに乗せたりする。「自然と同化して、虫を殺すのは駄目だという感覚になっている」ということなのか。
だけど、虫たちが全てミニモイの仲間だったら分からんでもないんだけど、ミニモイも蜂を攻撃しているんだよな。
っていうか、虫を過剰なほど愛する様子を描写するなら、アーサーが虫たちと交流する物語にすりゃあいいんじゃねえのかと思ってしまう。
実際はミニモイとの交流を描く話なので、虫との触れ合いに多くの時間を割いて「アーサーは虫を愛護する少年である」ってのを強調する意図が良く分からん。

蜂を退治しようとするアルマンが悪者扱いされているのも、大いに引っ掛かる。
アルマンって、そんなに悪いことをしているのか。むしろ、蜂に刺されており、下手すりゃ病院送りどころか死んでいた可能性だってあるわけで、それで「蜂を退治しよう」と考えるのは決して間違っていないと思うぞ。
そもそもアーサーが蜂アレルギーだからこそアルマンも蜂を殺そうとしているわけで、むしろアレルギーなのに積極的に蜂に近付いているアーサーの方がおかしいよ。
リュック・ベッソンの中で自然愛護のメッセージを訴えようという意識が強くあったのかもしれないけど、だとしても描き方が間違ってるわ。

おまけに、そうやって蜂や蟻を大切にするアーサーの様子を描くことに無駄な時間を費やしているせいで、彼が小さくなってミニモイの国へ行くまでに30分ほど掛かってしまう。
もう前作でミニモイの国があることは描いているんだし、もっと早めにアーサーとミニモイを接触させるべきでしょ。
時間配分が明らかにおかしい。
アーサーが王国に到着してセレニアと会おうとする時点で、もう本編の残り時間は20分程度しか無いのだ。

アーサーが前作と同じ方法でミニモイの国へ行こうとすると、月が隠れてしまう。どうするのかと思ったら、すぐに酋長が「弦を使う方法がある」と教えてくれる。
アーチボルトは「大勢の死人が出ている危険な方法だ」と言うが、アーサーは弦で全身を締められて痛そうにするものの、あっさりと縮小化されてミニモイの国へ行けてしまう。特殊な方法を使ったせいで何か影響が出るとか、行動に制限が生じるとか、そんなことも無い。
だったら、普通の方法で行ける展開にしておけばいいじゃねえか。「緊急用の方法を使わざるを得なくなった」という展開にしている意味が全く無い。
どうせアーサーが縮小化されてミニモイの国に行かなきゃ話が進まないので、彼が行けることは分かり切っているんだから、そこに「無事に行けるのか」というサスペンスなんて生じないんだし。

アーサーはベタメッシュを救い出すと、ユニコーン軍団に追われて祖父母の家の床下を抜け、庭に出る。繭の中で就寝し、孵化した蛾に乗って移動し、蜘蛛の巣に落下する。
そのように、祖父母の敷地を使った地上での冒険劇が多すぎる。
地下にあるミニモイの国での冒険劇を見せたいのか、小人化したアーサーが祖父母の敷地で繰り広げる冒険劇を見せたいのか、どっちなんだよ。どっちも盛り込んで、どっちも薄っぺらくなってるじゃねえか。
ミニモイの国が地下にあるという設定があるんだから、描くべきは明らかに後者でしょ。
地上での冒険なんて、ハッキリ言って全く要らないぞ。

前述したようにセレニアは終盤にチラッと出て来るだけだが、アーサーがミニモイの国へ行く一番の(唯一と言ってもいい)目的であるセレニアとの関係描写を薄くして、その代わりに何を使って物語を充実させているのかというと、何も無い。
この映画、ほとんど中身が無いのである。
そして、ほとんど物語は先に進んでいない。
クローブという警備隊長が新しく就任したらしいが、そいつとアーサーが戦うことも無い。アーサーがマルタザールと絡むのも少しだけで、これまた全く戦わない。

アーサーがセレニアに会いたがると、ミロが彼女の暮らす家へ案内し、「昨夜の彼女はこうだった、今朝はこうだった」と詳しく語る。
セレニアを人質に取ったマルタザールが現れると、「地上でアーチボルトたちの生活風景を見た、デカくなってやろうと考えた。そのために米粒でアーサーをおびき寄せた」ということを詳しく語る。
つまり、本来はクライマックスになるべき時間帯の大半は、回想シーンと語りによって構成されているのだ。
土曜ワイド劇場なのかと。
当然のことながら、まるで盛り上がりは無い。
ミステリーならともかく、ファンタジー・アドベンチャー映画のはずでしょうに。

この薄っぺらい中身なら、3部作にせずに、2作目と3作目は1本にまとめられるだろ。
この2作目は、本来なら20分ぐらいで済みそうな中身を、3部作にするために無理をして引き伸ばしているようにしか感じない。
リプレイやスノーの存在価値は皆無に等しいし、途中で入る祖父母と父母のシーンもバッサリと削れる。
しかも、話は完結せず、中途半端なところで終幕になってしまうのだ。
幾ら3部作の2作目とはいえ、一応の決着は付けるべきだ。その上で、3作目に続くネタを用意すればいいでしょ。

(観賞日:2014年5月27日)

 

*ポンコツ映画愛護協会