『アポロ18』:2011、アメリカ&カナダ

1969年、アポロ11号のアームストロング船長が初めて月面に立ったが、18号から20号は予算削減のために中止された。1972年12月7日、アポロ17号が最後の月面着陸となった。しかし2011年、84時間に及ぶNASAの秘蔵映像がネットの片隅で発覚した。本作品は、その映像を編集したものである。それは中止されたはずのアポロ18号に関する映像だった。国防総省の極秘任務として、サターン5型ロケットが月へ発射されることになった。ただし、表向きは無人飛行ということになっていた。
アポロ18号の乗員として選ばれたのは、着陸船操縦士のベン・アンダーソン、船長のネイト・ウォーカー、司令船操縦士のジョン・グレイという面々だ。3人には対ソ連のミサイル防衛の一環として、高性能レーダー装置「PSD5」を設置する任務が命じられた。アポロ18号は打ち上げに成功し、月へと辿り着いた。ジョンが司令船に残り、ベンとネイトは切り離された着陸船で月面に降り立った。2人はデータ収集用カメラを使い、全てを記録する。
ベンとネイトは船外活動を開始し、PSD5を設置して石を採集した。1日目の作業を終えた2人は、着陸船に戻って就寝する。妙な音を耳にした2人は、ヒューストンに連絡を入れた。管制官のトーマスは、「国防総省に確認する。少し休め」と告げた。翌朝、トーマスは2人に、「ノイズの問題は対処した」と告げた。司令船は月の裏側へ入り、しばらく通信不能な状態に入った。ベンとネイトは、袋に入れたはずの石が床に落ちているのを発見した。
ベンとネイトは2日目の船外作業に入り、PSD5を設置する。ヒューストンと連絡が取れない時間が続き、2人は疑念を抱いた。彼らは足跡を発見し、それを辿ってソ連の着陸船を発見した。中に入ると飛行士の姿は無く、大量の血が残されていた。近くのクレーターに入ったベンは寒さに凍えながら、飛行士の死体を発見した。死体の宇宙服は裂けており、触れようとすると中に入っていた石が動いた。ベンとネイトは、その石を着陸船へ持ち帰った。ベンたちはヒューストンと通信し、トーマスに報告を入れて「知ってたんだろ?」と追及する。トーマスは「これは国防総省の任務だ。私は知らない」と答えた。
翌朝、ベンとネイトが目を覚ますと、月面に立てた国旗が無くなっていた。しかしソ連の飛行士の仕業だとすると船外で12時間もいたことになり、トーマスは「それは有り得ない」とベンたちに告げる。彼は2人に、「ソ連の船が着陸した確証は無いが、人工衛星に見せ掛けたようだ。情報部は、ソ連の飛行士は1人だと言っている。設置は完了した。帰還してくれ」と述べた。ベンとネイトは帰還しようとするが、着陸船にトラブルが生じて離陸できなくなる。船内の酸素は減少し、通信も途絶えた。
故障した箇所を調べるために外へ出たネイトは、地球外生命体と思われる生物の足跡を発見した。その近くにはズタズタに裂かれた国旗があり、設置しておいたカメラが無くなっていた。彼はアンテナを直そうとするが、突如として「宇宙服で何かが動いている。ヘルメットの中に何かいる」と喚いた。ベンが呼び掛けると、ネイトはパニック状態で倒れ込んだ。ベンはネイトの元へ行き、彼を着陸船に連れ戻した。すると回復したネイトは、「何か動いた気がしたが、勘違いだった。物音に驚いて足を滑らせ、岩に頭をぶつけた」と説明した。ベンが「ヘルメットの中に何かいると言っていた」と告げると、ネイトは「覚えていない」と証言した。
ベンはネイトの出血に気付き、調べると腹部に傷があった。傷に触れると、中には硬い物が入っていた。ベンが取り出すと、それは採取した石と似ていた。その石は、生きているかのように動いた。ベンとネイトは、PSD5がソ連の監視目的ではなく信号を発信しており、そのせいで通信障害が起きているのだと推測する。さらに彼らは、PSD5の目的は足跡の主を誘い出すことであり、自分たちは実験台なのだと確信した。ネイトがPSD5の様子を見に行くと、壊されたり無くなったりしていた。
ネイトの傷口は化膿し、彼は「ソ連の飛行士は感染したんだ。私は急激に悪化している。君だけ帰還しろ」とベンに告げる。しかしベンは2人で帰還すると告げ、そのためにソ連の着陸船を利用しようと考える。症状の悪化したネイトが激しく暴れたため、ベンは必死で落ち着かせた。ベンはネイトを月面車に乗せて、ソ連の着陸船へ向かう。だが、その途中で月面車が横転し、2人は地面へ投げ出されてしまう。ベンが体を起こすと、ネイトは「奴らが来る、君だけ脱出しろ」と告げた後、クレーターの中へ引きずり込まれてしまった…。

監督はゴンサーロ・ロペス=ガイェゴ、脚本はブライアン・ミラー、製作はティムール・ベクマンベトフ&ミシェル・ウォルコフ、製作協力はキャシー・スウィッツァー、製作総指揮はボブ・ワインスタイン&ハーヴェイ・ワインスタイン&ロン・シュミット&コーディー・ジーグ&ショーン・ウィリアムソン&マシュー・ステイン、製作協力はジョナサン・ショア、撮影はホセ・ダヴィド・モンテロ、編集はパトリック・ルシエ、美術はアンドリュー・ネスコロムニー、衣装はシンシア・サマーズ、サウンド・デザインはワイリー・ステイトマン&ハリー・コーエン、音楽監修はサラ・ウェブスター。
出演はウォーレン・クリスティー、ロイド・オーウェン、ライアン・ロビンズ、マイク・コスパ、アンドリュー・エアリー、カート・ランテ、ヤン・ボス、キム・ワイリー、ノア・ワイリー、アリー・リーバート、エリカ・キャロル他。


『ナイト・ウォッチ/NOCHNOI DOZOR』『ウォンテッド』の監督であるティムール・ベクマンベトフが製作を務めた作品。
監督は『NAKED マン・ハンティング』のゴンサーロ・ロペス=ガイェゴ。脚本のブライアン・ミラーは、これが初の長編映画。
ベンをウォーレン・クリスティー、ネイトをロイド・オーウェン、ジョンをライアン・ロビンズが演じている。
製作したディメンション・フィルムズは公開前に「発見された映像を使った作品であり、フィクションではない」と宣伝していたが、もちろんフィクションである。

フェイク・ドキュメンタリーでは、いかにもドキュメンタリーっぽく見せるために無名キャストを揃えるのが定番だ。有名俳優を起用する場合、『THE 4TH KIND フォース・カインド』のミラ・ジョヴォヴィッチや『POV(ピーオーヴイ) 〜呪われたフィルム〜』の志田未来&川口春奈のように、本人役で登場する形を取るのが基本線だ(ミラ・ジョヴォヴィッチは「再現ドラマのヒロインを演じる」という形で出演していた)。
そういう意味で、この映画はとても中途半端なキャスティングをしている。
ミラ・ジョヴォヴィッチと比較すれば「無名俳優」ってことになるだろうけど、ウォーレン・クリスティーはTVドラマ『ホームタウン 〜僕らの再会〜』やスティーヴン・セガールのTV映画『True Justice』シリーズに主要キャストとしてレギュラー出演している俳優だ。そしてロイド・オーウェンは、BBCのTVドラマ『The Innocence Project』の主役だった人。ライアン・ロビンズはカナダのTVドラマ『Sanctuary』の主要キャストとしてレギュラー出演していた人だ。
つまり、有名人を本人役として使うわけでもなく、無名キャストでドキュメンタリーっぽさを徹底するのでもなく、微妙に知名度のある俳優たちを使っているわけで、それはどういうセンスなのかと。

本作品はキャスティングだけでなく、他にも様々な点でリアリティーの欠如を露呈させている。
そもそも、POV方式を持ち込んでいる時点でマズい。
2011年であれば、誰でも安価で簡単にビデオカメラを手に入れることが出来るし、連続使用時間も長い。しかし1970年代の技術だと、ずっとカメラを回し続けて全ての映像を記録するなんてことことは不可能なはず。
しかもベンたちは手持ちカメラ1つを記録のために回し続けているだけでなく、他にも数台のカメラをセットしている。そして、それらのカメラも、ずっと回り続けて映像が記録されている。だが、それも有り得ないことだ。

これがコメディーであれば、リアリティーの欠如した描写にツッコミを入れたりスカしたりすることで笑いに繋げるというやり方もあるだろう。
しかしSFホラーとして作られているわけだから、リアリティーを真正面から追求すべきなのだ。
ただし、今までに私が見て来たモキュメンタリーの中で、そこを細部に渡るまで完璧に徹底できていた作品は存在しない。どこかで必ず穴が見えていた。しかも、かなり大きな穴だ。
特にPOV方式を採用したモキュメンタリーの場合、「そんな状況になってもカメラを回し続け、対象物を正確に捉えるのは変だ」とか、「その映像は、誰がどこから撮影したのか」という疑問が拭えない状態になっていた(それは本作品にも言える)。

モキュメンタリーってのは基本的に低予算&短期間で撮影されることが多いので、贅沢な内容に出来ないという部分に関しては仕方が無い。
しかしモキュメンタリーが露呈する欠陥ってのは予算の絡む問題ではなく、演出やシナリオの粗さにあるのだ。
この映画に関して言うならば、POV方式を安易に導入するのでなく、映像以外の当時の資料(文書や写真、音声)を持ち込んで解説を入れたり、現在も生存している関係者が当時を振り返って取材に応じるインタビュー映像を用意したりして構成した方が、リアリティーが生じたはずだ。

「POVモキュメンタリーのスタイルで作られたSF」ってのは、今までに無いパターンだ。
『クローバーフィールド/HAKAISHA』もSFっちゃあSFだけど、舞台は地球だ。だから、色々と問題は多いけど、目の付け所としては悪くない。
だが、それをやるのであれば、時代設定を1970年代にしたのは失敗だろう。
ただし難しいのは、SFだからって未来の話にしちゃうと、その時点でリアリティーもへったくれも無くなるので、POVモキュメンタリーにする意味が無くなっちゃうんだよな。そうなると現在か、あるいは最近の時代設定ってことになるわけだ。
「それで何か問題でも?」と問われたら、問題は無い。ただし内容としてアポロ計画を使うのは、それはそれで悪くないとも思う。
だから、やっぱりPOVを安易に持ち込んじゃったのが間違いなのよ。

最初に「ネットの片隅で発覚した」という説明が入るが、NASAの秘蔵映像がネットの片隅で発見されている時点でリアリティーに欠ける。
しかも、その映像が始まると乗組員がインタビューに答えているんだけど、それもリアリティーが無い。
国防総省の極秘任務なのに、なぜ普通に「これから国防総省の任務で云々」と喋る映像が残っているんだよ。
任務を受けたことについて語るインタビューが行われている時点で、もはや極秘じゃなくなっているでしょうに。

ジョンがバーベキューの最中に連絡を受けた」と話すと、バーベキューのシーンが挿入されるのも変だろ。
なんでNASAの資料に、そんな映像まで入っているんだよ。
そういうのは全て、「外部に出して人の目に触れる」ということを前提にしていなかったら整合性が取れないモノなのよ。
その映像は後から極秘扱いになったわけじゃなくて、最初から極秘扱いだった映像のはずなんだから、そういうのはデタラメにしか感じないのよ。

ベンたちは国防総省の実験台にされたことを確信した後、「記録映像が欲しいはずだから必ず帰還させる」ってなことを口にしている。
それは正解のはずなんだけど、ジョンだけに帰還を命じる展開が待っているので、「それは変だろ」と言いたくなる。
あと、結局は誰も帰還できていないわけで、だったらネットで発覚したNASAの秘蔵映像は誰がどうやって地球まで持ち帰ったんだよ。
ヒューストンとの通信は途絶えていたはずだし。

「ソ連の着陸船が先に来ている」「そのことを乗員たちは知らされていなかった」という辺りまでは、陰謀論が絡む話にすることも出来る内容だ。
ところが、動く石が出て来て、さらには地球外生命体の存在が明らかになって、この映画はすっかり陳腐な雰囲気に包まれる。
「米国とソ連が結託して云々」みたいな陰謀論じゃなくても、「得体の知れない何かがいる」ってことなら、まだ陳腐の海へ飛び込まずに済んだ可能性は充分に考えられる。
しかし脚本のブライアン・ミラーは、いかにもアメリカ人らしく、恐怖の正体をハッキリさせたがった。ゴンサーロ・ロペス=ガイェゴやティムール・ベクマンベトフはアメリカ人じゃないけど、なんせロブ&ハーヴェイのワインスタイン兄弟がやっているディメンション・フィルムズの製作だから、仮に彼らが修正を望んでも、そこは変えられなかっただろう。
そして恐怖の対象を「得体の知れる存在」である宇宙蜘蛛にしたことと引き換えに、この映画は陳腐さを手に入れてしまったのである。

(観賞日:2015年7月22日)

 

*ポンコツ映画愛護協会