『アントブリー』:2006、アメリカ

蟻の魔法使いであるゾックは、魔法の薬を作るための材料を集めていた。彼は助手を務める蛍のスピンドルと共に、最後の材料である火のクリスタルを採取する。彼は「魔法の薬で蟻の世界を救う」と意気込んでいるが、睡眠室で休んでいる仲間たちは全く興味を示さない。一方、人間界では、10歳のルーカス・ニックルが大柄なガキ大将のスティーヴと仲間たちからパンツを尻に食い込ませるイジメを受けていた。スティーヴはルーカスを馬鹿にして、「何か出来るか?無理だね。俺はデカいけど、お前は小さいからな」と告げた。
スティーヴと仲間たちが去った後、ルーカスは庭にあった水鉄砲を拾い、蟻塚を撃った。彼は勝ち誇った表情を浮かべ、「何か出来るか?無理だね。俺はデカいけど、お前は小さいからな」と言い放った。蟻たちはルーカスのことを、「破壊屋」と呼んでいる。蟻の群れが必死で逃げ惑う中、ゾックはガールフレンドのホーヴァに「草むらへ逃げろ」と指示する。しかし人間に強い興味を抱くホーヴァは、「危害は加えないから、おとなしく帰って」とルーカスに呼び掛ける。もちろん、そんな声は、ルーカスには届かない。
ルーカスは蟻塚を蹴飛ばし、ホーヴァとゾックを踏み付けようとする。しかし母のドリーンが「ピーナッツ、そろそろ家へ帰って」と声を掛けたので、ルーカスは家へ戻った。彼は母から「ピーナッツ」と呼ばれているのだ。ドリーンはルーカスの顔が汚れているのに気付き、心配して結婚記念日の旅行を取り止めようとする。しかしルーカスは「僕のために中止にしないで。問題は僕一人で解決する」と苛立った口調で言う。彼は母が自分を「ピーナッツ」と呼んで子供扱いすることに対し、激しい反発を示した。
ゾックはクリスタルを使って最後の仕上げをしようとするが、魔法の薬は完成しない。そこへ長老が来て、「破壊屋の攻撃は頻度を増しており、食べ物は絶望的に乏しい。議会はお前に期待している。何か策は無いか」と告げる。ゾックが「破壊屋と戦って倒します」と強気に言うと、ホーヴァは「人間と喋ることが出来れば、話し合いで解決できるわ」と楽天的に話す。ゾックは呆れるが、長老は「人間と戦争をするなんて不可能だ」と口にした。ゾックは「魔法使いに不可能は無い」と力強く告げた。
ドリーンと夫のフレッドが旅行へ出掛け、ニックル家にはルーカスと姉のティファニー、そして本気で宇宙人対策に取り組んでいる祖母のモモが残された。ルーカスが庭で芝生の水やりをしていると、スティーヴと仲間たちが爆竹を投げ込んで脅かした。ゾックはクリスタルにヒビが入っていることに気付き、樹脂を塗り込んだ。改めて最後の作業をやってみると、ついに魔法の薬が完成した。ルーカスは蟻塚にホースを向け、水を浴びせた。大洪水が発生する中、蟻たちは成す術もなく流された。
害虫駆除業者のスタン・ビールズがニックル家を訪れ、ルーカスに声を掛けた。彼は「君のお父さんが駆除を依頼したが、契約書にサインしないままバカンスに出掛けてしまった。その場合、息子に話せと言われた」と言い、契約書へのサインを求めた。不審を抱いたルーカスだが、ビールズが子ども扱いして馬鹿にしたので、カッとなってサインした。ホーヴァとゾックは何とか陸地に上がり、長老を発見した。長老が「何もしないのに気まぐれに攻撃してくるとは、なんと野蛮なんだ。どうしたらいいんだ」と嘆くと、ゾックは「これが私たちの救いです」と告げて魔法の薬を掲げた。
その夜、ルーカスが眠っていると、ゾックがベッドに上がり込む。彼はルーカスの耳の穴に、魔法の薬を垂らした。ルーカスが目を覚ますと、蟻の同じサイズに小さくなっていた。ゾックは「人間よ、一緒に来い」と告げ、仲間たちにルーカスを運ばせる。蟻の巣に落とされたルーカスは、法廷へ連行された。起訴状が読み上げられる中、野次馬からは「食べてしまえ」という野蛮な意見も飛ぶ。しかし最終的な権限を持つ女王は、「ここに住まわせ、生き方を学ばせるつもりです。つまり、蟻になるのです」と述べた。
ホーヴァが世話係に名乗り出て、裁判は終了した。ルーカスは逃げ出そうとするが、すぐに見つかってしまう。「ウチに帰りたいのなら、蟻にならなきゃダメよ」とホーヴァが言うと、ルーカスは反抗的な口調で「どうやって蟻になればいいの」と告げる。ホーヴァは「ここで自分の役割を見つけるの」と述べ、エサ集めの仕事を担当させることにした。ホーヴァは指導係を務める親友のクリーラを訪ね、ルーカスを預ける。クリーラは相手が破壊屋だと知って嫌がるが、親友の頼みなので仕方なく承知した。
クリーラは子供蟻たちを2チームに分けて、ジェリービーンを取って来るテストを実施しようとしていた。彼女はルーカスを青チームに加え、「蟻の世界では全てがチームワークによって成り立ってる」と説明した。彼女がテスト内容を説明していると、偵察係のフガックスが現れた。クリーラに惚れている自信家のフガックスは、自分の仕事を得意げに語った。テストが開始されるが、ルーカスは仲良くしようとする子供蟻たちを拒絶し、チームワークを無視した。
ホーヴァはルーカスに、「自分の中に蟻を見つけなきゃ」と優しく諭す。だが、ルーカスは生意気な態度で「僕は自分一人でやっていく」と反発した。蜂の群れが飛来したので、ホーヴァはルーカスの手を引っ張って巣へと走った。しかし巣も蜂の群れに襲撃され、蟻たちは必死に戦う。ルーカスの前に一匹の蜂が立ちはだかると、ホーヴァが彼を庇って戦う姿勢を示す。それを目にしたゾックは、ルーカスに「ホーヴァを守れ」と叫んだ。しかし怖気付いたルーカスは、草むらへと逃亡した。
草むらで身を隠したルーカスだが、一匹の蜂に見つかってしまう。しかし爆竹を見つけた彼は、ガラスの破片を使って太陽光を集め、導火線に火を付けた。爆竹が破裂すると、蜂の群れは一斉に退散した。蟻たちはルーカスに感謝し、救世主として称賛した。しかし爆竹の破裂に巻き込まれて負傷したゾックは、「自分が助かるためにやっただけだ。俺たちが助かったのは、たまたまだ。こいつは救世主なんかじゃない」と声を荒らげた。
ホーヴァ、クリーラ、フガックスの3匹は、時代を語る部屋にルーカスを案内した。そこには蟻の歴史を示す壁画が描かれており、その中には全ての起源となる「母なる蟻」の絵もあった。ホーヴァたちは、いつか母なる蟻が戻り、誰もが二度と飢えないようになるという伝説の存在を話す。その近くには、「現れると死がもたらされる」と言われている悪魔の絵もあった。正体は不明で、ホーヴァたちは言い伝えに過ぎないと考えていた。しかしルーカスは、それが害虫駆除業者を描いた絵だと確信した。
ルーカスは契約をキャンセルするため、慌てて家に戻ろうとする。しかしクリーラは、「まだ蟻になってないから、外へは出られない」と告げる。そこでルーカスが「家には甘い食べ物がある」と持ち掛けると、ホーヴァたちは一緒に行くことにした。家に侵入した一行は、ルーカスの案内でジェリービーンズのある場所に到着した。ホーヴァたちがジェリービーンズを運んでいる間に、ルーカスは業者に電話を掛けようとする。番号を間違えて宅配ピザ屋に掛かってしまったが、ルーカスは無事にキャンセルできたと思い込んだ。
ティファニーはジェリービーンを運んでいるフガックスに気付き、叩き潰そうとする。しかしモモが阻止してくれたおかげで、何とか危機を脱した。一行が巣に戻ると、ホーヴァを心配するゾックが待っていた。ルーカスがホーヴァたちを人間の家へ連れて行ったと知った彼は、「俺は絶対にお前を元に戻さない。お前は巣に住む全員を脅かす存在だ」と言い放った。ルーカスが巣を出て行ったと知ったホーヴァは、ゾックを激しく非難した。捜索に出たホーヴァ、クリーラ、フガックスはルーカスと遭遇するが、彼は蛙に飲み込まれてしまう…。

脚本&監督はジョン・A・デイヴィス、原作はジョン・ニックル、製作はトム・ハンクス&ゲイリー・ゴーツマン&ジョン・A・デイヴィス、共同製作はキム・サクソン、製作総指揮はキース・アルコーン&ダイアナ・チョイ・サックス&スティーヴン・シェアシアン&トーマス・タル&ウィリアム・フェイ&スコット・メドニック、共同製作総指揮はアレックス・ジョンズ、編集はジョン・プライス、デジタル撮影はケン・ミッチローニー、美術はバリー・E・ジャクソン、音楽はジョン・デブニー。
声の出演はジュリア・ロバーツ、ニコラス・ケイジ、メリル・ストリープ、リリー・トムリン、ポール・ジアマッティー、ザック・タイラー、レジーナ・キング、ブルース・キャンベル、チェリ・オテリ、ラリー・ミラー、アリソン・マック、リカルド・モンタルバン、マイルス・ジェフリー、ジェイク・T・オースティン、ロブ・ポールセン、S・スコット・ブロック、マーク・デカーロ、フランク・ウェルカー他。


蟻の世界を描いた3Dアニメーション映画としては、1998年にドリームワークスが『アンツ』を発表している。「虫たちが力を合わせて大きな敵と戦う」という内容の3Dアニメーション映画としては、同じく1998年にピクサーが『バグズ・ライフ』を発表している。
その2作から8年しか経過していないのに、同じような内容の3Dアニメーション映画を作るっのては、あまり賢明な判断とは思えない。
原作の児童書があるので、内容を大幅に変えられないという事情はあるだろう。しかし、そういう児童書を基にした3Dアニメーション映画を『アンツ』と『バグズ・ライフ』の後に企画した時点で、ちょっとセンスがどうなのかなと。
まだ残っているであろうドジョウを捕まえようという狙いだったんだろうか。

冒頭、ルーカスのイジメ被害者としての描写が弱すぎるのが引っ掛かる。
スティーヴにパンツを引っ張られて尻に食い込まされた後、すぐにルーカスは水鉄砲を拾って蟻塚を攻撃する。それを蟻の視点から描いているので、ルーカスに「残酷な奴」としての印象が強くなってしまう。
ルーカスに同情の気持ちが全く沸かない状態で、彼が蟻にとって残酷な破壊者であることばかりが強くアピールされてしまうのは、導入部としては厳しいんじゃないか。
辛い思いをしているルーカスの悔しさや悲しさ、孤独感といった感情を、もっと表現しておいた方がいい。それから彼が何かに八つ当たりしている様子を示し、その後に蟻塚を攻撃するシーンへ移った方が良かったんじゃないか。
いっそのこと、蟻塚を攻撃するシーンでも、まだ蟻視点の描写じゃなくていいぐらいだ。攻撃が終わってルーカスが去った後、初めて蟻視点のシーンを入れるぐらいでもいい。

ただし、ルーカスの辛さや悲しみを存分に表現したからといって、それで全てがクリアになるわけではない。この映画は、もっと根本的な部分で描き方を間違っている。
それは「ルーカスの鬱憤晴らしを蟻視点から描いている」ということだ。
それは本作品の根幹に関わることなので、何をバカなことを言ってるのかと思うかもしれない。
しかし、ルーカスの鬱憤晴らしは、蟻視点から描いてしまうと、「イジメを受けているから、自分より弱い蟻を攻撃するのも理解できる」という同情心を遥かに超越した残虐行為になってしまうのだ。

「スティーヴ一味からイジメを受けている被害者ルーカスが、蟻にとってはイジメの加害者になっている」という風に「スティーヴvsルーカス」と「ルーカスvs蟻」の図式を重ね合わせたいんだろうってのは、ものすごく分かりやすく伝わってくる。
でも、それって、ちゃんと重なっていないんだよね。ルーカスがスティーヴから受ける行為は「パンツを尻に食い込まされて千切られる」「爆竹を庭に投げ込まれる」という「イジメ」だけど、ルーカスが蟻に対してやっているのは大量虐殺だからね。
大勢の蟻を無残に殺しているんだから、もはや反省したり改心したりしても、それで許されるようなレベルではないでしょ。
なぜか女王蟻がものすごく穏健派で、「生き方を変えさせる」という裁定を下しているけど、ホントはルーカスって処刑されても文句が言えない立場なのよ。
子供向け映画だから、ルーカスの行為によって蟻たちが命を落とすような描写は当然のことながら無いんだけど、あれだけのことをやっておきながら「死者は出ていません」という設定だとしたら、それは無理がありすぎるし。

裁判でルーカスを始末するよう叫ぶ奴もいるけど、蟻たちの大半は彼への怒りや憎しみをぶつけようとはしない。それどころか、ホーヴァは優しく接するし、エサ集めテストの子供たちも最初からルーカスを仲間として歓迎している。
でも、それって違和感があるのよ。だって、ルーカスのせいで身内や仲間を失った蟻が大勢いるはずなんだから。
ルーカスの行為を、まるで「軽い悪戯を受けた程度」みたいな感覚で蟻たちが受け止めているのは、どうにも解せない。
っていうか、そういう描写にしているシナリオが、ものすごく解せない。

ルーカスが爆竹で蜂の群れを追い払った途端、蟻たちが彼を救世主として称賛するのも、幾ら子供向けアニメとは言え、あまりにも単純すぎると思ってしまう。
その前日までは、自分たちを何度も攻撃していた破壊屋なのに。
「だったら、ルーカスを大量虐殺犯として描き、蟻たちが激しい怒りや憎しみをぶつけたり、身内を殺された悲しみを吐露したりして、ルーカスに激しい罪の意識を抱かせるような中身にすればいいのか」と言われたら、そういうことじゃないのよ。
ファミリー向けのアニメで、そんなことをやっても誰も得をしない。
ようするに、根本的に話の作り方を間違えているんじゃないですか、ってことなのよ。

ルーカスが蟻のサイズになった後、「チームワークの大切さを学ぶ」という流れにしてあるのは引っ掛かる。
彼は決して、「オレ様主義で協調性が無いガキ」として描写されていたわけではない。イジメを受けているんだから、仲間に入ろうとしても無理なのだ。そしてイジメを受けて気持ちがトゲトゲしくなっている影響で、母親に苛立ちをぶつけたり、蟻の巣に八つ当たりしたりしていたはず。
冒頭でイジメを受けていることを強調するのなら、本来なら、「イジメに立ち向かう強さを手に入れる」という流れにしたいところだが、自分も弱い者イジメをしている設定なので、それだけでは済まない。
だから「他人への思いやり」にも目覚めさせなきゃいけないので、かなり大変な作業が待ち受けている。

ただ、どっちにしても、「チームワークの大切さを学ぶ」という流れは違うだろう。
そういう展開にしたいのなら、イジメを受けている描写は邪魔だ。
どうせ蟻サイズになってからはルーカスがイジメられっ子キャラであることは完全に忘れ去られ、それ以前から漂っていた「身勝手で生意気なガキ」という部分ばかりが際立つようになるんだし。
イジメられっ子キャラは排除して、「母親に対して反抗的」とか、「家族への不満ばかりを抱いて身勝手な言動が目立つ」とか、そういう設定だけにしても良かったんじゃないか。

ただ、イジメられっ子キャラがあろうとなかろうと、ルーカスのクソガキ設定がプラスだとは思えないけど。
とにかく、彼がクソ生意気で、ちっとも可愛くないってのが大きな問題だ。
もちろん、後半にルーカスの精神的成長や変化というドラマが待ち受けていることは分かる。
分かるんだけど、そこまでの不快感が強すぎて、成長する姿を微笑ましく見つめて行きたいとは思えなくなってしまうんだよな。

しかも、ルーカスは一向に成長しないのだ。
ホーヴァを助けないで逃げたのに救世主扱いされても、逃げたことに罪悪感を抱いたりせず、素直に称賛を受け入れる。ゾックから非難されても、それは彼の心に全く刺さらない。
ルーカスを憎んで巣から追い出し、「君は目が曇ってる」とホーヴァに告げるゾックが間違っているかのように描かれるけど、彼の態度は正しいと思うのよ。
ルーカスって、そうやってゾックが非難している時点で、相変わらず自分本位でしか動いていないし、反省も謝罪もしていないんだから。

ホーヴァは「ルーカスは食べ物のありかを教えてくれたし、自分たちを助けてくれた」とゾックに言うけど、食べ物のありかを教えたのは 業者に電話を掛けるためだ。そして電話を掛けたのは蟻たちを救うためではなく、放っておくと自分も死ぬからだ。
また、ホーヴァは「助けてくれた」と言っているが、その時点ではルーカスが蟻たちを助けるための行動を取ったことなど一度も無いのだ。
だから、彼女のゾックに対する「ちゃんと見えてないのは貴方よ。人間に対する憎しみばかりが頭の中にあって、物事をちゃんと見極めてない」という非難は間違っている。
ゾックは物事を正しく判断できているのだ。

ホーヴァは「彼は人間の幼虫よ。でも私たちの生き方を学び、この巣の役に立とうとしている」と話すのだが、ルーカスが蟻の生き方やチームワークを学んで少しずつ成長していくドラマなんて、まるで描かれていない。
本来なら、自分が蟻にやっていた行為を反省し、謝罪し、学習して人間的に成長していくべきなのに。
そういうのが無いから、ゾックに追い出されても、ルーカスには全く同情心が沸かない。
でも、いつの間にかルーカスは、なし崩し的に「蟻と仲間意識が芽生え、蟻のために行動する正義感溢れる少年」になっているのだ。
それは受け入れ難いわ。そんな話には乗れないわ。

ルーカスは「蟻は仲間を見捨てない」ということを学び、人間の世界に戻る。でも、彼には仲間がいないので、見捨てるも見捨てないも無い。
だから、どうやって話を収束させるのかと思ったら、スティーヴが子分のニックに腹を立てて殴り掛かろうとした時にルーカスが制止する。なぜか急に、ニックを仲間扱いするのだ。
で、スティーヴが子分たちに「押し潰せ」と命じると誰も従わず、なぜか急に全員がルーカスの仲間になる。
その着地は無理があり過ぎるだろ。

(観賞日:2014年6月7日)

 

*ポンコツ映画愛護協会